アーカイブ: 2022年11月22日

ヒトのDectin-1欠乏症が黒色菌糸症(phaeohyphomycosis)に与える深刻な影響

Fungal Pathogenesis Section and Immunopathogenesis Section, Laboratory of Clinical Immunology and Microbiology (LCIM), National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), NIH, Bethesda, Maryland, USAらのグループは、ヒトのDectin-1欠乏症が黒色菌糸症(phaeohyphomycosis)に対するマクロファージ免疫防御を弱めると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9663159/

黒色菌糸症は、メラニン産生と糸状増殖を特徴とする皮膚真菌によって引き起こされる侵襲性真菌感染症です。黒色菌糸症は、通常、外傷から感染して皮下組織に影響を及ぼし、抗真菌療法および/または外科的切除で治療可能です。

本研究では、CARD9欠損症で生命を脅かす感染症を引き起こすことが知られている植物の黒色真菌であるCorynespora cassiicolaによって引き起こされる重度の黒色菌糸症の患者に焦点が当てられています。この患者は、CARD9 共役受容体である Dectin-1 をコードする CLEC7A に両アレル変異がありました。 Dectin-1 は、ヒト免疫細胞によるこの真菌に対する IL-1β および TNF-α の産生に重要であり、マクロファージによる真菌の殺傷を促進します。 CARD9とは、C-型レクチンのシグナル伝達と抗真菌免疫に関与する骨髄細胞の免疫アダプタータンパク質であります。

この患者とは血縁関係のない重度の黒色菌糸症患者 17 人も評価され、17 人中 12 人に有害な CLEC7A 変異が存在し、Dectin-1 細胞外、β-グルカン結合、C-末端ドメインらの変化と関連して、Decin-1–依存性サイトカインの産生障害を引きおこしていました。

Dectin-1欠損患者およびCARD9欠損患者のこの真菌に対する炎症誘発性サイトカイン応答の違いを示す

肝細胞癌のAFPとIgGあるいはIgMの糖鎖修飾変化を組み合わせた診断法

Department of Laboratory Medicine, Shengjing Hospital of China Medical University, Shenyang, Chinaらのグループは、レクチンマイクロアレイを用いた肝細胞癌の診断法について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9634732/

三つのレクチン(EEL、MPL、および TC)を用いたIgGの糖鎖修飾の変化とアルファフェトプロテイン (AFP) を組み合わせたモデルによって、肝細胞癌に対する良好な診断精度(ROCのAUC=0.96 (P < 0.05)、感度=82.54%、特異度=100%)を得たとしています。

また、一つのレクチン (DSL) を用いたIgMの糖鎖修飾変化とAFPを組み合わせた別のモデルでは、ROCのAUC=0.90 (P < 0.05)、感度=75.41%、特異性=100% が得られています。

カンジダ症に対するPD-L1の阻害に着目した治療法の提案

Clinical Medicine Scientific and Technical Innovation Center, Shanghai Tenth People’s Hospital, Tongji University School of Medicine, Chinaらのグループは、宿主の免疫応答に対するPD-L1発現の負の側面、即ち、骨髄から感染部位への好中球の移動を阻害し、真菌感染の免疫逃避を促進する、という役割について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9652346/

カンジダ症の原因となるカンジダ・アルビカンスは、ヒトと共生する日和見的な真菌病原体です。全身感染が起こると、カンジダ・アルビカンスは血流に入り、全身に広がり、侵襲性カンジダ症として知られる疾患を引き起こします。宿主のカンジダ・アルビカンスの殺菌は、炎症性サイトカインの放出、活性酸素種および抗菌ペプチドの生成、好中球細胞外トラップの形成といった免疫反応に依存しており、好中球が主要な働きをしています。

PD-L1は、好中球、B 細胞、樹状細胞、マクロファージなどの免疫細胞の細胞膜に発現することがわかっています。 カンジダ・アルビカンスの感染中、この真菌の細胞壁上に存在するβ-グルカンは、宿主免疫応答の調節に重要な役割を果たしています。 C-型レクチン受容体 Dectin-1(Clec7a 遺伝子によってコードされる)は、このβ-グルカンの認識にとって最も重要な好中球のパターン認識受容体であります。

本研究では、真菌のβ-グルカンによるDectin-1の活性化がマウスおよびヒトの好中球でPD-L1の発現を誘導し、高発現したPD-L1がケモカイン CXCL1およびCXCL2 の分泌を制限し、骨髄から感染部位への好中球の移動を阻害することが実証されました。この発見は、骨髄からの好中球の移動を調整という観点で、PD-L1が真菌感染症に対する好中球ベースの免疫療法の強力な治療ターゲットとして機能する可能性があることを示唆しています。即ち、PD-L1の遮断またはPD-L1発現の薬理学的阻害のいずれかによって、骨髄からの好中球の移動が大幅に増加し、宿主の抗真菌免疫が強化されるということです。

Bacillus subtilis、Delftia acidovorans、および Bacillus polymyxae が、高麗人参の根腐れ病菌(フサリウム菌)の増殖を効果的に阻害

Jilin Ginseng Academy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, Chinaのグループは、高麗人参の根腐れ病(フサリウム菌)を抑制する為に、健康な高麗人参から分離されたバクテリアの抗真菌活性について報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article/authors?id=10.1371/journal.pone.0277191

高麗人参の根圏土壌から合計 145 のバクテリア株が分離されました。これらのうち、YN-42(L)、YN-43(L)、および YN-59(L) と呼ばれる 三つの分離株が、in vitro で フサリウム菌に対する優れた阻害活性を示しました。


ここで、
a: Bacillus subtilis [YN-42(L)]、
b: Delftia acidovorans [YN-43(L)]、
c: Bacillus polymyxae [YN-59(L)]。

バイオ肥料として5種類の善玉細菌群とバイオ炭を施した小麦とトウモロコシの植物成長促進効果について

Interdepartmental Center SITEIA.PARMA, University of Parma, Italyらのグループは、バイオ肥料として5種類の善玉細菌群とバイオ炭を施したコムギとトウモロコシの植物成長促進効果について報告しています。.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9499264/

バイオスティミュラントは、バイオ肥料や、植物成長促進微生物(PGPM)として定義されるバクテリア、および/または菌類からなります。これらは、土壌に存在する栄養素の利用可能性を高めることによって植物との良好な関係を確立し、植物の収量や健康にプラスの影響を与えます。バイオ肥料の性能を向上させるために、土壌改良剤を積極的に利用し、微生物の成長と生存を促進することが有効です。バイオ炭(Char)はその良い候補であり、その多孔質な構造により、微生物が環境ストレスから生き残ることができる隠れ家となります。

本研究では、小麦とトウモロコシの温室栽培下にて、バイオ炭(善玉細菌のキャリアとして)、ニ種類の善玉細菌群(MC-B と MC-C)、および/またはアーバスキュラー菌根菌 (AMF) の組み合わせをバイオスティミュラントとして用いた場合の効果を調査しています。

  • MC-Bは、以下の善玉菌混合物:A. vinelandii DSM 2289, R. aquatilis BB23/T4d, Bacillus sp. BV84, B. amyloliquefaciens LMG 9814, P. fluorescens DR54
  • MC-Cは、以下の善玉菌混合物:A. chroococcum LS132, B. amyloliquefaciens LMG 9814, P. fluorescens DR54, B. ambifaria MCI 7, R. aquatilis BB23/T4d

結果として、選択された善玉細菌群とバイオ炭の様々な組み合わせが、小麦とトウモロコシのシュートや根のバイオマスに関してプラスの成長効果があることが示されています。

小麦では、成長に最も寄与したバイオスティミュラントは、AMF の有無にかかわらず Char+MC-C であり、次に AMF の有無にかかわらず Char+MC-B となりました。一方、トウモロコシでは、AMF の有無にかかわらず、Char+MC-C が最適なバイオスティミュラントとなり、次に Char+MC-B+AMF または AMF のみが続きました。

SARS-CoV-2 オミクロン株に特徴的な糖鎖修飾とその影響

Institute of Synthetic Biology, Shenzhen Institutes of Advanced Technology, Chinese Academy of Sciences, Shenzhen, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2 オミクロン株に特徴的な糖鎖修飾構造と、その影響について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36318020/

SARS-CoV-2に関する話題をブログにするのは、もう止めようと思っていたのですが、レクチンマイクロアレイを用いた比較糖鎖プロファイリング解析を基本にしている話題だったので、本論文を糖鎖とレクチンに関する話題として簡単に紹介しておこうと思います。

レクチンマイクロアレイを使用した比較糖鎖プロファイリング解析から、SARS-CoV-2 オミクロン株では、末端フコース修飾が昂進し(UEA-Iレクチンより) 、シアリル化(MAL-II、MAA、SNA-Iらのレクチンより) およびガラクトシル化糖鎖(CSA、 WFA、SBA、VVLらのレクチンより)も、他の変異株(アルファ、ベータ、デルタ)より昂進していることが示されました。

SARS-CoV-2 オミクロンのスパイクタンパク質をノイラミニダーゼまたはガラクトシダーゼで処理すると、中和抗体の影響を受けやすくなることが示されました。これは、即ち、オミクロン株では、シアル酸およびガラクトースの修飾を受けた糖鎖の発現が高いほど、中和抗体に対するシールド効果が高まる可能性があることを意味しています。

小麦の根圏:小麦の塩害耐性を耐塩性のバチルス菌の接種で改善し、小麦の成長を促進する

Key Laboratory of Integrated Management of Crop Diseases and Pests, Department of Plant Pathology, Nanjing Agricultural University, Chinaらのグループは、小麦の塩害耐性を耐塩性のバチルス菌の接種で改善し、小麦の成長が促進されることを実証しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9608499/

塩分は、酸化ストレス、浸透圧ストレス、栄養異常、膜機能不全、光合成活性の​​低下、およびホルモン機能不全らにつながる生理学的および代謝障害を誘発することにより、小麦の生育に有害な影響を及ぼします。塩害ストレス下の植物は、活性酸素種 (ROS) を過剰生成することがあり、タンパク質、細胞壁、そしてまた核酸にダメージを与えます。本研究の目的は、中国の青海チベット地域から分離された耐塩性のバチルス株が小麦の成長を促進し、小麦に対する塩ストレスの悪影響を軽減する可能性を評価実証することでした。

バチルス菌株、PGPR、FZB42、NMCN1、および LLCG23は、それぞれ最大 10% NaCl、18% NaCl、および 14% NaClのLB 培地でも増殖できるという耐塩性を示します。
小麦へのNMCN1 と LLCG23 の接種は、コムギの成長パラメーターを大幅に強化しました。高NaCl 濃度 (200 mmol) の環境下で、コントロールとなる小麦に対して、それぞれ、生重量=31.2% と 29.7%、乾燥重量=28.6% と 27.3%、シュート長=34.2% と 31.3%、根長=32.4% と 30.2% と大幅な植物成長効果を示しました。

バクテリアの塩耐性遺伝子、DegU、OstB、OhrR、ComA、SodA、および OpuAC はすべて、生理食塩水条件下で昂進されていることが確認されました。更に、塩害ストレス (200 mmol) の下で NMCN1 を接種した小麦は、expansin (expA1)、cytokinin (CKX2)、そしてauxin (ARF)に関連する遺伝子を有意に発現させており、LLCG23 および FZB42 がそれに続きました。エチレンをコードする遺伝子 (ERF) の発現は、同じストレス条件下で栽培された NMCN1を接種した小麦で大きく発現が低下していました。以下に示すように、高度に好塩菌である NMCN1 を接種した小麦においては、耐塩性遺伝子 (MYB、DREB2、HKT1、および WRKY17)が高発現しており、続いて LLCG23 および FZB42 と続きました。

LSECtin(CLEG4G)の二分岐N-型糖鎖への結合特異性は、溶液中と糖鎖アレイの結果では異なる

Basque Research & Technology Alliance (BRTA), Chemical Glycobiology Group, CIC bioGUNE, Bizkaia, Spainらのグループは、溶液中でのNMRの実験結果と、糖鎖を固定したマイクロアレイを用いた実験結果が異なることをLSECtinと二分岐N-型糖鎖の系で示しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9615123/

非対称の二分岐N-型糖鎖に対する LSECtin (CLEG4G) の糖鎖結合特異性を、NMR によって精査した結果と、糖鎖アレイから得られた実験結果を比較しています。驚くべきことに、NMRの実験では、非対称LDN3およびLDN6 N-型糖鎖の両方が、溶液中で同様の親和性でLSECtinと相互作用することが確認されました。しかしながら、これは、これらの非対称二分岐N-型糖鎖が糖鎖アレイに提示されたときに得られた結果とは対照的であり、糖鎖アレイでは、LDN6のみがレクチンによって効率的に認識されました。

分子認識の様子は、溶液の状態と表面上では異なっています。自然界に存在するものに近いのはどれなのでしょうか?糖鎖は通常、グライコカリックスを形成する複合糖質の一部として細胞表面に露出しています。糖鎖アレイを用いた研究は、細胞表面で行われている研究に近いと考えたくなります。しかし、スライドガラスの表面は、実際の細胞表面のグライコカリックスとは全く異なりますし、リガンドを表面に固定するために使用されるリンカーの長さと化学的性質、およびスライドグラス自体も、最終的な結果と得られた結果の解釈に影響を与える可能性があります。

アルツハイマー病に特有なN-型糖鎖修飾の全体像について

Department of Surgery, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, USAらのグループは、健常人、無症候性アルツハイマー、症候性アルツハイマー病患者の脳におけるN-型糖鎖修飾の全貌について報告しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(22)00241-9/fulltext

アルツハイマー病の神経病理学的特徴は、β-アミロイド (Aβ) を含む細胞外沈着物の形成と、過剰リン酸化タウによる神経内神経原線維変化の進行です。

大きな視点で、糖タンパク質の全体像を調査するために、健常人、無症候性アルツハイマー、および症候性アルツハイマーを含む30人の脳サンプルから得た糖タンパク質の定性的なN-型糖鎖修飾の分析が行われました。レクチン・アフィニティ分離と親水性相互作用クロマトグラフィー (HILIC) の組み合わせにてN-型糖鎖修飾を受けた糖タンパク質を選択的に濃縮し、LC-MS/MSによって分析をしています。 ConA、RCA、SNA、WGA、VVA、および AAL の組み合わせが、脳内のN-型糖鎖修飾を受けた糖タンパク質の濃縮に最適でありました。その結果、2,035個のユニークな糖ペプチド、580個のN-型糖鎖結合部位、および 124個の糖鎖から、合計303個の糖タンパク質が同定され、合計で 1,901個のグライコフォームが構成されました(注: ひとつの糖鎖修飾部位が、みっつの異なる糖鎖で同定された場合、それらはみっつのグライコフォームとしてカウントされます)。

最も豊富な糖鎖は 1201 ~ 1250 MW の範囲内にあり、糖鎖組成に基づいてサンプルから検出された総グライコフォームの 20% 以上となります。この分子量範囲の糖鎖の大部分は、Man5GlcNAc2 (Man5) 構造に由来します。 2 番目に頻度の高い糖鎖は、bisecting-GlcNAc とコアのフコシル化を伴うバイアンテナリー糖鎖として同定されます。他の一般的な糖鎖には、糖ペプチドのフコシル化の程度が異なるいくつかのハイマンノース、複合、およびハイブリッド N-糖鎖が組織全体で同定されました。全体的なグライコフォームに基づく分布を考慮すると、異なるサンプルグループ間で糖鎖の分子量または糖鎖の分布に統計的な差はありませんでした。

異なるサンプルグループの糖鎖修飾パターンに関するより多くの情報を得るために、糖鎖修飾部位レベルでの分析も行われました。異なる糖鎖修飾部位にわたる糖鎖修飾の集合的変化について、異なるサンプルグループ間(健常、無症候性アルツハイマー、および症候性アルツハイマー)で比較すると、健常な脳サンプルと比較して、無症候性および症候性アルツハイマーでは、ガラクトシル化、フコシル化、bisecting、および多分岐の減少が見られました。また、症候性アルツハイマーと比較して無症候性アルツハイマーでは、ガラクトシル化、フコシル化、bisecting、および多分岐型およびハイブリッド型のレベルが高くなっていました。

アルツハイマーに特有な、決定的なN-型糖鎖マーカーというのは見つかっていないようです。

腸チフス菌のVi莢膜性多糖類の作用機序について

Department of Medical Microbiology and Immunology, University of California at Davis, California, USAらのグループは、腸チフス菌のVi莢膜性多糖類の作用機序について報告しています。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mbio.02733-22

細菌性病原体は、(i) 免疫細胞によるオプソニン化および食作用を回避したり、或いは (ii) 食作用中の殺傷を回避して食細胞内に常駐することによって、宿主の免疫反応を逃れるという戦略を取ります。

サルモネラ属のチフス菌は、腸チフスの原因細菌であり、単核食細胞とリンパ球の蓄積である腸チフス結節と呼ばれる小さな肉芽腫に病原体が持続することを特徴とする重度の播種性感染症です。腸チフス菌は、Vi 抗原としても知られる病原性のVi莢膜多糖を合成します。これは、天然の IgM によるオプソニン化から細菌を保護し、好中球やマクロファージなどの貪食宿主細胞による貪食を防ぎます。しかし、腸チフス菌は典型的な細胞内病原体であるため、腸チフス菌がそのような抗貪食性カプセルを持っていることは逆説的です。

本研究では、腸チフス菌のVi莢膜多糖の二重性が、示されています。Vi 莢膜多糖が存在することにより、腸チフス菌は好中球による食作用を選択的に回避できる一方で、マクロファージに発現するDC-SIGN、C-型レクチン、に結合することにより、マクロファージの食作用を促進することが示されました。


ここで、tviB-vexE は、Vi莢膜性多糖類を持たない腸チフス菌の変異体です

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