ACE2を発現するiPS細胞を用いたSARS-CoV-2の感染実験から、TMPRSS2とCathepsin Bの同時ノックダウンが有効であることが示された

京都大学)iPS細胞研究所のグループは、SARS-CoV-2の感染を阻害するためには、TMPRSS2とCathepsin Bの両方を阻害することが必要であると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8527102/pdf/main.pdf

本実験においては、ACE2を安定に発現するiPS細胞が使用され、TMPRSS2 と CTSB (Cathepsin Bをコードする遺伝子)をCRISPRA干渉システムを用いて、1%以下の発現に抑制しました。

CTSBとTMPRSS2の両方が、ACE2-iPS 細胞へのSARS-CoV-2の感染に必要であることが示されました。TMPRSS2は、細胞膜表面に発現しており、CTSBはエンドソームに発現していることが知られています。つまり、TMPRSS2は、エンドサイトーシスに依存しない感染、CTSBは、エンドサイトーシスに依存した感染において、それぞれ重要な役割を果たしている訳です。

本実験において、TMPRSS2 と CTSB を両方同時にノックダウンすることで、ウイルス量が 0.036±0.021% に大幅に減少することが示されました。

WGAレクチンがSARS-CoV-2の感染を阻止できる

Institute of Virology, Friedrich-Alexander University Erlangen-Nürnberg, Erlangen, Germanyらのグループは、WGAレクチンがSARS-CoV-2の感染阻害に使用でき、そのIC50 は、10 ng/mL以下であると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8508056/

Vero B4細胞をSARS-CoV-2PR-1(武漢型)に1時間感染させた後、さまざまな濃度のWGAで処理しました。 3日後に細胞培養上清を回収し、ウイルス産生量を、qRT-PCRおよびウエスタンブロットを用いて分析しました。 WGAによる処理によって、SARS-CoV-2の複製は大幅に抑制されました。 10 µg/mL WGAの濃度で、細胞培養上清中のウイルスRNAコピーは完全に消失しました。この阻害効果はWGAのドーズに綺麗に依存しており、ウエスタンブロット分析による確認では、WGAでの処理によるウイルス産生量の減少はより強くWGAのドーズに依存していました。つまり、これらのデータは、WGAがVero B4細胞でSARS-CoV-2に対して強い抗ウイルス活性を示し、IC50が10ng/mL以下であるということを初めて示したものです。

WGAの細胞毒性を確認する為に、Vero B4とCalu-3細胞を用いて細胞毒性アッセイを評価しました。Vero B4細胞の場合で、TD50 は、凡そ 50 µg/mLであり、このことは三桁に渡る広い治療ウインドーが存在し、in vivoでWGAをSARS-CoV-2の感染を押さえるために使える可能性を大いに示しています。今後の臨床研究に期待しましょう。

サトウキビと大豆の間作で効果の出る品種と効果の出ない品種がある:根からの分泌物が大きく根圏細菌叢に影響する

College of Agronomy, Guangxi University, Nanning, Chinaらのグループは、間作が植物の生長とその根圏細菌叢に与える影響を、単作と比較しながら報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8515045/

二種の新しいサトウキビの品種(ZZ1 と ZZ9)およびローカルな大豆品種(GUIZAO2)が本実験で使用されました。二種類のサトウキビと大豆との間作(ZZ1J と ZZ9J)を各々の単作(ZZ1M と ZZ9M)と比較しています。

結果として、下表に示すように、ZZ9と大豆の間作がZZ1と大豆の輪作と比べても、顕著に植物の生長促進効果が出ていることが分かりました。

そしてまた、ZZ9と大豆の間作(ZZ9J)において、アルファプロテオバクテリアが ZZ1Jの場合よりも相対的に増えていることが大きな特徴であることが分かります(下図参照)。注意すべきは、アルファプロテオバクテリアは、数多くの共生的な窒素固定バクテリアを含んでいるということであります。

このようにしてみると、ここで見られた変化というのは、植物の根からの分泌物と密接な関係を持っていることが示唆され、その分泌物が根圏細菌と根との相互作用を介在していることが伺い知れます。

SARS-CoV-2の感染を抑止するために天然物でオートファジーのプロセスを阻害する

Università del Piemonte Orientale, Department of Health Sciences, Novara, Italyらのグループは、SARS-CoV-2の感染が、ベルベリン、バイカリン、レスベラトロール、カテキン、プロシアニジンと言った天然物でオートファジーを阻害することによって抑えられると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8516241/

SARS-CoV-2が細胞に入り、細胞内で複製し、細胞から出るメカニズムは次のように考えられています。
(1)簡単に言うと、ウイルス侵入の主な経路は、クラスリン介在性またはクラスリン/カベオラ非依存性エンドサイトーシスです。エンドサイトーシスされたウイルスは、分解のためにオートファジー・リソソームに送り届けられるのですが、カテプシンLを介したSのプロセシングおよびウイルスエンベロープ-膜融合の際に、ウイルスRNAはエンドサイトーシス小胞から脱出し、細胞質中にエスケープする場合があります。
(2)さらに、ウイルスは、ウイルスエンベロープと宿主細胞膜の融合によっても細胞に侵入します。 ACE2を発現する細胞は、Sタンパク質RBDとの強い相互作用を介してSARS-CoV-2感染の標的となります。
(3)細胞に入る経路が上記のどちらであっても、エンドソームカテプシンL、フューリン、トリプシン、膜貫通プロテアーゼセリンプロテアーゼ2(TMPRSS-2)、またはトリプシン様プロテアーゼは、Sタンパク質をS1およびS2サブユニットに切断し、ウイルスエンベロープと宿主細胞膜(エンドソームまたはプラズマメンブレン)との融合を行うことで、ウイルスゲノムの宿主細胞質中への放出を可能にします。

従って、このウイルスタンパク質分解ステップの阻害は、細胞の感染ウイルス量を大幅に減少させます。以下は、この目的で使用することができる典型的な天然物です。

ベルベリン
ベルベリンはSARS-CoV-23CLPRO、Sタンパク質、およびACE2受容体と結合し、ベルベリンがウイルスの侵入と細胞膜融合を防ぎ、3CLPROを介したnsps4~16の生成に影響を与えることによって、オートファジープロセスと二重膜小胞の生合成を阻害します。

バイカリン
バイカリンはSARS-CoV-2 S、およびPLPRO、nsp4、および3CLPRO タンパク質と相互作用し、オートファジーの誘発を防ぎます。

レスベラトロール
レスベラトロールとその誘導体は、SARS-CoV-2 Sタンパク質、PLPRO、RdRp、およびSタンパク質を強く阻害します。レスベラトロールはACE2受容体阻害剤として作用し、S1/ACE2複合体の形成とウイルスのエンドサイトーシス、および二重膜小胞の生合成を防ぐことができます。さらに、レスベラトロールは、PLPROを介したnspの生成を阻害することでオートファジープロセスに影響を与えます。

カテキン
カテキンは、3CLPRO、Sタンパク質RBD、ACE2、S/ACE2複合体、カテプシンL、nsp6、およびNタンパク質を中和することにより、SARS-CoV-2の感染と複製を阻害します。エピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCG)やテアフラビン3,3 ‘ジガレートなどの茶ポリフェノールは、3CLPRO、Sタンパク質、S/ACE2複合体、PLPRO、およびRdRpに結合して阻害できます。

プロシアニジン
プロシアニジンはSARS-CoV-2 3CLPRO、nsp1、nsp2、PLPRO、nsp4、nsp6、nsp7、nsp8、nsp9、nsp10、RdRp、ヘリカーゼ、エクソンN、NendoU、2′-O-MT、ORF3a、Eタンパク質、Mタンパク質、ORF6、ORF7a、ORF8、Nタンパク質、ORF10、ACE2、およびSタンパク質らに強く結合し阻害します。

膵管腺癌においては、ST6GAL1糖転移酵素とα2-6シアル酸が過剰発現している

Department of Chemistry, University of Alberta, Edmonton, AB, Canadaらのグループは、膵管腺癌においては、α2-6Sシアル酸とその糖転移酵素であるST6GAL1が重要なマーカーになり得ると述べています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(21)00132-8/fulltext

レクチンマイクロアレイ:
膵管腺癌においては、シアル酸の発現が顕著に増加しています。α2-6シアル酸(検出レクチン: SNA、TJA-I、PSL、平均増加率: ~ 2.7倍)、α2-3シアル酸(検出レクチン:diCBM40、SLBR-H、SLBR-B、SLBR-N、MAL-I、MAA、平均増加率:~ 3.4倍)。
コアフコース(PSA、LcH、~ 2.7倍)、bisecting GlcNAc(PHA-E、~ 2.2倍)、poly-LacNAc (WGA、DSA、LEA、∼ 2.1倍) らも健常者よりも増加しています。

糖転移酵素:
ST6GAL1 糖転移酵素が、内皮細胞、免疫細胞、膵管の癌化した領域で顕著に発現が上昇しています。加えて、ST6GAL1 の発現レベルが膵管腺癌の進行度とも相関しています。α2-3シアル酸の糖転移酵素である ST3GAL1 も多くの細胞で発現しているのですが、癌化した膵管領域では特に上昇していることはありません。

抗シアリル・ルイスX抗体を用いた喘息の治療法

千葉大学薬学部のグループは、シアリル・ルイスX(sLex)糖鎖抗原がアレルギー性喘息の新規な治療ターゲットになり得ることをマウスの喘息モデルを用いて示しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8471066/

アレルギー性喘息の進行には正のフィードバックループが存在すると考えられます。

正のフィードバックループの最初の部分は、アレルゲンの吸入から始まり、肺の病原性Th2細胞の活性化をもたらします。活性化されたTh2細胞は、IL-5、IL-4、IL-13などのTh2サイ​​トカインを放出します。IL-5は末梢血に放出され、骨髄中の好酸球前駆体の成熟と増殖を誘導します。IL-4およびIL-13は、B細胞のクラススイッチを促進して、肥満細胞に結合するIgEを放出します。抗原曝露を繰り返すと、肥満細胞からヒスタミンが放出されて上皮細胞に損傷を与え、肺胞マクロファージを活性化してCCL11を放出し、これが好酸球を肺組織に引き付けます。次に、好酸球は、そのsLex糖鎖と内皮に発現するP-セレクチンとの相互作用を通じて喘息の肺に動員され、MBPなどの顆粒タンパク質を放出することによって気道上皮細胞に損傷を与えるとともに、Th2細胞のIL-4、IL-5、およびIL-13らの放出も促進します。これにより、炎症カスケード全体が増幅されます。この正のフィードバックループの存在が、肺へのより多くの好酸球の動員をもたらし、炎症を悪化させると考えられます。

著者らは、P-セレクチンを発現する細胞上での好酸球のローリングにsLexが非常に重要な役割を果たしていることから、上記したような肺組織への浸潤カスケードが、sLexに対する抗体を用いることによってブロックされることを示しました。

オボアルブミンがマウスに喘息を引き起こすために使われており、F2は抗sLex 抗体であります。

植物の生長を促すには、善玉菌の接種という考え方よりも、根圏細菌叢の多様性が基本的に重要である:シュードモナス菌とトマト

Nanjing Agricultural University, Weigang, Nanjing, Chinaらのグループは、根圏微生物の善玉菌効果は、その土壌接種によって直接的に発揮されるというよりも、根圏常在菌叢の多様性をもたらすことによって間接的にドライブされると述べています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34641724/

根圏細菌に由来する多様な機能を発揮させる一つの方法は、善玉菌を土壌に直接接種する方法であります。これまでに長い時間をかけて、植物に有利な機能を持つ根圏細菌が選別されてきました、例えば、植物に必要とされる栄養素の可溶化、窒素の固定、病原菌の阻害、などです。しかしながら、善玉菌を土壌に接種しても、常在菌との細菌叢の中において機能を発揮するに必要な濃度を維持できなくなることで、そのような善玉菌効果は周知の如く不安定です。さらに、微生物生理学における固有のトレードオフ問題により、ひとつの微生物種または菌株が植物に提供できる機能の発現は制限されてしまうようです。

従って、善玉菌効果が、根圏細菌の接種によって直接的に発揮されるのか、それとも根圏常在菌叢の変化によって発揮されるのか、ということをきちんと理解することが非常に重要です。

本研究においては、最大8種類の異なったシュードモナス菌を土壌への接種株として使用し、トマトを用いて植物成長促進効果を評価しています。

接種するシュードモナスの菌種を増やすほど、接種した細菌の定着は良くなり、栄養素の吸収、病原菌の抑制、そして植物の生長促進をもたらしていました。決定的なのは、シュードモナス菌の接種が根圏常在菌叢に変化を引き起こし、これらの効果が増強されたということです。これは、接種するシュードモナス菌の種類が多いほど顕著になり、それによって、根圏細菌叢の希少種が増加し、細菌叢における生物多様性が生まれていたのです。in vitroで予見されているシュードモナス菌の善玉菌機能は、個々の植物の成長特性を十分に予測できないことが分かりました。唯一の注目すべき例外は、シュードモナス菌のリン酸可溶化能力と植物の新芽のリン含有量との間の正の相関でした。代わりに、植物成長へのプラスの効果は、植物ホルモンの生産と根圏細菌による資源競争に関連した、接種したシュードモナス菌によって媒介される根圏常在菌叢の変化によって最もよく説明されました。

COVID-19による腎機能障害に対して、uNGALが優れたマーカーとなる

Department of Medicine, Columbia University, New York, USAらのグループは、COVID-19において、尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(uNGAL)が、組織病理学的損傷(AKI)、腎機能障害(AKI)、そしてCOVID-19患者の重症度と定量的に相関していると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8497954/

注意すべきは、COVID-19の患者は、2.6倍AKIを発症する可能性が高く(35.2% vs. 13.6%, P<0.0001)、3.9倍AKIが持続してしまう可能性が高く(17.5% vs. 4.5%, P<0.0001)、1.8倍腎機能障害が重症化してしまう可能性がある(Acute Kidney Injury Network (AKIN) stages 2-3, 12.5% vs. 6.8%, P<0.01)ということです。このように、腎機能障害というのは、COVID-19感染に共通する特徴なのですが、血中クレアチニン(SCr)は、このような腎機能障害に対してはあまり感度の良いマーカーとは言えません。

例えば、SCrは、診断のカットオフ値に達するまで十分な時間をかけて蓄積された後、過去に遡って腎機能障害を検出することしかできません。 加えて、限局的な腎組織へのダメージでは、SCrには顕著な影響は起こらない可能性があります。SCrの値が上昇したことが顕著な場合でも、尿細管損傷の証拠は、COVID-19の患者で良く見られる下痢によって尿の量が少なくなっているような場合、欠けているかも知れませんし、SCrの上昇は、クレアチニン産生を促すCOVID-19における横紋筋融解症の発生によっても乱されてしまいます。

そこで、著者らは、uNGALと尿中KIM-1 (uKIM-1) がマーカーとして使用できないかについて、コロンビア大学の救急科におけるニューヨークのCOVID-19パンデミックのピーク(March-April 2020)時の444名のコホートデータを使用して検討しました。

結果として、uKIM-1ではなく、uNGALが腎機能障害の重症度と非常に良く相関していることが分かりました(下図参照)。uNGALのレベルは、AKINのステージと共に階段状に上昇しています(P<0.0001)。同様にuRGALのROCカーブもAKINのステージと共に上昇しています(0.70-0.93)。uNGALは、カットオフ値を15ng/mLとした時に、感度=80%、特異度=75% でAKINステージ2や3を診断することができました。

アシネトバクターが、インドール-3-酢酸の産生とリンの可溶化を促進し、大豆の成長を顕著に加速した

College of Life Science, South-Central University for Nationalities, Wuhan, Chinaらのグループは、根圏細菌であるアシネトバクターがインドール-3-酢酸の産生とリンの可溶化を促進し、大豆の成長を顕著に加速したと述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8498572/

農業用の土壌から単離されたアシネトバクター pittii gp-1は、リン可溶化根圏細菌として知られています。実際に、アシネトバクター pittii gp-1を接種した場合に、下記のように大豆の成長が顕著に加速されました。

ふるいに掛けた土壌 200 g + 滅菌した水 100 ml (CK treatment)
ふるいに掛けた土壌 195 g + Ca3(PO4)2 5 g + 滅菌した水 100 ml (Tri treatment)
ふるいに掛けた土壌 200 g + アシネトバクター懸濁液 10 ml (107 cfu/ml) + 滅菌した水 90 ml (Sup treatment)
ふるいに掛けた土壌 195 g + Ca3(PO4)2 5 g + アシネトバクター懸濁液 10 ml (107 cfu/ml) + 滅菌した水 90 ml (Bac treatment)

植物ホルモンとして知られるインドール-3-酢酸もBac treatmentで顕著に産生量が増えており、大豆の成長を促進したものと考えられます。