Core2 GnT (O型糖鎖 Core2 GlcNAc転移酵素)の阻害が絨毛癌の治療に有効

名大医学部のグループは、C2GnT (O型糖鎖 Core2 GlcNAc転移酵素)の阻害剤が絨毛癌の治療に有効であることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7895715/

絨毛癌は、女性特有の病気にて、妊娠時の胎盤をつくる絨毛細胞(トロホブラスト)に発生する悪性腫瘍です。

NK細胞の表面にはNKG2Dという受容体があり、腫瘍にしばしば存在するクラスI鎖関連タンパク質A(MICA)と結合することで、NK細胞の細胞障害活性が引き出されると従来より考えられてきました。

下図に示すように、LELレクチンでIPしたMICAは、C2GnTをKOすることで明らかに減少することから、MICAはpoly lactosamine構造を持つCore2 O型糖鎖修飾を受けていることが分かります。C2GnTをKOすることで、当然ながらpoly lactosaminの伸長は起こらなくなります。JarとBeWoは絨毛癌細胞株であり、NK細胞毒性に対して、C2GnTをKOした細胞とcontrolを比較した結果は、明らかにC2GnTのKOでNK細胞障害活性が上昇することを示しています。また、エンド‐β‐ガラクトシダーゼの処理は、poly lactosamineの構造を切断してしまいますので、C2GnT KOと同じようにNK細胞障害活性を促します。
つまり、これらの結果は、MICAのpoly lactosamine修飾がNK細胞毒性を押さえていることを示しており、C2GnTが高発現するほど、絨毛癌が免疫を回避してしまうことを示しています。すなわち、この阻害が絨毛癌の治療法に結び付く可能性があります。

IgG Fcのコアフコース脱修飾が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症度と相関している

2021年3月1日のブログ記事において、HIVに感染した患者で、HIVのエンベロープタンパク質であるgp120に特異的なIgGのcore fucose修飾が減少しているケースがあることについて述べています。

University of Amsterdamらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した場合にも、SARS-CoV-2のS-proteinに特異的なIgGにcore fucoseの修飾が減少している場合があることを指摘しています。
https://science.sciencemag.org/content/371/6532/eabc8378.long

IgGのcore fucose修飾が減少すると、effector効果(ADCCやADCP)が増強されることが知られており、これが良い方向に働けば、ウイルスの排除を加速することができます。HIVの場合は、正にこのケースが当てはまっています。しかし、免疫は諸刃の刀であり、新型コロナウイルスの場合には、IgGのcore fucoseの減少がサイトカインストームの引き金を引き、組織ダメージを与えてしまう場合があると推測されます。

下図において、急性呼吸促迫症候群(ARDS)を発症してしまった場合には、IgG全体のcore fucose修飾には変化が無いのですが、S-protein特異的なIgGのcore fucose修飾が減少していることが示されています。即ち、これによってeffector機能が増強されていると考えられます。一方、core fucoseの修飾が減少すると、炎症性サイトカインIL-6の産生が加速され、炎症性マーカーであるCRPも高くなることも示されています。


新型コロナウイルス患者(COVID-19)の中和抗体について、その有効期間は?

東大医学部らのグループは、2020年1月から4月の日本の新型コロナウイルス患者から、その中和抗体の力価の変動の様子を報告しています。
https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(21)00014-6/fulltext

感染後も数か月間は、中和抗体の力価はそこそこ保たれるようです。下図で、グレーは95%CIの範囲を示します。赤線は中央値です。心配される抗体依存性感染増強(ADE)については、世界中で数多くの研究が行われているが、ADEが増強されたという報告はまだ見受けられず、SARS-CoV-2の場合は、ADEの可能性は低いのではないか?と言及しています。

ラクトフェリンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染予防にはとても良い

本ブログでも、2021年2月12日の記事にて、ラクトフェリンの抗ウイルス効果について記載しています。SARS-CoV-2の場合には、ACE2を感染受容体としてヘパラン硫酸がその共受容体として機能しています。ラクトフェリンの抗ウイルス機能は、ラクトフェリンがSARS-CoV-2に結合することによって、ヘパラン硫酸への結合を阻害することにあると考えられています。

女子栄養大学のグループは、モンゴルが世界一新型コロナウイルスの感染抑止に成功している背景として、モンゴル人が、世界のどの民族よりも多くラクトフェリンを摂取していることを指摘しています。女子栄養大学は、処方箋無しで購入できる腸溶性ラクトフェリン(1カプセル250 mg)を2カプセル(500 mg)摂取することを推奨します。Amazonからでも手軽に購入できるようです。
https://www.eiyo.ac.jp/ions/?p=4407

HIVに感染しても無症状な子供達のIgGには、その糖鎖修飾に特徴が存在する

University of Oxfordらのグループは、HIVに感染した子供達における興味深い免疫反応について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7763548/

HIVに感染して、ART(antiretroviral therapy)治療を受けてもおらず、高い割合でウイルス複製が進行中であるにもかかわらず、正常なCD4カウントを維持する無症状な子供達(PNP)がいます。子供達においては、広域中和抗体(bnAb)の存在も特徴であります。更に、PNPでは、IgGのFcを介したeffector作用(ADCC, ADCP)が強いということも特徴です。

IgGの糖鎖修飾の違いに着目すると、HIVに感染した大人は一般的にagalacto型の糖鎖構造を持つのですが、無症状の子供の糖鎖は健常者と大きな違いがなく、むしろSia修飾が若干高めであり、FcのCore Fucoseの修飾が少ないという特徴があります。

bnAbは、ヘルパーT細胞(Tfh)およびgp120特異的なIgGのSia修飾と相関していました。
IgGのFcを介したeffector効果については、core fucoseの修飾が低くなるほど、強くなることが抗体医薬で良く知られています。

してみるとPNPというのは、基本免疫反応は弱めではあるが、それを補うbnAbが存在し、IgGのeffector作用も強いということなのかも知れません。

N343に存在するN型複合糖鎖がSARS-CoV-2のRBDのopen, closeの構造変化を制御している

UC San Diegoらのグループは、SARS-CoV-2のAVE2に対するRBDの配位(open or close)をN343の位置に存在する複合型N型糖鎖が制御していることを分子動力学的シュミレーションを用いて示しました。下図を見てもらえれば一目瞭然かと思います。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.15.431212v1

世界各地で発生しているSARS-CoV-2の変異に対するPfizer, Modernaワクチンの有効性:B.1.351やP.1変異株は危ない

Massachusetts General Hospitalらのグループは、世界各地で発生しているSRAS-CoV-2の代表的な変異に対するBNT162b2 (Pfizer)、mRNA-1273 (Moderna)という代表的なワクチンの有効性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7899476/

世界各地で発生しているSRAS-CoV-2の代表的変異(9種類)の分布

各変異に対するPfizer, Modernaワクチンの有効性をNeutralizationで示す。B.1.1.7に対してはほとんど問題はないようですが、B.1.351 v2やP.1ではかなり有効性が下がっているように思われます。K417N, E484K この二つの変異がB.1.351とP.1に共通に存在し、B.1.1.7には存在しないようです。

膜性糸球体腎炎(Membranous Nephropathy)の治療には、捕体経路の阻害が有効

The Ohio State University Wexner Medical Centerらのグループは、膜性糸球体腎炎(Membranous Nephropathy:MN)の原因となっているのが補体の過剰な蓄積であることを指摘してます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7879111/pdf/main.pdf

腎臓組織切片からLMDでサンプルを取得し、質量分析にて、IgG及び補体の発現量を網羅的に解析しました。その結果、膜性糸球体腎炎では、IgG1~IgG4およびCR1以外の全ての補体群が健常者に比較して高発現していることが確認されました。一方で、mannose-binding lectin (MBL), Ficolin, Collectinらは検出されませんでした。これらの結果は、レクチン経路ではなく、補体古典経路が異常に活性化され糸球体組織にダメージを与えていることが示唆されます。CR1は主に糸球体上皮細胞(podocyte)に発現していることから、ダメージを受けてCR1が減少することが補体の活性化を更に加速しているのかも知れません。なお、膜性糸球体腎炎の場合には、M-type phospholipase A2 receptor (PLA2R)が発症の抗原になっていると考えられているようです。

SARS-CoV-2に対するhCoVs特異的なIgGの交差反応について

NMI Natural and Medical Sciences Institute at the University of Tübingenらのグループは、1,173名の血清/血漿サンプルを使用し、SARS-CoV-2感染者、非感染者に対して、SARS-CoV-2特異的およびhCoVs特異的なIgGについて評価した結果を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-20973-3.pdf

ヒトに風邪を引き起こすコロナウイルス(hCoVs)には、四種類(NL63, 229E, OC43, HKU1)が知られています。
下図のようにSARS-CoV-2とこれらhCoVsの間には、程度の差こそあれ、確実に相関関係が存在しています。SARS-CoV-2感染者の内、10%はSARS-CoV-2特異的なIgGが検出されておらず、この原因が、自然免疫によってウイルスが排除された結果なのか?それともhCoVs特異的なIgGの交差反応の結果なのかについては、今のところ不明です。


今更ですが、C型レクチン CD209/DC-SIGN, CD209L/L-SIGNが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体になり得るという指摘

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体は、ACE2以外に、C型レクチンもそうである、という指摘は下記の論文に見ることが出来ます。
Harvard Medical School, July 30, 2020
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.07.29.227462v1
Boston University, Dec. 9, 2020
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.06.22.165803v2
Boston University, (Dec. 22, 2020)よりReviewという形での論文がありましたので、それを参考にふたつのデータを紹介しようと思います。
https://www.mdpi.com/2079-7737/10/1/1

ACE2は確かに主要な感染受容体ではあるのですが、肺ではそれほど発現量が高くなく、むしろCD209/DC-SIGNの方が発現量が高くなっています。
CD209L, CD209, ACE2を過剰発現させたHEK293細胞を用いて、SARS-CoV-2の疑似ウイルスを感染させた実験も下記に示します。
ACE2は感染受容体として一義的に重要なのですが、ACE2の発現が弱い組織では、C型レクチンがSARS-CoV-2の感染を大いに介在していることは事実でしょう。
なお、これらC-type Lectin(DC-SIGN, L-SIGN)のCRDは、High Mannose構造を強く認識します。