野菜のエクソソームを用いたSARS-CoV-2抗ウイルス薬

Nebraska Center for Virology, University of Nebraska-Lincoln, NE 68583, USAらのグループは、シイタケのエクソソームから発見されたレクチンについて報告しています。
https://www.mdpi.com/1999-4915/16/10/1546

15種類の地元野菜から、エクソソームを超遠心分離によって分離しました。これらのエキソソームに対して、in vitro 疑似ウイルス プラットフォームを使用して、SARS-CoV-2感染に対する抗ウイルス活性を評価しています。
標準的なMTT法を使用したこれらエクソソームの細胞毒性は、15個のサンプルすべてが 1 × 10^10/mL のエクソソーム濃度でも有意な細胞毒性を示さないことが示されました。これらの中で、シイタケから取得したエクソソームの抗ウイルス活性が最も強く、そのEC50値は、5.2 × 10^8/mLとなりました。
エキソソームのプロテオーム解析から、シイタケ エクソソームのレクチン(シクチンと命名)が抗ウイルス活性に寄与していることが確認され、SARS-CoV-2 オミクロン変異体に対して IC50=87 nMという強力な活性を示しました。また、シクチンはC-型レクチンであり、GlcNAcに結合することも確認されました。

ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、レクチン染色の様子が大きく異なる

岐阜大学医学部らのグループは、 ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、グライコカリックスのレクチン染色の様子が大きく異なると報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0344033824005715?via%3Dihub

驚くべきことに、凍結組織標本とホルマリン固定組織標本との間ではレクチン染色所見に多くの差異があることが判明し、これはFFPE処理がレクチン受容体に影響を及ぼし、凍結切片の方が正確なレクチン染色の情報を与えることが示唆されました。

凍結組織標本のレクチン染色から、以下のことが判明しました。
正常な肝細胞は、PNA、RCA I、SBA、UEA I、GSL I、サクシニル化WGA、ECL、GSL II、STL、および VVL に対して強い陽性染色を示す。
対照的に、肝細胞癌サンプルは DSL および GSL II に対して強い陽性を示す。
正常な肝細胞は複数のGalNAc関連レクチン (PNA、SBA、GSL I、および VVL) に対して陽性ですが、これらは肝細胞癌サンプルでは検出されない。

また、結腸直腸癌の肝転移では、DBAおよびUEA I 染色が強く陽性であり、黒色腫肝転移では、ConA、WGA、サクシニル化WGA、および GSL II が強く発現していました。

2024年のノーベル物理学賞に甘利俊一先生が入っていないのは変だ

2024年のノーベル物理学賞をニューラルネットワークに貢献した2名の科学者が受賞したのは周知の事実です。
自分が富士通に在籍していた時期、ニューラルネットワークの先駆けとなる甘利俊一先生の論文を読み、将来のコンピューターとしての可能性を熱く仲間と語り合っていたことを思い出し、甘利先生が受賞者に入っていないことにとても違和感を覚えました。
因みに、当時のパソコンの能力では、ニューラルネットワークをソフトウェアーとして実現するには無理があり、ハードウェアーとしての構築を仲間とともに考えていました(笑)。

甘利先生の先駆的な研究:
1.A Theory of Adaptive Pattern Classifiers、1967年
2.Characteristics of randomly connected threshold-element networks and network systems、1971年
3.Learning Patterns and Pattern Sequences by Self-Organizing Nets of Threshold Elements、1972年
4.Characteristics of Random Nets of Analog Neuron-Like Elements、1972年

ヒト内在性レクチンマイクロアレイ

Department of Life Sciences, Imperial College London, London, United Kingdomのグループは、ヒト内在性レクチンマイクロアレイについて報告しています。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)02371-8/fulltext

7つの異なる構造グループから、39個の異なる糖鎖結合性ドメインを持つヒト内在性レクチンマイクロアレイがこのグループによって開発されました。
次が搭載されているレクチンのグループとリストです。
MBP, SP-A, SP-D, Colk1
MMR CRD4, Langerin, DC-SIGN, DC-SIGNR, Prolectin, LSECtin, Endo180 CRD2, Mincle, Dectin-2, BDCS-2, Dectin-1
ASGPR1, ASGPR2, MGL, SRCL
Galectin-1, Galectin-2, Galectin-3, Galectin-7, Galectin-4N, Galectin-4C, Galectin-8C, Galectin-9N, Galectin-9C
Siglec-1, Siglec-3, Siglec-5, Siglec-7, Soglec-9, Siglec-11
Intelectin-1, Intelectin-2
MMR-CR, Ficolin-1, Chl3-L2

ヒューマングライコームアトラスへのレクチン・フィルター機能の搭載はどうだろう

本ブログ記事は、いつもの論文紹介とはちょっと違います。日本の大規模プロジェクトである「ヒューマングライコームアトラス」への本ブログ著者のつぶやきです。

ヒューマングライコームアトラスができた時に、レクチンのフィルター機能を追加してみてはどうでしょうか?即ち、MS解析によって網羅的に構造決定した糖鎖の発現状況に対して、各種のレクチンの糖鎖結合特異性と言うフィルターをかけられるようにしてみるということです。そうすると、レクチンにはそれら糖鎖の発現状態がどういう風に見えるのか?がクリヤに「見える化」されると思います。

ヒトが視覚的に糖鎖構造の違いとしてみているものの多くは、実際には体内での生化学反応にあまり意味がないものである可能性があるのではないでしょうか。体内で、どんな糖鎖構造の違いが、糖鎖の翻訳者であるレクチンによって「どの位意味深な差として認識されているのか?」ということがとても大切であり、それを見える化できる「レクチン・フィルター」が存在すれば、とても有効なアトラスになるのではないか?という問いかけです。医療への応用という観点からは、レクチン・フィルターとしては、ヒトの内在性レクチンを網羅すると、より実践的だろうと思います。例えば、DC-SIGNフィルターとか、MGLフィルターとか、Dectin-1フィルターとか、Siglecフィルターとか、Galectinフィルターというようなフィルターセットなのです。逆に、ヒトの内在性レクチンとは糖鎖の認識能が異なるレクチン・フィルターがあれば、思わぬ応用が開ける可能性もあるかも知れません。

がん幹細胞をレクチンでより効果的に特定する

UMR INSERM 1308 CAPTuR, Faculty of Medicine, University of Limoges, Limoges, Franceらのグループは、より正確にがん幹細胞を検出する新しい方法について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41416-024-02839-9

植物レクチンの組み合わせ (MIX: UEA-1 および GSL-1) が、不均一な非小細胞肺がん (NSCLC) 集団からがん幹細胞を検出するための新しいアプローチとして検証されています。

がん幹細胞上に発現した糖鎖修飾パターンを認識するレクチンの組み合わせは、CD133よりもがん幹細胞の検出と選別においてより効率的であることが実証されています。
CD133は既知のがん幹細胞マーカーとして知られています。

高粘液粘性 (HMV) および非HMV 肺炎桿菌臨床分離株の表面糖鎖エピトープの違いをレクチンで見える化する

Department of Biological Physical Chemistry, Instituto de Química Física Blas Cabrera, Consejo Superior de Investigaciones Científicas, Madrid, Spainらのグループは、肺炎桿菌臨床分離株の自然免疫レクチン、シグレックやガレクチンを用いた認識について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11324429/

肺炎桿菌は、鼻咽頭や胃腸管に頻繁に定着する日和見細菌で、他の組織に侵入すると、特に免疫不全の人に重篤な感染症を引き起こす場合があります。
下図に示すように、シアル酸、ガラクトース、およびマンノースに特異的なレクチンによるこれらの細菌の認識には顕著な違い認められました。

排水処理で使用されるバクテリアが作り出すバイオフィルムについて

Department of Biotechnology, Delft University of Technology, The Netherlandsのグループは、排水処理で使用されるバクテリアが作り出すバイオフィルム(EPS)の解析について報告しています。
https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acsestwater.4c00247

DNAの複製やそのタンパク質への翻訳とは異なり、糖鎖の生合成は既存のテンプレート分子によって指示されるわけではありません。糖鎖の生成は、生合成機構、利用可能な糖ヌクレオチド、細胞内および細胞外環境からのシグナル伝達など、幾つかの要因によって決定されます。 従って、糖鎖の存在は動的であり、遺伝的要因と環境的要因の両方の影響を受けるが故に、EPS の糖鎖組成を研究することは非常に困難です。

通常、環境サンプル中の糖タンパク質を研究するアプローチには、個々の糖鎖構造を同定し、質量分析でタンパク質を更に特徴付けることが含まれます。一方、レクチンマイクロアレイは、タンパク質表面上の糖鎖のハイスループットなプロファイリングが可能であり、考えられるタンパク質の糖鎖修飾パターンのより広範なスクリーニングを可能にします。
本研究では、両方のアプローチを組み合わせることによって、糖タンパク質の包括的な理解が可能となり、構造的特徴付けと機能的意味の間のギャップを埋めることができると結論付けています。

大腸がんから分泌されるエクソソームの糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイで検査する

State Key Laboratory of Electroanalytical Chemistry, Changchun Institute of Applied Chemistry, Chinese Academy of Sciences, Changchun, Chinaのグループは、レクチンマイクロアレイを用いたエクソソームの糖鎖プロファイリングについて報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003267024006202?via%3Dihub

この研究では、レクチンマイクロアレイを用いて、3つの大腸がん細胞株 (SW480、SW620、HCT116) と1つの正常結腸上皮細胞株 (NCM460) の間のエキソソーム表面の比較糖鎖プロファイリング解析が行われています。その結果、UEA-Iレクチンを使用することで、SW480大腸がん細胞由来のエクソソームの異常な糖鎖修飾を検出できることが示されました。

さらに、この実験では、UEA-I レクチンマイクロアレイの検出限界感度 (LOD) は 2.7 × 105個/mLと計算されました。

遺伝子治療のベクターとして使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質の糖鎖修飾をレクチンマイクロアレイで調べた

大阪大学大学院工学研究科高分子バイオテクノロジー領域の研究グループは、遺伝子治療で使用されるリコンビナント・アデノ随伴ウイルス6(rAAV6)カプシドタンパク質の糖鎖修飾について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11107246/

本研究では、遺伝子治療に使用される組換えアデノ随伴ウイルス (rAAV) の糖鎖修飾を、レクチン マイクロアレイによって評価しています。
結果として、rAAV6 は主にムチン様O-型糖鎖、O-GalNAc (Tn 抗原)、およびモノシアル化およびジシアル化 Galβ1-3GalNAc (T 抗原) によって O-グリコシル化されていることが判明しました。

本研究の目的は、rAAV6を用いた遺伝子治療に対して、免疫原性という観点での安全性、およびベクターとしての全体的な形質導入効率の観点において、rAAV6 の糖鎖修飾がどのような影響を与える可能性があるかどうかを評価することでした。
しかし、残念ながら、ムチン様O-型糖鎖修飾の形質導入効率に対する直接的な影響を評価することは本研究でもまだできていないようです。

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