アーカイブ: 2023年4月29日

κ-カラギーナンとキトサンとのナノ粒子サイズの高分子電解質複合体の抗ウイルス効果

G.B. Elyakov Pacific Institute of Bioorganic Chemistry, Far-Eastern Branch of the Russian Academy of Sciences, Vladivostok, Russiaらのグループは、κ-カラギーナン(κ-CRGs)とキトサン(CH)とのナノ粒子サイズの高分子電解質複合体(PEC)の抗ウイルス効果について報告しています。
https://www.mdpi.com/1660-3397/21/4/238

海洋起源のよく知られた多糖類のひとつは、紅藻の多糖類であるカラギーナン (CRG) です。ヘパラン硫酸を模倣するCRG は、ウイルス表面受容体の正電荷をマスキングしてヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合するのを防ぐことにより、ウイルスの侵入を含むウイルス複製の感染初期段階を阻害できる潜在的な抗ウイルス剤であることが知られています。

ナノ粒子の形成は、物理化学的特性を調節し、元の多糖類の活性を高める方法のひとつです。この目的のために、κ-カラギーナン (κ-CRG)を元に、キトサンとのの高分子電解質複合体 (PEC) を製造しました。得られたナノ粒子の平均直径は約150 ~ 200 nmでした。

これらの化合物の抗ウイルス効果を、Vero 細胞における単純ヘルペス ウイルス 1 型 (HSV-1) の細胞変性効果の阻害率によって評価しました。結果として、κ-CRGと比較したPECの抗ヘルペス活性は2倍増加し、CHとの比較では13倍の増加が示されました。これは、PECにおけるκ-CRGの物理化学的特性の変化によるものと考えられました。

植物善玉菌(バチルス、シュードモナス、バークホルデリアら)の比較遺伝子機能解析

State Key Laboratory of Pharmaceutical Biotechnology, School of Life Sciences, Nanjing University, Nanjing, Chinaらのグループは、NCBIデータベースに存在する植物善玉菌(PGPB)の比較遺伝子機能解析の結果について報告しています。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.05007-22?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

PGPB は、バチルス属、シュードモナス属、バークホルデリア属などの 60 の細菌属を含む有益な細菌群であり、植物の葉や土壌に広く定着し、植物の成長を促進し、病原体の感染を阻害します。PGPBは、葉 ([LA]; 195 株) または根圏土壌 ([SA]; 283 株) のいずれかにコロニーを形成します。

本研究の結果は、PGPB が一般に多量の炭水化物酵素 (CAZymes) を含み、植物にコロニーを形成する能力が高いことを示しています。 LA PGPB株の中で、シュードモナス 株は他の株よりも豊富なCAZymesを有し、この属が理想的な葉間生物防除剤に成り得ることを示しています。CAZymesは植物病原体の細胞壁を破壊し、植物病原体を死滅させることができます。逆に、SA PGPB株の中で、バークホルデリア株は炭水化物代謝酵素をコードする遺伝子が多く、炭水化物利用の多様なメカニズムを持っていることが示唆されました。LAとSAの生息地で見つかった バチルスとパエニバチルス 属は、より多くの二次代謝産物クラスターを産生し、葉と土壌の両方の環境に適しています。細菌の二次代謝遺伝子クラスターの数が多いほど、生物学的防御を実行する能力が強くなります。PGPBのバチルス株の大部分は、LAおよびSA生息地の他の分類学的グループよりも豊富な二次代謝クラスターを持っていました。実際、バチルス株は市場で広く用いられているな生物的防除剤となっています。

プロテオグリカン・リンク・タンパク質1(HAPLN1)は、膵癌の腹膜播種のドライバーであり、優れた予後マーカーと成り得る

Division Vascular Signaling and Cancer, German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germanyらのグループは、プロテオグリカン・リンク・タンパク質1(HAPLN1)は、膵癌の腹膜転移のドライバーであり、優れた予後マーカーと成り得ると報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-023-38064-w

細胞の可塑性は、腫瘍細胞の重要な特徴です。細胞可塑性は、上皮細胞の間葉細胞への転換、ならびに間葉細胞の上皮細胞への逆転換を誘導することによる異なる細胞状態間を変換する能力であり、がん細胞の幹細胞性の特徴であります。このような可塑性は、がん細胞の腫瘍微小環境への侵入と適応をより起こし易くするだけでなく、アポトーシス、免疫攻撃、および化学療法からも保護するのに役立ちます。

がん細胞転移の重要な調節因子は、腫瘍細胞が転移部位へ浸潤する際に直面する腫瘍微小環境です。腫瘍微小環境は、がん関連線維芽細胞、内皮細胞、免疫細胞、細胞外マトリックスなど、幾つかの細胞および非細胞成分で構成されています。膵癌においては、腫瘍微小環境は強く線維形成性であり、細胞外マトリックス成分かなり蓄積されています。 細胞外マトリックスの主要成分の一つであるヒアルロン酸は、部分的な上皮間葉転換、浸潤、免疫調節、および治療抵抗性を促進することにより、腫瘍の進行と転移を促進します。細胞外マトリックスは、がん関連繊維芽細胞によって主に生産されます。

HAPLN1は、細胞外マトリックスにおけるヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの架橋剤ですが、がんにおけるその役割はこれまでのところよく分かっていませんでした。本研究では、HAPLN1が、隣接組織と比較して膵癌で最も昂進した遺伝子であることが確認されました。HAPLN1は、がん細胞に高度に可塑性の表現型を誘導し、膵癌における腹膜播種のドライバーとして機能していると定義付けられました。

タバコの黒色シャンク病にかかわる土壌細菌叢の特徴とバチルス菌による生物的防除の影響

Key Laboratory of Microbial Resources Collection and Preservation, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Agricultural Resources and Regional Planning, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing, Chinaらのグループは、タバコの黒色シャンク病にかかわる土壌細菌叢の特徴とそのバイオコントロールについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10108594/

病害が発生している圃場から得られたタバコ根圏土壌サンプルを病害群(D群)とし、健常なタバコが生育している対照区から得られたタバコ根圏土壌サンプルを健常群(H群)とし、病害を発症している圃場にタバコの苗木を移植した後、Bacillus velezensis S719からなる生物的防除剤で処理された圃場から得られたサンプルを生物的防除群(B群)として定義しました。

これらの圃場におけるDesease indexは、下図のようであり、H群で一番低く、D群で一番高く、バチルス菌の接種は病害の抑制に効果があることがわかります。

細菌分類群の相対的存在量を、網(class)レベルで比較した結果、次のような特徴がありました。
B群では、AlphaproteobacterがASVの27.2%を占め、同じグループの他の網よりも少なくとも2倍多い。
D群では、Actinobacterが豊富で、ASVの13%を占めていましたが、B群とH群の割合はそれぞれ10.6%と9.5%でした。
H群では、SphingobacteriaとCytophagiaが豊富で、それぞれ ASVの6.7%と3.5%を占めていました。

げっ歯類は住血吸虫に対する免疫を持つが、その表面に発現するNー型糖鎖のcore α2-Xylose と core α3-Fucoseが抗原になっている

Department of Biochemistry, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USAらのグループは、褐色ラットおよびアカゲザルにおける住血吸虫感染に対する防御抗体には、その表面に発現するN-型糖鎖のコアXyl/Fucエピトープに対するIgG応答があり、この疾患に対する糖鎖抗原をベースとするワクチン開発の有用性が期待されると報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37081851/

住血吸虫症は、住血吸虫属の寄生による感染によって引き起こされ、世界中で2億人以上の人々に感染し、最大7,000 万人に寿命ロスと健康ロスを引き起こします。これは、マラリアによる影響よりも多いのです。従って、新しいワクチンのターゲットが緊急に必要であると考えられています。多くの種類の哺乳類が住血吸虫の宿主となりえますが、ヒトには慢性的に感染するのに対し、げっ歯類は感染後すぐに住血吸虫を排除できます。

ヒトのN-型糖鎖は通常、α6結合フコースによるGlcNAc-AsnのGlcNAc残基のコア修飾を含んでいます。コアα2-キシロース (CX) およびコアα3-フコース (CF) はヒトには見られませんが、昆虫 (CF)、植物 (CX、CF)、および線虫 (CX、CF) の N-型糖鎖には共通して存在しています。

本研究では、CX/CFに対するウサギ抗HRP抗体(ratαHRP)を含むポリクロナール抗体が、in vitroで補体経路を活性化し、住血吸虫を死滅させることが出来ることが実証されました。

熱帯海綿から抽出されたレクチン(HiL)の黄色ぶどう球菌に対する抗菌作用

Universidade Federal do Ceará, Departamento de Engenharia de Pesca, Laboratório de Biotecnologia Marinha, Brazilらのグループは、熱帯海綿 Haliclona (Reniera) implexiformisから抽出されたレクチンがある種のバクテリアに対して抗菌作用を示すことを報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37075356/

海綿は、後生動物の中で最も古い海綿動物門に属する、多細胞の固着性のろ過生物であり、海洋および淡水生態系で発見された 8,500 種を超える種が報告されています。 海綿 Haliclona (Reniera) implexiformis からセファロース・マトリックスのアフィニティークロマトグラフィーによって分離されたレクチン(HiL)は、ガラクトースとその誘導体に対して特異性を示しました。

レクチンによる細菌膜上の糖鎖認識は、そのバイオフィルム形成を阻害する効果があるようです。幾つかの研究では、ガラクトース結合レクチンが細菌表面の糖鎖を認識し、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌を区別する可能性があることが示されています。以下に示すように、本研究では、ユニークなアミノ酸配列を持つ熱帯海綿から分離された新しいレクチン(HiL)が、主に 黄色ぶどう球菌の感染を引き起こすバイオフィルム形成に対して抗菌活性を示すことがわかりました(大腸菌:グラム陰性細菌に対しては抗菌作用を示しません)。

 縦軸はバイオフィルムのクリスタル バイオレット染色の強度

PhoSLがHBV感染を阻害する

大阪大学医学部らのグループは、コアフコース結合型レクチンであるPhoSLがHBV感染を阻害すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10105536/

現在の抗HBV 療法には、HBVの複製を競合的に阻害できるヌクレオシドおよびヌクレオチド類似体、および HBV感染に対する宿主の免疫応答を調節し、肝細胞の共有結合閉鎖環状 DNA (cccDNA) の分解を誘導できるペグ化インターフェロンの使用が一般的です。

本研究では、ヒト細胞株HepG2-hNTCP-C4のHBV感染に対するコアフコース結合型レクチンであるPhoSLの効果と、HBV感染におけるPhoSL阻害効果の根底にある分子メカニズムについて考察しています。 PhoSLでの処置は、ヒトHBVe抗原(HBeAg)、cccDNA(下図参照)、HBV DNA、およびHBV RNAらのHBV感染のマーカーのレベルを、ドーズ依存的に、細胞毒性なしで劇的に減少させることが示されました。

この場合に二つの阻害メカニズムが考えられます:(1) PhoSLが宿主細胞のタンパク質ダイナミクスに影響を与える、或いは (2) PhoSLがHBVに直接結合する、ということです。結果として、PhoSLは、EGFのEGFRへの結合をブロックすることによりEGFRの活性化を阻害し、更にPhoSLは、HBV 粒子に直接結合することもわかりました。 PhoSLが結合したHBV 粒子は、宿主細胞に取り込まれ、PhoSLは、取り込まれた後にHBV感染を阻害するようです。

このようにして、PhoSL治療は、新しいHBV療法の開発につながる可能性が示されました。

線維芽細胞増殖因子受容体のN-型糖鎖へのガレクチンの結合が細胞活性に影響を及ぼす

Department of Protein Engineering, Faculty of Biotechnology, University of Wroclaw, Polandらのグループは、ガレクチン(Gal-1, Gal-3, Gal-7, Gal-8)が線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のN-型糖鎖に結合することによりFGFRのクラスタリングが起こり、その下流にあるシグナル伝達カスケードを活性化すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10070233/

ガレクチンは受容体への直接作用を通じて FGF/FGFR 細胞プロセスを調節し、ガレクチン誘導 FGFR シグナル伝達の細胞への影響は、標準リガンド (FGF) によって達成されるものとは大きく異なることが実証されました。

Gal-1、-3、-7、および-8は、ヒトガレクチンの中でFGFR(FGFR1~FGFR4)の最も効果的なバインダーであり、ガレクチンの多価性によって誘起されるFGFR1のクラスタリングが、FGFR1の活性化とその下流のシグナル伝達カスケードの活性化に不可欠であることが示されました。興味深いことに、Gal-1、-3、および-8 と FGF1 が協調することによって、個々のタンパク質が作用するよりも効果的に生存細胞数が増加しました。更に、FGF1 とGal-1 およびGal-3が協調することによって、それぞれの単一タンパク質が作用した場合と比較して、グルコースの取り込みが増強されることも示されました。

粘表皮癌(唾液腺悪性腫瘍の一種)における特異的なMUC1の糖鎖マーカー(シアリル化 core-2 O-型糖鎖)

東京歯科大らのグループは、α2,3-結合シアル酸含有core-2 O-型糖鎖で修飾されたMUC1は、粘表皮癌の新しい潜在的な診断マーカーになる可能性があると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10082819/

唾液腺腫瘍は、全腫瘍の約 1%、頭頸部腫瘍の 3 ~ 6% を占めています。 粘表皮癌は、まれな唾液腺悪性腫瘍の中でも最も頻度が高い癌です。 粘表皮癌は、粘液を生成し、高度に糖鎖修飾を受けた高分子量糖タンパク質であるムチンの一種であるMUC1を異常に発現するという明確な特徴を持っています。具体的には、粘表皮癌は、シアリル化core-2 O-型糖鎖(GlcNAcβ1-6(Galβ1-3)GalNAcαSer/Thr)の修飾によって特徴付けられるMUC1を産生し、更に、そのシアル酸修飾は、α2,3結合であることが分かりました。これらの特異的なMUC1は、粘表皮癌の粘液細胞および非粘液細胞に発現していました。

ピーナッツの根からの分泌物と善玉菌であるバルクホルデリア・パイロシニア P10菌の遺伝子発現の変化について

College of Life Sciences, Guizhou University, 550025 Guiyang, Guizhou, Chinaのグループは、ピーナッツの根からの分泌物と善玉菌であるバルクホルデリア・パイロシニア P10菌の遺伝子発現の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10061817/

ピーナッツの根からの分泌物は、主に有機酸とアミノ酸で構成されていましたが、糖、アルコール、脂肪酸、糖アルコール、糖酸などの成分も含まれていました。検出された化合物には、比較的高濃度で存在するリンゴ酸、乳酸、コハク酸、ピルビン酸、シュウ酸、クエン酸などの低分子量有機酸が含まれていました。アラニン、グリシン、プロリン、バリン、フェニルアラニン、イソロイシン、チロシン、メチオニン、スレオニン、グルタミン酸、セリン、リジン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸など、さまざまなアミノ酸も検出されました。キシロース、アロース、リキソース、およびリボースは、ピーナッツの根からの分泌物の中で最も顕著な糖であり、脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸など)、アルコール(4-ヒドロキシフェニルエタノール、ミオイノシトール、フィトール)、糖アルコール(トレイトール、キシリトール、ソルビトール、アラビトールなど)、糖酸(ガラクトン酸、グルコン酸、トレオン酸など)、その他の成分(インドール-3-アセトアミドおよび尿素)も含まれていました。

一方、バークホルデリア・パイロシニア P10菌において発現が昂進している遺伝子は、ATP結合カセット(ABC)トランスポーター、ステロイド分解、クオラム センシング(QS)、シデロフォア グループの非リボソーム ペプチドの生合成、およびガラクトース代謝に関連しています。より具体的には、発現レベルが 1.01 ~ 5.83 倍昂進した47 個の遺伝子が、ミネラルおよび有機イオン、オリゴ糖、単糖、アミノ酸、ペプチド、鉄シデロフォア、および ATP 結合カセット サブファミリー C(ABCC)らの輸送に関連していました。 場合によっては、アルカンスルホン酸輸送に関与する ssuA-C-B 遺伝子、afuA-B-C 遺伝子(Fe3+ 輸送)、proX-W-V 遺伝子(グリシンベタイン/プロリン輸送)、および araF-H-G 遺伝子(L-アラビノース輸送)を含む遺伝子クラスター全体の転写が観察されました。更に、QS に関与する 19 の遺伝子とステロイド分解に寄与する4つの遺伝子の発現が昂進していました。シデロフォア グループ非リボソーム ペプチドの生合成に関与する3つの遺伝子とガラクトース代謝に関連する5つの遺伝子の発現レベルも昂進していました。P10菌の接着とバイオフィルム形成に関連する遺伝子の発現にも変化が見られ、グルコースとマンノース、アミノ糖、およびリボースの代謝を媒介する経路では、マンノース-1-リン酸を GDP-マンノースに変換する酵素をコードするマンノース-1-ホスホグアニルトランスフェラーゼ遺伝子 algA の発現が昂進していました。生成された GDPマンノースは、重要なエキソポリサッカライド構成要素であり、バイオフィルムの主成分であります。

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