SARS-CoV-2 の非構造タンパク質である NSP1 と NSP13 がインターフェロンの活性化を阻害し、ヒトの自然免疫を抑え込んでいる

University of Pennsylvania Perelman School of Medicine, USAらのグループは、SARS-CoV-2の非構造タンパク質であるNSP1とNSP13がそれぞれのメカニズムでインターフェロンの活性化を阻害し、ヒトの自然免疫を抑え込んでいることを示しました。 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0253089 自然免疫の抗ウイルス作用はウイルス性病原菌に対する防御の最初の障壁です。RNAウイルスが感染すると、ウイルスRNAやスパイクタンパク質と言ったウイルス病原体関連分子パターン(PAMP)が、RIG-I、MDA5、TLRファミリーメンバーなどのサイトゾルパターン認識受容体によって感知されます。RIG-IとウイルスRNAの結合は、中心的な自然免疫アダプタータンパク質であるMitochondrial antiviral-signaling protein(MAVS)を介して下流のシグナル伝達カスケードを開始します。一旦MAVSが活性化されると、キナ […]

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新型コロナウイルス(COVID-19)における糖鎖とレクチンの係りを追う:SARS-CoV-2の感染と重症化に絡んで

本ブログ筆者が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関する論文概説記事を書き始めてから、もう直ぐ1年になろうとしています。記事を書き始めたのは2020年の7月で、GlycoTechnicaのOfficial blogサイトでしたが、同年10月以降はMxのブログサイトに場所を移して書き続けてきました。 新型コロナウイルス(COVID-19)における糖鎖とレクチンの係りについて、すべてが解明されたとはとても言えない状況ですが、ポイントは整理されてきた感じがしますので、このあたりで一回「新型コロナウイルス(COVID-19)における糖鎖とレクチンの係り」について、筆者なりの見解をまとめてみたいと思います。 SARS-CoV-2はエンベロープを持つウイルスであり、エンベロープには、S (スパイク)、M (マトリックス)、E (エンベロープ)タンパク質が存在しています。感染にかかわるのは、主にスパイクタンパク質であると考えられています。スパイクタンパク質は糖タンパク質であり、非常に多くの糖鎖修飾を受けています。具体的には、スパイクタンパク質には、22個のN-型糖鎖修飾部位、6個のO-型糖鎖 […]

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SARS-CoV-2におけるΔH69/V70という変異はどんな役割をしているのか?

University of Cambridge, UKらのグループは、SARS-CoV-2の多数の独立した系統においてみられるΔH69/V70という変異がどんな役割をしているのか?について述べています。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34166617/ WTとΔH69/V70の変異の間には、オーバーオールに見て血清中和活性に対する反応性に差異は見られず、ΔH69/V70変異は抗体から逃れるという意味でのメカニズムは持っていないようです。 一方で、S2スパイクのウエスターンンブロットでは、ΔH69/V70の方が多量の切断されたSpikeがVirionsにもHEK293Tのライセートにも含まれていることが示されました。 結論としては、従って、ΔH69/V70 変異それ自身は抗体から逃れるという意味でのメカニズムは持たず、Spikeの切断を加速することによって感染率を増加させるという機能を持っているようです。

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HLA-IとHLA-IIに抗原提示されるSARS-CoV-2のペプチドドメイン

Weizmann Institute of Science, Rehovot, Israelらのグループは、SARS-CoV-2感染に由来するHLA-I と HLA-II 抗原提示ペプチドに関して報告しています。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34166618/ ACE2を発現するHEK293T細胞、IHW01070細胞、およびCalu-3細胞をSARS-CoV-2で感染させました。HLA-IとHLA-IIに抗原提示される抗原をプロファイルするために、HLA peptidomicsを使用し、実験は三回行われました。因みに、ご存じのように、HLA-Iは内因性ペプチド抗原を、HLA-IIは外因性ペプチド抗原を提示します。 10個のHLA-Iペプチドが発見されました。 2個はspike proteinから, NEVAKNLNESL and TGSNVFQTR、 2個はnsp3から, STTTNIVTR and YYTSNPTTF、 1個がORF3から, FTIGTVTLK、 1個がnsp1から, HSSGVTREL、 4個がnucleocapsidから, A […]

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Fcγ受容体を介したエフェクター効果と抗体依存性感染増強 (ADE):SARS-CoV-2の治療用抗体に関して

Biological Defense Program, DSO National Laboratories, Singaporeらのグループは、SARS-CoV-2中和抗体のFcを介したエフェクター機能について研究しています。 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0253487 抗体依存性感染増強 (ADE)は、治療薬として抗SARS-CoV-2抗体を使用する場合の大きな懸念として存在しています。ADEは、Fcγ受容体が関与して、食細胞における感染を増強した場合に起こります。ADEの可能性を排除するために、Fcγ受容体が関係しない例えばIgG4アイソタイプを使用したり、FcγR-null LALA 変異を人工的に導入するというような手法がとられます。しかしながら、これらの手法は逆効果をもたらし、抗体の持つ能力を下支えするシグナルパス、例えばFcγ受容体を介したADCC効果、を殺してしまうはずです。この問題に答えるために、著者らはSARS-CoV-2回復期患者からRBDに結合する中和抗体IgG […]

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COVID-19におけるハイリスクを特徴づける末梢血の50種の遺伝子プロファイルが物語ること

University of South Florida, Morsani College of Medicine, USAらのグループは、COVID-19の重症度と相関する末梢血の50種の遺伝子プロファイルを分析しています。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8214725/ ハイリスクのグループでは、7種の遺伝子が高発現し(PLBD1, TPST1, MCEMP1, IL1R2, HP, FLT3, S100A12)、43種の遺伝子が低発現 となっていました(LCK, CAMK2D, NUP43, SLAMF7, LRRC39, ICOS, CD47, LBH, SH2D1A, CNOT6L, METTL8, ETS1, P2RY10, TRAT1, BTN3A1, LARP4, TC2N, GPR183, MORC4, STAT4, LPAR6, CPED1, DOCK10, ARHGAP5, HLA-DPA1, BIRC3, GPR174, CD28, UTRN, CD2, HLA-DPB1, ARL4C, BTN3A3, […]

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Galectin-3が腹部大動脈瘤のバイオマーカーになり得る

Taipei Medical University, Taiwanらのグループは、Galectin-3が腹部大動脈瘤の良いマーカーになり得るとしています。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8200414/ 超音波診断が、AAAの診断に対してはゴールドスタンダードであり、高い感度と特異性を持っています。しかし、その感度は、動脈瘤の大きさで変わりますし、動脈瘤下の大動脈拡張には著音波診断はすいしょうされません。この為、動脈瘤サイズを反映する炎症性の血中バイオマーカーがあれば、動脈瘤の発見や進行を検査するのに役立ちます。 151名の腹部動脈瘤患者と195名の健常者の協力を得て、血中バイオマーカーとしてGal-3とIL-6の横断的な研究が行われました。血中Gal-3の濃度は、腹部大動脈溜の患者で健常者に比べて顕著に高くなっていました(96.9 ± 4.5L vs. 76.5 ± 1.9 ng/mL)、同様に血中IL-6の濃度も腹部大動脈瘤の患者で高くなっていました(92.8 ± 5.2 pg/mL vs. 72.5 ± 3.0 pg/m […]

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3種のC-型レクチン、MBP, Langerin, Dectin-2、とMannoseの結合様式について抜粋

東北薬科大のグループは、病原菌認識に関わる11種の哺乳類レクチン受容体についてレビューしています。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8185196/ このレビューの中から、3種のC-型レクチンについて、ご参考にまとめてみました。 多くのC-型レクチンはマンノースに対して特異性を示し、病原体の認識に深く関わっています。一つ目のマンノース結合レクチンはMBP(MBLとも呼ばれる)ですが、これは自然免疫の補体経路を活性化するものとして知られています。マンノース修飾は哺乳類のN-型糖鎖で頻繁にみられるものであり、何故MBPが外因性のマンノースを認識できるのか不思議ではないでしょうか? 恐らくこれは、哺乳類のN-型糖鎖に比べて、病原菌のマンノース修飾は密度が高いことに原因があると考えられます。C-型レクチンのドメインは、マンノースのOH3とOH4に配位したCa2+イオンを好みます。そのアフィニティーはKd値が1mMと非常に低く、1:1の反応では免疫反応を引き起こせません。しかしながら、MBPは三量体であり、病原菌に発現する多くの末端マンノ […]

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COVID-19治療薬として、TMPRSS2阻害剤としての低分子化合物 ketobenzothiazole が有力な候補に挙がる

Washington University School of Medicine, Saint Louis, United Statesらのグループは、既存のCamostat and Nafamostatに対しても非常に優れた活性を示す知分子のTMPRSS2阻害剤 ketobenzothiazoleを発見した。そのリードが豪物である MM3122 は、recombinant full-length TMPRSS2に対して、IC50 = 340 pM という阻害効果を示し、ヒトのCalu-3肺上皮細胞へのSARS-CoV-2感染に対してもEC50 = 430 pM という阻害効果を示した。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8204910/

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尿酸とCOVID-19: COVID-19を発症すると低尿酸血症になるという

Cliniques universitaires Saint-Luc, Belgiumらのグループは血中の尿酸値とCOVID-19の重症度の間に面白い関係があると述べています。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8201458/ 低尿酸血症の割合は、一般的に外来患者の0.3%程度と言われています。しかし、COVID-19に関する本コホート研究では、SARS-CoV-2感染で入院した患者の20%が低尿酸血症であり、ICUにてエクモを必要とする患者では77%にも増加します。 尿酸は、プリン体の代謝産物であり、肝臓で作られます。腎臓は血中の尿酸値の重要なレギュレーターであります。血中の尿酸は、糸球体によってフィルタリングされ、腎臓の近位尿細管において絶妙な吸収と分泌のバランスが取られています。近位尿細管における尿酸輸送の分子的なメカニズムはまだ完全に解明されていないと言えますが、URAT1 (SLC22A12)が近位尿細管内での尿酸の再吸収を介在する主たるトランスポーターだと考えられています。COVID-19で死亡した患者の腎臓サンプル […]

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