COVID-19軽症回復期患者における抗体のエフェクター効果(ADCC, ADP)の経時変化について

University of Melbourne, Australiaらのグループは、COVID-19軽症回復期患者におけるFc-依存のエフェクター効果の経時変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8106889/

SARS-CoV-2 Spike特異的な抗体がFcγ受容体と結合することで誘起される antibody-dependent cellular cytotoxicity (ADCC) や antibody-dependent phagocytosis (ADP) 活性は、時間経過とともに減衰していきます。本コホートでは、最初のサンプルはSARS-CoV-2感染後の中央値として41日目に採取され、最後のサンプルは感染後の中央値123日目に採取されています。ADCCやADP活性の経時変化は、SARS-CoV-2 Spike特異的なIgGとFcγ受容体結合抗体のそれと相関しています(下図参照)。

重要なことは、Fc-依存のエフェクター効果は、最後のサンプリング時点でほとんどすべての被験者で容易に検出可能(94%)であるのに対し、検出可能な中和活性は同じ時点で70%に留まったということです。全般的に言えるのは、軽症のCOVID-19においては、強いFcγ受容体結合、ADCC、ADP活性らが引き出されており、それらは中和活性の減衰よりも緩やかに減少するということでしょう。

COVID-19の重症者では、CD8 T-細胞の活性が低下し、アナフィラトキシンが増加している

Medical University of Innsbruck, Innsbruck, Austriaらのグループは、COVID-19におけるT-細胞応答と関連する液性免疫についての研究をレポートしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8237940/

SARS-CoV-2に特異的なCD8+ T-細胞とIFNγの産生がCOVID-19の軽症者では重症者に比べて顕著に増加しています。すべてのCOVID-19患者において、SARS-CoV-2特異的な中和抗体は同程度に存在しており、軽症、中症、重症の間でウイルス中和抗体の間には大きな差異は存在していません。そしてさらには、重症からクリティカルな患者においては、増加した抗体力価に起因する異常な補体形成が進行し、アナフィラトキシン(C3a、C5a)のレベルが上昇していました。通常ならは、補体はウイルス感染に対して防御的に働くのですが、COVID-19の場合には、局所的な補体の活性化が組織へのダメージを引き起こし、重症化を招いているようです。

本研究は感染初期の多様な機能を持つCD8+ T細胞の免疫作用と低いレベルのアナフィラトキシンが軽症と関係していることを示唆しています。

最後に、著者らは、浸潤してくる骨髄性細胞に起因する組織へのダメージや肺の炎症を抑えるために、C5a–C5aR1捕体系路を阻害する方法をCOVID-19の治療法として提案しています。

ACE2、TMPRSS2が発現していなにも関わらず、H522 肺腺癌細胞にSARS-CoV-2が感染する:そのメカニズムは?

Washington University in St. Louis, School of Medicine, USAらのグループは、SARS-CoV-2感染の新しいメカニズムを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8220945/

ヒトの肺上皮細胞、頭頸部がん細胞においては、ACE2やTMPRSS2の発現レベルが大きく変動しています。非常に興味深いことに、ヒトの肺腺癌であるH522細胞にはACE2やTMPRSS2がほとんど発現していないにも関わらず、SARS-CoV-2が効率よく感染することが分かりました。各種アッセイを駆使した結果、H522細胞はACE2の存在とは無関係に感染しており、肺細胞由来の何かしら他の受容体を利用していることが示唆されました。最近の研究では、Neuropin 1 (NRP1)、AXL、ヘパラン硫酸らが、ACE2依存のSARS-CoV-2感染における介在分子として認知されていますが、Neuropin 1 (NRP1) や AXLは、この感染には関わっておらず、ヘパラン硫酸については、依存性が見られるました。

H522細胞へのSARS-CoV-2の感染メカニズムを推測するために、SARS-CoV-2への感染に潜在的に関与しているかもしれないという候補分子の存在下で感染阻害実験が行われました。具体的には、camostat mesylate(TMPRSS2 阻害剤)、E64D(幅広いプロテアーゼ阻害剤にてendosomal cathepsinも含む)、bafilomycin A(vATPase 阻害剤)、apilimod(PIKfyve 阻害剤)、SGC-AAK1-1(AAK1 kinase 1 阻害剤;AP2複合体のサブユニットであるAP2M1のリン酸化を介するクラスリン媒介エンドサイトーシス(CME)を促進する)らです。

E64D、bafilomycin A、SGC-AAK1-1、apilimodは、ドーズに依存した形で感染を阻害しましたが、camostat mesylateは、逆にウイルス感染を助長しました。このような結果から、H522細胞のSARS-CoV-2感染はCMEとendosomal cathepsinを介した感染メカニズムであると推測されました。

Pfizer mRNA ワクチンを二回接種で作られるSARS-CoC-2のRBD, NTD, S2をエピトープとする抗体の特徴について;変異株に対する影響は少ない

Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, USAらのグループは、Pfizer mRNA ワクチン接種後にできるSARS-CoV-2に対する抗体の特性を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8185186/

ワクチンを二回接種後、一週間ほどでピークを迎え、その後は徐々に減少していきます。興味深いのは、β-コロナウイルス OC43 や HKU1に対する抗体力価がワクチン接種後にブーストされたということでしょう。

mRNAワクチンによって誘起される抗体の主要なエピトープは、RBD と NTD であり、その他の大半はS2をエピトープとしていました。 SARS-CoV-2のUSA-WA1/2020 株を用いて、これら抗体の中和活性を測定した結果は、一部の抗体のみが中和活性を示すようです(下図参照、3名の試験者から: V1、V5、V6)。

更に、6人の試験者から得た血清に対して、変異株に対する抗体力価が評価されました。どの変異株に対しても抗体力価の低下は、せいぜい2倍程度に収まっています(E406Q、N440K、E484K、F490K)(下図参照、6名の試験者から:V1-V6).
この結果は、Pfizer mRNA ワクチンが多くのSARS-CoV-2変異株に対して有効であることを示唆するものであり、GOODニュースですね。

SARS-CoV-2変異株の名称変更で、どれがどれだか分からなくなる

英国株、南アフリカ株、ブラジル株、インド株らの名前がSARS-CoV-2の変異に対して良く用いられてきました。これはウイルス変異の系統樹名よりも確かに分かりやすいのですが、どうしても汚名を着せられやすいという話があり、最近ギリシャ文字を変異株に当てはめるようになったようです。
自分のメモの為にも、ウイルス変異株の名称の対応関係とそれぞれに発生している遺伝子変異箇所を示す図を引用してみました。

Institute of Microbiology and Immunology, Faculty of Medicine, University of Belgrade
https://www.mdpi.com/1999-4915/13/7/1192/htm

Alpha(α)= B1.1.7系統、英国株
Beta(β)= B1.351系統、南アフリカ株
Gamma(γ)= P.1系統、ブラジル株
Delta(δ)= B.1.617系統、インド株
その他に
Epsilon(ε)=B.1.427/29系統、米国株
があります。

ロサルタン(高血圧の治療に使用されるACE2受容体拮抗薬)、第二相治験で効果を認めず治験を終了する

University of Minnesotaらのグループは、SARS-CoV-2の治療薬としてのACE2阻害剤であるロサルタンの第二相治験結果からロサルタンに治療効果はないとする結論を出しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8225661/

この治験は、米国、ミネアポリスにおいて、昨年4月から11月にかけて行われたCOVID-19の治療を目的とするダブルブラインド・プラセボ治験を3か所で行ったものです。

試験介入は、ロサルタン 25mgであり、プラセボも同様です。 eGFR >60 mL/min/1.73 m2の対象者については、日に二回ロサルタンを10日間に渡って服用してもらい、eGFR 30–60 mL/min/1.73 m2の対象者については、日に一回の服用としています。ACE2阻害に対するスレッショールドは、日に20mgとされており、体内での半減期が6~9時間であることから、日に1回よりは2回の方が効果があるとされています。このドーズについては、FDAの最大ドーズ量と安全性の観点から日に50mgが最大とされており、その基準に従っています。このドーズでは、ACE2に対して37%の阻害効果があるとされています。

結果として、しかしながら、治療効果は何も認められず、ウイルス量もどの時点で測定しても差異は認められず、治験は終了しました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)におけるデルタ変異株(インド株:B.1.617)の変異箇所:何故、デルタ株で感染力が上昇するのか?

熊本大学らのグループは、SARS-CoV-2のデルタ変異株(別名、インド株:B1.617系統)において、何故感染力が上昇するのか?について述べています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312821002845?via%3Dihub

L452R は、SARS-CoV-2のデルタ変異株においてみられる特徴的な変異です。L452R変異では、ヒトの感染受容体であるACE2への結合力が顕著に上昇しています(Kd = 1.20 ± 0.06 nM)。L452 残基は、ACE2との結合に係わる直接的な場所には存在していないのですが(下図参照)、この構造解析と分子動力学的な考察によれば、L452R変異は、静電的な相補性を助長しているようです。

というのも、結合に関与するACE2の残基(E35、E37、D38)の領域は負に帯電しており、452残基はその近傍に存在するからです。即ち、ACE2との静電的な相互作用は、正に帯電したR452残基の方が、静電的に中立なL452残基よりも当然ながら強くなるのです。

L452R 変異が、SARS-CoV-2の宿主細胞との融合効率を押し上げることも、SARS-CoV-2 Spikeベースの融合アッセイを用いて示されました。L452R 変異は、ウイルスの細胞膜融合効率を押し上げることによって、ウイルスの増殖も助けることになります(下図参照)。

発熱とともにTransient receptor potential vanilloid 2 (TRPV2)を介してSARS-CoV-2の感染が加速する:新しい感染メカニズムの発見

Key Laboratory of the Ministry of Education for Conservation and Utilization of Special Biological Resources in the Western, Chinaらのグループは、発熱下での新規SARS-CoV-2感染メカニズムを発見しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8210595/

Transient receptor potential vanilloid 2 (TRPV2) は、もともと温度に敏感な分子として分離発見されたものです。TRPV2は、自然免疫において重要な役割を果たしており、通常は小胞体に存在しています。ストレス、成長因子、ケモカインといったようなある種の刺激が入った状態では、TRPV2が小胞体から細胞膜に移動し、Ca2+ の細胞内輸送を促すとともに擬足の発生も促します。擬足はマクロファージの炎症部への移動を助け、マクロファージの食作用を促します。

このTRPV2 がSARS-CoV-2の感染に係わっていることが示されたのです。PBAM、ヒトTHP-1 細胞、マウス・マクロファージ(RAW264.7)を使用したSARS-CoV-2 Spikeとのco-IPアッセイを、37 °C と 39.5 °C という二つの温度条件で行い、TRPV2 と SARS-CoV-2 Spikeの相互作用を検証しました。その結果、TRPV2 と SARS-CoV-2 Spikeとの反応が、37 °Cでは起こらないが、39.5 °Cでは強く起こることが示されました、

39.5 °C という発熱は、顕著にマクロファージ由来のサイトカインの分泌を増強しました、IFN-α、IFN-γ、IL-13、IL-α、TNF-α、IL-10、IL-18、IL-2、IL-4、IL-17A、MCP-1、IL-15 などです。しかも、この現象は、 ACE2やNP-1の存在とは無関係に起こっていました。

更に、TRPV2 の阻害剤であるSKF-96365 がサイトカインの分泌を抑えることが出来るかについて検証が行われ、発熱下においては、SFK-96365が効果的にサイトカインの分泌を抑制することが示されました。

このようにして、著者らは発熱下における新規のSARS-CoV-2感染メカニズムを発見すると同時に、SKF-96365がSARS-CoV-2の発熱下での治療薬になり得るという可能性を示しました。

コレステロールとCOVID-19の重症度との関係:コレステロールが低いほど重症化しやすい?

新型コロナウイルスの場合に、コレステロール値が低いほど重症化しやすいという報告があります。

Malmö University, Swedenらのグループは、細胞膜モデル(脂質二重膜)を使用し、SARS-CoV-2 Spikeとの相互作用や、そこにHDLを加えた系での振る舞いから、SARS-CoV-2は、細胞膜から脂質やコレステロールを引き抜く効果があり、HDLが存在するとSARS-CoV-2にHDLが結合し、細胞膜からの脂質の引き抜きが減少するということを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8195693/

このことは、SARS-CoV-2の感染においては、細胞膜や血中に存在するコレステロールが多いほど、SARS-CoV-2の細胞膜への吸着が減少する、即ち感染効率が下がるということを意味していそうです。

因みに、ここで使用されている細胞膜モデルは、deuterated 1,2-dimyristoyl-D54-3-sn-glycerophosphatidylcholine (dDMPC) と perdeuterated cholesterol (dcholesterol) が 80:20 mol%で存在しているものです。

SARS-CoV-2 Spikeの刺激を受けたマクロファージが過剰な炎症を引き起こす

Washington State University, USAらは、SARS-CoV-2 Spikeがマクロファージの炎症性反応を誘起するカギになっていると報じました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8219098/

SARS-CoV-2に感染したVero E6細胞、及びヒト由来マクロファージ様細胞のTHP-1の培養上清からウイルスの複製と小孫ウイルス粒子の放出をTCID50アッセイを用いて評価した結果が下図に示されています。 THP-1は、SARS-CoV-2の複製に関してはそれほど生産的ではないのですが、Vero E6 細胞は効率よくSARS-CoV-2を複製していることが分かります。

マクロファージの炎症性反応におけるSARS-CoV-2 Spikeの役割を確認するために、 炎症性サイトカインであるTNF-α、CXCL10、IFN-γ、そして抗炎症性サイトカインであるIFN-βの産生がTHP-1に対するSpikeの刺激でどう変化するかが確認されました。Spikeは、IFN-β や IFN-γ にはほとんど影響を与えませんでしたが、TNF-α と CXCL10 は高発現しました。具体的には、Spike刺激後4時間でTNF-αは、30倍に増加し(p < 0.05)、CXCL10 3倍~8倍増加しました (p<0.05)。