乳癌における特異的な糖鎖発現とマクロファージとの関係性について:SIGLEC-9, SIGLEC-10, SIGLEC-15, MGLらレクチンの働き

乳癌で特異的に発現する糖鎖とマクロファージとの関係性に関するレビューがあったので、その要点を解説してみたいと思います。
https://www.mdpi.com/1422-0067/22/4/1972/htm

乳癌で発生する糖鎖修飾の変化については、次のような事柄が知られています。
Lewisa Lewisxの増加、
Core Fucoseの増加、
多分岐N-型糖鎖の増加、
O-型糖鎖の刈込、
および、N-型糖鎖、O-型糖鎖へのシアル酸修飾の増加であります。

乳癌細胞の周辺には、間質細胞はもちろんですが、浸潤してきた免疫細胞が多数存在します。乳癌細胞とそれら免疫細胞(マクロファージら)との相互作用を理解することが、癌治療の観点からは非常に重要です。
この観点で重要なのが、糖鎖認識レクチンである、SIGLEC-9, SIGLEC-10, SIGLEC-15、およびMGLであります。SIGLEC-9は、Sialyl-T抗原がエンリッチされたMUC1に結合し、MAPK-ERKシグナルパスを活性化し、免疫抑制的に機能するPD-L1の発現やIL-10の分泌を促します。SIGLEC-10は、Sialyl-TやSialyl-Tn抗原に結合し、マクロファージの貪食作用を押さえてしまいます。SIGLEC-15は、Sialyl-Tn抗原に結合しますが、その機能に関しては未知の部分が多く、TGF-βの分泌を促すというよりは、SYK/MAPKシグナルパスを活性化するようです。一方、MGLは、GalNAcに結合し、ERKシグナルパスの活性化と抗炎症性サイトカインIL-10の分泌に関与していると考えられています。これらのポイントが乳癌に対する創薬ターゲットに成り得ると考えられます。