ACE2、TMPRSS2が発現していなにも関わらず、H522 肺腺癌細胞にSARS-CoV-2が感染する:そのメカニズムは?

Washington University in St. Louis, School of Medicine, USAらのグループは、SARS-CoV-2感染の新しいメカニズムを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8220945/

ヒトの肺上皮細胞、頭頸部がん細胞においては、ACE2やTMPRSS2の発現レベルが大きく変動しています。非常に興味深いことに、ヒトの肺腺癌であるH522細胞にはACE2やTMPRSS2がほとんど発現していないにも関わらず、SARS-CoV-2が効率よく感染することが分かりました。各種アッセイを駆使した結果、H522細胞はACE2の存在とは無関係に感染しており、肺細胞由来の何かしら他の受容体を利用していることが示唆されました。最近の研究では、Neuropin 1 (NRP1)、AXL、ヘパラン硫酸らが、ACE2依存のSARS-CoV-2感染における介在分子として認知されていますが、Neuropin 1 (NRP1) や AXLは、この感染には関わっておらず、ヘパラン硫酸については、依存性が見られるました。

H522細胞へのSARS-CoV-2の感染メカニズムを推測するために、SARS-CoV-2への感染に潜在的に関与しているかもしれないという候補分子の存在下で感染阻害実験が行われました。具体的には、camostat mesylate(TMPRSS2 阻害剤)、E64D(幅広いプロテアーゼ阻害剤にてendosomal cathepsinも含む)、bafilomycin A(vATPase 阻害剤)、apilimod(PIKfyve 阻害剤)、SGC-AAK1-1(AAK1 kinase 1 阻害剤;AP2複合体のサブユニットであるAP2M1のリン酸化を介するクラスリン媒介エンドサイトーシス(CME)を促進する)らです。

E64D、bafilomycin A、SGC-AAK1-1、apilimodは、ドーズに依存した形で感染を阻害しましたが、camostat mesylateは、逆にウイルス感染を助長しました。このような結果から、H522細胞のSARS-CoV-2感染はCMEとendosomal cathepsinを介した感染メカニズムであると推測されました。