アンドロゲン抑制療法に耐性を持つに至った前立腺がんに対するフコイダンとドセタキセル化学療法の併用効果について

Department of Anesthesiology, Show Chwan Memorial Hospital, Changhua 50008, Taiwanらのグループは、ドセタキルに対して耐性を持つに至った前立腺がんの治療にフコイダンとドセタキセルの併用が効果的であると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9500773/

前立腺がんの標準治療は、アンドロゲン抑制療法 (ADT) です。ホルモン感受性の前立腺がんは ADT で治癒可能ですが、ほとんどの患者は去勢抵抗性前立腺がんおよび転移性前立腺がんに進行します。ドセタキセル治療は、このような患者の生存率を改善するために投与されます。ドセタキセルは、タキサン系の薬物に属する化学療法剤です。ドセタキセル ベースの化学療法は、延命効果を示しており、去勢抵抗性前立腺がんおよび転移性前立腺がんの主要な治療法としてしようされていますが、それにもかかわらず、半年間の治療後には、去勢抵抗性前立腺がんおよび転移性前立腺がんがドセタキセル耐性を持つにいたるということが緊急の臨床的懸念として浮上しています。

一方、褐海藻に由来するフコイダンは、複雑な硫酸化多糖類の構造を持ち、抗がん効果を示し、P-セレクチンに結合することが知られています。

本研究では、ドセタキセル耐性を持つ DU/DX50 細胞に対するフコイダンとドセタキセルの組み合わせが、以下に示すように強力な相乗的抗がん効果を示すことが実証されています。

本研究においては、更に、フコイダンがDU/DX50細胞の遊走・浸潤を抑制することも観察されました。 IL-1R、IKKα、NF-κB p50、およびCox2のタンパク質の発現量が、フコイダンの濃度の増加に伴って減少することから、がん細胞の移動、浸潤、およびがん細胞生存率の減衰は、フコイダンとP-セレクチンの結合による効果であり、NFκB p50 および Cox-2 のレベルの低下を含むIL-1R シグナル伝達経路のダウンレギュレーションの結果であると考えられました。ここで、IKKα および NF-κB p50 が癌細胞の増殖と転移に関与し、Cox2 の活性化が腫瘍の増殖と化学療法および放射線療法に対する耐性を促進することが別途知られているということを思い出しましょう。

小麦の根圏:4種類の根圏細菌を含む人工的な根圏細菌集団で小麦の根腐れ病を抑える試み

North Central Agriculture Research Laboratory, USDA-ARS, Brookings, SD, USAらのグループは、小麦の根圏土壌から由来の細菌から人工的な根圏細菌集団を作り、その小麦の根腐れ病の原因であるリゾクトニア・ソラニ菌AG8に対する阻害効果などについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9473337/

リゾクトニア・ソラニ菌AG8 によって引き起こされる小麦根腐れ病に対する 14種の単一根圏細菌株と 10種の小麦の根圏土壌由来の根圏細菌を含む人工的な根圏細菌集団(SynComs)を、温室内の土壌で評価しました。 これらを接種して3週間後、AG8 を接種した土壌 (CK1, CK2) での小麦の成長と比較して、幾つかの単一細菌株で処理した小麦と SynComs は、程度の差はあれ、小麦の根腐れを減少させました。その中で、単一の細菌株 (シュードモナス属 B5、ロドコッカス エリスロポリス B43、クリセオバクテリウム ソルダネリコーラ P38、およびペドバクター属 P44) および SynComs (C1、C3、C4、C7、C8、C9、および C10) で処理した小麦は、小麦の根腐れ病を大幅に減少させました。 更に、単一の細菌株 (シュードモナス属 B5 および B11、およびクリセオバクテリウム属 B7) および SynComs (C1、C4、C7、C8、C9、および C10) で処理された小麦の新鮮な根の重量は、AG8を接種したコントロールよりも増加していました。

SynCom 1(C1): Pseudomonas sp. B5, Pseudomonas sp. B11, Pseudomonas sp. B12, Pseudomonas sp. P25の4種
SynCom 2(C2): Chryseobacterium sp. B7, Chryseobacterium soldanellicola P38, Chryseobacterium sp. P43の4種
SynCom 3(C3): Sphingomonas sp. B17, Cupriavidus campinensis B20, Asticcacaulis sp. B27, Rhodococcus erythropolis B43の4種
SynCom 4(C4): Cupriavidus campinensis B20, Asticcacaulis sp. B27, Rhodococcus erythropolis B43, Chryseobacterium soldanellicola P38の4種
SynCom 5(C5): Cupriavidus campinensis B20, Rhodococcus erythropolis B43, Janthinobacterium lividum BJ, Chryseobacterium soldanellicola P38の4種
SynCom 6(C6): Streptomyces sp. B6, Chryseobacterium sp. B7, Pseudomonas sp. B12, Sphingomonas sp. B17の4種
SynCom 7(C7): Pseudomonas sp. B5, Streptomyces sp. B6, Chryseobacterium sp. B7, Pseudomonas sp. B11の4種
SynCom 8(C8): Pseudomonas sp. B12, Sphingomonas sp. B17, Cupriavidus campinensis B20, Asticcacaulis sp. B27の4種
SynCom 9(C9): Pseudomonas sp. B12, Rhodococcus erythropolis B43, Janthinobacterium lividum BJ, Pedobacter sp. P44の4種
SynCom 10(C10): 14種の根圏細菌をすべて含む

SARS-CoV-2に対するUDAの抗ウイルス活性

Laboratory of Virology and Chemotherapy, Rega Institute, Department of Microbiology, Immunology and Transplantation, KU Leuven, Belgiumらのグループは、UDAレクチンのSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果いついて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9468479/

UDA は、報告されているレクチンの中で最小の植物レクチンのひとつです。そして、糖タンパク質上の GlcNAc およびハイマンノース型糖鎖に特異的に結合するとされています。

UDA は、Vero E6 細胞における初期のWuhan-Hu-1株のウイルス複製を防止するだけでなく (IC50 = 225 nM)、アルファ、ベータ、ガンマなど、幾つかの SARS-CoV-2 変異株の複製も防止することが示されました (IC<sub = 115 ~ 171 nM)。更に、UDA は、U87.ACE2+ 細胞において、最近流行しているオミクロン変異株に対して抗ウイルス活性を発揮することも確認されました (IC50 = 0.9 µM)。

SPRを用いた結合解析からは、UDA は直接的にRBDの競合として機能しておらず、最も強い相互作用部位は RBD に位置していないことが示されました。

前立腺がんにおけるPSMAの特異的な糖鎖修飾

Leroy T. Canoles Jr. Cancer Research Center, Eastern Virginia Medical School, Norfolk, Virginia 23507, USAらのグループは、転移性前立腺がんの前立腺特異的膜抗原(PSMA)のN-型糖鎖修飾位置毎の糖鎖修飾の違いについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9435049/

葉酸加水分解酵素 1 (FOLH1) またはグルタミン酸カルボキシペプチダーゼ 2 としても知られる前立腺特異的膜抗原 (PSMA) は、従来の生化学的方法を使用して組織および体液中の前立腺がんバイオマーカーとして以前より研究されてきましたが、結果はばらついていました。このタンパク質は、前立腺上皮、固形腫瘍の新血管系全般、および腎近位尿細管、十二指腸、および神経系の神経節を含むいくつかの健康な組織では、少量の発現にとどまりますが、前立腺がんでは、PSMA の存在量は疾患の重症度とともに増加し、正常組織と比較して、疾患の進行した転移性のそれでは、最大100 倍高い存在量が観察されています。

本研究においては、ふたつの前立腺がん細胞株、LNCaP 細胞、(CRL-1740) および MDAPCa2b (ATCC CRL-2422) を使用して、PSMA のN-型糖鎖修飾位置毎の特異的糖鎖修飾構造の特徴付けが比較されています。異なる表現型を持つふたつの細胞株 LNCaP と MDAPCa2b では、幾つかの糖鎖修飾の発現に有意差があり(下図参照)、更には、LNCaP 細胞と比較して MDAPCa2b で識別される糖鎖修飾が有意に高いことが実証されました。
これらの情報は、将来的に前立腺がんの進行度を把握する為のPSMAのN-型糖鎖修飾位置毎の特異的糖鎖修飾を用いた予後マーカー開発の基礎になるやも知れません。

根圏細菌叢という複雑系の特徴をどのように抽出し、効率よく根圏細菌叢を制御するか?

自己組織化する複雑系に対しては、主成分解析のように多項目を組み合わせた特徴抽出とそのクラスタリング解析手法が良く使われます。逆に言えば、それしか身近に良い解析方法論がないということです。自己組織化する複雑系では、全体の性質はしばしば構成要素についての知識だけでは理解も予測もできないことがあり、システムの構成要素間の相互作用が新しい構造と機能を生み出し、その新しい構造や機能が大きなスケールで出現するようになります。
根圏細菌叢にしても、善玉菌がある閾値を超えると、日和見菌が味方になって相乗効果が顕著に出現する、みたいなこともあり得ると思います。逆も真で、悪玉菌がある閾値を超えると一気に植物が死んでしまう。

そういう根圏細菌叢という複雑系の特徴抽出(即ちパターン認識)をどうやって現場(農場)で行うのかということが問題です。研究現場では、根圏細菌叢の網羅的16S rRNAリード解析と、得られるビッグデータを駆使したコンピュータ解析から、そこにひそむ目に見えないパターンをあばき出して可視化する、こういう手法もあるとは思います。しかし、そんな手法が現場で使えるでしょうか?こういう仕事は論文の世界に留まると思います。研究者しか使えない技術は世の中に広がりません。誰でもが簡単に使える技術でないと最終的には事業として成功しません。誰でもが使えるという事は、安い技術でなければなりませんし、即座に結果が得られるものでなくてはなりません。

根圏細菌として代表的な善玉菌と言われているものには、バチルス、シュードモナス、ストレプトマイセス、アルスロバクターらがあり、エンテロバクターやバルクホルデリアも善玉でしょう。
そのような代表的な善玉細菌と悪玉細菌の細菌分類を下記に書き出します。
まずは善玉菌、
アクチノバクテリア門→アクチノバクテリア網→ストレプトマイセス目→ストレプトマイセス科→ストレプトマイセス属(善玉)
プロテオバクテリア門→γ-プロテオバクテリア網→シュードモナス目→シュードモナス科→シュードモナス属(典型的善玉)
プロテオバクテリア門→γ-プロテオバクテリア網→エンテロバクター目→エンテロバクター科→エンテロバクター属(善玉)
プロテオバクテリア門→β-プロテオバクテリア網→バルクホルデリア目→バルクホルデリア科→バルクホルデリア属(善玉)
ファーミキューテス門→バチルス網→バチルス目→バチルス科→バチルス属(典型的善玉)
アクチノバクテリア門→アクチノバクテリア網→アクチノバクテリア目→マイクロコッカス科→アルスロバクター属(善玉)
そして悪玉菌、
アスコミコタ門→フンタマカビ網→ボタンタケ目→アカツブタケ科→フサリウム属(典型的悪玉)

してみると、アクチノバクテリア門、プロテオバクテリア門、ファーミキューテス門を捕まえられれば、根圏の大きな傾向が把握できそうに思われます。
因みに、プロテオバクテリア門はグラム陰性細菌であり、アクチノバクテリア門、ファーミキューテス門はグラム陽性細菌です。

フミン酸が優れたトマトの天然物肥料となり得る

College of Environment, Zhejiang University of Technology, Hangzhou 310032, Chinaらのグループは、フミン酸 (HA) は、温室栽培のトマトに対する優れた有機肥料になる可能性があると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9434616/

温室栽培における土壌への化学肥料の悪影響のために、今日では、有機肥料や生物肥料の使用によって土壌肥沃度の低下を回避する管理法が非常に着目されています。フミン酸は腐植の成分であり、天然成分でもあり、病気や植物へのストレスの軽減、収穫量の増加に効果があります。実際、様々な研究によって、野菜生産におけるフミン酸の適用は、植物の一次および二次代謝を改善し、収穫量と品質を向上させ、害虫や病気を減少させることが示されています。フミン酸は、土壌中の微生物活性を高めることにより、土壌有機物の分解を促進することができます。さらに、フミン酸は植物の代謝に影響を与えることによって根からの分泌物のプロファイルが変化し、根圏微生物群集の構造にも影響を与えます。実際、根圏細菌叢の二次元主成分解析の結果は、コントロール、フミン酸、有機肥料がそれぞれ異なったクラスターを形成することを示しました。


ここで、フミン酸(HA)、厩肥(きゆうひ)(FM)、市販の有機肥料(COF)、コントロール(CK)

ミルク中のラクトースがロタウイルスによる子豚の下痢を押さえる

Laboratory of Virology, Faculty of Veterinary Medicine, Ghent University, Merelbeke, Belgiumらのグループは、ラクトースは、ロタウイルス感染を減らすことによる直接的な効果と、腸内環境のバランスをとることによってロタウイルスの感染を抑制することにより、子豚の下痢問題を改善することが出来ます、と報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9428151/

ロタウイルスは、動物やヒトに下痢を引き起こす主要な病原体です。高い罹患率と死亡率は、主に出生後の最初の数週間に観察されます。ロタウイルスには、6 つのウイルス構造タンパク質 (VP1-VP4、VP6、および VP7) と 6 つの非構造タンパク質 (NSP1-NSP6) をコードする 11 の二本鎖 RNA セグメントがあります。ロタウイルスは 10 種に分類されており、RVA、B、および C が、ヒトおよびブタを含む動物に感染する最も一般的な遺伝子型です。その中で、RVA 株はさまざまな種の中で最も有病率が高く、獣医界における下痢の主な原因となっています。

RBA の組換え VP8* タンパク質の糖結合特異性を、300 個の糖鎖を固定化した糖鎖アレイを用いて評価し、その結果、β-ラクトースに強く結合することがわかりました。
また、β-ラクトースが MA104 細胞のロタウイルス感染をドーズ依存的に減少させることも示されました。

ここで、13R054 G5P[7] と 12R046 G9P[23]は、RVA株です

小児の早発性1型糖尿病のバイオマーカーとして、補体C3の糖鎖プロファイルが使える

Faculty of Pharmacy and Biochemistry, University of Zagreb, Zagreb, Croatiaらのグループは、血漿中の補体C3のハイマンノース型糖鎖構造の変化をバイオマーカーとして使用することで、早発性1型糖尿病の子供を健常者からAUC 0.879で判別することが出来たと報告しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(22)00215-8/fulltext

子供の1 型糖尿病は、補体C3のハイマンノース構造におけるマンノース単位の増加(すなわち長鎖のハイマンノース)と関連していました。
この実験では、ハイマンノース糖鎖修飾を受けた補体C3をConA レクチンで濃縮し、その糖鎖構造を LC-MS/MS で分析しました。補体C3には、Asn85とAsn939、にふたつの糖鎖修飾部位があり、高度にハイマンノース修飾された構造は、以下に示すように1 型糖尿病の発生と共により長鎖の構造になっていました。

タモキシフェン耐性乳がん細胞は、LacdiNAcの糖鎖修飾を持ち、WFAレクチンと強く反応する

順天堂大学医学部らのグループは、タモキシフェン耐性乳がん細胞がLacdiNACを認識するWFAレクチンと強く反応することを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9409572/

乳がんには、がん細胞の増殖にエストロゲン(女性ホルモン)を必要とするものがあり、乳がん全体の6~7割を占めています。このようなエストロゲンで増殖するタイプの乳がんに対してはエストロゲンの働きを抑える抗エストロゲン薬 (タモキシフェン) の効果が期待できるとされています。しかしながら、中には、タモキシフェンに耐性を持つ乳がん細胞が出現する場合があります。

糖鎖修飾は、糖転移酵素の逐次作用によるタンパク質の主要な翻訳後修飾であり、糖鎖修飾の変化は、発癌、悪性進行および転移と関連していることが良く知られています。
そこで、本研究においては、タモキシフェン耐性ヒト乳癌細胞の糖鎖プロファイルをレクチンマイクロアレイを用いて調査し、内分泌療法の予測バイオマーカーとしての糖鎖修飾の変化が使えるかどうかを検討しています。

結果として、タモキシフェン耐性乳癌細胞は、LacdiNAcの糖鎖修飾を持ち、WFAレクチンと強く反応することが示されました。

植物病原菌フサリウムを押さえるには、根圏バクテリアの多様性とシデロホアを産生するバクテリアが大切

Key Laboratory of Plant-Soil Interactions, China Agricultural University, Beijing, Chinaらのグループは、トウモロコシとそら豆の間作において、根圏バクテリアの多様性とシデロフォア産生菌が総合的に植物病原菌であるフサリウムを抑制すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9389221/

世界の食料生産は様々な脅威にさらされており、土壌伝染性病原体が収量損失に与える影響は、約20% であると言われています。大量生産を目的とする集中的な大規模な単一栽培は、収量の損失を引き起こす病気の発生を起こし易いとされ、一方で、真菌病は、輪作や間作などの多様な作付システムを取ることで抑制されることも知られています。

この研究では、次の三つの植栽パターンが比較されました。
(1) 単一栽培トウモロコシ、
(2) 単一培養のそら豆、および
(3) トウモロコシとそら豆の間作。

その結果、間作により、単作よりもトウモロコシとそら豆の収量がそれぞれ21.3%と14.4%増加し、間作により、バルク土壌、根圏土壌、および根のエンドスフェアで、単作よりもフサリウムの遺伝子コピーが2.91、7.33、および9.56%と大幅に減少していました。また、フサリウムの抑制は、トウモロコシよりもそら豆で効果が大きいことが示されました。

根圏バクテリアの多様性と細菌叢の分析結果から、次のことが分かりました。
(1) 根圏バクテリアの多様性とその相互作用が間作で強化され、これは フサリウムの減少と相関していた、
(2) トウモロコシおよびソラマメの根圏におけるシデロフォア産生バクテリアの数は、フサリウムの存在量と逆相関していた。