Siglec-7のカウンター受容体がleukosialin (CD43)であると解明される

名古屋大学らのグループは、Siglec-7のカウンター受容体を同定したようです。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(21)00251-9/fulltext

Siglec-7はシアル酸を認識し、主にナチュラルキラー(NK)細胞上に発現しており、癌細胞上のリガンドに反応すると免疫抑制的に作用することが知られていました。しかし、Siglec-7の受容体には完全には同定されていませんでした。著者らは、K562細胞からFc-融合Siglec-7、diSia-dextran polymerを用いて受容体を精製し、MSによりSiglec-7のカウンター受容体がleukosialin (CD43) であることを確認しました。さらに、K562細胞に対するNK細胞の細胞毒性は、シグレック-7依存的にleukosialinの過剰発現によって抑制されることを示しました。

SARS-CoV-2のNTDが、呼吸器上皮細胞に発現する血液型A抗原TypeIに結合することが確認された

Harvard Univ.とEmory Univ.のグループは、ABO(H)血液型とSARS-CoV-2の相互作用について報告しています。
https://ashpublications.org/bloodadvances/article/5/5/1305/475250/The-SARS-CoV-2-receptor-binding-domain

SARS-CoV-2のNTDには、ガレクチン様構造が存在することから、ABO(H)血液型抗原に結合する可能性があることが示唆されていました。著者らは、糖鎖アレイを用いて検証した結果、呼吸器系の上皮細胞に発現するA血液型TypeI(血液型A抗原TypeI)に結合することを確認しました。

新型コロナウイルス(COVID-19)のICU患者に見られる特異的なマーカーについて:血管内皮が大きく損傷を受けている

University of Ferraraらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)にて急性呼吸不全(ARDS)を発症しICU治療を受けざるを得なくなった患者と、その他従来のARDS患者との間におけるマーカーの違いを報告しています。
https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-021-03499-4

終末糖化産物受容体(RAGE)、Angiopoietin-2 (Ang-2)、可溶性intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)、可溶性vascular cell adhesion molecule-1 (VCAM-1)、E-Selectin、P-Selectinが比較されています。

アンジオポエチンは、脈管形成あるいは血管新生を促進する糖タンパク質であり成長因子、
ICAM-1は、免疫系の細胞間相互作用を司る接着分子の一つであり、活性化リンパ球の血管内皮細胞への結合に関与、
VCAM-1は、血管内皮細胞上に発現する接着部分子であるが、未刺激の血管内皮細胞上に殆ど存在せず、IL-1やTNFのような炎症性サイトカインの刺激によって初めて誘導される、
E-Selectinは、血管内皮のリンパ球接着分子、
P-Selectinは、血管内皮および血小板表面のリンパ球接着分子、であります。

COVID-19では、RAGEはほとんど関係しておらず、ARDSがウイルス感染由来であることを示します。COVID-19では、Ang-2, ICAM-1, BVCAM-1, E-Selectinらが上昇(P-Selectinは逆に減少)することから、COVID-19のICU患者では、血管内皮が大きなダメージを受けていることが示唆されます。

Q677変異(Q677H, Q677P)のウイルス感染力に対する影響について:RRAR Motif周辺の構造変化から

2021年2月19日のブログにて、Q677H, Q677Pという変異が昨年末から北米で上昇していることを紹介しています。

Univ. of Bernらのグループは、Q677変異がSARS-CoV-2感染に与える影響について、SWISS MODELを使って議論しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7885944/

S1/S2切断部位には多塩基切断部位(RRAR Motif)が存在します。位置677は多塩基部位(furin binding pocket)の外側にありますが、この部位にプロリンが存在すると、 S1/S2接合部での切断に有利に働く構造変化を引き起こす可能性があります。この切断は、フューリン様活性だけでなく、トリプシン様プロテアーゼ(TMPRSS2など)およびカテプシンによっても支配されます。さらに、プロリンの導入は、S689の炭素骨格から3.7オングストローム離れているように見えます(ネイティブグルタミンの4.9オングストロームと比較して)。これは、タンパク質分解切断に有利なコンフォメーションを促進する原子相互作用を促進する可能性があります。S:Q677H置換の場合、ヒスチジンのプロトン化は、プロテアーゼへのアクセス可能性に影響を与えるコンフォメーションスイッチとして同様に機能する可能性があります。これらの構造変化は、より効率的なウイルス侵入を促進する可能性があります。

新型コロナウイルス(COVID-19)の症状が異なる背景には、液性免疫と細胞性免疫のバランスがある

新型コロナウイルスに感染した場合、無症状から重症まで幅広い病態が存在します(COVID-19)。無症状者と重症患者ではどのように免疫反応が異なっているのか?この問題については、数多くの研究が行われていますが、Third Military Medical University, Chongqing, Chinaらのグループの研究は、かなりクリヤに液性免疫と細胞性免疫に大きな違いがあることを示しています。
https://www.nature.com/articles/s41392-021-00525-3

病態を無症状/軽症、中症/重症に分けた場合に、無症状/軽症の場合には、SARS-CoV-2特異的なIgGの産生が少なく、胚中心も形成されないため、SARS-CoV-2特異的なB細胞の活動は過渡的な形で終わってしまいます。それに対して、中症/重症の場合には、SARS-CoV-2特異的なIgGは如実に増加しており、胚中心が活動していることを表すcirculating cTFH細胞やケモカインであるCXCL13が有意に上昇しており、液性免疫が反応が強く表れていることを示します。
一方、無症状/軽症の場合には、IFN-γを産生するCD8+ T細胞、SARS-CoV-2特異的なTH1細胞、Granzyme B(GZMB)が高発現しており、細胞性免疫が非常に活発であることを示します。(なお、Granzyme B(GZMB)は,活性化した細胞傷害性T細胞とNK細胞の細胞質顆粒に存在するセリン・プロテアーゼであり、標的細胞のアポトーシスを誘導します。)

つまり、無症状/軽症の場合は、細胞障害性T細胞や、ここでは論述されていませんがNK細胞らがSARS-CoV-2の感染を抑え込んでいるが故の状態と考えられ、このプロセスでウイルスを抑え込めなくなると液性免疫が前面に出てくるという考え方が成り立ちそうです。あるいは、液性免疫と細胞性免疫のバランスの結果と言ってよいのかも知れません。
また、最近は季節性の風邪の原因となるコロナウイルスに対する抗体のSARS-CoV-2との交差反応も着目されており、無症状/軽症に関係している可能性があるということが指摘されていますが、更なる検証が必要ですとしています。

変異の激しいRNAウイルスには、やはりカクテル抗体が有効:SARS-CoV-2のケース

Fred Hutchinson Cancer Research Centerらのグループは、SARS-CoV-2のRBDに対する二種のモノクロナール抗体(LY-CoV555, LY-CoV016)について、発生した変異の影響を調べています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.17.431683v1

LY-CoV016は、K417N変異には非常に弱く、LY-CoV555は、E484K変異には非常に弱いことが分かります。両方とも1,000倍以上IC50の値が増加しています。従って、異なったSARS-CoV-2のエピトープを持つ抗体を幾つか組み合わせてカクテル抗体とすることで、SARS-CoV-2の変異に強い治療薬とすることができるであろうことを本研究は如実に示しています。

SARS-CoV-2 B.1.1.7変異株とB.1.351変異株は、ACE2に対してより強い結合力を示す

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)において、英国変異株(B.1.1.7)と南アフリカ変異株(B.1.351)が知られており、PfizerやModernaのワクチンの有効性に変化が生じているという報告は既に何報も存在します。本ブログでも、2021年2月6日のブログにおいて、英国変異株はそれほど影響を受けないが、南アフリカ変異株では、有効性がかなり下がりそうだという内容を紹介しています。

Stanford University School of Medicineのグループは、これら変異株は、感染受容体であるACE2に対して、より高い結合力を持っているようだと報告しています。B.1.1.7で約2倍、B.1.351で約5倍結合力が上がっているようです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7924271/

乳癌における特異的な糖鎖発現とマクロファージとの関係性について:SIGLEC-9, SIGLEC-10, SIGLEC-15, MGLらレクチンの働き

乳癌で特異的に発現する糖鎖とマクロファージとの関係性に関するレビューがあったので、その要点を解説してみたいと思います。
https://www.mdpi.com/1422-0067/22/4/1972/htm

乳癌で発生する糖鎖修飾の変化については、次のような事柄が知られています。
Lewisa Lewisxの増加、
Core Fucoseの増加、
多分岐N-型糖鎖の増加、
O-型糖鎖の刈込、
および、N-型糖鎖、O-型糖鎖へのシアル酸修飾の増加であります。

乳癌細胞の周辺には、間質細胞はもちろんですが、浸潤してきた免疫細胞が多数存在します。乳癌細胞とそれら免疫細胞(マクロファージら)との相互作用を理解することが、癌治療の観点からは非常に重要です。
この観点で重要なのが、糖鎖認識レクチンである、SIGLEC-9, SIGLEC-10, SIGLEC-15、およびMGLであります。SIGLEC-9は、Sialyl-T抗原がエンリッチされたMUC1に結合し、MAPK-ERKシグナルパスを活性化し、免疫抑制的に機能するPD-L1の発現やIL-10の分泌を促します。SIGLEC-10は、Sialyl-TやSialyl-Tn抗原に結合し、マクロファージの貪食作用を押さえてしまいます。SIGLEC-15は、Sialyl-Tn抗原に結合しますが、その機能に関しては未知の部分が多く、TGF-βの分泌を促すというよりは、SYK/MAPKシグナルパスを活性化するようです。一方、MGLは、GalNAcに結合し、ERKシグナルパスの活性化と抗炎症性サイトカインIL-10の分泌に関与していると考えられています。これらのポイントが乳癌に対する創薬ターゲットに成り得ると考えられます。

敗血症で細胞外に放出される核内クロマチンタンパク質であるHMGB1の役割とその制御にかかわるpHとZnの関係

UC San Diegoのグループは、核内クロマチンタンパク質であるHigh mobility group box 1(HMGB1)が敗血症で細胞外に放出され、好中球の受容体に結合し炎症を加速する際に、血液のpH、血中のZn濃度、そしてシアル酸修飾を受けた血中タンパク質の存在が大きくかかわっていることを示しました。
https://www.pnas.org/content/118/10/e2018090118

従来より、HMGB1は、正常組織では細胞核内でDNAと結合することによりクロマチン構造を制御して遺伝子発現を調節するシャペロンタンパク質として機能する一方、壊死組織では細胞外に放出されると自然免疫を活性化して好中球らの壊死組織への集積を誘導し、壊死組織除去を促進させることが知られていました。
http://www.med.osaka-u.ac.jp/introduction/research/endowed/therapy

HMGB1の好中球への結合は、血液のpH、および血中のZn濃度によって、大きく阻害されることが新たに示されるとともに、HMGB1が、シアル酸認識レクチンとして、血中のシアロ糖タンパク質と結合することで、好中球への結合が阻害されることが示されました。
血液のpHは、健常時には、7.35~7.45に厳密に制御されています。しかし、敗血症になるとpHが、7.3以下に下がります。また、血中のZn濃度も数µMにまで低下します。健常な状態では、HMGB1は、細胞外に放出されても血中のシアロ糖タンパク質に結合することで好中球への結合が阻害され炎症反応を誘発しません。しかし、血中のpHとZn濃度が下がると、シアロ糖タンパク質が阻害剤として機能しなくなり、好中球に結合して炎症を加速します。とすると、COVID-19で多臓器不全を起こしている状態において、pHと血中Zn濃度に着目し、HMGB1を阻害する治療法も有効なのかも知れません。