アーカイブ: 2021年9月29日

HPAレクチンが、リンパ腫の診断のみでなく、治療にも使える可能性がある

Faculté de Pharmacie, Université Paul, Sabatier, Toulouse, Franceらのグループは、Helix pomatia lectin (HPA) レクチンは、癌マーカー(Tn-抗原)の診断ツールとしてのみでなく、治療にも使える可能性があると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8431231/

Morniga G と HPA レクチンは、Tn-抗原にアフィニティーを持つということで良く知られています。著者らは、過去に、Morniga Gレクチンがヒト白血病細胞に発現するTn-抗原に良く結合し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、更には、Tn-抗原が発現していない末梢血リンパ球には影響を及ぼさないということを示していました。しかしながら、腫瘍細胞のTn-抗原に結合するHPA レクチンの機能については、ほとんど情報がありませんでした。

この論文においては、著者らは初めて、HPAがヒト白血病細胞やマウスEL4 T-細胞リンパ腫に対してアポトーシスを誘導することを示しました。マウスにおいては、EL4細胞に対して、HPAは明らかにMorniga Gよりも毒性が強く、HPAが健全なリンパ球に対して毒性を示さないことも示されました。このことは、HPAが腫瘍の診断ツールとしてのみでなく、治療目的にも使える可能性を大いに示していると考えられます。今後の進展が期待される内容です。

トマトとセロリを間作するとトマトが良く育つ:間作の根圏バクテリアへの影響について

Gansu Agricultural University, Lanzhou, Chinaらのグループは、トマトの根圏バクテリアに対するトマトと他の野菜との間作の影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8459948/

著者らは、トマトを連作した場合をコントロールとし(CK)、キャベツとトマト(B)、インゲン豆とトマト(D)、そしてセロリとトマト(Q)らの間作がトマトに与える影響と、根圏バクテリアの関係性について議論しています。

トマトの葉の光合成パラメーター(細胞間CO2濃度、蒸散速度、気孔コンダクタンス、正味の光合成速度)は、トマトを連作した場合に比べて、レタスとトマトの輪作で高くなっていました。その時の根圏バクテリアの変化に対しては、レタスとトマトの連作において、Actinomycetaiesが顕著に減少し、Actinobacteria、Anaerolineaceae、Hyphomicrobiumらが顕著に増加していました。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のO-型糖鎖修飾の違いについて

West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のO-型糖鎖修飾について報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fchem.2021.689521/full

著者らは、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質を昆虫細胞と人の細胞で発現させた場合の違いについて研究しています。昆虫細胞の場合には23か所にO-型糖鎖修飾が見られ、人の細胞の場合には30か所にO-型糖鎖修飾が見られました。そしてまた、人の細胞の場合には、それらの大半がシアル酸修飾を受けていることが分かりました。宿主細胞のタイプによって、SARS-CoV-2 Spikeの糖鎖修飾が変化することがクリヤに示されています。

FIB-4(肝臓の繊維化指標)がSARS-CoV-2の死亡率と良く相関している

Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USAらのグループは、FIB-4(肝臓の繊維化指標)がCOVID-19の死亡率と良く相関する独立した指標となり得ることを示しました。
https://aasldpubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep4.1650

合計202名のコホート研究からの成果です(87名がMassCPRコホート、115名がBWHコホート)。
FIB-4 という肝臓の繊維化指標は、下記によって定義されるものです、
FIB-4=(Age(year)xAST(U/L)/(PLT(100/uL)x√ALT(U/L))

ロジスティック回帰分析より、FIB-4 が高くなるほどCOVID-19の死亡率と相関していることが示されました:OR = 1.75 (95% CI, 1.37, 2.23; P < 0.001)。性、BMI、民族、高血圧、糖尿病、レムデシブルの投与、肝臓疾患らを勘案して再計算された結果もほぼ同様の値を示しました (adjusted OR = 1.79; 95% CI, 1.36, 2.35; P < 0.001)。 結論として、入院時に測定されたFIB-4がCOVID-19による死亡を予測する上で、独室した優れた指標となることが示されました。

バチルス菌(Bacillus cabrialesii BH5)は、トマト灰色カビ病を抑えるのみでなく、トマトの成長も助ける

Department of Molecular Genetics, University of Groningen, Groningen, Netherlandsらのグループは、バチルス菌(Bacillus cabrialesii BH5)が、トマト灰色カビ病を抑えることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8441496/

今日、植物の成長を助ける根圏細菌(PGPR)を農業に応用するという研究例が益々増加傾向にあり、こういった手法が植物の疾患制御に対する正攻法として認知されつつあります。PGPRは、植物に必要な栄養素を土壌から利用できる形にしたり、植物のホルモン分泌を手助けするという作用のみならず、植物の各種の病原菌に対する免疫力強化を手助けしたり、抗菌物質を分泌することによって植物の成長にもプラスの影響を与えます。

本研究では、健康なトマトの根圏から単離されたバチルス菌(Bacillus cabrialesii BH5)が産生するfengycin Hと名付けされた抗菌物質が、トマト灰色カビ病など真菌病原菌に対する優れた抗菌作用を示すことが報告されています(下図参照)。

(BH5が産生した(fengycin H) による抗菌作用、灰色カビ病(Botrytis cinerea)に対して優れた阻害効果を示すことが分かる)

更には、Bacillus cabrialesii BH5が、トマトのジャスモン酸シグナル経路を活性化し、Botrytis cinerea に対する耐性を強化することも示されました。ジャスモン酸シグナル経路は、植物の病原菌に対する免疫反応のひとつであります。実際、ジャスモン酸シグナル経路に関係するSlLoxD遺伝子が、fengycin HやBH5の処理によって、48~96時間後に顕著に発現上昇していることが確認されました。

バチルス菌(Bacillus cabrialesii BH5)の処理がトマトの成長に与える影響については、根のシュート長や重さを計ることによって確認され、コントロールに対して顕著に成長が増進していることも確認されました。

フサリウム萎凋病に罹ると唐辛子の根圏細菌叢が大きく変化し、善玉菌を呼び寄せる

Institute of Microbiology, Chinese Academy of Sciences, Beijing, Chinaらのグループは、唐辛子の根圏バクテリアと菌類をアンプリコン(16S, ITS)を使って測定し、フサリウム萎凋病(FWD)が根圏にいかなる影響を及ぼすかについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8444440/

フサリウム萎凋病(FWD)は、フサリウム・オキシスポラムの複合種によってしばしば引き起こされ、この古来からの土壌伝染性疾患は、経済的に重要な植物に広範囲に見られます(例えば、バナナ、スイカ、ナス科植物(トマト、ナス、およびチリペッパー)等などです)。

菌類では、病原性菌類であるDiaporthe、Fusarium、Phomopsis、Plectosphaerella、Stemphylium、Cryptococcus らが、羅漢した根で増えており、
バクテリアでは、良性細菌とされるPseudomonas、Streptomyces、Klebsiella、Enterobacter、Microbacterium、Bacillus、Chitinophaga、Citrobacterらが羅漢した根で顕著に増加していました。

植物-微生物叢のシグナル伝達経路に関与する幾つかの機能遺伝子は、健康な根のエンドスフェアーよりも病気の根の微生物叢に豊富に含まれていました。たとえば、メチル受容性走化性タンパク質(MCP)に関連する遺伝子の相対的な存在量は、健康な植物と比較して、罹患した根のエンドスフェアーの微生物叢で33.2〜218.2%増加していました。MCPの下流にあるヒスチジンキナーゼCHEAおよびプリン結合走化性タンパク質CheWについても、羅漢した根のエンドスフェアーの微生物叢で15.0から40.3%増加していました。

MCPは、特定の化学物質の検出時にCheAヒスチジンキナーゼの活性と細菌の遊泳行動を変化させる運動性細菌の主要な化学受容体です。MCPは、典型的に有益な細菌、例えば、本実験で羅漢した植物で増加したBacillus subtilisやPseudomonas sppでも同定されています。病原体の侵入などのストレス条件下では、植物は、アミノ酸、ヌクレオチド、長鎖の有機酸などの不揮発性の根からの分泌物を積極的に放出したり、揮発性有機化合物のブレンドを積極的に放出することによって、遠くの有益な微生物を引き付けることができるようです。本研究の結果は、羅漢した植物におけるMCP遺伝子の濃縮が、植物が放出したシグナル分子に対するMCP産生細菌の応答に関連している可能性があることを示唆しています。これらの細菌は、MCPを使用して細胞外マトリックス内のこれら特定シグナル分子の濃度を検出し、その濃度勾配に従って、植物への細菌の方向性のある誘導と蓄積を可能にしているのでしょう。更なる検証が必要です。

本研究は、宿主植物の「外部ストレス下での子孫の生存と成長を最大化するために微生物パートナーを積極的に関与させるというCry for Help戦略」における細菌群の重要な役割に関する証拠を提供するものです。

NK細胞表面からSiglec-7を取り除くことで、腫瘍細胞に対する免疫治療の効果を改善させる

Department of Chemical Biology, School of Pharmaceutical Sciences, Peking University, Chinaらのグループは、腫瘍細胞への免疫治療の効果を改善するために、NK細胞表面のSiglec-7の発現を酵素反応的に変化させる方法を示しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8393205/

シアル酸にアフィニティーを持つ免疫グロブリン様のレクチン(シグレック:Siglec-7など)が免疫細胞(NK細胞やT細胞ら)に存在し、それが糖鎖に関連した免疫チェック分子となっていることが分かっています。

しかしながら、腫瘍細胞の免疫治療の抑制に関して、そのメカニズムは詳細に分かっているとは言えません。
著者らは、NK細胞が腫瘍細胞に接触することが、Siglec-7に対するリガンド(シアル酸修飾を伴う糖鎖)の腫瘍細胞における蓄積のトリガーとなることを示しました。NK細胞と腫瘍細胞が相互作用すると、2時間以内に腫瘍細胞のシアル酸修飾を伴う糖鎖の発現が急速に発生しました。これは、NK細胞からターゲットの腫瘍細胞にシアル酸修飾を伴う糖鎖が転移されることと、腫瘍細胞での新たなシアル酸修飾を伴う糖鎖の合成が進むことによるものです。

癌治療において、免疫療法の有望な方法として、拡張された同種NK細胞の移植という方法があります。
著者らは、酵素的にcytidine-5′-monophospho (CMP)-FTMCNeu5AcとST6Galを用いることでNK細胞表面上にSiglec-7に対して高いアフィニティーを持つシアル酸修飾を伴う糖鎖を発現させることによって、NK細胞表面がターゲットの腫瘍細胞によって活性化される時に、Siglec-7が培養上清中にリリースされ、結果としてNK細胞のエフェクター機能が増強され免疫治療が効果的に行えることを示しました。

根圏マーカーという視点で植物の根と根圏細菌叢の関係をとらえる

植物の根の周辺には根圏細菌が共生しており、その多様で複雑な細菌の集団を根圏細菌叢と呼んでいます。この根と根圏細菌叢の共生の関係は、しばしば動物の腸と腸内細菌の関係に例えられます。しかし、生物学的に見て、植物にはもちろん腸という器官は存在しません。根と根圏細菌と土壌を総体としてとらえた場合に、これが腸という器官に対応すると考えると良いのではないでしょうか。

ヒトが健康であるか無いかを判断する場合に、各種の臓器特異的かつ疾患特異的なバイオマーカーが健康診断や病理診断で使用されます。
この考え方をそのまま植物の根と根圏細菌に当てはめると、植物の腸の健康度合いを示すマーカー、即ち根圏マーカーなるものが存在し、それをモニタリングしてあげれば、新たな植物の土壌監視システムが構築できるのではないでしょうか?

即ち、土壌診断で用いられる従来の指標、pHや水分量と言った化学的指標、土壌密度と言った物理的指標に加えて、生物学的な指標である根圏マーカーを加えるのです。

遺伝子解析技術の進歩によって、最近では、土壌から根圏細菌を分離培養しなくても、細菌叢の構成を解析できるようになっています。個々の細菌間の相互作用についても、菌根菌を助けるヘルパー細菌といった形で理解が進んできています。しかし、ブログ管理人は、このような複雑系を還元的な手法によって理解することには限界があり、マクロな視点から見て同じような特性を示す細菌叢の構成は唯一無二のものではなく、多様な細菌構成が有り得ると考えています。

それ故、植物の腸の健康状態を的確に表すマクロな視点からみた根圏マーカーを見つけだし、それをコントロールする方法を見出すことが最も優れた植物の管理方法に成り得ると考えるのです。

CLEC4G, CD209(C-型レクチン)が強くSARS-CoV-2に結合し、感染を阻害する

Institute of Molecular Biotechnology of the Austrian Academy of Sciences, Vienna Austriaらのグループは、CLEC4GとCD209c(C-型レクチン)がSARS-CoV-2の感染を阻害できることを示しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8420505/

168種類の既知のマウスのC-型レクチン、ガレクチンやシグレックの糖鎖結合ドメインから、HEK293Fを宿主細胞として143種類のそれら糖鎖結合ドメインとIgG2a-Fcとの融合タンパク質を作ることに成功しています。この融合タンパク質のライブラリーは恐らく世界でも最大のものであり、本研究では、これらの融合タンパク質をレクチンという名で使用しています。

SARS-CoV-2 Spike に発現している糖鎖は、オリゴマンノースから修飾の進んだ多分岐の複合型N-型糖鎖まで、修飾位置に依存した形で広く分布しています。RBDには、N331とN343 にN-型糖鎖が修飾されており、シアル酸やフコース修飾を含んだ糖鎖が付加されている場合があります。この糖鎖修飾の状態は、SARS-CoV-2 Spikeを全長で発現させた場合と、ACE2に結合する最小ドメインとしてのRBDのみを発現させた場合では異なっていることに注意する必要があります。従って、Spikeタンパク質の機能を研究する場合には、全長のSpikeタンパク質を用いることが大切であることが強調されています。更にこのことは、糖鎖修飾の違いが、免疫活性や重症化に影響を及ぼしている可能性があることを示唆します。

ともあれ、本研究においては、ふたつのレクチン、CLEC4G と CD209c、が強くSARS-CoV-2 Spikeに結合することが確認され、その結合状態をリアルタイムにてAFMで可視化することにも成功しています。ここで得られた3Dモデルは、これらレクチンがRBD-ACE2結合界面内の糖鎖に結合しており、Spikeの宿主細胞表面への結合に干渉することを示しています。実際、CLEC4GとCD209cがSRS-CoV-2の感染を阻害することを、VeroE6及びCalu3細胞を用いて示されました。

ウイルスの感染量は、SARS-CoV-2感染15時間後にqRT-PCRにてウイルスのRNA量を測定することで行われ、mock(SARS-CoV-2のみを与えた場合)に比較した形での倍率変化によって示されています。

プロベネシドがCOVID-19の治療薬候補である:OTA3を阻害することでSARS-CoV-2の複製を阻害する

Department of Infectious Diseases, University of Georgia, Athens, GA, USAらのグループは、プロペネシド(痛風治療薬)がCOVID-19の優れた治療薬になり得ると報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-97658-w

有機陰イオン輸送体3(OAT3)が、ウイルスの複製に必要とされるホスト側の遺伝子のひとつであると考えられます。OAT3 は、腎臓、脈絡叢、血管床、肺を含む他の末梢器官に発現しており、尿酸および他の基質および特定の抗生物質を含む内因性有機アニオンの膜貫通輸送を仲介します。プロペネシドオは、OTA3を阻害する治療薬として一般的に使用されており、痛風治療薬として広く知られています。プロペシドは、薬物動態的にも好ましく、臨床的な観点でも安全性が高く、抗ウイルス薬として転用する場合の非常に良い候補となりえます。

Probenecid treatment reduced SARS-CoV-2 replication by 90% in ヒト気管支上皮(NHBE)細胞を用いたin vitro実験で、プロペネシドはSARS-CoV-2の複製を90%低減し、IC50の値は、0.0013 μM となりました。プロペネシドは、SARS-CoV-2の変異株に対しても有効であろうと考えられます。というのは、OTA3のような宿主側のウイルス複製に関係するプロセスを阻害するものだからです。ウイルス複製を阻害する潜在的な宿主側のターゲットの中で、OTA3の機能が低下してもヒトは健康であり、OTA3の阻害がヒトに悪影響を与える可能性は低く、ウイルス複製阻害に必要とされるドーズでも安全に許容されるものと思われます。

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