新型コロナウイルス(COVID-19)における自然リンパ球(ILC: Innate Lymphoid Cell)の重要さについて

新型コロナウイルス(COVID-19)では、リンパ球減少症が発生します。しかし、そのリンパ球のサブセットについて詳細に病態との相関関係を調べると面白い事実が浮かび上がってきます。
University of Massachusetts Medical Schoolらのグループは、自然リンパ球に着目し、COVID-19の重症度との興味深い相関関係を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7814851/

自然リンパ球とは、抗原受容体を持たないリンパ球を指し、獲得免疫が立ち上がるまでの期間の免疫において、主要な生体防御機構となります。細胞障害性を持つNK細胞も自然リンパ球に分類されます。即ち、自然リンパ球は、サイトカイン産生を主体とするものと、細胞障害性を持つものに二分されると言えます。本論文においては、自然リンパ球(ILC: Innate Lymphoid Cell)は、NK細胞を除外した細胞集団として定義されています。

COVID-19の患者においては、健常者に比べて、ILCが1.78倍 (95%CI: 2.34–1.36) 、CD16+ NK細胞が2.31倍(95%CI: 3.1–1.71)減少しています。
興味深いことに、入院率と相関しているのは、CD16+ NK細胞でも、CD4+ T細胞でも、CD8+ T細胞でもなく、ILCであることが示され、ILCの二桁増加で入院率のodds比は、0.413 (95%CI: 0.197–0.724)となりました。また、ILCが増えるにしたがって、入院率のodds比が減少し、入院期間も短くなり、炎症性マーカーであるCRPが減少することが示されました。

本知見は、新規治療法に結び付きそうな予感がします。

Adeno-associated virus (AAV) の組織ターゲティング性能に糖鎖が関係する?

Adeno-associated virus (AAV) を利用した遺伝子治療において、AAVのカプシドに組織ターゲティングという観点において差異が存在し、糖鎖が関係しているのではないか?という議論がかなり以前から存在します。例えば、下記のような論文がリファレンスになります。
https://www.nature.com/articles/gt201316
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(20)51734-1/fulltext
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(20)48853-2/fulltext
https://jvi.asm.org/content/80/18/9093

具体的には、AAV-1とAAV-6はシアル酸に結合しやすく、AAV-2はヘパラン硫酸に、AAV-9はGalactoseと結合しやすいと報告されています。
しかし、本当なのでしょうか?
本ブログ管理者には、カプシドタンパク質にレクチン様機能が存在する?にわかには信じられない事象ですね。

膵管腺癌の糖鎖マーカーについて

Medical University of South Carolinaらのグループは、膵管腺癌の糖鎖マーカーについての研究成果を報告しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(20)35126-4/fulltext

膵管腺癌の糖鎖マーカーを詳細に検討する為に、MS(MALDI-FTICR, MALDI-QTOF), 抗体免疫染色(CA19-9, TRA-1-60), レクチン染色(PHA-E, GSL-II)を駆使しています。

結果を要約すると、膵管腺癌では、正常組織と比較して、α2-3 Sia, poly-LacNAc, branching, bisecting GlcNAc, core fucose, terminal GalNAcの構造が増加しているとのことです。Siaについては、間質ではα2-3Siaがメインであり、腺癌部ではα2-6Siaが若干多めです。

IgA腎症に扁桃腺由来のmicroRNA(miR-630)が関与している可能性を示す

IgA腎症は、尿のろ過装置である糸球体に免疫グロブリンの一つであるIgAが沈着する慢性腎臓病の代表的な難病疾患です。沈着するIgAにはそのO型糖鎖修飾に異常が発生していることも知られています。
Central South University, Changsha, Chinaらのグループは、IgA腎症で見られる糖鎖異常のIgAが扁桃腺単核細胞由来のmicroRNA(miR-630)によって制御されている可能性を示しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.563699/full

IgA腎症発症のメカニズムについては、扁桃腺由来のmiR-630が過剰に産生され、Toll様受容体4 (TLR4)が遺伝子ターゲットとなることで、NF-κBのシグナルパスを通してIgA産生と糖鎖修飾の異常を及ぼすのではないかと推論しています。

ESCからエピブラスト様細胞(EpiLCs)への変化に伴う糖鎖修飾の変化とその背景にある制御因子

創価大学らのグループは、ESCからエピブラスト様細胞(EpiLCs)への変化に伴う糖鎖修飾の変化と、その背景にあるPolycomb群タンパク質について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-79666-4

ESCからEpiLCsへの変化に伴い、次のような糖鎖修飾の変化が起こります。

  1. N型糖鎖に関しては、両者に共通してHigh Mannose構造がメインであるが、EpiLCsでは、Fucose修飾、bisecting、Sia修飾が増加、Siaについては、α2-6がメインとなり、typeI LacNAc (Galβ1-3GlcNAc)にα1-2Fucが修飾されたSSEA-5が高発現する。
  2. O型糖鎖に関しては、両者に共通してTn抗原とO-GlcNAcがメインであるが、EpiLCsでは、総体的にO型糖鎖の発現が昂進しており、長鎖のムチン型O型糖鎖も増加する。
  3. Glycosaminoglycans (GAG)については、EpiLCsで総体的にGAGが昂進し、特にHeparan sulfate (HS), chondroitin sulfate (CS) and dermatan sulfate (DS)が増加する。
  4. 糖脂質については、EpiLCsでglobo (Gb)からganglio (Gg)への構造変化が起こる。

これらの糖鎖修飾構造の背景には、クロマチンタンパク質であるPolycomb群タンパク質2(PRC2)が制御因子として関係していることが示されました。ESCの糖鎖修飾にかかわる多様な糖転移酵素の遺伝子群がPRC2の制御下にあります。

重度のグリオーマ(神経膠腫)における特徴的な糖鎖修飾の変化

Quilmes National University, Bernal, Buenos Aires Province, Argentina らのグループは、グリオーマ(神経膠腫)における特徴的な糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.oncotarget.com/article/27850/text/

重度のグリオーマにおいては、N型糖鎖の末端シアル酸修飾の昂進と多分岐N型糖鎖の昂進が特徴です。シアル酸修飾は、α2-3が主となり、末端のフコース修飾を伴う形で、末端修飾構造はSLex型になっています。これを裏付けるように、糖転移酵素(α1,3-fucosyltransferases (FuT3-7 and 9-11) , α2,3-sialyltransferases (ST3Gal3/4/6))も高発現しています。下図で、LN299, T98Gが重度のグリオーマであり、その他は軽度のそれです。

腫瘍細胞表面の糖鎖プロファイルの変化は、新規糖鎖マーカーや糖鎖をターゲットとした治療薬開発の基礎となる、と締めくくっています。

 

 

 

 

 

 

 

アンモニアを使って多能性幹細胞(iPSC, ESC)より分化させた肝細胞を選別する方法

肝細胞を用いた毒性試験は、薬物の毒性試験を動物実験で行う方法の代替技術として広く使用されるに至っています。毒性試験で肝細胞を使用する場合の問題点は、同じ特性を持つ肝細胞を大量に安定供給できないというところにあります。そこで、国立成育医療研究所のグループは、多能性細胞(iPSC, ESC)から肝細胞を作り、アンモニアを使って不均一な細胞集団から均一性の高い肝細胞集団をエンリッチしてくる方法を提案してます。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.03.20.999680v1.full

ESCを肝細胞に分化させた後、2日間のアンモニア処理をすることにより、アンモニア毒性に耐性を持つ均一な肝細胞を選別します。70~80%がこの段階で死滅します。生き残った肝細胞をMEF-feederの上で培養し、増殖させます。このようにして選別された肝細胞は、190日間で30倍ほどに増殖します。アンモニア毒性の詳細なメカニズムは分かっていませんが、アンモニアイオンがカリウムイオンと競合し、最終的に細胞膜内外のpH変化で死に至ると考えられます。アンモニア選別された肝細胞は、ALB, AFP, CYP3A4, CPS1, and OTCらの遺伝子が高発現しており、ALBとAFPは培養日数とともに減少していきます。CPS1, OTCは、アンモニアの代謝にかかわる遺伝子であります。また、CYP3A4は、不要な生体異物を代謝する酵素の一つです。
同様なことは、iPSCから作った肝細胞でも言えます。

iPSC, ESCより分化させた細胞は、ESTEM-HE 培地 (GlycoTechnica, Ltd) にて、培養されました。

 

新しい不死化肝細胞株、HepaMN、の樹立とその特性

肝細胞は、in vitroでの医薬品の毒性検査で欠かせない細胞です。HepG2, Huh7, THLE-2, PLC-PRF-5, and AML-12といった肝細胞株が利用されています。国立成育医療研究センターらのグループは、胆道閉鎖症を発症した肝細胞からHepaMNと命名された新しい不死化肝細胞株を樹立しました。不死化は、CDK4, cyclin D1, and TERTの遺伝子導入により行われました。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-73992-3

HepaMN株の特徴について:
非形質転換肝細胞から樹立されており正常な肝機能と二倍体を持つ
HepaRGと同レベルのアルブミン遺伝子の発現を示す
肝細胞の細胞形態を示す
安定したシトクロムP450 3A4 (CYP3A4) を誘導し、正常な代謝作用を示す
効率よく増殖し、非常に長いパッセージでも安定である
結果として、毒性検査に新しい有用な肝細胞株を提供できたとしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

HepaMN細胞の培養には、EMUKK-15が推奨されます。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)を利用したワクチンの開発

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する先行するファイザーやモデルナのワクチンはmRNAタイプですが、下記のグループは、 adeno-associated viral (AAV)を利用したワクチンの試作評価を進めています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.05.422952v3.full.pdf

AAVを利用した遺伝子治療薬は、安全性が高い方法として認識されており、 遺伝子治療薬として、既に、Glybera, Luxturna, ZolgensmaらがFDAやEMAで承認されています。
二種類のAAVを利用したワクチンが試作されています。AAVCOVID-19-1(AC1)は、全長Sタンパク質がエンコードされており、感染した細胞の細胞膜上に抗原となるSタンパク質が発現します。もうひとつのAAVCOVID-19-3(AC3)は、Sタンパク質の一部をエンコードしており、抗原は分泌タンパク質の形態をとります。

 

 

 

 

評価は、マウスとサルで行われており、1回のドーズで5カ月間ほど免疫反応が持続したとのことです。保存も室温で1か月は問題がなく、AAVワクチンの量産については、方法論が確立しているので問題ないとのことです。なお、効果としては、AC1の方がAC3より高そうです。

しかし、ブログ管理人的には、抗原となる遺伝子が細胞に組み込まれてしまうことに一抹の不安を覚えますが、どうなのでしょうか?

英国および南アフリカでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異がワクチンに及ぼす影響

英国および南アフリカでの感染爆発の背後には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異が関係していると指摘されています。数多くの変異が発生しているのですが、これらに共通する変異は、N501Yであることも既に示されています。
University of Texas Medical Branch, Galveston TXのグループは、この変異がファイザーのワクチンであるTozinameran(BNT162b2, a nucleoside modified RNA vaccine)の効果に如何なる影響を与えるかについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7805448/

N501の遺伝的バックグラウンドであるY501との比較実験を、ワクチンを投与後、2週間及び4週間経過後の20人の血清を用いて、N501とY501ウイルスに対する中和抗体力価を測定することで実施しました。結果として、ほぼ同一の力価を得たとのことです。