レクチンマイクロアレイとAIを組み合わせて、N-型糖鎖の詳細構造解析を行う

Department of Bioengineering, University of California, San Diego, La Jolla, CA 92093, USAらのグループは、レクチンとAIを用いたアプローチにより、N型糖鎖の構造を予測し、レクチン結合パターンに基づいて精製タンパク質中のN型糖鎖の相対存在量を決定する方法について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.03.27.587044v1

この方法は、評価する系が限られている場合にはそこそこ使えますが、汎用的にアプライするには問題が多いです。

類似の方法は、Mxで5年前にDeep Learningをコア技術として使用する”SA/DL Easy”と名付けられたソフトとして作成済みで、これを使うと同じようなことはすぐにできます。
問題なのは教師データを作るというか、構造がきちんと同定された発現糖鎖構造を多数用意し、糖鎖プロファイルを取得するという地味な作業にあります。
https://www.emukk.com/SADL-Easy/index.html

トリプルネガティブ乳がんをエクソソームの糖鎖プロファイリングから診断する

Beijing Engineering Research Center for BioNanotechnology, CAS Key Laboratory of Standardization and Measurement for Nanotechnology, National Center for Nanoscience and Technology, Beijing, Chinaらのグループは、トリプルネガティブ乳癌を診断する為にエクソソームの糖鎖プロファイリングの変化を使用しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10937950/

3種類のレクチン(ConA, WGA and RCA I)のパネルをTNBCに特異的なエクソソームの糖鎖プロファイリングを検出する為に使用しています。
結果として、これら3種類のレクチンの加重和を用いることで、TNBCを他の乳癌(BC)や健常者(HD)からAUC=0.91という値を持って区別することが出来たとのことです。

前立腺がんをエクソソームのシアル酸で検査するというが

Institute of Chemistry, Slovak Academy of Sciences, Bratislavaらのグループは、前立腺がんの検出に、CD63/エクソソーム/SNAレクチンというサンドイッチ法を使用した結果について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10892626/

本研究では、前立腺がん細胞によって産生されるエクソソームが、前立腺がんを検出するための新しいバイオマーカーと成り得るとしています。

良性(コントロール)細胞株RWPE1 および前立腺がん細胞株22Rv1によって産生されるエクソソームの比較から、次のことが示されました。
(1) コントロールのエクソソームは主にSNAおよびMAAIIレクチンと相互作用し、しかしながらその反応はがん性エクソソームよりも低い値となり、また
(2) PHA-LとPHA-Eレクチンは、コントロール由来のエクソソームとはわずかに反応し、がん性エクソソームとは相互作用しませんでした。
通常、完全にシアリル化された N-型糖鎖ではPHA-LやPHA-Eのシグナル強度が消失するため、この結果は非常に合理的です。つまり、シアル酸修飾がコントロールのエクソソームよりもがん性エクソソームで強いことを示しています。

しかし、本ブログ著者は、エクソソームは一般に強くシアリル化されており、CD63 は前立腺がん細胞によって生成されるエクソソームを他のエクソソームから区別できないことから、サンドイッチ構成、つまり抗体/エクソソーム/レクチンで前立腺がんを検査できるという本論文の結論には懐疑的です。

浸潤性の膀胱がんは、VVAレクチンで特異的に認識される

岐阜大医学部泌尿器科らのグループは、浸潤性の膀胱がんに見られる特異的な糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10806140/

本研究では、VVL(VVAレクチン)が浸潤性膀胱がん癌の症例に存在することが判明しました。浸潤性膀胱がんでは、非浸潤性膀胱がんよりも強いVVL染色が観察されました。

VVLは、ポリペプチドTn抗原内のセリンまたはスレオニンに結合したGalNAc残基を認識します。 Galβ1,3GalNAc-α-Ser/Thr (T抗原) や GlcNAcα1,6-GalNAc-α-Ser/Thr (末端 α1,4- および β1,4-結合 GalNAc を含む) などの他の糖鎖構造にもVVLは結合しますが、その親和性は低くなります。

本研究成果から、VVLが将来の臨床研究におけるDDSの有望なターゲットとして機能する可能性が在ることが示唆されました。

IgG1抗体医薬品評価用のレクチンマイクロアレイ(IgG1-mAb-LecChip: 9 lectins x 14 wells)が生まれた系譜

2011年
同年11月、FDAに治療用タンパク質のQCに関する特別チームがDr. Baolin Zhangをリーダーとして発足する。
タンパク質の糖鎖修飾に焦点を当て、特にバイオシミラータンパク質製品の評価に関連して、製品の安全性と生物活性に対する影響を評価することを目的とする。
目標は、治療用タンパク質の品質をより適切に評価するために使用できる分析ツールを特定または開発することにある。

2012年
GPバイオサイエンスの糖鎖プロファイリングシステムGlycoStation(GSR1200とLecChip)についてFDAより見積依頼を受け、同年7月、三者(Dr. Baolin Zhang、本ブログ著者、GPバイオサイエンスの米国代理店社長合田様)がFDAにて会合を持つ。

2013年
同年10月、グライコテクニカによりGSR1200がFDAに納入設置され、抗体医薬品の評価がLecChip Ver1.0を用いてFDAにてスタートする。

2016年
その成果がFDAより2本の論文となって発表される。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19420862.2015.1117719
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19420862.2016.1149662

2017年
同年7月、抗体医薬品評価用に最適化されたLecChipの開発について、FDAにてキックオフミーティングが開催される(Dr. Baolin Zhang, Dr. Shen Luo, Dr. Lei Zhang、そして本ブログ著者)
合意した14ウェル・18レクチン搭載のLecChipをモデルとして、2019年末から2020年末にかけて数百枚のLecChipが評価用に出荷される。

2021年
同年6月にGlycoStationの最新鋭機GSR2300がFDAに納入設置される。

2022年
同年3月、83種類のレクチンから最終的に9種類が厳選され、9レクチン・14ウェルLecChip最終版(IgG1-mAb-LecChip: 9 lectins x 14 wells)がFDAに出荷される、

2023年
1月6日、本ブログ著者が合同会社エムックを設立登記し、FDAとの関係を継承する。
FDAより研究成果が論文として出版される。
https://link.springer.com/article/10.1007/s11095-023-03628-4
9レクチンを搭載するIgG1-mAb-LecChipに関する成果は、同年6月開催のFDAのサイエンスフォーラムで先行発表される。
https://www.fda.gov/science-research/fda-science-forum/rapid-glycan-profiling-nine-lectin-microarray-therapeutic-igg1-monoclonal-antibodies

2024年
同年1月、9レクチンを搭載するIgG1-mAb-LecChipに関する本論文が出版される。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19420862.2024.2304268

本論文が出ました:FDAはIgG1抗体医薬品用として9種類のレクチンを搭載した新規レクチンマイクロアレイを開発し、その迅速な糖鎖プロファイリングを推奨

FDAのmAb医薬品(IgG1)評価用の専用レクチンマイクロアレイ(9種類のレクチンを搭載した14ウェル型のレクチンマイクロアレイ)に関する本論文が出版されました。
2023年12月8日のMxブログ記事に関する本論文です。
https://www.tandfonline.com/doi/epdf/10.1080/19420862.2024.2304268?needAccess=true

本論文で使用されている9種類のレクチンとその糖鎖結合特異性を下記に纏めます。
rPhoSL -> core fucose
PHAE -> bisecting GlcNAc
PHAL -> tri/tetra antennary
MAL_I -> α2-3Sia
rPSL1a -> α2-6Sia
RCA120 -> β-Gal
rOTH3 -> terminal GlcNAc
rMan2 -> high mannose
rMOA -> α-Gal
なお、レクチン名の頭に”r”が付いているものはリコンビナント体であることを示します。
rOTH3, rMan2は正式名ではありません。
正式名が何であるかについては、本ブログ著者にお問い合わせください。

妊娠しているかいないかを尿の糖鎖修飾変化で読み取る

Shaanxi Key Laboratory for Animal Conservation, College of Life Sciences, Northwest University, Chinaらのグループは、尿中の糖鎖修飾変化から妊娠しているかいないかを診断する可能性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10783609/

本研究では、レクチンマイクロアレイを使用して、ゴールデンスナブノーズサル (GSM) の尿中の糖鎖修飾パターンの違いが調査されています。 N-型糖鎖の種類、量、構造、N-型糖鎖のシアリル化とフコシル化の割合は、妊娠女性と非妊娠女性、および(非妊娠)女性と男性の間で異なることが示されています。この方法は、妊娠の診断や性別識別のための参考情報を提供し、動物の管理に役立つかも知れません。

ここで、pregnant (P)、non-pregnant (NP) females, および females (F)、males (M)であることを示す

「土を育てる」ゲイブ・ブラウンが面白すぎる

この本が面白すぎます。
“土を育てる:自然をよみがえらせる土壌革命”

スマート農業とか、環境再生型農業とか、カーボン・ファーミングとか、次世代の農業を特徴づける幾つかのキーワードがあります。
スマート農業について、例えば、農林水産省が掲げる施策があります。
“スマート農業の展開について”

環境再生型農業という言葉は、割と実現したいことを的確に表現しているので、敢えて関連リンクを張ることはしませんが、地球環境を維持しながら持続可能な農業を実現するということです。
これがまさにゲイブ・ブラウンの「土を育てる」という本に書かれています。

カーボン・ファーミングという言葉はとても分かりにくいです。
例えば、同じく農林水産省の報告書があります。
“カーボン・ファーミングに関する報告書(最終版)”
これは同じく環境再生型農業と言っても、植物の生産性を上げるということ自体よりも、地球温暖化を抑え込むためのCO2の排出削減が主たる課題となっているものと理解しています。

スマート農業から話を始めましょう。
スマート農業というのは、農業の担い手の減少と高齢化の進行により労働力不足が深刻な問題となってきたというのが基本的な発端であり、農業の自動化を進めようというのが出発点です。
自動化を進めようとすると、第二次産業が見本ですが、作業の標準化とマニュアル化が必要になってきます。
それに比べて第一次産業である農業は、まだまだ「匠の技」の世界です。
従って、農業に関するあるとあらゆる現象を数値化してデータベース化し、そこに潜む関連性を作業のアルゴリズムに落とす必要があります。
最近のはやりで、そこをAIにやらしてしまえ~~というのがスマート農業の「スマート」の意味ですよね。

しかし、数値化するのは良いのですが、
本当に必要なものを数値化しているのか?
技術的に数値化しやすいものだけ数値化して満足してないか?
環境再生型農業の実現には最も大事なことなのに数値化が難しいからと細菌のそれを無視してないか?
というところに大問題があるのです。
この答えが、ゲイブ・ブラウンの「土を育てる」に書かれています。

植物と微生物の共生関係、ここをきちんと数値化できていないスマート農業なんて意味ありません。
ゲイブ・ブラウンは、土の5原則を示しています。
1.土を耕さない
2.土をカバークロップで覆う
3.あらゆる面で多様性を高める
4.土の中に生きた根を持つ
5.動物を組み込む
この意味は、この本を読むと良く分かります。

自分は、見えない根圏細菌・土壌細菌のON-SITEでの見える化を推進しています。
その時のキーワードは「安価、短時間測定、実用感度、簡単な操作」ということになります。
これ無くしては、スマート農業も環境再生型農業もカーボン・ファーミングも実現が遠のきます。

FDAはIgG1抗体医薬品用として9種類のレクチンを搭載した新規レクチンマイクロアレイを開発し、その迅速な糖鎖プロファイリングを推奨

FDAは、IgG1抗体医薬品の糖鎖エピトープを評価するために、9種類のレクチンを搭載した新規レクチンマイクロアレイを開発し、GlycoStation Reader 2300(GSR2300)と組み合わせた迅速な糖鎖プロファイリングの有効性を示しました。
https://www.fda.gov/media/169026/download
2023 FDA Science Forum

FDAの開発した新規レクチンマイクロアレイ(IgG1-mAb-LecChip)には、rPhosL, rOTH3, RCA120, rMan2, MAL_I, rPSL1a, PHAE, rMOA, PHELという9種のレクチンが固定化されており、標準的な14ウェルのLecChipフォーマットが使用されています。
IgG1モノクロナール抗体の糖鎖解析は、レクチンマイクロアレイでは糖鎖を切り出すことなく解析が可能であり、IgG1のインタクトで迅速な糖鎖プロファイリング解析が可能となっています。
FDAは、IgG1-mAb-LecChipとGlycoStationを使うことにより、IgG1抗体医薬品の開発時に、バッチ間またはバイオシミラーから先発品までの糖鎖修飾の比較分析がより簡便にハイスループットで行えるものとして製薬メーカーにその使用を推奨しています。

下図には、GlycoStationとLecChip(n=74 library)を用いて、IgG1の糖鎖解析に最適化されたIgG1-mAb-LecChipが開発された様子が示されています。

本技術の有効性を示す実例として、Infliximab先行品とそのバイオシミラーの間の糖鎖構造の違いをIgG1-mAB-LecChipとGSR2300を用いて評価した結果が下図に示されています。High Mannose構造、シアル酸修飾、3分岐N-型糖鎖らの存在量に顕著な違いがあることが一目瞭然で分かります。

PAA-糖鎖を癌細胞へのターゲティングに使用し、光照射で細胞毒性活性酸素種を放出させて癌細胞を選択的に殺す

School of Chemistry, University of East Anglia, Norwich Research Park, Norwich, UKらのグループは、糖鎖とレクチンの相互作用と光線力学的治療を組み合わせたDDSについて報告しています。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/NA/D3NA00544E

レクチンの発現は、細胞の健康状態で変化する可能性があります。
例えば、癌では、糖鎖とタンパク質の相互作用は免疫チェックポイントとしても、癌転移時の新しい組織への再付着を回避する上で重要な役割を果たします。癌細胞では、増殖の増加により代謝も増加しており、その影響は糖鎖トランスポーターの増加にも反映されます。
乳癌細胞の場合には、ガレクチン、グルコーストランスポーター、マンノース受容体など、重要なレクチンと糖鎖結合受容体が上方制御されていることが分かっています。

新しい癌治療のDDSとして、PAA-糖鎖と光増感剤クロリンe6のアミン誘導体を金ナノ粒子上に化学的に結合されたものが開発されました。
PAA-糖鎖は標的のがん細胞に対する標的分子として機能し、光増感剤は特定の波長の光で活性化すると細胞傷害性活性酸素種を放出してがん細胞を死滅させます。