ウクライナの山岳地方に自生するジュニペルス・エクセルサ(ヒノキ科)の根圏土壌から分離された放線菌からの新規抗生物質の開発

Department of Genetics and Biotechnology, Ivan Franko National University of Lviv, Ukraineらのグループは、ジュニペルス・エクセルサ(ヒノキ科)の根圏土壌から分離された放線菌からの新規抗生物質の開発について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10031196/

天然物は創薬、特に感染症の治療において重要な役割を果しています。しかし、多剤耐性を持つ病原体の急速な出現と拡散により、細菌感染症の急速な拡大がここ数十年で観察されています。この結果、今日では、これらの抗生物質耐性を持つ病原菌と戦う為に、新しい抗生物質の発見が切望されています。

本研究では、372 の放線菌様株が、ウクライナのクリミア半島の山岳部に自生するジュニペルス・エクセルサの根圏土壌から分離されました。そして、これらの株をスポット接種法でスクリーニングして抗菌活性を評価し、選択した株から得られた二次代謝産物抽出物をLC-MSおよび複製解除分析で分析しました。

その結果、ストレプトマイセス属 Je 1–651 株が、緑膿菌を除く、本研究に用いられたすべての微生物試験培養に対して強い阻害活性を示しました。 DNPM 培地で増殖させたJe 1–651 株の粗抽出物では、スピラマイシンとスタンボマイシンに加えて、既存のデータベースには記載されていない未知の7つのピーク(下図の赤い星)が発見されました。これは、新しい抗生物質の潜在的な可能性を示しており、今後の研究が期待されます。

バークホルデリア・グラジオラス KJ-34菌の優れた抗真菌活性効果

Ecological Security and Protection Key Laboratory of Sichuan Province, Mianyang Normal University, Mianyang, Chinaらのグループは、優れた幅広い抗真菌活性を示す植物生育促進性根圏細菌としてのバルクホルデリア・クラジオラス KJ-34菌について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10020716/

バークホルデリア グラジオラス KJ-34 菌は、イネの根圏土壌から分離された潜在的な生物防除菌であり、複数の真菌性病原体 (即ち、Ustilaginoidea virens、Alternaria solani、Fusarium oxysporum、Phytophthora capsica、Corynespora cassiicola) に対して優れた抗真菌活性を示します。

抗真菌活性を示すこの菌株の代謝産物は、Ac-Yvad-cho、benzoylstaurosporine、TAXOL C、morellin、jubanine B、trichostatin A、thapsigargin、kabiramide B、scopolamine、enniatin B、latrunculin A、rifaximin、rigin、及び garcinone Cであると思われます。

一部のバークホルデリア菌は病原性があることに注意する必要があります。たとえば、バークホルデリア グラジオラス BSR3はイネに感染し、細菌性枯病を引き起こし、別のイネ種子媒介細菌である バークホルデリア グルマエは、イネもみ枯細菌病を引き起こします。

リンが欠乏している環境下で根から分泌される化合物が、根圏バクテリアのリンの可溶化活性を促進する

Department of Horticulture and Landscape Architecture, Center for Root and Rhizosphere Biology, Colorado State University, Fort Collins, CO USAらのグループは、リンが欠乏した環境下で誘起される根からの分泌物(ガラクチノール、スレオニン、4-ヒドロキシ酪酸)が、根圏バクテリアのリンの可溶化活性を促進すると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10006420/
The effect of the three root-exudate derived compounds on the enhancement of P solubilization by bacteria was assessed.

リン酸カルシウム (無機) 培地では、スレオニン、4-ヒドロキシ酪酸、ガラクチノール、どれもが、エンテロバクター及びシュードモナス菌のリンの可溶化活性を促進しました。 バチルス菌では、スレオニンと 4-ヒドロキシ酪酸のみがリン可溶化活性を促進しました。

フィチン (有機リン酸塩) 培地では、どの根圏細菌株においても、リンの可溶化活性には有意な変化はありませんでした。

O-型糖鎖特異的な細菌のレクチンがHIV-1と相互作用することでHIV-1の感染力が増加するという奇妙な現象

Catarina Hioe, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, USAらのグループは、HIV感染がO-型糖鎖特異的なバクテリアレクチンとの相互作用によって増強されるという興味深い現象を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9949255/

O-型糖鎖特異的レクチンSLBR-Nは、口腔共生連鎖球菌ゴルドニ株で発現し、HIV-1のα2-3 シアリル化 O-型糖鎖に特異的に結合します。本研究においては、本レクチンが無細胞ウイルス感染とCD4依存性細胞間ウイルストランスファーアッセイの両方において、驚くべきことに、HIV-1の感染をドーズ依存的に最大4 倍増強することが示されました。 しかし、不思議なことに、ハイマンノース型N-型糖鎖に特異的に結合する細菌レクチンFimHおよび Mslとの相互作用は感染性に全く影響を及ぼしませんでした。

この奇妙な現象について、SLBR-N および他の O-グリカン結合レクチンが HIV-1 感染性を増加させるメカニズムは完全には理解されていません。


CMU06とC.Z331M は、HIV-1の完全長クローン株です

バチルス菌の植物に対する善玉効果は、リポペプチドの直接的な抗菌作用のみでなく、間接的に植物免疫を増強する

Faculty of Science and Technology, Thammasat University, Pathumtani, Thailandらのグループは、バチルス菌の植物病原菌を抑える善玉効果は、その二次代謝物による直接的な作用のみでなく、間接的に植物の免疫を強化するからだと述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9986491/

バチルス菌は、二次代謝産物、すなわち、イツリン A やサーファクチンなどのリポペプチドであるバイオサーファクタントを介して、植物病原体に対して強力な拮抗活性を示すことが知られています。

しかし、バチルス菌のこのような拮抗作用は、バイオサーファクタントの直接的な効果によるものだけでなく、バ​​イオサーファクタントによる植物免疫の増強によるものでもあります。サリチル酸 (SA)、ジャスモン酸 (JA)、およびエチレン (ET) は、植物と病原体の相互作用における生物ストレス応答に関与する重要なホルモンシグナル分子として知られています。
本研究では、バイオサーファクタント処理がサリチル酸と総フェノール含有量の両方をより素早い速度で上昇させたのに対し、コントロール (すなわち、0%) では、総フェノール含有量はわずかにしか増加しなかったことが示されています。


バチルス菌のバイオサーファクタントの効果を濃度=20%, 25%, 30% v/vで測定。

メラノーマの特異的な糖鎖修飾変化が樹状細胞の免疫活性に与える影響

Institute for Advanced Biosciences, Université Grenoble Alpes, Grenoble, Franceらのグループは、メラノーマの糖鎖修飾の変化とその樹状細胞の免疫活性に与える影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9986448/

メラノーマ患者の腫瘍細胞においては、健常者のメラニン細胞に比べると、GalNAcとNeuAc(シアル酸)(それぞれ、WFAとMAAによって検出される)が高発現していることが分かります。

全生存期間(OS中央値)または無増悪生存期間(PFS中央値)の良し悪しに基づいて、メラノーマ患者の糖鎖修飾の全体的な特徴を吟味すると、臨床転帰が悪い患者のメラノーマにおいては、TF-抗原、GlcNAc、Fuc、そしてNeuAcらが高発現していることが分かりました(ぞれぞれの糖鎖修飾残基は、ACA、WGA、RPL-αMan、UEA-I、MAA、および SNA によって検出された)。驚くべきことに、高レベルのTF-抗原およびGlcNAc糖鎖修飾(それぞれ ACA および WGA によって検出される)を持つメラノーマは、OSのより悪い患者で見つかりました。一方で、高レベルの末端αGalNAc(HPAによって検出される)のメラノーマでは、PFSが良くなる傾向を示しました。更には、メラノーマ上の高レベルのMan/Glc残基(ConA によって検出される)はより良いPFSと相関し、高レベルのNeuAcおよびFuc(それぞれ SNA、MAA、または UEA-I によって検出される)では臨床転帰が良くないということを強調しておくべきかも知れません。

興味深いことに、メラノーマ上のMan/GlcおよびGlcNAcのレベルと、腫瘍浸潤性のcDC1の割合との間に正の相関がありました。Man/Glcは良好な臨床転帰と関連しており、GlcNAcはcDC1の機能を高める候補でした。メラノーマ上のFucのレベルは、T-細胞による浸潤と負の相関があり、予後不良とも関連していました。さらに、メラノーマ患者の腫瘍細胞上のTF-抗原のレベルは、CD8+ T-細胞による腫瘍の浸潤と負の相関があり、生存期間の短縮と関連していました。

シアノバクテリアのレクチンCV-NがSARS-CoV-2感染を阻害

Molecular Targets Program, Center for Cancer Research, National Cancer Institute-Frederick, NIH, Frederick, MD, USAらのグループは、シアノバクテリアのレクチン、CV-N、がRBD領域外にあるSARS-CoV-2スパイクタンパク質の糖鎖に結合し、SARS-CoV-2の感染を阻害すると報告しています。
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2214561120

シアノバクテリアのレクチン、CV-N、がSARS-CoV-2のすべての試験済み変異株 (WH-1、D614G、B1.1.7 (アルファ)、P.1 (ガンマ)、B1.351 (ベータ)、B .1.617.2 (デルタ)、および B1.1.529 (オミクロン)) に対して感染阻害効果を示し、そのEC50値は、オミクロンに対する40 nM から アルファに対する180 nM の範囲に分布しました。

CV-Nは、Spikeタンパク質に良好な親和力で結合しますが、そのRBDには結合しませんでした。詳細には、CV-N は、Spikeタンパク質のS1ドメインの N61、N122、および N234サイトに存在するオリゴマンノースに選択的に結合しました。N234サイトの糖鎖は、RBDの「シールディング」と「アップ」というコンフォメーションの安定化の両面で重要な役割を果たしていることが知られており、Spikeタンパク質のS1ドメインのN234サイトのへのCV-Nの特異的結合が、RBDのACE2への結合を立体障害的にブロックしている可能性が考えられます。

小麦の赤カビ病を抑えるパエニ・バチルス菌の抗菌物質とは

School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang, Chinaらのグループは、小麦の赤カビ病を抑えるパエニ・バチルス菌について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9963053/

赤かび病は、小麦、トウモロコシ、大麦、およびその他の穀物に広くみられる深刻な病気であり、世界中のすべての地域で発生しています。幾つかのバクテリアと菌類がフザリウム・グラミネアラムの増殖を阻害することが分かっています。同定された抗菌剤の中で、バチルス菌は最も効果的な抗生物質産生菌であり、固有の内生胞子形成と厳しい環境に耐えることから、他の生物的防除微生物よりも多くの利点があると考えられています。

本研究では、パエニ・バチルス ポリミキサ 7F1株が小麦畑の根圏から分離され、本細菌は、この研究でテストされたすべての病原性真菌株に対して高い抗真菌活性を示すことが示されました。


パエニ・バチルス菌の抗菌作用を7種類の病原性真菌に対して確認している、1. Fusarium equiseti, 2. Fusarium verticillioide, 3. Fusarium semitectum, 4. Fusarium graminearum, 5. Colletotrichum gloeosporioides, 6. Fusarium proliferatum, 7. Fusarium oxysporum

パエニ・バチルス菌によって産生される抗菌物質は、イツリンAやサーファクチンらのリポペプチドであることを確認しています。

固定化レクチン・アフィニティー蛍光ラベリング法によって唾液から肺がんを検出

Department of Respiratory Medicine, The First Affiliated Hospital of Soochow University, Suzhou, Chinaらのグループは、固定化レクチン・アフィニティー蛍光ラベリング法を用いた唾液からの肺がん検出について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9969232/

唾液や尿などのヒト生体液中の糖タンパク質の定量化は、背後にある病態生理学的変化を特定する最も簡単な方法です。本研究では、唾液タンパク質のフコシル化に着目し、その定量分析にレクチン (AAL、UEA-I、および LCA) を使用しています。

まず初めに、これらレクチンをアミノ基が固定化されたビーズに共有結合し、唾液から抽出された糖タンパク質に蛍光標識を加えます。レクチンビーズと蛍光標識タンパク質をインキュベートし、フコシル化糖タンパク質をレクチンビーズに結合させます。得られたレクチン結合糖タンパク質を96-MTPに置き、その蛍光強度をプレートリーダーで測定します。

結果として、唾液糖タンパク質のフコシル化は、健常者や他の疾患患者よりも肺がんで有意に昂進しており、肺がんの唾液フコシル化は、肺がんの病期を反映する悪性度に比例していることが示されました。

原発性シェーグレン症候群における血清IgGの糖鎖修飾の変化は、LCAレクチンによって有意に認識される

Key Laboratory of Rheumatology & Clinical Immunology, Ministry of Education, Beijing, Chinaらのグループは、原発性シェーグレン症候群患者の血清IgGの糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9961092/

原発性シェーグレン症候群 (PSS) は全身性自己免疫疾患であり、全身性腺分泌機能が大幅に失われることで知られています。

40人のPSS 患者、50人の原発性胆汁性胆管炎 (PBC) 患者、および健康なボランティアである38人をコントロールとして、合計128種の血清IgGの糖鎖修飾の変化ををレクチンマイクロアレイを用いて評価しています。

その結果、PSSにおける血清IgGの糖鎖修飾の変化は、健常者およびPBC 患者と比較して、LCAレクチンの結合レベルを有意に増加させることが分かりました。バイオマーカーの候補となり得ます。