キラーアプリの開発と標準化が糖鎖ビジネスを成功させるには必要だ

iGCOREが主催する第9回糖鎖技術研究セミナー(2026年1月9日開催)のお題は「糖鎖ビジネスを成功させるには何が必要なのか~糖鎖プローブレクチンの活用例と標準化~」でした。このセミナーに嬉しいかな本ブログ管理人(山田雅雄)と㈱QuastellaのCSOである加藤竜司様がプレゼンターとして招待を受けました。自分がこの場でお話させて頂いた内容を忘備録を兼ねて本ブログ記事として書き下ろしてみたいと思います。

合同会社エムックのご紹介

世界でいち早くレクチンマイクロアレイの商業化を進めた事業体のひとつがモリテックスのグライコミクス研究所であり、2007年に糖鎖プロファイリング・システム”GlycoStation”を上市しています。当時のグライコミクス研究所の所長は本ブログ管理人でした。この技術は、モリテックス→GPバイオサイエンス→グライコテクニカと変遷をうけつつも、Mx(エムック)に受け継がれて現在に至って至っています。

レクチンアレイの登場とプレーヤー

レクチンアレイの商業化は、日本のMoritex(GlycoStation)とイスラエルのProcognia(GlycoScope)が先駆けでした。モリテックスからスピンアウトしたGP Biosciences(2009年2月27日設立登記)は、遡ること2008年11月、ロンドンで開催されたグライコミクス研究所の代表者とプロコグニアの代表者が介しての特許紛争に関する合意によって花開いたものです。しかし、皮肉なことに先行する二社は、2013年から2014年にかけて相次いで倒産してしまいます。この出来事がきっかけとなり、Procognia特許がOpen化されたことでレクチンアレイに対する参入障壁が大幅に低下し、ビッグバンが起こります。因みにGlycoStationの基本は、産総研が持つエバネッセント波蛍光励起法を用いたレクチンアレイの非破壊読み出しに主眼点がありました。ともあれ、ビッグバン後に新規参入してきた事業体はこつぶであり、巨大資本がなだれ込んで来たわけではありません。まだまだマーケットが未熟であったことが原因です。

世界情勢の変化

事業戦略を立てる上において、世界の潮流をきちんと認識しておくことは非常に大切です。昨今は、グローバリズムから反グローバリズムの方向に大きく舵が切られており、これは歴史的にも特質すべき世界情勢の変化です。グローバリズム下においては、巨大資本へ権力が集中し、それによって格差の拡大が益々加速し、更には文化の壁を越えて世界の均質化が進みます。一党独裁のC国がこのグローバリズムと相性が良いというのは皮肉的です。

反グローバリズムの動きは、各国の動きをみると明確です。例えば、米国では第二次トランプ政権が発足し、トランプ関税が世界を席巻しています。日本では参政党らの保守勢力が勢いづき、高市政権が誕生しています。フランスでは国民戦線が躍進、ドイツではAfDが躍進、そしてイタリアではメローニ政権が誕生しています。この結果として、自国ファーストを合言葉に世界的な製造業の国内回帰とC国とのデカップリングを伴うサプライチェーンの再構築が進行しています。日本では、半導体の復権を目指して、政府肝いりのRapidusの立ち上げやTSMCの誘致が行われています。更には、国力の向上に大切な先端技術分野(AI、量子技術、核融合など)への研究開発投資が加速しています。

日本の産学連携はまだ中途半端

国力の増強という観点からは、現在の日本の産学連携はまだまだ中途半端であり、最終的な出口で勝負ができるような運営形態に変えていく必要があります。

シーズの開発に必要な基礎研究は、それほどリソースが無くても可能です。日本はシーズ開発では先行するものの、開発した技術の多くが大規模化の段階で諸外国(中国、台湾、韓国ら)に敗北しているという事実を強く問題視する必要があります。液晶パネル、半導体、造船、ソーラーパネルなど・・枚挙にいとまがありません。儲けるべきところで失敗しているわけですからGDPが増えるはずもありません。失われた30年間、負け犬癖がついてしまった日本ですが、「MAKE JAPAN GREAT AGAIN」を実現するためには意識改革が必要です。

国力を高めるための政府の戦略的な大規模支援が必要です。製造業の国内回帰と強化が反グローバリズム時代の基本戦略です。支援した先が儲かれば、政府の税収が増え、その資金は新たな研究開発支援に回ることで好循環が生まれます。大局的な観点からリソースの再配分を考えることが大切です。基礎研究を支援しベンチャー設立を支援したらそれで国の役割は終わりだ、「汚い金儲けの仕事は民間でやれ!」こういう意識が蔓延してないでしょうか?再度になりますが、儲けるべきところで儲けられなければジリ貧になる一方です。GDPが増えるわけもありません。産業界においても、大規模な企業連合体(株式持ち合いによる護送船団)を作り世界の巨大資本と伍して戦う体力と気概を持たねばなりません。国力を高めねば、基礎研究費も出なくなり、結果としてノーベル賞の受賞も減少していくでしょう。

産業を大きくするには標準化が必要

技術の標準化を進めると、参入障壁が下がり、競争によってコストも下がり、ユーザーが爆発的に増えます。PCのWindowsの世界観がまさにそれです。標準化によって、得意な分野にリソースを集中できることから分業化も進行します。

糖鎖関連では、例えば、ヒトに発現する網羅的な糖鎖の標準ライブラリー、リコンビナント化されたレクチンの標準ライブラリー、糖鎖構造解析ツール、更には分析・解析プロトコルなどの標準化が必要です。

キラーアプリの開発こそ要

シーズだけを開発してもダメ、ベンチャーを作ったらお終いではダメ、巨大な潜在マーケットを持つであろうキラーアプリがないと、人も金も集まりませんし、そこまでは最低限支援することが必要です。
糖鎖関連では、誰が何の為に糖鎖ライブラリーを使用するの?誰がどういう目的でレクチン・ライブラリーを使用するの?誰が高価な糖鎖解析ツールを使用するの?そういった事業化の目標設定に際して「儲かるキラーアプリ」を明確にイメージしなければなりません。

糖鎖は表現型であり、「細胞の顔」とも呼ばれる生体分子ですから、診断薬は糖鎖に対しては良いターゲットに成り得ます。例えば、AFP-L3M2BPGiなどの実例を挙げることができます。ブログ管理人自身も、潰瘍性大腸炎IgA腎症、そしてうつ病らの診断薬開発に取り組んだ経験があります。しかし、最終的に糖鎖関連事業が勝者になるためには、糖鎖創薬に繋がるキラーアプリを見つけなければならないでしょう。

潜在的キラーアプリの実例

本ブログ管理人が事業視野に入れる領域から、潜在的なキラーアプリの実例をご紹介したいと思います。これは、2013年から10年以上に渡って行ってきたFDAとの共同研究開発の成果物です。具体的には「治療用抗体の簡易ハイスループット糖鎖プロファイリングをカスタム・レクチンアレイで行う」という内容です。

FDAはすでに157種類の抗体医薬品を認可していますが、それらを網羅的に概観し、抗体医薬品の発現系やIgGのサブタイプについて報告しています。発現系としては、76%がCHOであり、78%がIgG Type 1であることが分かります。

治療用抗体(mAb)によくみられる9つの糖鎖エピトープ

FDAによるmAbに一般的に存在する9つの糖鎖エピトープの発見と同定は、治療用mAbの糖鎖修飾に対する貴重な洞察と貢献を与えるものです。9つの糖鎖エピトープとは、core fucose, terminal N-acetylglucosamine, terminal β-galactose, high mannose, terminal α2,3-linked N-acetylneuraminic acid, terminal α2,6-linked N-glycolylneuraminic acid, bisecting N-acetylglucosamine, terminal α-galactose, triantennary structureであります。

この情報は、mAb製造中の糖鎖修飾パターンを評価および監視し、製品品質の一貫性を確保し、薬物動態や免疫原性の変化につながる可能性のある望ましくない糖鎖プロファイルのリスクを軽減するために不可欠なものであります。

治療用mAbの迅速な糖鎖プロファイリングのためのカスタム・レクチンアレイ

糖鎖修飾は治療用mAbの品質と有効性を決定する上で重要です。FDAは、前述した9つの糖鎖エピトープを正しく評価するために、各糖鎖エピトープに対応する9つの異なるレクチンを特徴とするカスタム設計されたレクチンアレイを導入しました。そのレクチンは、rPhoSL, rOTH3, RCA120, rMan2, MAL_I, rPSL1a, PHAE, rMOA, PHALの9種類であります。2種類ほど一般名ではないレクチンがありますが、諸事情がありましてご容赦お願い致します。これら一連の作業は、GlycoTechnicaとの共同作業として実施され、当時GlycoTechnicaが使用していた83種類のレクチンの中からFDAが厳選したものです。

IgG1-mAb-LecChipと命名されたこのレクチンアレイは、糖タンパク質サンプルから糖鎖を切り出すことなくそのまま利用することが出来、迅速な糖鎖プロファイリングのためのハイスループットプラットフォームを提供し、糖鎖修飾パターンの比較分析を可能にします。FDAは、このレクチンアレイが、様々な製造バッチ間、あるいはバイオシミラーと先発医薬品間の糖鎖修飾の違いを評価する上で極めて実用的であるとその使用を推薦しています。

mAbs間の糖鎖修飾パターンの違いをいとも簡単に捕まえることができる

NISTの標準抗体をコントロールとして、4種類の治療用mAb(Filgrastim, Atezolizumab, Trastuzumab, Cetuximab)の比較糖鎖プロファイリングの例が示されています。左側は低感度スキャンであり、右側は小さい信号のレクチンが良く見えるように高感度でスキャンしたものを示しています。MS解析とは異なり、9種類の糖鎖エピトープの発現状態の違いが手に取るように分かります。下段は、左からcore fucoseの有無をrPhoSLで見た場合、tri/tetra-antennaryの有無をPHALで見た場合、α2-3Siaとα2-6Siaの発現状態の違いをMAL_IとrPSL1aで見た場合を示しています。ものの見事に判別できていることが分かります。

以下に示す例は、Infliximabの先行品とその3種類のバイオシミラーとの糖鎖プロファイリングの比較です。上記と同様に、左側は低感度スキャン、右側は高感度スキャンを示しています。Agalacto, High mannose, α2-6Siaらに大きな違いがあることが一目瞭然です。このようにして、FDAは、IgG1-mAb-LecChipが、様々な製造バッチ間、あるいはバイオシミラーと先発医薬品間の糖鎖修飾の違いを評価する上で極めて実用的であるとその使用を推薦したのです。

もちろん、治療用mAbに発現する糖鎖構造については、MS解析による構造同定のデータを示すことが許認可には必須とされており、レクチンアレイのみのデータを持って許認可が今日現在出るわけではありません。しかしながら、MS解析による糖鎖構造同定とレクチンアレイによる比較糖鎖プロファイリングは補完的な情報を与えるものであり、お互いがお互いの存在を否定しあうものではないことをここで明言しておきたいと思います。

世界の医薬品全体のマーケットサイズは2024年に約262兆円に達しています。その中でもバイオ医薬品の成長は顕著であり、同年にはそのマーケットサイズは38兆円に達し、今後も10%を超える成長率が見込まれています。更に、世界売上高の上位100位の医薬品に絞ると、バイオ医薬品の占める割合は2019年には5割以上を占めるまでになっています。現存するマーケットの大きさとその成長性を鑑みれば、IgG1-mAb-LecChipというアプリケーションは、正に潜在的なキラーアプリに成り得る可能性を持っているということができるでしょう。

糖鎖創薬に対する新たな視点

治療用mAbの成功により、タンパク質と糖鎖を両睨みすることでターゲティング性能を改善するという視点から糖鎖を抗原とする抗糖鎖抗体の開発が良く議論されています。しかしながら、この観点での糖鎖創薬はいまだに成功例がほとんどありません。なぜ抗糖鎖抗体が作り難いのか?というお話にはここでは踏み込みませんが、その代わりとなる糖鎖創薬の視点に話を変えてみたいと思います。

糖鎖は、ご存じのようにありとあらゆるところに存在しているがために、すべての生命現象に関与する生体分子として糖鎖創薬の目標が大風呂敷になりがちなのではないでしょうか?ブログ管理人はすべての糖鎖が絡んだ事象を網羅できているわけではないのですが、思うに、糖鎖が絡んだ超厳格なプロセスはかなり例外的なように思います。その例がここに示すカルネキシン/カルレティキュリン・サイクルによるタンパク質のフォールディング品質管理です。G3M9型糖鎖(G:グルコース, M:マンノース)がリボソームから翻訳された新生ペプチドに付加します。GlucosidaseⅠ, ⅡによってG1M9型糖鎖に刈り込まれ、それがフォールディングを助けるタンパク質であるCNX/CRTなどのシャペロン分子により特異的に認識され、フォールディングがおこなわれます。その後GlucosidaseⅡによってM9型糖鎖に刈り込まれ、この時点で正しくフォールディングしていれば、次の段階であるゴルジ体へ輸送されていきます。正しい三次元構造をとれていない場合、UGGTというフォールディングセンサー酵素に捕らえられ、グルコースが一つ再付加されG1M9糖鎖に戻り、上記のループを繰り返します。このプロセスでは、ヘテロな糖鎖発現は全く存在せず、Glc=1個の付加がタンパク質の命運を分けています。あり得ないほど超厳格なプロセスです。糖鎖の存在と役割がこのように超厳格である場合には、それをピンポイント的にターゲティングすることでその下流にあるシグナル伝達経路を遮断することが可能になり、創薬としては創薬ターゲットがとても絞りやすくなります。

しかしながら、糖鎖は、一般的にはヘテロな集団として生化学反応に関与していますので、その視点から糖鎖創薬の方法論を考え直してみるべきではないでしょうか?

ヘテロな糖鎖とプロファイリング技術の重要性

糖鎖が遺伝子によって直接コーディングされていないこともあり、糖鎖の発現は自由度が高くヘテロな分子集団を形成します。皆様には釈迦に説法的なお話ですが、下記にはIgGに発現する糖鎖をMSにて詳細解析した例が載せられています。MS解析では非常に数多くのピークが観測され、二分岐N‐型糖鎖が基本であるものの、数多くの派生構造が雑多に発現しています。しかし、ADCCやCDCと言った機能的な観点からは詳細構造情報よりもエピトープの比較プロファイリングでその増減が分かれば実際には十分であります。この種の目的には、糖鎖プロファイルの変化を簡単に解析できるレクチンアレイを用いた比較糖鎖プロファイリングが極めて有効であります。

承認されている治療用mAbに対する糖鎖の記述は貧弱

国立医薬品食品衛生研究所)生物薬品部のホームページには、認可されたバイオ医薬品の一覧が記載されています。各バイオ医薬品の審査報告書も公開されています。治療用mAbの幾つかを覗いてみたのですが、糖鎖に関する記述が貧弱なのに正直驚きました。記載されているのは主だった糖鎖構造とそのタンパク質への結合位置に対する情報のみです。糖鎖はヘテロな集団なのに、ヘテロな存在割合やそれが薬効や副作用にどのように関係しているのか?何も記載がありません(報告書は長いので斜め読みしている関係で読み飛ばしている可能性もありますが、目に止まらないくらい糖鎖に対する記述が少ないということです。これは糖鎖関連技術を開発している我々にとっては由々しき事態です。)ブログ管理人にとっても、そもそもヘテロな糖鎖集団と単一糖鎖構造の間で一体どの程度の差異が薬効に現れるのかすら明確でありません。

しかしながら、協和発酵キリンのポテリジェント技術が有名であるように、糖鎖の存在が薬効に影響を与えることは事実です。ブログ管理人が過去に、ノバルティスとスタンフォード大学との共同研究を行った結果を一つお見せ致します。以下に示す例は、当論文からの抜粋ですが、IL-23RをCHO細胞とHEK細胞で発現させた場合の違いを見せています。尚、この例はマウスでの実験です。in vitroでの実験では、両者に全くの違いは見られなかったのですが、in vivoでは、面白いことに血中濃度に極めて大きな濃度差が見られています。つまり同じ薬を作ったつもりでも、糖鎖が違うだけでこれだけ血中濃度(効果)が変わるということを如実に示しています。

名わき役にこだわり抜くと発見があるかも

先ほどご紹介した国立医薬品食品衛生研究所のホームページに記載されている認可済みのバイオ医薬品(治療用mAbのみでなく、酵素やサイトカインやホルモンなども幅広く)ですが、このような情勢を鑑みれば、その医薬品に発現している糖鎖構造が最適化されたものなのか?それとも単に発現した結果なのか?については、知る由もありません。しかし、実際には、発現している糖鎖が薬効に関係することは事実として例が幾つもある訳ですから、既存の医薬品に対しても糖鎖構造を改変してあげることで容易に「バイオベター」が得られる可能性があります。既に認可されている医薬品ですから、糖鎖構造の改変だけならレギュラトリーの閾値は下がるはずですし、すでにマーケットが存在している訳ですから、その開発リスクも少なくて済みます。実際にこれをやるかどうか?は、認可を取った製薬メーカーの考え方次第かも知れません。今更めんどくさいよ、やるだけの効果ほんとに出るのかな、いろいろな意見があることでしょう。どう考えるかはあなた次第です。

糖鎖の主たる機能は何なのか?

糖鎖がありとあらゆるところに存在し、ありとあらゆる分子間信号伝達に程度の差はあれ関わることから、糖鎖の機能について語る場合に、あれもこれもと話が大風呂敷になりがちです。その結果として創薬ターゲットの絞り込みが困難になります。糖鎖が持つ本当に重要な機能は、自分が考えるに、下記の二種になるのではないでしょうか?

自然免疫:怪しい糖鎖構造を持つ外来異物を総当り的に攻撃して排除する(自己と非自己の認識)
ブロッキング:糖鎖がリガンドと受容体の相互作用をブロッキングすることで下流のシグナリングを制御する

糖転移酵素の局所的な制御技術こそ最終的な目標か

糖鎖創薬に対する考え方なのですが、ブログ管理人は、糖鎖が持つ最大の機能である自己と非自己との判別を利用した自然免疫という原点に戻ってみることが面白いと思います。

Siglec/シアル酸の免疫チェックポイントに対する創薬はがん治療という観点ですでに研究開発が本格化しています。ここで更に踏み込んで、がん細胞に発現する糖鎖構造を大幅に制御してみてはどうでしょうか?

例えば、がん細胞に特異的にターゲティングさせた糖転移酵素の発現阻害で癌細胞の糖鎖構造をハイマンノースに変えてしまうのです。そうすると、自然免疫が活性化し、マクロファージやNK細胞ががん細胞を食い尽くしてしまうのではないでしょうか?この種の試みは、ブログ管理人が知る限りにおいて全世界においても全く手つかずであるように思います。がんが撲滅できれば、これ以上にインパクトのある創薬はありません。弊社ではリソース的に取り組むことが難しく、どなたかご興味があれば、是非やってみて頂けないか?と勝手に考えております。あるいは、iGCOREを起点にして共同開発チームを作れないか?などと妄想しています。実際に行う場合には、上記した以外の派生方法もあるかもしれませんが、ともあれがん細胞へのターゲティング方法が一番の課題かも知れません。

糖鎖ビジネスを成功させるには何が必要なのか?というお題を頂きました

iGCORE主催の「第9回糖鎖技術研究セミナー」
糖鎖ビジネスを成功させるには何が必要なのか~糖鎖プローブレクチンの活用例と標準化~
【日時】2026年1月16日(金)15:30~17:00
【場所】オンライン形式(オープン)
糖鎖は生命活動に不可欠な分子だが、その構造的複雑性が解析および応用の進展を阻害する要因となっている。2005年、日本独自の迅速かつ高感度な糖鎖構造プロファイリング技術として「レクチンマイクロアレイ」が開発された。本技術はNEDOプロジェクト(2005~2007年)を経て速やかに製品化され、以降、米国食品医薬品局(FDA)にも採用されるなど、抗体等の糖タンパク質医薬品の糖鎖評価技術として高い評価を受けている(Mabs, 2024)。加えて、先進医療分野でも微生物由来レクチンrBC2LCNを用いた未分化状態特異的糖鎖判別技術が確立され、iPS細胞の品質管理や分化誘導後の状態評価に活用されている。しかし、これらレクチン関連技術の産業応用・事業拡大には依然として多くの課題が存在する。本セミナーでは、スタートアップ企業による課題解決策と将来展望について考察する。

―プログラムー
<挨拶・趣旨説明>
15:30~15:35
主催者挨拶:門松賢治(名古屋大学、糖鎖生命コア研究所・所長)
趣旨説明:平林淳(名古屋大学、糖鎖生命コア研究所・戦略推進室・室長)
<講演>
15:35~16:05
講演1:山田雅雄(合同会社エムック・代表)
糖鎖ビジネスを成功させるには何が必要なのか~キラーアプリの開発と標準化~
16:05~16:35
講演2:加藤竜司(名古屋大学大学院創薬科学研究科・准教授、Quastella・CSO)
画像を用いた細胞品質評価AIのビジネス化~糖鎖標識技術への期待~
<パネルディスカッション>
16:35~17:00
パネラー:鈴木睦昭(情報•システム研究機構国立遺伝学研究所)、高津吉広(生化学工業)
中村公哉(名古屋大学、学術研究・産学官連携推進本部、事業開発推進室)
進行:平林淳(名古屋大学、糖鎖生命コア研究所)

糖鎖創薬は視点を変えるべし

糖鎖関連ビジネスを成功させる為には何が必要なのか?というブログ記事を2025年7月1日に投稿しています。今回の記事では、少しブログ管理人が絡んだ実例を織り込んで、より見えやすい形で記載してみようと思います。

実は、ブログ管理人が、過去に大手製薬企業のNovartisとスタンフォード大学との共同研究で下記のような論文を投稿したことがあります。
Transient expression of an IL-23R extracellular domain Fc fusion protein in CHO vs. HEK cells results in improved plasma exposure
これはサイトカイン(IL23)をCHOとHEKで発現させたときに(実際には、Fc-fusionプロテインとして発現させています)、両者には薬理動態的に大きな差異があり、その差異は糖鎖修飾の違いによるものだったというお話です。CHOで発現させたIL23の方が血中濃度が高くなります。
この実例は、糖鎖修飾の様子を変えてあげることで、バイオ医薬品に関してそのバイオベターが容易に開発できる可能性を示しています。

今日現在、如何なるバイオ医薬品が上市されているのかについては、国立医薬品食料衛生研究所の下記情報が参考になります。
承認されたバイオ医薬品

リストされているバイオ医薬品について、発現している典型的な糖鎖構造に関する記述があります。ご存知のように、糖鎖は非常にヘテロな集団ですので、記載されている糖鎖構造の派生構造が多様に発現しています。CHOらの発現系を使うと、100%単一な糖鎖構造が発現することはあり得ません。それにしても、バイオ医薬品として既に認可されている医薬品に発現している糖鎖構造について、それが薬効としてベストな構造としての選択を経た結果であるのか?それとも使用している発現系の結果としてそうなっているのか?については、ブログ管理人には全く不明です。
ブログ管理人が言いたいのは、つまり、すでに認可されているバイオ医薬品の糖鎖構造を再吟味することで、バイオベターが生まれる可能性は非常に高いのではないか?という事です。抗体医薬品に対しては、ポテリジェント技術が非常に有名ですが、酵素、血液凝固線溶系因子、ワクチン、ホルモン、インターフェロン、サイトカインらそれ以外のバイオ医薬品についても、それぞれの医薬品に対応して、その薬効をバイオベターとして生かせる糖鎖構造があるかも知れないということです。

糖鎖創薬は視点を変えるべし、これがバイオベターへの近道なのではないでしょうか?

トランプ大統領は米国が輸入半導体に100%の関税を課すと発表、ただし一部企業は免除と表明

トランプ大統領は米国が輸入半導体に100%の関税を課すと発表、ただし一部企業は免除

この発表は、日本に対しては非常に難しい問題になるのではないでしょうか?2nmノードの半導体生産(試作中)を進めるラピダスですが、工場は北海道内にあり、米国製造拠点を設けるという話は聞きません。国内半導体の大手であるルネサスやキオクシアにしても、米国に製造拠点はありません。ラピダスの場合は、IBMとの連携がありますが、トランプが言っているのは米国内に製造拠点を持つ、或いは米国に生産拠点の製造計画を表明している半導体企業は除くとなっているので、IBMは解決にならない可能性があります。

この状況では、NVIDIAら半導体設計の大手米国企業がラピダスに発注してくる可能性はなくなるでしょう。半導体のサプライチェーンの構築に際して、日米が政府レベルで連携でもしない限り、日本の半導体はまたもや窮地に陥りそうです。

人は速さに慣れると後には戻れない:世界最速の糖鎖プロファイラー GSL2200

世界最速の「エバネッセント波蛍光励起法」を採用する糖鎖プロファイラー”GSL2200”のご紹介です。

最高感度を実現するスキャン条件でもスライドグラス=1枚のスキャン時間はわずか10秒です。どのスキャン条件で最適画像が得られるかは、サンプルに依存するために、通常、幾つかのスキャン条件をセットしてスキャンを行います。
例えば、露光時間=1秒、2秒、4秒、6秒、8秒、10秒でスキャン条件を設定したとします。この場合でも、トータルのスキャン時間は、31秒で終わってしまいます。
通常のレーザースキャン型スキャナーでは、解像度の設定によってもスキャン時間は変わりますが、5分~10分といったところが標準的なスキャン時間になります。この状態で、幾つかのスキャン条件を設定してスキャンさせると、総スキャン時間が30分を超える場合すら出てきます。
GSL2200が如何に素早くスキャンできるかがお分かりになると思います。

解像度は大丈夫なの?とご心配されるかも知れませんが、実用上全く問題はありません。上図は、LecChipをスキャンした時の画像例を示しています。
検出限界感度も2ng/mLと十分高く、簡易的な糖鎖プロファイラーとして十分な性能を備えています。

糖鎖と糖鎖結合性タンパク質(GBPs)間の相互作用に着目した治療薬開発の可能性について

本記事は、スロバキア科学アカデミー化学研究所の研究者による「人における糖鎖の役割」に関するレビュー論文のご紹介です。
https://www.mdpi.com/1420-3049/30/13/2678

本論文では、糖鎖とセレクチン、ガレクチン、シグレックといった糖鎖結合性タンパク質(GBP)間相互作用を標的とした治療薬開発の可能性について以下のようにまとめています。糖鎖関連技術を社会実装する上でのポイントが簡潔にまとめられていると思います。

    1) 糖鎖-GBP相互作用の阻害剤、例えばUproleselan(グリコミメティクス)
    2) 糖鎖を標的とするモノクローナル抗体、例えばガングリオシドGD2を標的とするDinutuximab/Unituxin(国立がん研究所)およびNaxitamab/Danyelza(メモリアル・スローン・ケタリング癌センター)
    3) 病原菌および癌に対する糖鎖ベースのワクチン、例えばインフルエンザ菌b型に対する糖鎖ベースのワクチン(サノフィパスツール、ヒベリックス、メルク社製Pentacel)、そしてまた癌ワクチンとして、sTn抗原、ガングリオシドGM2、糖脂質グロボHおよびガングリオシドGM3を標的とするTheratope(バイオミラ)、GM2-KLH(メモリアル・スローン・ケタリング癌センター)、OPT-822(OBIファーマ)、およびRacotumomab(ハバナ分子免疫学センター)
    4) 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の効率化
    5) 糖転移酵素阻害剤(CPI)による糖鎖生合成の改変

ご参考になれば幸いです。

糖鎖関連ビジネスを成功させる為には何が必要なのか?

糖鎖は、核酸、タンパク質に次ぐ第三の生命鎖として注目されていることは周知の事実であります。

糖鎖の主な機能とは、(1)細胞認識、(2)細胞接着、(3)シグナル伝達、(4)タンパク質の機能調整、そして(5)免疫応答であると言われます。恐らくこれらの根幹にある機能は、自己と非自己の認識機能であると考えられます。糖鎖は細胞の顔と言われるように、細菌やエンベロープ型ウイルス、正常細胞と癌細胞、そしてまたES, iPSといった幹細胞らで大きく違っています。このような糖鎖の違いを認識する機能分子としてレクチンが存在しています。レクチンには、細胞膜上に発現するものと分泌型のそれがあります。細胞膜上に発現するレクチンの代表例は、C-型レクチンやSiglecであり、分泌型レクチンの代表例には、血中に存在するMBLやフィコリンがあります。C-型レクチンとしては、DC-SIGN, Langerin, Dectin-1, MGLなど数多くの種類が知られていて、その基本的な機能は、外来異物の糖鎖を認識し、自然免疫反応を誘起することであります。Siglecの場合は、発現する細胞はほとんどが免疫細胞であり、シアル酸を認識して免疫作用の調製に関与します(癌治療において、SiglecがPD-1同様に免疫チェックポイント分子になっていることが良く知られています)。MBL(これもC-型レクチンですが)らの分泌型レクチンは、血中を流れる外来異物の糖鎖を認識し、補体経路を活性化して自然免疫反応を誘起しています。

細胞接着という観点での代表例は、炎症が起こった時に血管内皮に発現するP-セレクチンと白血球上のシアロ糖鎖との相互作用、癌の転移能に糖鎖が関わっていること、更にはウイルスの感染と言った事例を上げることができます。最も代表的な例がインフルエンザウイルスの感染であり、ウイルスの持つヘマグルチニンと宿主細胞のシアル酸が結合することで、ウイルスエンベロープと宿主細胞間の細胞膜融合が誘起されます。SARS-CoV2の場合には、ウイルスのRBDと宿主細胞のACE-2が結合することが細胞膜融合を誘起するとされていますが、宿主細胞のC-型レクチンにSARS-CoV2の糖鎖が結合することで感染が誘起されるという経路も知られています。

シグナル伝達とタンパク質の機能調整ですが、殆どすべての膜たんぱく質には糖鎖修飾が存在することから、受容体とリガンドの結合に糖鎖が関係してしまうのはしごく当たり前な話であります。糖鎖が受容体とリガンドの結合に抑制的に働く場合もあれば、増強的に働く場合もあります。抑制的に働くのは糖鎖による結合阻害だとして容易に理解ができると思います。抑制的に働く例としては、IgGのFc部がコアフコース化されるとIgGとFcR間の相互作用が抑制されてADCC活性が下がる事例が有名です。増強的に働く例としては、免疫チェックポイント分子であるPD-1がコアフコース修飾されるとPD-1の発現が上昇しPD-L1との結合が強くなるというような事例を上げることができます。レクチンの中でもガレクチンは変り者で、細胞質、細胞膜、細胞外に存在します。分泌型のガレクチンは何をしているのでしょうか?一つの例は、FGFRに発現しているガラクシドに結合し、FGFが正規なリガンドであるとすれば、それをミミックするような機能を持っていたりもします。

このようにして糖鎖とレクチンの機能を概観してみると、攻めどころは下記になると考えられます。
1.診断薬応用
糖鎖は発現系であり、細胞の状態の違いを如実に反映しています。従って、新たな疾患バイオマーカーとなり得る可能性は非常に高くなります。しかしながら、糖鎖は非常にヘテロな集団ですし、似たような糖鎖構造がターゲット細胞以外でも発現している場合があるので、特異性が問題になります。対象疾患から分泌される特異的なタンパク質とその疾患に特異的な糖鎖を同時に測定することが特異性の改善につながります。更には、糖鎖は増幅することが困難であることから、感度も大問題になってきます。この二面性を包括的に解決できるような対象疾患を慎重に選択する必要があります。成功している検査薬には、AFP-L3やM2BPGiがありますが、両方とも肝臓疾患であり、さもありなんと思わせます。

2.医薬品応用
細胞内のシグナル伝達は、リガンドと受容体の相互作用が起点となって誘起されます。リガンドを糖鎖という言葉で置き換えた時の受容体はレクチンという事になります。従って、糖鎖とレクチンという関係性を持って誘導されるシグナル伝達は、レクチンが備えている機能に限定されてしまいます。つまり、大部分が自然免疫がらみの機能になるかと思います。それでも見込める効果が十分であれば、ここを突き詰めるだけで大成功する可能性があります。インフルエンザウイルスの特効薬であるタミフルはこの良い例です。但し、タミフルは,ウイルスが宿主細胞から別の細胞へと感染を広げる際に必要となるノイラミニダーゼを阻害することが作用機序なので、宿主細胞のシアロ糖鎖を暴漢から守ってるイメージです。ともあれ、この路線では、レクチンが認識しないような糖鎖構造の詳細解析を推し進めても効果が薄いことが想像されます。
生体内には、その他無数のリガンドと受容体の相互関係が存在します。例えば、上記したようなIgGとFcR、FGFとFGFR、PD-1とPD-L1といった関係性です。これらの関係性においては、誘起される細胞内シグナル伝達においては、糖鎖が直接的に関与するわけではなく、そのリガンドと受容体間の相互作用に調整役として間接的に働くということになります。例えば、IgGを脱フコースした抗体医薬品の技術はポテリジェント技術として極めて有名です。糖鎖を標的とする創薬というと、糖鎖がありとあらゆるところに存在するが故に、糖鎖が様々な生命現象に関与しているとして大風呂敷になりがちです。本ブログ管理人が考えるに、効率的に開発するためには、新規モダリティーにこだわるよりも、むしろ既存の医薬品に対して糖鎖修飾の違いがどのように影響を与えるのかをシアリダーゼらを駆使してスクリーニングした方が効果的であり、それによってより薬効の高い新薬(バイオベター)を発見できる可能性が高いのではないでしょうか。この視点では、最終的に糖転移酵素の制御がキーになる可能性もありますよね。

前立腺がん治療の分子標的候補にFUT-8が浮上

Newcastle University Centre for Cancer, Newcastle University Institute of Biosciences, Newcastle, UKらのグループは、FUT-8 は前立腺がんの治療における分子標的となる可能性があると報告しています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12086987/

本研究においては、FUT8は前立腺癌の進行の重要な因子であることが示されており、前立腺腫瘍におけるコアフコシル化のさらなる特徴解明の必要性が示唆されています。
前立腺がんの生物学的なFUT8の重要な役割を考えると、FUT-8が前立腺がん治療の分子標的となる可能性があると結論されています。

複数個のレクチンを使用して得られたLPSの糖鎖プロファイルに機械学習を適用して細菌種を同定するセンサー

Department of Chemistry, Pavillon Alexandre-Vachon, 1045, avenue de la Médecine, Université Laval, Quebec, Canadaのグループは、複数個のレクチンを用いたLipopolysaccharide (LPS)の糖鎖プロファイルとそれに機械学習と組み合わせた細菌種の検出法について報告しています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12019741/

グラム陰性細菌の主要構成成分であるLPSの検出と分類は、医療、環境モニタリング、食品安全といった分野において根幹を成す重要な課題です。

本研究では、表面プラズモン共鳴(SPR)センサー上に固定化された2種類から7種類のレクチンパネルを用いた新たなアプローチが示されています。細菌固有の糖鎖結合プロファイルに基づき、機械学習手法と組み合わせることで、細菌種を高精度に同定できています。使用した機械学習手法は、ランダムフォレスト(RF)、k近傍法(kNN)、サポートベクターマシン(SVM)です。

このようなマルチプローブと機械学習手法を組み合わせた検出手法は、センサー構築における最近のトレンドと言えるでしょう。

レクチンの応用は医療だけなのか?いや農業分野にも可能性はある!

Instituto de Química, Departamento de Química de Biomacromoléculas, Universidad Nacional Autónoma de México らのグループは、二枚貝から抽出される新しいレクチンのファミリー、mytilectin、について、その糖鎖結合特性と応用について報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0141813025028909?via%3Dihub

レクチンは、医療的な視点から、腫瘍細胞を標的とするプローブ分子や治療薬として評価されてきました。本論文では、医療応用ではない他分野、即ち農業分野における植物病原菌に対する生物防除剤としてレクチンを使用することを提案しています。

本論文では、作物の収穫に大きな影響を与える2種類の真菌と2種類の卵菌に対するmytilectinの抗真菌および抗卵菌活性が示されています。Mytilectinは、真菌の Alternaria alternata と Fusarium oxysporum、および卵菌の Phytophthora capsici と Pythium aphanidermatum の成長を完全に阻害しました。特に、mytilectinが市販の抗真菌制御剤 (CAPTAN) よりも優れた阻害特性を示すことは注目に値します。

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