植物成長促進効果を発揮する善玉菌としてのバチルス菌の根圏への定着と活性化を促す方法:SynComとPrebiotics

College of Resources and Environmental Sciences, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Chinaらのグループは、植物におけるバチルス菌の生体防御メカニズムについてレビューしています。
https://ami-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1751-7915.14348

良く知られているように、バチルス菌は、持続可能な環境再生型農業を実現するために、植物病害の生物的防除として広く使用されて来ています。

植物の「Cry for Help」メカニズムとは、植物が特定のシグナルを出して、植物の健康を増進してくれる有益な微生物を呼び集めることで病原体の攻撃から自分を守る仕組みを指します。この仕組みは、免疫細胞がサイトカイン/ケモカインを分泌することで免疫細胞をさらに動員し、免疫を活性化するという人間の免疫とよく似ています。
根からの浸出液は、植物の病気に反応して善玉菌を動員するのに非常に重要であり、L-リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、トリプトファン、トレオン酸、リジン、ペクチン、キシラン、アラビノガラクタンらが重要な浸出液として知られています。

植物病害の生物的防除のためのバチルス菌の使用は、冒頭で記したように世界中で一定の利益を達成しています。しかし、バチルス菌をフィールド条件下で実際に利用した場合に、その病害抑制効果が不安定であることが問題となっています。それは、土壌の特性、植物の遺伝子型、土着の微生物叢などの複雑で動的な要因がすべて、接種されたバチルス菌の定着と機能的有効性に影響を与えるからです。

この問題を解決するために、現在までに2種類の方法が提案されています。
ひとつは、「SynCom」と呼ばれる方法を使用することです。これは、バチルス、バークホルデリア、エンテロバクター、シュードモナス、およびアシネトバクターといった善玉菌から幾つかのキーストーン株を使用して構築された細菌コンソーシアムを使用するという方法です。
もうひとつは、いわゆる「Prebiotics」を活用することです。上で述べたように、根の浸出液から放出される特定のシグナルがバチルス菌を動員し、その活動を誘導します。従って、人間の腸内で有益な細菌を刺激するために広く応用されている方法と同様に、バチルス菌の動員や活性化に関連する化合物は、バチルス菌の根への定着と生物制御性能を高めるためのPrebioticsとして使用できます。この観点に立てば、スクロース、L-グルタミン酸、リボフラビンらの土壌への添加は、善玉菌であるバチルス菌の根圏定着を促進するためのPrebioticsとして使用できる可能性があります。

それにしても、まず必要なことは、根圏のバチルス菌を「見える化」して、経験則からの脱却を図る事でしょう。

薬剤耐性を持つシュードモナス・アルギノーザ株と持たない株の比較糖鎖プロファイリング

Laboratory of Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Xi’an, Shaanxi, Chinaらのグループは、薬剤感受性を持つシュードモナス・アルギノーザ株(DSPA)と薬剤耐性を持つシュードモナス・アルギノーザ株(CRPA)間の比較糖鎖プロファイリング解析を行っています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37861315/

カルバペネム薬剤耐性に関連する重要な糖鎖パターンを同定することを目的として、レクチンマイクロアレイを使用して、臨床分離株から得られた53種の薬剤感受性を持つDSPA株と57種のカルバペネム薬剤耐性を持つCRPA株の間の比較糖鎖プロファイリング解析を行っています。

本実験では、Cy3で蛍光標識された細菌のホールセルライセートをレクチンマイクロアレイにアプライして、細菌の糖鎖プロファイルを取得しています。

その結果、LCAレクチンがDSPAとCRPAの間の細菌表面の糖鎖構造の発現差を見分ける上で強力なバイオマーカーになり得ることを発見しています。

根圏細菌を「見える化」することで環境再生型農業実現の指標作りを目指す

この度は大変お忙しい中、農業WEEK東京展での弊社ブースにお越し頂きありがとうございます。

ブースでは根圏細菌を簡易、安価、短時間で「見える化」することが出来る光バイオームセンサーをご説明させて頂きましたが、ご参考になれば幸いでございます。
ご不明点がございましたら、お気軽にこちらのメールアドレス(info@emukk.com)へお問い合わせください。

今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

豚鞭虫の排泄ー分泌物のN-型糖鎖と免疫系との相互作用

Institut für Biochemie, Department für Chemie, Universität für Bodenkultur, Wien, Austriaらのグループは、豚鞭虫のN-型糖鎖と免疫系の相互作用について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10542551/

本研究では、豚線虫寄生虫(豚鞭虫)由来のN-型糖鎖 (27 種) を用いた天然型糖鎖マイクロアレイを開発し、これらの糖鎖とC-型レクチン (DC-SIGN、Dectin-2、MGL) などとの相互作用が評価されています。得られた N-型糖鎖は、ホスホリルコリン修飾含む、または含まないフコシル化LacdiNAc構造 (bi/tri/tetra-anttenary) とホスホリルコリン修飾を受けたオリゴマンノース構造でした。

DC-SIGNは、かなり広範囲のオリゴマンオースおよびフコシル化糖鎖を認識しましたが、コントロールとして用いられたMan5-9GlcNAc2にも良く結合しています。
Dectin-2は、他の自然免疫系レクチンと比較して本アレイ上では結合が非常に弱くなっています。
MGLは、LacdiNAc含有リガンドのホスホリルコリン修飾の存在に関係なく、大部分の本糖鎖構造に結合していました。

エクソソームを用いた癌マーカーの開発にレクチンマイクロアレイやレクチン関連技術は今後も重要であり続ける

Department of Life Technologies, Division of Biotechnology, University of Turku, Finlandらのグループは、そのレビュー論文において、レクチンマイクロアレイやレクチン関連技術はエクソソームからのバイオマーカー探索、標的化、分離らにおいて、今後共重要であり続けると述べています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37773167/

エクソソームの分野は過去10年間で急速に成長してきています。 エクソソームを用いた癌マーカーの発見では大きな進歩が見られましたが、これらの発見を臨床実践 (治療法を含む) に応用するには、幾つかの課題が存在しています。これらには、エクソソームの分離と検出に関する技術的課題の克服は勿論、エクソソームの放出と標的細胞によるエクソソームの取り込みを制御する分子機構についての更なる理解も求められます。
これらの各分野では、糖鎖修飾が進歩の鍵を握っており、レクチンベースのアプローチは、その特異性と社会実装の容易さ故に、トップランナーであり続けるでしょう。

一部のレクチンは、複数の糖鎖構造に対して重複する結合親和性と特異性を持っているため、目的の糖鎖構造を正確に同定することが困難です。これらの曖昧さはアッセイ結果に影響を与え、偽陽性または偽陰性の結果を招いてしまいます。このような制限にもかかわらず、レクチン、レクチンマイクロアレイ、およびレクチンベースの方法は、間違いなく糖鎖研究における貴重なツールであり続けます。これらの課題のいくつかを克服するには、MSやHPLCなどの他の技術と組み合わせることが、詳細な糖鎖構造とその応用をより深く理解するのに役立ちます。更に、糖鎖マイクロアレイ技術は、糖鎖相互作用とその機能を体系的に研究するために補完的な役割を担います。

レクチンと糖鎖との相互作用から正確かつ信頼性の高い結果を得るには、 競合阻害、 糖鎖構造の修飾変化、または異なる糖鎖結合特異性を示すように改変されたレクチンとの比較を通じて、この相互作用を検証することが重要です。このような組合せ的なアプローチを使用することによって、偽陽性または偽陰性の結果を回避し、それが糖鎖を介した相互作用であることを具体的に証拠として示すことが可能になります。

6-sulfo sialyl Lewis x 糖鎖に対する新規モノクローナル抗体について

千葉大学薬学部らのグループは、6-sulfo sialyl Lewis x 糖鎖に対する新規モノクローナル抗体を開発しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10514285/

抗6-sulfo sialyl Lewis x mAbを取得する為に、GlcNAc6ST-1/-2 DKOマウスを、Cmahをコードする発現ベクターで一時的にトランスフェクトされた6-sulfo sialyl Lewis xを安定的に発現するCHO細胞で免疫しました。

SF1と名付けられた本抗体を、CFG 糖鎖マイクロアレイにアプライし、SF1の糖鎖結合特異性を詳細に決定しました。以下のように、SF1 がアレイ上の全糖鎖のうち 6-sulfo sialyl Lewis x(糖鎖 #253)に特異的に結合することが確認されました。

リンパ球の末梢リンパ節へのホーミングは、リンパ球の表面に発現するホーミング受容体であるL-セレクチンと、内皮細静脈の表面に発現する6-sulfo sialyl Lewis xとの間の相互作用に大きく依存しています。 SF1 はリンパ球のホーミングを大幅にブロック出来る為、SF1 を使用した今後の研究により、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎などの疾患における 6-sulfo sialyl Lewis xの役割についての理解が進むものとして期待されます。

シロイヌナズナにトリコデルマ菌を接種した系をモデルとして、そのマルチ・オミックス評価を行った

Department for Sustainable Food Process, CRAST Research Centre, Università Cattolica del Sacro Cuore, Piacenza, Italyらのグループは、植物の生理的反応、メタボロームレベルでの分子挙動、根圏細菌叢の変化を包括的に取り扱いながら、高温、干ばつ、およびそれらの複合的なストレスがトリコデルマ菌を接種したシロイヌナズナに与える影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10484583/#B19

トリコデルマ菌で処理された植物は、干ばつや高温ストレス下でも生のバイオマスが増加することを特徴としており、観察される生のバイオマスの増加が主に植物組織内の水分の蓄積によるものであることが分かっています。

トリコデルマ菌を接種すると、窒素含有代謝物(アルカロイドやポリアミンを含む)、フェニルプロパノイド、ファイトアレキシン、ターペン、グルコシノレートらの二次代謝物の産生が増加します。トリコデルマ菌の接種により、植物ホルモンであるオーキシン関連物質(すなわち、インドール-3-アセトアルデヒド、インドール-3-カルボキシアルデヒド、およびインドール-3-エタノール)、揮発性有機化合物、および短鎖ペプチドらも高発現することが分かりました。また、トリコデルマ菌の接種によって、環境ストレスの状況に応じて、土壌及び根圏細菌の量とその構成が変化していました。プロテオバクテリアは根と土壌で最も優勢であり、平均して根圏では89.6%、土壌では59.4% を占めていました、土壌サンプル中のプロテオバクテリアに加えて、最も豊富な門のひとつはバクテロイデス属と放線菌でした。

これらのことより、植物とその根圏細菌間の複雑な動的相互作用を理解するには、ホロビオント的なアプローチ、つまりマルチ・オミックス的アプローチが必要であると結論付けています。

抗生物質に対する耐性を得たヘリコバクター・ピロリに対するConA-キトサンナノ粒子DDSの検証

Tissue Engineering and Regenerative Medicine Research Center, Baqiyatallah University of Medical Sciences, Tehran, Iranらのグループは、抗生物質に対する耐性を得るに至ったヘリコバクター・ピロリに対するConAでコートしたキトサン(CS)ナノ粒子を用いたペプチド薬(CM11)のDDSについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10471652/

ヘリコバクター・ピロリは胃潰瘍のほとんどの原因であり、胃がんの原因にもなります。抗生物質耐性を得るに至ったピロリ菌株の出現と蔓延は、ピロリ菌感染症の治療における最も重要な課題の ひとつとなっています。

CSは、イオンチャネルゲル化法を適用することにより、CM11のためのカプセル化剤として使用されました。 ConAは、ピロリ菌を標的とする CSナノ粒子のコーティングに使用されました。CS NPおよびConA-CS NPのサイズ頻度は約 200 nm および 350 nm でした。

薬剤耐性ピロリ菌SS1 株に対する遊離CM11ペプチドの最小発育阻止濃度 (MIC) は16 μg/ml でしたが、薬剤耐性ピロリ菌SS1 はクラリスロマイシンとアモキシシリンに対して、MICがそれぞれ64μg/ml、128 μg/ml以上 でした。ナノ粒子にカプセル化したペプチド濃度は、MIC濃度の2 倍 (32 µg/ml) としました。

CM11含有ConA-CS NPは、それぞれCM11含有CS NPおよび遊離CM11ペプチドと比較して、より高い抗菌能力を有することが確認されました。 CM11含有ConA-CS NPと3剤抗生物質混合物による治療との間に有意差はなかったが、これは、3剤抗生物質療法と同様の同じ効果があることを示しています。 CM11含有ConA-CS NP および CM11含有CS NP は、12 時間後に薬剤耐性ピロリ菌SS1 を大幅に減少させましたが、アモキシシリンとクラリスロマイシンには殺傷効果がなく、増殖傾向はコントロールと同じでした。 CM11含有ConA-CS NPと 3種類の抗生物質の混合物は、薬剤耐性ピロリ菌SS1を24 時間以内に死滅させることができましたが、遊離ペプチドとCM11含有CS NP の場合は 48 時間後でした。

心筋虚血再灌流障害によって誘起されるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイにて評価した

Department of Cardiac and Pan-Vascular Diseases, Xi’an People’s Hospital (Xi’an Fourth Hospital), Xi’an, Chinaらのグループは、心筋虚血再灌流障害によって誘起されるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイにて評価しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10439394/

心筋虚血再灌流障害は、心臓手術後の心臓の構造と機能の回復に重大な影響を与え、 虚血再灌流障害は現在の臨床治療における大きな障害となっています。重度の心筋虚血によって、心筋細胞の代謝は嫌気性解糖によって支配され、酸性生成物の蓄積とATPの枯渇が引き起こされます。再灌流後、活性酸素種の蓄積とCa2+ 過負荷が誘発され、ミトコンドリア透過性遷移孔 (mPTP) の開口が起こり、さらに電子伝達鎖の破壊とATP産生の減少が起こります。 mPTPが開くと、マトリックスタンパク質とミトコンドリアDNAが細胞質に放出されます。このプロセスはミトコンドリアの膜電位を破壊し、酸化的リン酸化が停止し、ATP消費の増加に繋がります。 Ca2+の過剰と酸素ラジカルの生成の増加は、炎症と血栓症を更に活性化し、ミトコンドリア呼吸の破壊、マトリックスの膨張、ミトコンドリア膜の破裂を引き起こし、ミトコンドリアの損傷と細胞死に繋がります。

本研究では、虚血再灌流障害によるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾の変化をレクチンマイクロアレイを用いて評価しており、45分間の虚血により、LTLおよびSNAによって認識される糖鎖構造の発現が有意に増加し、ECAによって認識される糖鎖構造が有意に減少していることが分かりました(LTLはTerminal Fucoseを認識し、ECAはGalβ1‐4GlcNAc/GalNAcを認識しますが、シアル酸が修飾されるとECAの信号は減少します)。更なる分析により、SNAによって認識されるSiaα2-6Gal/GalNAc構造が大幅に増加していることも示されました。

Glyco26におけるレクチンアレイと糖鎖アレイの動向について

2023年8月27日~9月1日にかけて、台北のAcademia Sinica(中央研究院)において、Glyco26が開催されました。

先ずはレクチンアレイ(レクチンマイクロアレイとも呼ばれる)の動向についてまとめてみたいと思います。
ご存知かと思いますが、レクチンアレイが登場したのは2005年であり、二つのグループ、米国のLara Mahalと日本のJun Hirabayashi、よりレクチンアレイを用いた糖鎖プロファイリング解析技術が論文化されました。下記は、Glyco26におけるUniv. of AlbertaのLara Mahalのプレゼン(D010)のひとこまです。

ご参考:Lara Mahalらのグループ
ご参考:Jun Hirabayashi, Atsushi Kunoらのグループ
後者の論文では、レクチンアレイを用いた糖鎖プロファイリング解析法として、これまた世界初の技術となりますが「エバネッセント波蛍光励起法」が採用されたことが記載されています。この方法は、スライドグラスに固定化されたレクチンとアナライトとしての蛍光標識された糖タンパク質の弱い相互作用を液相から非破壊にて直接的に検出することを可能にしたものです。実は、本ブログの管理人も本論文の共著者であり、この技術は糖鎖プロファイラー(GlycoStation® Reader 1200)として、管理人の手により、2007年に上市されました。

Glyco26におけるレクチンアレイを用いた、或いはまたレクチンアレイそのものに関する研究進展としては、前者に関しては、Academia Sinicaのグループと産総研のグループからの発表がありました。
Academia SinicaのWu-Show Suらのグループは、癌細胞が分泌するIL6の糖鎖プロファイリングにレクチンアレイを使用しており(A107)、産総研のAtsushi Kunoらのグループは、心繊維症のパラフィン固定サンプルを用いて、局所部位毎の糖鎖修飾の違いを検証していました。本研究では、進化したエムックの糖鎖プロファイラー、GSR2300、が使用されており、わずか細胞3個から糖鎖プロファイリングを取得することが可能であることが示されていました(C050)。
レクチンアレイに関しては、2つのグループから、ヒトレクチンのアレイ化に関するプレゼンがありました。
ICLのKurt Drickamerらのグループは、C-typeレクチン、ガレクチン、Siglecら合計31種のヒトレクチンを固定化したアレイを用いて、それらヒトレクチンと病原菌との結合特異性をスクリーニングしています。ヒトの自然免疫の最前線にいる各種レクチンが様々な微生物とどのように反応するかという独自の情報を提供するものであり、これによってヒトレクチンアレイの有用性が示されたとしています(D026)。本研究では、ヒトレクチンをBiotin化し、Streptavidinを敷いた基板上に糖鎖が固定化されていました。また、GlycoGeneticsは、ガレクチンをメインとして11種のヒトのレクチンを固定化した商品をアナウンスしていました(C072)。現存するレクチンアレイは、LecChipを代表例として植物レクチンを搭載するものが多く、ヒトレクチンを搭載するレクチンアレイは、レクチンアレイの新しい潮流であります。しかしながら、ヒトレクチンの糖鎖結合特異性は自然免疫系が中心でありそれほど糖鎖の網羅性は高くもなく、糖鎖プロファイリングという視点では、植物レクチンを中心とする従来型のレクチンアレイは十分に強力ですし、網羅性も高く(例えば、Slovak Academy of SciencesのJaroslav Katrilikらの植物レクチンを使ったアレイ(C053)も参考にできる)、従来型のレクチンアレイとヒトレクチンアレイは、使用用途毎に棲み分けが進むものと思われます。

次に糖鎖アレイの動向に関してですが、ご存知のようにその網羅性の高さから米国CFGの糖鎖アレイが、デファクト的なポジションを占めています。この糖鎖アレイを用いて糖鎖結合性タンパク質の糖鎖結合特異性を評価しているプレゼンが幾つか見受けられました。Glyco26で最も注目されたこの分野でのプレゼンは、Harvard Medical SchoolのShang Chuen Wu, Richard Cummings, Sean Stowellらのグループによる「SARS-CoV-2のスパイクタンパク質が血液型Aに対して特異的な親和性を示す」というそれかも知れません(A071)。横浜市大のRyuhei Hayashi, Yashuhiro Ozekiらのグループは、独自の糖鎖アレイ(GlycoTechnica製)を用いて、カイメンレクチンの糖鎖結合特異性を議論していました。新規に見つかったChal18と名づけられたレクチンは、T-抗原に非常に強い特異性を示し、大腸癌細胞に対して強い細胞毒性を示すことも示されました(A031)。
糖鎖アレイに関する新たな潮流は、病原菌に特有な糖鎖をアレイ化する動きです。Academia SinicaのLaurriel Macali and Todd Lowaryらのグループは、66種類の微生物から切り出して精製した糖鎖を固定化した糖鎖アレイを用いてマイコバクテリオファージの糖鎖結合特異性を議論しています。本糖鎖アレイにおいては、糖鎖はネオグライコプロテイン法(即ち、切り出した糖鎖とBSAのコンジュゲートを作り、BSAをスライドグラス上に固定化する方法)を用いてスライドグラス上に固定化されています(A040)。
微生物の糖鎖は多岐に渡りその精製も大変です。更に、実際に微生物表面上で発現している糖鎖の状態と切り出してスライドグラス上に固定化した糖鎖では同一な存在状態ではないことから、Harvard Medical SchoolのHau-Ming Jan and Sean Stowellらのグループは、微生物をそのままアレイ化してしまう方法(microbe microarray: MMA)を提案し、Gal-8との相互作用を例として、MMAの方が糖鎖アレイよりもより正しく結合性を予測できるとしています(A048)。

Glyco26では、全発表数が343件もありましたので、管理人が全てを網羅できず、見落としているものもあるかも知れません。その点をご容赦頂きまして、この情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。