カンジダ・アルビカンスの細胞膜上のN型糖鎖(mannose core)が敗血症において抗炎症的に作用する

京都大らのグループは、カンジダ・アルビカンスの細胞膜上のN型糖鎖(mannose core)が抗炎症的に働くことを敗血症にて実証しています。
https://www.nature.com/articles/s42003-021-01870-3

Lipopolysaccharide(LPS)を用いてマウスに敗血症を誘起し、カンジダ・アルビカンス(J-1020株)の細胞膜上のN型糖鎖(マンノース構造)が抗炎症的に働くことを実証しています。J-1020からマンノタンパク質を抽出し、LPSにて敗血症を起こしているマウスに投与すると生存率が劇的に高くなります。この時に、抗炎症性サイトカインであるIL-10らがJ-1020の投与で高発現していることが確認されました。J-1020のマンノタンパク質がC-Type LectinであるDectin-2に結合することでこの一連の現象が起きているらしいことも確かめられました。Dectin-2をKOすると、生存率は急減し、J-1020を投与してもIL-10の分泌は上昇しませんでした。また、Dectin-2と特異的に相互作用するN型糖鎖の構造は、mannose coreであるらしきことも確認されました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の紫外線照射による不活化について

University of Milanらのグループは、SARS-CoV-2の紫外線(UV-C: 254nm)照射によるウイルスの不活化について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-85425-w

V6細胞を標的として、感染多重度(MOI)0.05、5、1000のいずれかでSARS-CoV-2が投与されたサンプルに対して紫外線を照射しています。0.05 MOIは低レベルのウイルス汚染に相当し、5 MOIはウイルス感染した患者の唾液に見られる平均濃度、1000 MOIは非常に高い濃度であり、末期のCOVID-19患者で観察された濃度に対応します。
0.05 MOIから5 MOIの領域では、4MJmJ/cm2と非常に弱い紫外線でウイルスの完全な不活性化が達成できました。最高のウイルス入力濃度(1000 MOI)でも、16.9 mJ/cm2以上の線量で完全に不活化されました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者のserum IgGは、20歳辺りを境に年齢と逆相関する

Weill Cornell Medicine, New Yorkのグループは、2020年4月から6月にかけて実施された抗体検査の結果から、serum IgGと年齢の相関関係を調査した結果を報告しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2777743

85名のSARS-CoV-2陽性の子供達、及び3648名のSARS-CoV-2陽性の大人達について、serum IgGと年齢との関係を相関図として示したものが下記です。非常に興味深い結果が得られています。serum IgGの量が、20歳辺りを境に年齢と逆相関しているのが分かります。何故、19歳から25歳辺りで、IgGの量が最も低くなるのかについては、現在不明です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のO型糖鎖のサイトスペシフィックな解析

University of Copenhagenらは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へのO型糖鎖修飾について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.03.429627v2

サンプルとしては、昆虫およびHEK293Fで発現したSARS-CoV-2のSpikeタンパク質を使用し、N型糖鎖をPNGase Fで除去し、更にneuraminidaseを用いてシアル酸も除去しています。糖鎖解析には、ETD/HCD LC-MS/MSを使用しています。下記にHEK293 Fの場合のO型糖鎖修飾の様子を抜粋します。相対的にTn抗原よりもT抗原の方が多いようです、但し、シアル酸修飾の状態は不明です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のO型糖鎖解析

University of Wisconsin-Madisonらは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のO型糖鎖について、MS解析を行った結果を報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.28.433291v1

O型糖鎖を解析するために、PNGase Fを用いてHEK293で発現させたSARS-CoV-2のSpikeタンパク質からN型糖鎖を除去し、イオントラップ質量分析 (TIMS)、超高感度フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析 (FTICR) を組み合わせて解析しています。
結果としては、Sialyl-T-antigenが大半を占めているようです。

抗Tnが少ないとCOVID-19を発症しやすい

Université de Nantesらのグループは、抗TnとCOVID-19との関係性について報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2021.641460/full

Tn抗原(α-GalNAc)は、A血液型抗原(GalNAcα1-3(Fucα1-2)Galβ1-4GlcNAc)との構造的類似性が存在することを考慮すると、抗Tnのレベルが、血液型OおよびBと比較して血液型Aの個体で実際に低いことは容易に理解されます。抗Tnのレベルが、SARS-CoV-2に感染しCOVID-19を発症しているヒトで低いことに対しては、抗Tnが少ないと発症しやすいということを意味し、血液型Aの人が血液型OのヒトよりもSARS-CoV-2に感染しやすいという既報と矛盾しない結果です。
https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2020283?articleTools=true
なお、抗T, 抗core-3, 抗Lec, 抗GlcNAcLac, 抗Gb3については、どの場合でもほとんど変化はないとのことです。

新型コロナウイルス(COVID-19)患者の尿の定量的比較プロテオーム解析

Beijing Proteome Research Centerらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)患者と健常者の尿から、その比較プロテオーム解析を行い、COVID-19に特徴的な尿中マーカーを報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33688631/

健常者の尿からは、2656種のタンパク質が同定されました。健常者、COVID-19、回復者に共通するタンパク質は1008種ありました。COVID-19患者に特有なタンパク質が211種、回復者に特有なタンパク質が63種みつかったようです。

COVID-19で上昇するタンパク質もあれば、逆に減少するタンパク質もあります。
代表的な例としては、下記があげられます。しかし、当ブログ管理人の観点からは、尿のプロテオームが診断として有効かどうかには疑問があります(重症だけ識別できてもね、という思いがあるからです)。診断というよりもCOVID-19の病態解明に寄与しそうに思います。回復しても健常者と同じレベルには回復していないというのは、COVID-19の後遺症の重さが関係しているのでしょう。

IGLV1-40: 重症のCOVID-19で14倍増加
FKBP1A: 重症のCOVID-19で13倍増加
LUNA: 重症のCOVID-19で37倍増加
PARK7: 重症のCOVID-19で7倍増加

CD9: 重症のCOVID-19で1/12に減少
EGF: 重症のCOVID-19で1/25に減少
MME: 重症のCOVID-19で1/18に減少
CUBN: 重症のCOVID-19で1/19に減少

膵管腺癌におけるシアル酸の発現とSiglec-7, Siglec-9を介しての免疫反応抑制

Amsterdam UMCらのグループは、膵管腺癌で発生する異常な糖鎖修飾、とりわけシアル酸修飾に着目し、膵管腺癌の免疫反応の抑制メカニズムについて研究しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-21550-4.pdf

膵管腺癌の周辺には、線維性間質細胞と免疫反応抑制的な骨髄系細胞群(樹状細胞、マクロファージなど)が存在しています(TMEと呼ばれる)。膵管腺癌で発生する糖鎖修飾異常については、Syalyl LewisA, Sialyl LewisX, O型糖鎖の刈込、多分岐N型糖鎖とフコース修飾らの発現が上昇し、癌の増殖や浸潤と相関関係があることは既に指摘されています。しかしながら、これらの糖鎖修飾の変化と免疫細胞とのリンクについては不明な点が多々残っています。
著者らは、癌でしばしばみられるα2-3 Sia修飾の高発現に着目し、免疫細胞群とのリンク、および膵管腺癌の病態との関係性を深堀しています。TMAを構成する骨髄系細胞群の構成は、健常組織と膵管腺癌では大きく異なっており、膵管腺癌では、単球由来マクロファージ (moMac), 単球由来樹状細胞 (moDC)が大半を占めています。しかも、moMacがmoDCに比べて増加すると膵管腺癌の生存率が低下し、他の骨髄系細胞群は生存率と相関を示さないことが分かりました。
高発現したα2-3Siaは、骨髄系細胞群に発現しているSiglec-7, Siglec-9と結合し、CD206の発現上昇とともに、単球のmoMacへの分化を促進することが示されました。更に、この変化は、免疫抑制的に機能する免疫チェックポイント分子であるPD-L1の発現上昇や免疫抑制的なサイトカイン(IL-10)の分泌を促すことも示されました。


サンフランシスコ・ベイエリアでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(B.1.427, B.1.429)の発生状況

University of California, San Franciscoらのグループは、2020年11月から2021年1月にかけて、サンフランシスコ・ベイエリアでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異状況をアップしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7941666/

ベイエリアでは、B.1.427、B.1.429変異株が多いようです。下図を参照してください(L452R, S13I, W152Cが主な変異となっているようです)。なお、これら変異株の特性の違いについては、今後の課題です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するPfizer (BNT162b2) /Moderna (mRNA-1273) ワクチン投与後の縦断的評価から

University of Pennsylvania Perelman School of Medicineのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するPfizer (BNT162b2) /Moderna (mRNA-1273) ワクチン投与後の縦断的評価結果を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7941668/

  1. ワクチンの接種によって、SARS-CoV-2に過去にかかった人も、未経験の人も、同様に抗体レベルを高めることができる
  2. しかし、SARS-CoV-2に過去にかかった人は、二回目のワクチン接種で追加の効果はほとんどない
  3. SARS-CoV-2未経験の人は、二回目のワクチン接種で抗体レベルは更に高まる
  4. ワクチン接種の効果は年齢に関わらず現れるが、抗体レベルは年齢と共に減少する傾向がある
  5. SARS-CoV2未経験の人では、ワクチン接種後の抗体レベルとメモリーB細胞の間に相関関係が認められない
  6. SARS-CoV-2に過去にかかった人では、ワクチン接種後の抗体レベルとメモリーB細胞の間に相関関係が認められる
  7. ワクチンによって誘発されたメモリーB細胞応答を調べることの重要性を示している

つまり、過去にSARS-CoV-2にかかった人は、ワクチン接種は1回でも良さそうで、未経験の人は必ず2回接種は受けるべきですね。