O-Mannose修飾を受けたα-ジストログリカンとガレクチンとの相互作用について

北大・次世代物質生命科学研究センターらのグループは、O-Mannose修飾を受けたα-ジストログリカンとガレクチンとの相互作用について、特にcore M1に着目した研究結果を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-22758-0

O-Mannose (O-Man) の修飾構造は、ヒトにおいては正常な発達に必要な限られたタンパク質にのみ見られるもので、筋肉および神経生理学において重要な機能を持っていることが分かっています。 α-ジストログリカン (α-DG) は、ジストログリカン (DG) の細胞外成分であり、最も広く研究されている哺乳類の O-Man 糖タンパク質です。骨格筋と脳で遍在的に発現し、細胞接着、筋肉の完全性、および神経学的発達に関連しています。 α-DG は、そのムチン様ドメインに、LacNac 末端を持つ3種類のO-man コア構造 (M1、M2、および M3) というユニークな糖鎖構造を持っています。

本研究では、ヒトのGal-1、-4、および -9 (-3 を除く) は、O-Man LacNAc 末端複合糖質と強く結合し、α2,3-シアリル化末端が存在すると、これらガレクチンの親和性が大幅に低下することが示されました。これは、このタイプの糖鎖修飾の伸長によって、このタイプの O-Man 糖鎖に対するガレクチン活性を微調整できることを示唆しています。更に、これらの相互作用はラクトースによって有意に阻害され、α-DG core M1 型糖鎖がガレクチンの標準的な糖結合部位 (S 面) に結合し、ガレクチンの受容体として機能することも確認されました。

更に、Gal-1 は、マイクロアレイ実験で、ラミニン-111、-121、-211、および-221 (ただし-511 を除く) とcore M1 α-DG 糖ペプチドをリンクするトランスブリッジ型の結合を形成することが示され、筋ジストロフィーの治療において、ガレクチンが治療に使える可能性が示されました。


ラミニンとガレクチンを含む core M1 複合糖質マイクロアレイの蛍光画像

アーバスキュラー菌根菌接種による根圏細菌叢の変化と大豆の成長促進効果

Engineering Research Center of Agricultural Microbiology Technology, Ministry of Education, Heilongjiang University, Harbin, Chinaらのグループは、アーバスキュラー菌根菌(Rhizophagus intraradices)を大豆に接種し、大豆の成長効果や根圏細菌叢・真菌叢の変化について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-22473-w

フィールド実験は、パラメータとして、AM菌接種の有り・無し、および大豆の連作の有り・無しを振り、3重の実験として行われました。即ち、In0、In1、Non0、そしてNon1という4条件での比較です。

AM菌接種の効果は、根圏細菌叢の組成変化よりも根圏真菌叢の組成変化に大きく現れました。下図に示すように、最も優勢な属は、In1YSFおよびNon1YSFで、Subulicistidium でした。ただし、フサリウムは、In0YSF と Non0YSF で最も優勢な属でした。興味深いことに、フサリウムの相対存在量は、AM菌を接種することで、Non0YSF の 15.72% から In0YSF の 1.58% に激減していました。

これに呼応して、大豆根腐れ病指数は、AM菌の接種により有意に減少しました。たとえば、AM菌接種による病害指数は非接種に比べて66%に減少しています。そしてまた、大豆の生育/収量指数は、AM菌の接種で高くなり、非連作下でAM菌を接種した大豆で最も高くなっていました。

(sLex)に結合特異性を持つE-セレクチンを (6′-sulfo-sLex)に対する結合特異性に改変する

Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA 30602らのグループは、E-セレクチンの糖鎖結合特異性を二ケ所に変異を入れることで sLex から 6′-sulfo-sialyl Lewis X に変えることができると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9564326/

レクチンは糖鎖の検出によく使用されますが、硫酸化糖鎖への適用は、硫酸化糖鎖の認識レクチンが殆どないことと、そのブロードな特異性のために非常に困難です。

本研究では、E-セレクチンに着目し、6′-sulfateとE-セレクチンのE92およびE107との間の不安定化な立体的および静電的相互作用をE92A/E107Aという二個の変異を挿入することによって除去し、6′-sulfo-sLexに対する新たな結合特異性を持つように改変しています。良く知られているように、E-セレクチン自体は、非硫酸化リガンド sLex に特異的な結合を示します。
この新しい糖鎖結合特異性は、6′-sulfo-sLex が優先リガンドである Siglec-8 の特異性を良く模倣しています。

根圏細菌叢の細菌構成と植物の遺伝子型には相関関係が存在する

State Key Laboratory of Agricultural Genomics, BGI-Shenzhen, Shenzhen, Chinaらのグループは、根圏細菌叢の形成に数多くの植物の遺伝子が関わっていることを、一定の環境下で栽培した827種のアワ育種品種を用いて検証しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9546826/

実験的に、アワの根圏細菌叢から合計 644個の分類学的に異なる細菌株が収集され、257個の細菌分離株を得ることができました。これらの細菌分離株から、植物成長促進に対する回帰モデルでトップのベータ推定値を示した6つの正のマーカーOTU と4つの負のマーカーOTU の代表的な細菌株を用いて、植物成長検証実験が行われました。

ここで、正のマーカーOTUsは、 (Acidovorax OTU_46, Bacillaceae OTU_22228, Kitasatospora OTU_8, Bacillus OTU_19414, Bacillus OTU_25704 and Bacillales OTU_381)、負のマーカーOTUsは、 (Shinella OTU_37, Bacillus OTU_54, Bacillaceae OTU_19835 and Bacillaceae OTU_28133)、であります。

これら10種のマーカー細菌株とアワのHuagu12という育種品種を滅菌プレートで7 日間共培養し、根の長さや植物の高さに現れる違いをコントロールと比較しています。トップのベータ推定値を示すOTU を表す正のマーカー細菌株は、顕著な成長促進能力を示しました。具体的には、正のマーカー細菌株(Kitasatospora OTU_8)は根と茎の両方の成長を促進しましたが、(Bacillus OTU_22228)と(Acidovorax OTU_46)は、コントロールと比較してシュートの成長のみを促進しました。一方、負のマーカー細菌株(Bacillaceae OTU_19835)および(Bacillaceae OTU_28133)は、Huagu12 のシュートと根の成長を抑制しました。

本研究を通じて、宿主の遺伝的変異と根圏細菌叢との間に相関関係があることが示されていることは非常に興味深く、根圏細菌叢の構成が植物の遺伝子型によって影響を受けること如実に示されています。

育種の新しい視点:SynComと呼ばれるコア細菌種の利用

古典的な育種法に転換期が訪れようとしています。大きな流れの一つは特定の標的DNA配列のみを変更することができるゲノム編集を使った育種法です。これにより育種にかかる期間を従来法に比べて大きく短縮化することができます。しかし、更に大きなうねりは、植物の形質を改善するために根圏細菌を積極的に使用しようとする考え方です。この方法の大きなメリットは、植物は元の遺伝子型を維持しており、遺伝子の組み換えやゲノム編集を行った製品に比べれば、特定の安全性評価を必要としないということにあります。

根圏細菌と植物の共生関係については、既に多くのブログ記事を書いていることもあり(即ち、多くの論文が存在するということなのですが)、その重要性について、改めて本ブログで強調することはしません。しかし、その方法論として、SynComという言葉が使われだしていることを本ブログでは強調しておきたいと思います。SynCom というのは、根圏細菌叢の全体的な組成に関する蓄積データの解析を通じて、根圏細菌叢の構造に大きく影響を与える可能性が最も高いと考えられる「コアとなる選別された数種の細菌種の組合せ組成」のことを指します。

実際の農業における SynCom 応用の有効性はテストされていますが、しばしば一貫性がないようです。この失敗の主な理由は、植物に関連する根圏細菌が有益な効果を期待通りに発揮できていないからです。この問題を解決するには、宿主植物の遺伝子型と根からの分泌物、生育環境との細菌種の適合性、在来の土壌細菌との空間的競合などを考えなければなりません。自然発生的な細菌集団とのSynComの生態的相互作用は、実際の環境では考慮しなければならない最も重要な側面のひとつだと考えられます。更に、SynComを根圏に定着させテリトリーを拡大させる為に、バイオスティミュラントを積極的に利用するという事も考えられるでしょう。

マイクロバイオームセンサーとバイオスティミュラントは、今後益々ホットな話題になっていくはずです。

参考)https://www.cell.com/trends/plant-science/fulltext/S1360-1385(22)00156-X

既存のバイオスティミュラントの例

バイオスティミュラントは、植物に対する気候や土壌の状態に起因する植物のダメージを軽減し、植物の収量を上げるための新しい技術です。特に、根圏細菌叢の制御による病原菌の抑制、植物成長ホルモンの分泌、土壌中の植物栄養素の可溶化などの効果が注目されています。
日本バイオスティミュラント協議会

このような観点で、市場にはすでに幾つかの商品が存在しています。それを幾つかご紹介したいと思います。
コメとれ~る(KODAと称されて、⽔田に繁殖するアオウキクサから採取された「α-リノレン酸」を含有し、植物の生長調節作用を示す)
Dr.キンコン(アーバスキュラー菌根菌を含有し、植物との共生効果を促進する)
Dr.放線菌(グラム陽性細菌である放線菌を含有し、病原菌を抑制する)
トリコデソイル(子嚢菌トリコデルマを含有し、病原菌を抑制する)
キチン(N-GlcNAcが植物の免疫を活性化、放線菌の餌にもなる)

アグロホロビオントは、これら既存のバイオスティミュラントの効果を改善するためのマイクロバイオームセンサーの開発を進めると共に、新しいバイオスティミュラントの開発にも取り組んでいます。
アグロホロビオントの活動

糖鎖生物学者でもあるスタンフォード大学のキャロライン・ベルトッツィらが2022年のノーベル化学賞を受賞

2021年6月に、スタンフォード大学のキャロライン・ベルトッツィらが発表したRNAが糖鎖修飾を受けているという信じがたい論文をブログ紹介しています。
small noncoding RNAが糖鎖修飾を受けているという信じがたいお話

そのご本人が、2022年のノーベル化学賞を受賞しました。
受賞した内容は、糖鎖生物学そのものではありませんが、シアル酸という糖鎖の生合成に関する研究から、生体直交化学の開拓に至りました。

因みに、「がん細胞表面のシアル酸修飾と免疫に関して」キャロラインがTED上で分かりやすい話をしています。ご参考にどうぞ!
がん細胞表面のシアル酸修飾と免疫のお話:TED Youtube

IgGの受容体であるFcγRIIIaのN-型糖鎖修飾の影響について

Copenhagen Center for Glycomics, Department of Cellular and Molecular Medicine, Faculty of Health Sciences, University of Copenhagen, Denmarkらのグループは、IgGの受容体であるFcγRIIIaのN-型糖鎖修飾の影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9524020/

FcγRIIIaはIgGの受容体であり、主にNK細胞、マクロファージ、単球に発現しています。本研究では、FcγRIIIaとIgG1の間のアフィニティーに対するFcγRIIaのN-型糖鎖修飾の影響が調べられています。

期待されるように、全てのFcγRIIIa受容体で最高のアフィニティーを示すのは、IgG1-G0とIgG1-オリゴマンノースの両方でCore Fucoseが脱修飾されたIgGに対してでした。
興味深いことに、FcγRIIIaのN-型糖鎖修飾は、アフィニティーが2倍ほど増加するオリゴマンノシル化FcγRIIIaを除いて、Core Fucoseが脱修飾されたIgGでプローブした場合、アフィニティーにはほとんど影響がありませんでした。
最高のKD、即ち最低のアフィニティーを与えるのは、全てのFcγRIIIaに対して、IgG1のハイブリッド糖鎖修飾構造および IgG1のモノアンテナ糖鎖修飾構造でした。
一方、最低のKD、即ち最高のアフィニティーを与えるのは、Core Fucoseが脱修飾されたIgG1とオリゴマンノシル化FcγRIIIaの組み合わせでした。

サトウダイコン(テンサイ)の連作では、不連作に比べて、根圏真菌類に顕著な違いが生まれる

National Sugar Crop Improvement Centre, Heilongjiang University, Harbin, Chinaらのグループは、サトウダイコン(テンサイ)の連作と不連作における根圏細菌叢の違いについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9490479/

サトウダイコンの連作と不連作グループの間には、根圏真菌の組成に大きな差が現れました。
不連作と比較して、連作は、タウソニア、ギルベルロプシス、フサリウムなどの潜在的な病原菌の相対的存在量を増加させましたが、オルピジウムの相対的存在量は減少していました。


左図=根圏バクテリア属、右図=根圏真菌属
ここで、Sc:連作バルク土壌、Sn:不連続作付けバルク土壌、Rc:連作根圏土壌、Rn:不連続栽培根圏土壌、Bc:サトウダイコンの連続収穫、Bn:不連作サトウダイコン。

イネいもち病:イネは、如何にして病原菌の侵入を阻止するか?

岩手バイオテクノロジー研究センターらのグループは、 イネいもち病菌キシラナーゼの糖鎖にイネの糖鎖結合性タンパク質であるOsRMCが結合すると、キシラナーゼのセルロースへのアクセスがブロックされ、キシラナーゼの酵素活性が阻害されることによって病原菌の侵入が阻害されると報告しています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1010792

植物のアポプラスト空間は、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロース、およびペクチンで構成される一次細胞壁で作られています。ヘミセルロース多糖類は、細胞壁の物理的性質を制御する上で重要な役割を果たします。双子葉植物のキシログルカンと単子葉植物のキシランは量的には主要なヘミセルロース多糖類であり、セルロースミクロフィブリル間の架橋を形成することによって細胞壁が強化されます。ヘテロ多糖類で構成される細胞壁は、植物病原体の侵入に対する物理的な障壁ともなります。

一方で、植物病原性真菌は、植物細胞壁多糖類の加水分解および酸化分解を触媒する一連の細胞壁分解酵素を分泌し、植物の細胞壁を壊して内部に侵入します。

植物は、真菌の細胞壁分解酵素に対する防御として、様々な活性阻害タンパク質を進化させてきましたが、糖鎖結合性タンパク質を含む真菌酵素の機能を植物がどのように打ち消すかは不明のままでした。ここでは、イネ (Oryza sativa) の糖鎖結合性タンパク質であるOsRMC がいもち病菌キシラナーゼの糖鎖に結合すると、セルロースへのアクセスがブロックされ、キシラナーゼ酵素活性が阻害されることが実証されました。ここで、OsRMCは二つのDUF26 を含むシステイン・リッチ・リピート分泌タンパク質のメンバーです。


(左)野生型(ひとめぼれ)のコントロール(Con)およびOsRMC過剰発現(OsRMC-OX)系統のイネ葉で、イネいもち病菌接種4日後。
(右)イネの葉のいもち病菌の量は、イネのゲノムDNA に対するいもち病菌のゲノムDNAの比率をPCRで定量化。