COVID-19の確認された外来患者の場合には、mRNAワクチンの接種は一回で十分のようだ

Northwestern University Feinberg School of Medicine, USAらのグループは、以前にSARS-CoV-2に感染していた人と、していない人の間で、mRNAワクチンの1回或いは2回接種後のIgG中和活性に如何なる違いが生じているかについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8276631/

次の三つのグループについて比較しています:
(1)COVID-19群: COVID-19の確認された外来患者で回復した人達、
(2)血清陽性群: SARS-CoV-2のRBDに対して血清陽性ではあるが、COVID-19に対する急性ウイルス診断テストはない人達、
(3)血清陰性群: ワクチン接種前の以前のSARS-CoV-2感染に対して血清陰性の人達。

COVID-19群は、中和活性中央値%は、血清陽性群に比べて有意に高い(22.2 vs. 4.4, p < 0.001)。 COVID-19群は、ワクチン接種一回で、血清陽性群に比べて顕著に中和活性中央値%が高い(99.9 vs. 56.5, p < 0.001)。 ワクチン接種一回後、血清陽性群の中和活性中央値%は、明らかに血清陰性群よりも高いが、それほど大きく違うわけではない(56.5 vs. 38.2, p = 0.12)。 COVID-19群は、ワクチン二回接種で、血清陽性群よりも中和活性中央値が高い(99.9 vs. 98.5, p<0.001)。 血清陽性群と血清陰性群は、ワクチン二回接種後はほとんど変わらない中和活性中央値%を示す(98.5 vs. 97.9, p = 0.46)。 従って、結果としては、以前にCOVID-19患者と確認された人達は、ワクチン接種一回で十分な効果が得られるようです。

海藻から抽出される多糖類のSARS-CoV-2の感染阻害効果について

Marine Biotechnology Research Center, Koreaらのグループは、海藻から抽出した多糖類のSARS-CoV-2の感染阻害効果と細胞毒性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8071526/

海藻類は、非常に優れた生薬ソースであり、多糖類、食物繊維、アミノ酸、脂肪酸、天然色素、フタロタンニン、ビタミン、ミネラルなどが抽出できます。これらの成分は、非常に多岐にわたる薬理効果を持ち、抗腫瘍活性、酸化防止、抗細菌・ウイルス活性、抗凝固活性、免疫活性効果などが知られています。

次の多糖類について、SARS-CoV-2の感染阻害効果と細胞毒性が評価されました:
ワカメ、
ミウマコンブ、
ヒジキ、
アカモク、
アワビ内蔵、
ミル、
アサクサノリ、そして
フコイダン。

細胞毒性は、HEK293/ACE2 細胞を用いて評価され、各々の多糖類は、1 ng/mL ~ 1 mg/mL (1/10希釈系列) の濃度にてアプライされ、96時間インキュベートされました。ほとんどの多糖類は、シビアな細胞毒性は示しませんが、アワビ内蔵、ヒジキ、アサクサノリは、1 mg/mLの濃度で少々細胞毒性を示し、アワビ内蔵 の細胞毒性が一番顕著でありました。細胞毒性の強さの度合いは、アワビ内蔵、アサクサノリ、ミル、ヒジキ、ミウマコンブ、ワカメ、アカモク、フコイダンの順に並びますが、これらすべてのCC50 は、500 μg/mL以上でありました。

多糖類による感染阻害効果は、HEK293/ACE2細胞にSARS-CoV-2 疑似ウイルスを用いて評価されました。アサクサノリを除くすべての多糖類がSARS-CoV-2 疑似ウイルスに対して感染阻害効果を示しました。評価された多糖類の中では、アカモクが最も高い抗ウイルス効果を示し、IC50 は 12 μg/mLでありました。その他は、次のような順番になります、アワビ内蔵 (33 μg/mL)、ヒジキ (47 μg/mL)、ミル (74 μg/mL)、ミウマコンンブ (105 μg/mL)、 フコイダン (142 μg/mL)、ワカメ (289 μg/mL)、であります。

結論としては、アカモクの多糖類がSARS-CoV-2の感染阻害には最も適しているようです。

レンズ豆レクチンがSARS-CoV-2変異株に対して広範な抗ウイルス活性を示す

National Institutes for Food and Drug Control (NIFDC), Beijing, China, らのグループは、レンズ豆レクチンが、SARS-CoV-2の変異株に対しても有望な抗ウイルス活性を持っていると報告しています。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/22221751.2021.1957720

Huh7細胞とあらかじめレクチンで前処理したSARS-CoV-2の疑似ウイルスを用いてレクチンの中和活性を評価しました。WGA、lentil lectin、PHA-L、PHA-E らがSARS-CoV-2疑似ウイルスに対して非常に優れた抗ウイルス活性を示し、そのIC50は 8.5 μg/mL から 22.0 μg/mLの範囲でありました。

レクチンによる血球凝集と細胞毒性は、レクチンの応用においては常に課題となります。 PHA-L と PHA-E は、血液凝集を 3.91 μg/mLで示し、WGA は7.81 μg/mLでした。レンズ豆レクチンは、最も弱い血球凝集を示し、その値は高濃度の 1 mg/mLでありました。一方、細胞毒性はHuh7或いは293Tを使用し、37℃で24時間インキュベートして測定されました。これらすべてのレクチンは、500 μg/mLの濃度でも細胞毒性を示しませんでした。

これらのことを考慮すると、レンズ豆レクチンがSARS-CoV-2阻害には最も適していると考えられます。

レンズ豆レクチンの場合には、SARS-CoV-2 Spikeの個々のN-型或いはO-型糖鎖を除去してもその中和活性には影響はありませんでした。このことは、レンズ豆レクチンがSARS-CoV-2 Spikeの多くの糖鎖修飾サイトに結合できることを示唆しているようです。レンズ豆レクチンは、oligomannose-型糖鎖 (Man-5 ~ Man-9)に強く結合し、還元末端がGlcNAcの複合型やハイブリッド型糖鎖にも結合します。

RBDの周辺には、N165、N234、N343 に糖鎖修飾サイトがあります。これらサイトの糖鎖にはレンズ豆レクチンは結合することができます。特にN234は、完全なoligomannose-型なので、効果的に結合することができます。興味深いのは、これら3つの糖鎖修飾サイトのどれか一つを除去してもレンズ豆レクチンの中和活性には影響がなく、残った二つのサイトで十分なレンズ豆レクチンの中和活性を維持できることを示しています。

現在までに、多様なSARS-CoV-2変異株が出現しているのですが、N165、N234、N343 は 100% 保存されており、これらのことを考慮すると、レンズ豆レクチンの使用は、SARS-CoV-2変異株に対する中和活性の許容範囲の広さから、とても優れた選択肢なのかも知れません。

COVID-19で高齢者が重症化するのは、T-細胞減少症が大きな原因だが、それは短くなったテロメアに原因がある

University of Washington, Seattle, USAらのグループは、年齢とともに短くなるT-細胞のテロメア長が、COVID-19の重症化に影響している可能性を指摘しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8282112/

一時的なリンパ球減少症は、急性呼吸器不全の感染症では一般的に見られます。急激で長引くCOVID-19のリンパ球減少症は、しかしながら、独特でT-細胞数の大幅な減少を見せます。このT-細胞減少症についてはまだその全体像が良く分かって居ないのですが、COVID-19でのT-細胞数の減少は、T-細胞の急速で大掛かりなクローン性増殖を必要とし、それはテロメア長(TL)に依存した事柄なのです。骨髄性細胞のテロメア長(HCTL)は、年齢とともに短くなります。その為、高齢者によっては、COVID-19のリンパ球減少症を補い、且つ復活させるに必要なT-細胞のクローン性増殖が行えない可能性が多分にあります。

急性な感染症がない場合には、T-細胞の抗体はゆっくりとしており、ナイーブT-細胞の半生は5年、メモリーT-細胞の半生は5カ月と言われています。しかしながら、SARS-CoV-2の感染に直面した場合には、高齢者における減少したTL依存のT-細胞クローン性増殖能力は、T-細胞の死亡と増殖の間で供給不足に陥ってしまいます。更には、SARS-CoV-2を排除する為にはより多くのナイーブT-細胞のクローン性増殖とSARS-CoV-2という抗原に対するエフェクター細胞やメモリー細胞への分化も必要になります。このようにして、ナイーブT-細胞の短いレロメアは、感染によって生じるT-細胞減少症が無くても、ウイルスと戦うための獲得免疫の能力を制限してしまうのです。

T-細胞の補充とT-細胞のクローンサイズ(CS)について、著者らのモデルでは下記のような仮定が置かれています:
(i) Tー細胞のTL依存の複製停止は、“telomeric brink” (TLB) として定義され、5 kbaseで複製は止まるものとする、(ii) 20歳におけるナイーブT-細胞のTL(TL20)は、TLBに達するまで、毎年0.03kbaseの割合gで短くなるものとする、(iii) 指数関数的な複製で、一個のナイーブT-細胞が20回の複製で(Nmax)で約100万個の最大クローンサイズ(CMS)に達するとする、(iv) クローン性増殖による最大のTL短鎖化量を Δmaxとする、(v) 年齢とともに減少するTL短鎖化によって、“age of onset” (XO)で、“telomeric onset” (TLO = 6.4 kb)に達するとする、(vi) ほとんどのメモリーT-細胞は、子供から青年期の間に新しい抗原に対して出来上がった。


TL20 = TL at age 20 years,
TLB = Telomeric brink, stopping cell replication,
TLO = TL at onset of clone size limitation,
XO = Age in years when TLO is reached,
MCS = Maximal clone size (~106 T cells),
Δmax = TL shortening required for achieving MCS (~1.4kb)

結果として、ナイーブT-細胞のクローン性増殖におけるテロメア長は、SARS-CoV2感染の症状に影響を与えろことが示唆されました、というのも、年齢とともにテロメア長が短くなることで、ウイルスと戦うに必要な十分量のT-細胞を供給できなくなるからなのです。

COVID-19回復期患者から選別された最も優れたSARS-CoV-2に対する中和抗体とは

Technische Universität Braunschweig, Institut für Biochemie, Biotechnologie und Bioinformatik, Abteilung Biotechnologie, Germanyらのグループは、COVID-19回復期患者の末梢血単核細胞(PBMC)から抗体ファージディスプレイ法を用いて、SARS-CoV-2に対する中和抗体を開発した結果について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8260561/

抗体ファージディスプレイ法は、今日ターゲット疾患に対する治療用抗体の開発におけるin vitroな技術として広く使用されています。著者らは、6人のCOVID-19回復期患者から得た免疫ファージディスプレイを使用し、SARS-CoV-2 RBDに結合する抗体を選別することによってSARS-CoV-2に対する阻害・中和抗体を開発しました。

30 種類の抗体を、IgGとしての特性評価を行うために、細胞変性効果(CPE)ベースの中和スクリーニングアッセイでスクリーニングしました。 このアッセイは、250プラーク形成単位(pfu)/ウェルSARS-CoV-2および1μg/ mL(〜10 nM)scFv-Fcを使用して実施しました。 CPEは、SARS-CoV-2感染時に4日以内に位相差顕微鏡ではっきりと見える丸みと剥離を特徴とし、感染していない細胞は普通のコンフルエンシー単層を維持していました。最高の中和活性を示す 19 scFv-Fc を再クローニングし、50mLの培養スケールでヒトIgGとして生成しました。RBD、S1、またはS1-S2への結合の最大有効濃度の半分 EC50 値が決定されました。 STE90-C11、STE90-B2-D12、STE94-F6、STE94-H2と名付けられた抗体は、全ての抗原に対して0.2 ~ 0.5 nM の範囲の EC50 を示し、結果として、STE90-C11 抗体が最も優れた中和抗体であるとして選別されました。

驚くべきことに、STE90-C11 は、下図に示すように現存するほとんどの変異に対して許容範囲に入ります。特に、現在までに出現した B.1.429/B.1.427、B.1.526、B1.258Δ、B.1.535、B.1.617、B.1.1.33らの変異株に対して許容範囲にあることは特出すべきでしょう。

STE90-C11の中和メカニズムをさらに詳しく知るために、STE90-C11FabとSARS-CoV-2RBDの複合体を調製し、結晶化スクリーニングを行いました。得られた結晶から収集されたX線回折画像は、2.0Åの全体的な分解能限界に渡るデータセットをもたらしました。分子置換によって構造を解いた後、モデルが電子密度に組み込まれました。この結合領域の約60%がVHセグメント由来であり、同時に最大10個の水素結合を形成していました。残りの40%は、VLセグメント由来であり、更に8個の水素結合が相互作用を安定化させていました。 STE90-C11:SARS-CoV-2 RBD複合体のRBDとACE2:SARS-CoV-2 RBD複合体の重畳は、STE90-C11の中和活性のメカニズムは、ACE2結合サイトへの競合反応であり、SARS-CoV-2 RBDとSTE90-C11の相互作用界面はほとんどオーバーラップしていることを示します。

表皮ブドウ球菌の角質細胞への結合は、ブドウ球菌が持つAapのL-型レクチンドメインの働きによる

University of Nebraska Medical Centergrid.266813.8, Omaha, Nebraska, USAらのグループは、表皮ブドウ球菌の角質細胞への接着メカニズムについて報告しています。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mBio.02908-20

黄色ブドウ球菌は、皮膚感染症における世界的に最も危険とされるブドウ球菌です。黄色ブドウ球菌は、稀に健常者の皮膚からも検出されることがあります。この事は、表皮ブドウ球菌や他の皮膚に常在している細菌が黄色ブドウ球菌の繁殖を阻害しているということを示唆しています。

表皮ブドウ球菌は、その細胞膜上に、完全長のaccumulation-associated protein (Aap) を発現させており、そのAapが角質細胞表面に発現している糖鎖に結合していることが分かりました。Aap は、AドメインとBドメインという二つの領域からなり、Aドメインは L-型レクチンのドメインと繰り返し領域からなります。Aドメインを開始や結合は、レクチンのサブドメインに依存するのですが、それだけでなく、Aドメインにある繰り返し構造やBドメインの影響も受けます。

Aapの糖鎖結合特異性を各種グリコシダーゼを用いて糖鎖構造を変化させることによって評価しています。その結果、相互の影響も受けるようですが、シアル酸、フコース、ガラクトース、それぞれの修飾構造に結合特異性を持ち、GlcNAcやマンノースには結合特異性を持たないことが分かりました。

黄色ブドウ球菌もAap相似構造を持ち、表皮ブドウ球菌と同じような角質細胞に対する結合メカニズムが働いているものと考えられます。これらのことから、通常は、表皮ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌の角質表面糖鎖への結合を打ち負かしているという様子が推察されました。

本日は、Mx Homepageの一周年記念日です

本日は、Mx Homepageの一周年記念日です。このhomapageは、2020年7月19日にアップロードされました。日頃のご愛顧に深く感謝申し上げますとともに、今後とも御引き立てのほど宜しくお願い申し上げます。

本ブログページでは、新型コロナウイルスの感染機構やその重症化のメカニズムを中心に、特に糖鎖とレクチンをキーワードとして、これらに関する情報を発信しています。

下記は、カメノテからレクチンを抽出しようとしている時の一場面です。

ちなみに、先ごろ管理人は新型コロナウイルス・ワクチンの2回の接種を終えました。感謝申し上げます。

ACE2-IgG4 Fc融合タンパク質を釣り餌として鼻腔に発現させるAAVベクターを用いたSARS-CoV-2の感染阻害遺伝子治療

University of Pennsylvania, Philadelphia, USAのグループは、COVID-19を感染阻害する為に、AAVベクターに乗せたACE2-IgG4 Fc融合タンパク質を釣り餌として鼻腔内にスプレーするという遺伝子治療を提案しています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1009544

SARS-CoV-2の幅広い変異に対して1,000倍アフィニティーを改善したACE2タンパク質を開発し、それをIgG4 Fcと融合することでSARS-CoV-2に対する釣り餌タンパク質としました。最も優れたSARS-CoV-2に対する釣り餌となる融合タンパク質を CDY14-Fc と名付けました。このアフィニティー・マチュレーションは、酵母ディスプレイによる (>108にも上る) ACE2 変異体フォーマットを用いて実現されました。

CDY14-Fc がSARS-CoV-2の各種変異株(B.1.1.7/アルファー変異株、417N/484K/501Y from B1.351/ベータ変異株、452R/484Q from B.1.617.1/カッパー変異株などなど)を中和できることが下図のように示されており、抗体とは異なり、釣り餌タンパク質の方がより広い中和活性を示し、変異株に対する有効性を持っているようです。

この方法のゴールは、釣り餌タンパク質をコーディングしたAAVベクターをスプレーで鼻腔内に噴霧し、鼻腔内で釣り餌タンパク質を発現させることです。このアイデアの有効性は、類人猿を用いたin vivo実験にて検証されました。

SARS-CoV-2のoligo-mannoseとS2のHR1ドメインを両睨みする二価タンパク質でSARS-CoV-2の感染を抑える

Hanghai Institute of Infectious Disease and Biosecurity, Fudan University, Shanghai, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2の感染を抑える為に、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のoligo mannoseとS2サブユニットにあるHR1ドメインを両睨みする二価タンパク質を開発しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8264481/

宿主細胞に感染する為に、 SARS-CoV-2 はSpikeタンパク質のS1サブユニットに存在するRBDを介して宿主細胞表面のACE2と結合します。その後、プロテアーゼによる切断を受けて、SpikeのS2サブユニットの構造変化が起こり、HR1 と HR2ドメインの間にsix-helix bundle(6-HB)が形成され、膜融合に向けてウイルスと宿主細胞を橋渡しします。それ故、SARS-CoV-2の膜融合と侵入を阻害する為には、S1、S2両方のサブユニットが重要なターゲットとなり得ます。S2サブユニットの構造は、S1サブユニットよりも保存されている為、コロナウイルスの感染阻害に対しては、より適応性が高いと考えられます。

著者らは、抗ウイルス活性を示すレクチンであるGRFT(oligo mannoseに結合特異性を有する)と、HR1ドメインに対する阻害ペプチドであるEK1を含む二価タンパク質を作り上げ、SARS-CoV-2の変異株やその他コロナウイルスへの阻害効果を評価しています。3種の二価タンパク質(GRFT と EK1を含む)プラスミドを作り上げ、リコンビナントタンパク質を得ました。3種のそれは、GRFTとEK1の間のリンカー構造がその長さという点で異なっており、具体的には次のような3種のリンカー、L15 (GGGGS)3、L25 (GGGGS)5、(GGGGS)7 を使っています。出来上がった3種のリコンビナントは、次のように命名されました、GRFT-L15-EK1 (GL15E)、GRFT-L25-EK1 (GL25E)、GRFT-L35-EK1 (GL35E)。

評価の結果、GL25E 最も優れた阻害効果を持つことが示されました(下図参照)。

NiclosamideのSARS-CoV-2感染阻害:SARS-CoV-2のエンドサイトーシスを利用した感染経路の阻害

National Centre for Biological Sciences (TIFR), Bengaluru, Indiaらのグループは、SARS-CoV-2 感染におけるエンドサイトーシスを利用した感染経路の重要性について述べています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1009706

ウイルス感染におけるキーとなるステップは、ウイルス遺伝子の宿主細胞の細胞質内への放出にあります。これを行うために、ウイルスは細胞膜上の特定の受容体に結合し、引き続いて直接的に細胞膜と融合、あるいはまたエンドサイトーシスによる取り込みに引き続いて細胞膜融合を行います。この両方の細胞感染ルートは、SARS-CoV-2 の感染において起きているようであり、宿主細胞膜上の受容体やプロテアーゼの可用性に依存しています。Angiotensin converting enzyme 2 (ACE2) がSARS-CoV-2の良く知られた受容体でありますが、他の受容体(C-型レクチンなど)や共受容体(ヘパラン硫酸など)が数多くのグループから報告されています。 加えて、SARS-CoV-2 は、侵入を果たすには、宿主細胞のプロテアーゼによるウイルスのSpikeタンパク質の切断を必要とします。それ故、ウイルスは、もしもSpikeタンパク質が細胞膜上のTMPRSS2のようなセリンプロテアーゼによって切断される場合には、細胞膜上で直接的に融合し、そうでない場合には、エンドーライソソーム経路を細胞膜融合に使用し、そこではSpikeタンパク質は、システインプロテアーゼである cathepsinによってSpikeタンパク質がプライム状態になります。このようにして、宿主細胞におけるウイルスの侵入と感染は、これらのキーとなる要素、すなわち受容体(ACE2など)やプロテアーゼ(furin, TMPRSS2, cathepsin)の存在によって大きく影響されます。

CLIC/GEEC (CG) 経路は、clathrin-非依存のエンドサイトーシス経路(CLICs)である細管小胞輸送(tubulovesicular primary carriers)によって媒介されます。細管小胞は細胞膜から直接的に発生し、その後グリコシルホスファチジルイノシトール(GPIアンカー)濃縮小胞(GEECs)と呼ばれる細管小胞へと成熟していきます。

著者らは、ACE2の発現をコントロールした胃上皮細胞(AGS)を用いて、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のRBDのエンドサイトーシスを研究しています。AGSは、通常ではACE2を発現していない細胞株として認識されています。 このAGSにおいては、RBDは、clathrin-mediated endocytosis (CME) 経路ではなく、CG 経路によって取り込まれており、AGS細胞における薬理的な擾乱に敏感であることがわかりました。

AGS細胞におけるACE2の効果を調べるために、ACE2を異所的に発現させた安定株(AGS-ACE2)を作りました(ACE2 の発現は、qPCRとウエスタンブロットによって確認されました)。このように改変したAGS-ACE2 細胞においては、RBDの取り込みは、AGS細胞に比べて3倍ほど増加していました。AGS-ACE2細胞におけるRBDの取り込み経路を確認する中において、RBDとトランスフェリンの増加が同時に起こっており、AGS細胞と比較してRBDとdextranの同時取り込みが減少していることがわかりました。 このことは、CG経路に加えて、AGS-ACE2細胞においては、CME経路を介したRBDの取り込みが支配的になっていることを示唆します。

最後に、niclosamide がエンドソーム内pHを中性化し、SARS-CoV-2の感染を抑えることができることが下図のように示されました。治療薬としての可能性を示すものです。