ヒト内在性レクチンマイクロアレイ

Department of Life Sciences, Imperial College London, London, United Kingdomのグループは、ヒト内在性レクチンマイクロアレイについて報告しています。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)02371-8/fulltext

7つの異なる構造グループから、39個の異なる糖鎖結合性ドメインを持つヒト内在性レクチンマイクロアレイがこのグループによって開発されました。
次が搭載されているレクチンのグループとリストです。
MBP, SP-A, SP-D, Colk1
MMR CRD4, Langerin, DC-SIGN, DC-SIGNR, Prolectin, LSECtin, Endo180 CRD2, Mincle, Dectin-2, BDCS-2, Dectin-1
ASGPR1, ASGPR2, MGL, SRCL
Galectin-1, Galectin-2, Galectin-3, Galectin-7, Galectin-4N, Galectin-4C, Galectin-8C, Galectin-9N, Galectin-9C
Siglec-1, Siglec-3, Siglec-5, Siglec-7, Soglec-9, Siglec-11
Intelectin-1, Intelectin-2
MMR-CR, Ficolin-1, Chl3-L2

がん幹細胞をレクチンでより効果的に特定する

UMR INSERM 1308 CAPTuR, Faculty of Medicine, University of Limoges, Limoges, Franceらのグループは、より正確にがん幹細胞を検出する新しい方法について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41416-024-02839-9

植物レクチンの組み合わせ (MIX: UEA-1 および GSL-1) が、不均一な非小細胞肺がん (NSCLC) 集団からがん幹細胞を検出するための新しいアプローチとして検証されています。

がん幹細胞上に発現した糖鎖修飾パターンを認識するレクチンの組み合わせは、CD133よりもがん幹細胞の検出と選別においてより効率的であることが実証されています。
CD133は既知のがん幹細胞マーカーとして知られています。

高粘液粘性 (HMV) および非HMV 肺炎桿菌臨床分離株の表面糖鎖エピトープの違いをレクチンで見える化する

Department of Biological Physical Chemistry, Instituto de Química Física Blas Cabrera, Consejo Superior de Investigaciones Científicas, Madrid, Spainらのグループは、肺炎桿菌臨床分離株の自然免疫レクチン、シグレックやガレクチンを用いた認識について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11324429/

肺炎桿菌は、鼻咽頭や胃腸管に頻繁に定着する日和見細菌で、他の組織に侵入すると、特に免疫不全の人に重篤な感染症を引き起こす場合があります。
下図に示すように、シアル酸、ガラクトース、およびマンノースに特異的なレクチンによるこれらの細菌の認識には顕著な違い認められました。

排水処理で使用されるバクテリアが作り出すバイオフィルムについて

Department of Biotechnology, Delft University of Technology, The Netherlandsのグループは、排水処理で使用されるバクテリアが作り出すバイオフィルム(EPS)の解析について報告しています。
https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acsestwater.4c00247

DNAの複製やそのタンパク質への翻訳とは異なり、糖鎖の生合成は既存のテンプレート分子によって指示されるわけではありません。糖鎖の生成は、生合成機構、利用可能な糖ヌクレオチド、細胞内および細胞外環境からのシグナル伝達など、幾つかの要因によって決定されます。 従って、糖鎖の存在は動的であり、遺伝的要因と環境的要因の両方の影響を受けるが故に、EPS の糖鎖組成を研究することは非常に困難です。

通常、環境サンプル中の糖タンパク質を研究するアプローチには、個々の糖鎖構造を同定し、質量分析でタンパク質を更に特徴付けることが含まれます。一方、レクチンマイクロアレイは、タンパク質表面上の糖鎖のハイスループットなプロファイリングが可能であり、考えられるタンパク質の糖鎖修飾パターンのより広範なスクリーニングを可能にします。
本研究では、両方のアプローチを組み合わせることによって、糖タンパク質の包括的な理解が可能となり、構造的特徴付けと機能的意味の間のギャップを埋めることができると結論付けています。

大腸がんから分泌されるエクソソームの糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイで検査する

State Key Laboratory of Electroanalytical Chemistry, Changchun Institute of Applied Chemistry, Chinese Academy of Sciences, Changchun, Chinaのグループは、レクチンマイクロアレイを用いたエクソソームの糖鎖プロファイリングについて報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003267024006202?via%3Dihub

この研究では、レクチンマイクロアレイを用いて、3つの大腸がん細胞株 (SW480、SW620、HCT116) と1つの正常結腸上皮細胞株 (NCM460) の間のエキソソーム表面の比較糖鎖プロファイリング解析が行われています。その結果、UEA-Iレクチンを使用することで、SW480大腸がん細胞由来のエクソソームの異常な糖鎖修飾を検出できることが示されました。

さらに、この実験では、UEA-I レクチンマイクロアレイの検出限界感度 (LOD) は 2.7 × 105個/mLと計算されました。

遺伝子治療のベクターとして使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質の糖鎖修飾をレクチンマイクロアレイで調べた

大阪大学大学院工学研究科高分子バイオテクノロジー領域の研究グループは、遺伝子治療で使用されるリコンビナント・アデノ随伴ウイルス6(rAAV6)カプシドタンパク質の糖鎖修飾について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11107246/

本研究では、遺伝子治療に使用される組換えアデノ随伴ウイルス (rAAV) の糖鎖修飾を、レクチン マイクロアレイによって評価しています。
結果として、rAAV6 は主にムチン様O-型糖鎖、O-GalNAc (Tn 抗原)、およびモノシアル化およびジシアル化 Galβ1-3GalNAc (T 抗原) によって O-グリコシル化されていることが判明しました。

本研究の目的は、rAAV6を用いた遺伝子治療に対して、免疫原性という観点での安全性、およびベクターとしての全体的な形質導入効率の観点において、rAAV6 の糖鎖修飾がどのような影響を与える可能性があるかどうかを評価することでした。
しかし、残念ながら、ムチン様O-型糖鎖修飾の形質導入効率に対する直接的な影響を評価することは本研究でもまだできていないようです。

T-抗原が神経膠芽腫のマーカーになりうるのか?

Department of Neurosurgery, the First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Hefei, Chinaのグループは、T 抗原が、神経膠芽腫患者の無増悪生存期間のバイオマーカーとなる可能性があると報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acn3.52082

彼らは、レクチンマイクロアレイ(11種のレクチンを搭載)を用いた研究から、Jacalinで検出した血清中T-抗原レベルが神経膠芽腫組織のレベルと正の相関があり、神経膠芽腫再発を予測する無増悪生存期間の非侵襲性バイオマーカーとして使用できる可能性があると結論づけています。

しかしながら、Jacalinの糖鎖結合特異性は、GlcNAcβ1-3GalNAc (Core3)、Siaα2-3Galβ1-3GalNAc (シアリル T)、Galβ1-3GalNAc (T-抗原)、α- GalNAc (Tn-抗原)と非常にブロードであり、PNAはGalβ1-3GalNAc (T-抗原) に対して高い結合特異性を持っているにも関わらず、神経膠芽腫を有意に識別できていないことから、ブログ著者は、彼らの結論には問題があると考えています。

レクチンマイクロアレイと機械学習を組み合わせるのが流行りなのか

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Chinaらのグループは、病態の早期発見に対する有効性を強調しながら、血中の糖タンパク質の糖鎖プロファイルをレクチンマイクロアレイに機械学習を組み合わせて評価する方法を説明しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38698681/

近年、中国からの論文が急増しており、論文検索でも日本の論文が見つかる確率はずいぶん下がってしまいました。
本論文では、非アルコール性脂肪性肝疾患の早期発見の為に、血中糖タンパク質の糖鎖プロファイルをマーカーとし、レクチンマイクロアレイに機械学習を組み合わせた方法が提唱されています。

しかしながら、この手の手法は、6年ほど前に既に我々の手によって開発されており、対象は違いますが、その優れた有効性が実証されています。
下記の例では、細胞が培地中に分泌する糖タンパク質に対してレクチンマイクロアレイとDeep Learningを用いることで対象とする細胞の特徴評価を高精度に行うことが出来ることが実証されています。
レクチンマイクロアレイとDeep Learningを組み合わせる

レクチンマイクロアレイとAIを組み合わせて、N-型糖鎖の詳細構造解析を行う

Department of Bioengineering, University of California, San Diego, La Jolla, CA 92093, USAらのグループは、レクチンとAIを用いたアプローチにより、N型糖鎖の構造を予測し、レクチン結合パターンに基づいて精製タンパク質中のN型糖鎖の相対存在量を決定する方法について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.03.27.587044v1

この方法は、評価する系が限られている場合にはそこそこ使えますが、汎用的にアプライするには問題が多いです。

類似の方法は、Mxで5年前にDeep Learningをコア技術として使用する”SA/DL Easy”と名付けられたソフトとして作成済みで、これを使うと同じようなことはすぐにできます。
問題なのは教師データを作るというか、構造がきちんと同定された発現糖鎖構造を多数用意し、糖鎖プロファイルを取得するという地味な作業にあります。
https://www.emukk.com/SADL-Easy/index.html

トリプルネガティブ乳がんをエクソソームの糖鎖プロファイリングから診断する

Beijing Engineering Research Center for BioNanotechnology, CAS Key Laboratory of Standardization and Measurement for Nanotechnology, National Center for Nanoscience and Technology, Beijing, Chinaらのグループは、トリプルネガティブ乳癌を診断する為にエクソソームの糖鎖プロファイリングの変化を使用しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10937950/

3種類のレクチン(ConA, WGA and RCA I)のパネルをTNBCに特異的なエクソソームの糖鎖プロファイリングを検出する為に使用しています。
結果として、これら3種類のレクチンの加重和を用いることで、TNBCを他の乳癌(BC)や健常者(HD)からAUC=0.91という値を持って区別することが出来たとのことです。