遺伝子治療のベクターとして使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質の糖鎖修飾をレクチンマイクロアレイで調べた

大阪大学大学院工学研究科高分子バイオテクノロジー領域の研究グループは、遺伝子治療で使用されるリコンビナント・アデノ随伴ウイルス6(rAAV6)カプシドタンパク質の糖鎖修飾について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11107246/

本研究では、遺伝子治療に使用される組換えアデノ随伴ウイルス (rAAV) の糖鎖修飾を、レクチン マイクロアレイによって評価しています。
結果として、rAAV6 は主にムチン様O-型糖鎖、O-GalNAc (Tn 抗原)、およびモノシアル化およびジシアル化 Galβ1-3GalNAc (T 抗原) によって O-グリコシル化されていることが判明しました。

本研究の目的は、rAAV6を用いた遺伝子治療に対して、免疫原性という観点での安全性、およびベクターとしての全体的な形質導入効率の観点において、rAAV6 の糖鎖修飾がどのような影響を与える可能性があるかどうかを評価することでした。
しかし、残念ながら、ムチン様O-型糖鎖修飾の形質導入効率に対する直接的な影響を評価することは本研究でもまだできていないようです。

GalectinはFGFR1のN-型糖鎖に結合し、直接的にFGFR1下流のシグナル経路を活性化することが出来る

Protein Engineering, Faculty of Biotechnology, University of Wroclaw, Wroclaw, Polandのグループは、galectin-1, -7, そして-8 がFGFR1の下流シグナリングとそのFGFR1のエンドサイトーシスを制御することが出来ると報告しています。
https://biosignaling.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12964-024-01661-3

FGFR1のN-型糖鎖は、FGFR1の真のリガンド(FGF1)ではない細胞外ガレクチン (Gal-1、Gal-7、および Gal-8) によって認識され、これらのガレクチンが FGFR1 に結合すると、受容体が直接的に活性化され、下流のシグナル伝達カスケードが開始されます。活性化されたFGFR1のその後のエンドサイトーシスは、FGFR1シグナル伝達の下方制御のための主要な細胞機構として機能します。

FGF1とGal-1は両方ともFGFR1を直接活性化することが出来、FGFR1シグナル伝達の短く強力なパルスの後、クラスリン媒介エンドサイトーシスの誘導によりFGFR1シグナリングがシャットダウンされ、受容体のリソソーム分解が起こります。 Gal-7およびGal-8も受容体クラスタリング機構によってFGFR1を直接活性化することが出来ますが、FGFR1のエンドサイトーシスと分解を阻害することで、これらのガレクチンは FGFR1 シグナル伝達を長期に維持することができます。


pFGFRは、tyrosine-phosphorylated FGFR1のことを表す

T-抗原が神経膠芽腫のマーカーになりうるのか?

Department of Neurosurgery, the First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Hefei, Chinaのグループは、T 抗原が、神経膠芽腫患者の無増悪生存期間のバイオマーカーとなる可能性があると報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acn3.52082

彼らは、レクチンマイクロアレイ(11種のレクチンを搭載)を用いた研究から、Jacalinで検出した血清中T-抗原レベルが神経膠芽腫組織のレベルと正の相関があり、神経膠芽腫再発を予測する無増悪生存期間の非侵襲性バイオマーカーとして使用できる可能性があると結論づけています。

しかしながら、Jacalinの糖鎖結合特異性は、GlcNAcβ1-3GalNAc (Core3)、Siaα2-3Galβ1-3GalNAc (シアリル T)、Galβ1-3GalNAc (T-抗原)、α- GalNAc (Tn-抗原)と非常にブロードであり、PNAはGalβ1-3GalNAc (T-抗原) に対して高い結合特異性を持っているにも関わらず、神経膠芽腫を有意に識別できていないことから、ブログ著者は、彼らの結論には問題があると考えています。

レクチンマイクロアレイと機械学習を組み合わせるのが流行りなのか

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Chinaらのグループは、病態の早期発見に対する有効性を強調しながら、血中の糖タンパク質の糖鎖プロファイルをレクチンマイクロアレイに機械学習を組み合わせて評価する方法を説明しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38698681/

近年、中国からの論文が急増しており、論文検索でも日本の論文が見つかる確率はずいぶん下がってしまいました。
本論文では、非アルコール性脂肪性肝疾患の早期発見の為に、血中糖タンパク質の糖鎖プロファイルをマーカーとし、レクチンマイクロアレイに機械学習を組み合わせた方法が提唱されています。

しかしながら、この手の手法は、6年ほど前に既に我々の手によって開発されており、対象は違いますが、その優れた有効性が実証されています。
下記の例では、細胞が培地中に分泌する糖タンパク質に対してレクチンマイクロアレイとDeep Learningを用いることで対象とする細胞の特徴評価を高精度に行うことが出来ることが実証されています。
レクチンマイクロアレイとDeep Learningを組み合わせる