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経口蛋白分解酵素阻害剤(Camostat Mesilate)のCOVID-19に対する有効性は失望的

Aarhus University Hospital, Denmarkらのグループは、経口蛋白分解酵素阻害剤(Camostat Mesilate:TMPRSS2阻害剤)のCOVID-19への治療効果を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8060682/

本試験では、ダブル・ブラインド、ランダム化、プラセボコントロールの治験が実施されています。この治験の背景は、TMPRSS2を阻害することによって、感染患者におけるSARS-CoV-2の増殖を阻止し、急性呼吸器不全に至る重症化のリスクを下げられるかも知れない、ということにあります。しかしながら、試験結果は誠に残念なものであり、経口蛋白分解酵素阻害剤(Camostat Mesilate:TMPRSS2阻害剤)は、COVID-19患者に対して、急性呼吸器不全による死亡、挿管、酸素吸入期間、入院期間らあらゆる項目に対して有意差を認めませんでした。

本治験において、camostat mesilateのドーズが最適されていなかったのではないか?という疑念は残りますが、 ブログ管理人は、ACE2-TMPRSS2によってイニシエートされるという感染パスが実は肺上皮細胞ではメジャーでなく、免疫細胞に発現するC-Type lectinや食作用を介した感染ルートがメインになっているのではないか?という疑念をぬぐい切れません。

ACE2のN90の糖鎖修飾はSARS-CoV-2との結合を弱め、N322の糖鎖修飾は結合を強める

Max Planck Institute of Biophysicsらのグループは、ACE2の糖鎖修飾がSARS-CoV-2のRBDとの結合に及ぼす影響を分子動力学を用いてシュミレーションしています。
https://www.pnas.org/content/118/19/e2100425118.long

構造的に見て、ACE2にある四つの糖鎖修飾位置(N53, N90, N103, and N322)がSARS-CoV-2のRBDと結合に関わる可能性があります。その内、N90とN322の糖鎖が最もRBDとの結合に関わっています。糖鎖の構造の違いももちろんRBDとの結合には影響し、アシアロ型とハイマンノース型がより強くRBDと相互作用するようです。N90においては、マンノースの方がアシアロよりもより強く相互作用し、N322においては、その逆であります。

N90とN322の糖鎖がRBDとの結合に及ぼす影響は異なっており、N90の糖鎖はACE2とRBDの結合を阻害する方向に作用し、N322の糖鎖は逆にACE2とRBDとの結合を強める方向に作用することが示されました。N322の糖鎖修飾を除くような変異がACE2に発生した場合には、ACE2とRBDの結合は非常に弱くなります。N322の糖鎖は主に、RBDのY369–K378, R408, N437, N439, V503領域と相互作用し、V503はN501Y変異の近傍に存在することから、ACE2とRBDの結合を強め、感染力アップに関係している可能性が指摘されました。

なお、ACE2の糖鎖修飾がSARS-CoV-2の結合に与える影響を実験的に調べた論文は幾つか存在し、既に下記を本ブログでも紹介しています。
シアル酸修飾とハイマンノース修飾がSARS-CoV-2の結合を抑える方向に働くのは、実験的にも示されていますね。

セヴィル(SeviL)が眠る海、ムラサキインコガイ

ガングリオシドGM1bおよびそのアシアロフォームのasialo-GM1に糖鎖結合特性を持つセヴィル(SeviL)というレクチンがあります。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-78926-7

このレクチンは、ムラサキインコガイから抽出されます。
下記がその集団です。
貝一匹にレクチン「セヴィル」の含まれる量は0.004mg、この辺りのインコガイの数から推測すると、10メートル平方にレクチン100gが存在している計算になる。

 

少し、曇ってましたが、風の強い一日でした。

抗体医薬品(mAb)を作るに適したCHOの最適化:糖鎖をG0F構造に絞り込む

第一三共のグループは、抗体医薬品としてのmAbを製造するCHO細胞について、その培養条件の最適化を図っています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0250416

著者らは、CHOの培養に低分子化合物を添加することで、mAbの生産性を上げ、糖鎖構造の制御も合わせて行うことを考えています。
23,277種類の低分子化合物からスタートし、mAbの濃度が120%以上に増加、生産性が105%以上に増加、CHO細胞の生存率が80%以上であることというスクリーニング条件を経て、最終的に残った数個の低分子化合物の中から、4-(2,5-dimethyl-1H-pyrrol-1-yl)-N-(2,5-dioxopyrrolidin-1-yl) benzamide (MPPB)が選択されました。MPPBの濃度は、0.32 to 0.64 mMであり、mABの生産性は結果として1.5倍に上昇したとのことです。
糖鎖構造についてもG0Fがメインとなり、G1Fの割合が24.5%から14.8%に低下しました。その他の構造については変化はないようです。

関節リューマチにおける滑膜線維芽細胞のα2-6シアル酸修飾の変化と関節の炎症について

University of Glasgow, UKらのグループは、関節リューマチにおける滑膜線維芽細胞(Synovial fibroblasts:SFs)のα2-6シアル酸修飾の変化と関節の炎症について、踏み込んだ研究をしています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22365-z

関節リューマチを発症すると、IgGの糖鎖修飾がアガラクト型に変化する、TNFαが増加するというような事象は良く知られています。
著者らは、滑膜繊維芽細胞の糖鎖修飾の変化をレクチンとMSを用いて詳細に評価しており、N型糖鎖、O型糖鎖ともにシアル酸修飾が減少することを示しています。シアル酸の減少は、α2-3Siaではなく、α2-6Siaで顕著に発生していました。更に、α2-6Siaの減少の度合いは、病態の進行度とも相関していました。このα2-6Siaの減少は、TNFαによって直接的に誘起されており、他のサイトカイン(IL-1, IL-17ら)は関与していないことも示されました。

興味深いのは、α2-6Siaの減少が滑膜繊維芽細胞の活性化に主体的に関わっているのか?進行する炎症の間接的な結果なのか?という疑問であります。著者らは、α-6SiaをsiRNAを用いてサイレンシングさせると、IL-6やCcL2の産生が増加することを示しました。これは治療方針にも関わるとても意義深いことであると考えられます。

下図において、CIAとは、Collagen-induced arthritisのこと。

Hydroxychloroquine, Lopinavir, Ritonavirらの新型コロナウイルス(COVID-19)に対する有意な治療効果は認められなかった

McMaster University, Canadaらのグループは、COVID-19の治療薬としてのランダム化比較試験をHydroxychloroquine, Lopinavir, Ritonavirに対して行った結果を報告しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2779044

ランダム化比較試験はブラジルにて実施され、そのサンプルサイズは、hydroxychloroquineに対して214名; lopinavir-ritonavirに対して244名; プラセボに227名でありました。
ウイルスの排除に関して、hydroxychloroquine(odds ratio [OR], 0.91; 95% CI, 0.82-1.02)、lopinavir-ritonavir(OR, 1.04; 95% CI, 0.94-1.16)という結果にてコントロールに対して有意差は認められない結果でした。

因みに、
Hydroxychloroquine:抗マラリアまたは抗リウマチ薬、
Lopinavir:HIV感染症のHAART療法に用いられる医薬品、
Ritonavir:HIVやHCV感染症の治療に使用される医薬品、
であります。

HIV感染のターゲットとなる肛門組織における主要な細胞の特徴について

HIVの感染の一般論は、CD4+ T細胞に侵入する場合に、二つの受容体が関係しており、まずHIVのエンベロープにあるgp120という糖タンパク質がCD4という第一の受容体と結合し、次にCCR5あるいはCXCR4という第2の受容体と結合することで、HIVとT細胞が融合し感染が起こるとされています。University of Sydneyらのグループは、このHIV感染において、ヒトの肛門組織におけるHIV感染のターゲットとなる主要な細胞の特徴は何か?について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22375-x

ひとつはCD14+CD1c+ 単球由来樹状細胞(CD14+CD1c+MDDC)であり、もうひとつはLangerinを発現する樹状細胞2(Langerin+ cDC2)であります。Langerinは、真皮や粘膜に分布する未熟樹状細胞(DC)のサブセットであるランゲルハンス細胞(LC)に選択的に発現するとされ、糖鎖結合の特異性としては、マンノースを含むマンナンなどの糖鎖と、6位が硫酸化されたガラクトースの両方を認識するとされています。更には、CD14+ MDDCのSiglec-1(シアル酸認識レクチン)の発現がHIVの感染と相関していることも示されました。このようにして、これら細胞に捕獲されたHIVがCD4+ T細胞にトランスファーされて行くという訳です。

HIV感染を糖鎖とレクチンの観点から見ると、宿主細胞のC-Type Lectin(Langerin)およびSiglec-1らと、HIV gp120糖タンパク質の関係が非常に重要に思われます。

ランダムフォレスト法(機械学習)を用いたSARS-CoV-2の起源について

University of Liverpoolのグループは、MARS-CoV-2, SARS-CoV, SARS-CoV-2の起源を探るため、ランダムフォレスト法(機械学習)を用いて解析した結果を報告しています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1009149

鳥、ラクダ、肉食獣(ハクビシンら)、ヒト、げっ歯類、豚、ココウモリ(yangochiroptera, yinpterochiroptera)を起源として積み上げ棒グラフ表示したものが下図です。MARS-CoVはラクダ起源、SARS-CoVはハクビシンらの肉食獣起源であることが高い確率で示されています。SARS-CoV-2については、その究極の起源としてはココウモリが疑われる結果となっていますが、MARS-CoVやSARS-CoVと比較すれば、明らかに中間宿主が不明な状態です。

イヌエンジュレクチン(MAL)がACE2、ADAM17、Furinらの発現を大幅に抑制する:SARS-CoV-2の感染の抑制に新知見

Rowan University, Stratford, USAらのグループは、イヌエンジュレクチン(MAL, MAA, MASLらが呼称)がSARS-CoV-2の感染抑制に有効であるかも知れないと述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8019238/

口腔扁平上皮細胞をモデル細胞として、イヌエンジュレクチン(MAL)がACE2, ADAM17, Furin, 糖転移酵素(GalNAc-T, ST6GalNAc-1, and ST6GalNAc-2)の発現に与える影響をトランスクリプトーム解析にて調べました。
興味深いことに、これらがMALのdoseに依存した形で減少することが示されました。例えば、1925nMのMALの添加にて、ACE2のmRNA発現は60%低下、ADAM17は40%低下、ST6GalNAc-1も60%低下しています。これらの結果として、炎症性サイトカインの発現を誘起するシグナル源が減少し、サイトカインストームの抑制にもつながります。

なお、MALは、α2-3Siaに糖鎖結合特異性を持つことが知られています。

COVID-19治療薬としてのデキサメタゾン(Dexamethasone)の働きについて

厚生労働省は、2020年5月に特例で承認した抗ウイルス薬「レムデシビル」に続き、ステロイド薬の「デキサメタゾン」を、2020年7月に日本国内で承認されているCOVID-19の医薬品として追加しています。デキサメタゾンがどんな役割を果たしているか?について報告している論文をご紹介しましょう。

University of Huddersfield, UKらのグループの研究報告です。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10753-021-01464-5

PBMC(末梢血単核細胞)をSARS-CoV-2 Spikeタンパク質で刺激した場合には、炎症性サイトカインであるTNFα, IL-6, IL-1β and IL-8らが高発現します。デキサメタゾン(100nM)を用いてPBMCを前処理すると、これらサイトカインの産生が大幅に抑制されることが示されました。NF-κB転写因子、p38 MAPK、およびNLRP2インフラマソームらの活性化が炎症性サイトカインの産生を促すと考えられていますが、デキサメタゾンは、NF-κB DNA bindingを阻害する(~46%)ことが示されました。

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