SARS-CoV-2感染におけるC型レクチン受容体の役割はトランス感染と考えられる

Univ. Grenoble Alpes, Franceらのグループは、C型レクチンを介したSARS-CoV-2感染のメカニズムについて報告しています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article/authors?id=10.1371/journal.ppat.1009576

各種C型レクチン(DC-SIGN、L-SIGN、MGL、Langerin)とSARS-CoV-2 spikeタンパク質の分子間相互作用をSPRを用いて検証しました。DC-SIGN、L-SIGN、MGLは、Kd値として μMレンジのアフィニティー(2 ~ 10 μM)を示しました。一方、Langerinは少なくとも1桁以上アフィニティーが低いと判断されました。

C型レクチンのSARS-CoV-2感染のメカニズムを理解する為に、単球由来樹状細胞(MDDC)、単球由来マクロファージ(M2-MDM)およびVero E6細胞を使用した感染実験が行われました。 興味深いことに、VSV/SARS-CoV-2 疑似ウイルスは、MDDCやM2-MDMがDC-SIGNを発現しているにも関わらず、直接的にはまったく感染しませんでした。しかし、VSV/EBOV-GP疑似ウイルスの場合には、その直接感染が認められ、DC-SIGNを介したシス感染が抗DC/L-SIGN抗体によって阻害されることも示されました(MDDCの場合で92.5%の阻害、M2-MDMの場合で68.4%の阻害でした)。一方、VSV/VSV-G疑似ウイルスは、MDDCにもM2-MDMにも強く感染しましたが、この感染はDC-SIGNとは無関係であります。実際、抗DC-SIGN抗体はEbola Virusの感染に対して何の影響も与えませんでした。

SARS-CoV-2感染におけるDC/L-SIGNの基本的な役割を理解するために、MDDCをSARS-CoV-2と共培養し、そのMDDCをVero E6細胞の培養プレートに加えてみました。因みに、Vero E6細胞はACE2を発現するリファレンス細胞として良く使用されます。興味深いことに、DC-SIGNは、MDDCからVero E6への SARS-CoV-2の感染を促進しました。抗DC-SIGN 抗体をアプライすることで、感染が98%も阻害されることも示されました。これらの実験結果は、DC/L-SIGNのSARS-CoV-2感染における役割が、トランス感染であることを強く示唆しています。

ACE2-FcとscFv-IL6R-Fc融合タンパク質を分泌するように改変した間葉系幹細胞(MSC)を新型コロナウイルス(COVID-19)の治療に使用するというアイデア

間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療は現在幅広く行われています。2020年までに実に1138件以上のMSCを用いた治療法の治験が実施されています。MSCを用いた治療の基本的なメカニズムは、免疫調整機能、サイトカインのパラクリン分泌、同様な効果を持つエクソソームの分泌、小胞体ストレスの緩和、脱繊維化などにあると考えられています。これらの特性を生かせば、MSCは、COVID-19のARDSに対しても効果を示すだろうと考えられます。

Shanghai Jiao Tong University, Chinaらのグループは、COVID-19の治療薬としてMSCを使うという方法を基本に、そのMSCに遺伝子工学的に改変を加え、ACE2-Fc融合タンパク質とscFv-IL6R-Fc融合タンパク質を分泌するように改変したものを治療に用いることを提案しています。前者は、SARS-CoV-2の感染阻害に有効であり、後者はIL-6のシグナルパスを抑制することでサイトカインストームを抑えることに効果があると考えられます。
本提案はアイデアに留まっている内容なので、実際の知見での有効性の確認が必要です。しかし、アイデアとしては面白いので紹介させて頂きました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34007862/

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)における交差反応血清とメモリーB細胞の反応性について

Scripps Research Instituteのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と季節性のコロナウイルス(HCoVs)の間に存在する交差反応血清とメモリーB細胞の特徴について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-23074-3

36名のCOVID-19回復期血清は、SARS-CoV-2 Spikeに強い反応性を示し、SARS-CoV-1に対してはそこそこの、MARS-CoVに対しては弱い反応性を示しました。また、HCoVsとも強い交差反応性を示しました。特にβ-コロナウイルスであるHCoV-HKU1 と HCoV-OC43に対しては強い交差反応性を示し、α-コロナウイルスであるHCoV-NL63に対しては一番弱い交差反応を示しました。 HIV感染者ではありますがそれ以外は健常な36名のSARS-CoV-2パンデミック以前に採取された血清は、SARS-CoV-2/SARS-CoV-1 や MERS-CoV に対してはほとんど反応性を示さず、HCoVsに対しては強い反応性を示しました(下図を参照)。

このSARS-CoV-2パンデミック以前のコホートのサンプルでは、HCoVsの感染で生じるSARS-CoV-2 Spikeに対する反応性を有する抗体は認められませんでしたが、 最近の研究では、子供や青年期の人々からパンデミック以前に得られ血清でも、ある割合でSARS-CoV-2 Spikeに反応性を示す抗体が存在することが報告されています(下記の研究論文を参照のこと)。
Preexisting immunity to SARS-CoV-2 before the pandemic

SARS-CoV-2/HKU1-CoV に交差反応性を示した抗体は、SARS-CoV-2のS1ドメインにはエピトープを持たず、より構造が保存されているS2ドメインにエピトープを持つことが示唆されました。

また非常に興味深いことに、SARS-CoV-2に感染するとHCoV-HKU1 Spikeに対する抗体力価が上昇することが分かりました(他のHCoVsに対してはそれほどでもないようです)。このことは、SARS-CoV-2の感染が、HCoV-HKU1 Spikeに特異的なメモリーB-細胞の活性を高めたことを意味します。

SARS-CoV-2のACE2に変わる代替感染受容体(AXL, L-SIGN, DC-SIGN)の存在をレビュー

Shandong University of Traditional Chinese Medicine, ChinaらのSARS-CoV-2の感染に関するレビューから、興味深い一文を紹介したいと思います。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211383521001726?via%3Dihub

SARS-CoV-2の感染受容体としてACE2の役割は明確になっていますが、ACE2の発現に関する大規模な研究からは、ACE2の発現は組織及び細胞種に特異的であり、SARS-CoV-2は、ACE2がほとんど発現していない組織にも感染することが分かっています。例えば、ヒトの肺や気道におけるACE2の発現は極めて低く、しかも上皮細胞に限定されています。しかしながら、SARS-CoV-2が気道の上皮細胞に好んで感染することや、ACE2がまったく発現していないヒトの肺腺癌にもSARS-CoV-2が感染することは良く研究されています。これらのことから、ACE2以外に感染受容体が存在することが推測されており、tyrosine-protein kinase receptor UFO (AXL)や、CD209L/L-SIGN、CD209/DC-SIGNらが代替の感染受容体として認知されつつあります。これらの感染受容体を前提にすると、ACE2に対するRBDよりも、SARS-CoV-2のNTDが主役の座に躍り出ます。

下記が、本レビュー論文でAXLとL-SIGN/DC-SIGNに関して引用されています。
AXLに関して
L-SIGN/DC-SIGNに関して

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のNTDにガングリオシドに結合するドメインがあるという話

Aix-Marseille Université, Franceのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のNTDにガングリオシドに結合するドメインがあると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7547605/

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のNTDにある111~162残基の領域がガングリオシドへの結合ドメインと考えられます。この為、アジスロマイシン(ガングリオシドに似た特徴を有するマクロライド抗生物質で、NTDの134~161残基の領域を認識する)や、COVID-19回復期患者から見つけられたNTDをエピトープとする4A8抗体(NTDの144~158残基をエピトープとする)で結合を阻害することができます。

下図に示すアイデアは、NTDのガングリオシドを認識するドメインが細胞膜上の脂質ラフトと結合することにより、細胞膜に局所的な歪みが生じ、ACE2との結合がアシストされることを示したものです。

ACE2をプローブとして用いる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)高感度簡易センサー:電気化学反応による検出

Perelman School of Medicine, University of Pennsylvaniaらのグループは、高感度で高速検出な電気化学反応を利用した新型コロナウイルス検出のPOCTデバイス(RAPIDと命名)をプレゼンしています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33997767/

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質を検出するためにACE2がプローブとして使用されています。ACE2を電極上に固定化するために、二官能性化合物であるグルタルアルデヒドをリンカーとして使用し、BSAを用いてノンスペをブロッキングします。感度を上げるために、ナフィオンも使用されました。
ACE2 と SARS-CoV-2 Spikeタンパク質の結合が、ここで使用されているRedoxプローブ(ヘキサシアノ鉄酸塩)と電極間の電荷の流れに影響を及ぼすことを利用して、その電荷移動抵抗の変化を測定することで検出します。

結果として、10 fg/mL から 100 ng/mL の範囲で線形な反応を得ることが出来 (R2 = 0.993)、検出限界は2.18 fg/mL (S/N=3)となりました。測定時間も4分と非常に高速です(サンプルのインキュベーションに2分、測定と解析に2分)。

139 鼻腔swabサンプルを用いたブラインドテストでは(109は、RT-PCRでCOVID-19陽性、内30は、RT-PCRで陰性)、感度、特異度、正確性は鼻腔Swabサンプルで、それぞれ83.5%、100%、87.1%となり、唾液サンプルで、それぞれ100%、86.5%、90.0%となりました。

ザクロの皮からの抽出物が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗ウイルス薬になるという

Arterra Bioscience SPA, Naples, Italyらのグループは、ザクロの皮からの抽出物(PPE)が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗ウイルス薬になる可能性を示しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fchem.2021.638187/full

ザクロの皮からの抽出物の二大成分は、プニカラギンとエラギタンニンです。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質とACE2の結合阻害実験が行われ、PPEが効果的に結合を阻害することが示されました(下図参照)。本実験において、AC384がコントロールとして使用されていますが、これはSARS-CoV-2のSpikeタンパク質とACE2の結合を阻害するモノクロ抗体です。

Human kidney-2 cells (HK-2)を用いての感染阻害実験も行われました。SARS-CoV-2 Spikeタンパク質をキャリーするレンチウイルスと、Vesicular stomatitis virus G (VSVG)タンパク質をキャリーするレンチウイルスが使用されました。PPEがSARS-CoV-2 Spikeレンチウイルスの感染を見事に阻害していることが分かります(下図参照)。

これらin vitroの実験結果は、PPEを用いた効果的で斬新な治療薬の開発を進める上において、非常に心強いものとなっています。

脳内出血に対する血清糖鎖マーカーがあるらしい:ConAが最も優れた特異度を示した

The First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Hefei, Chinaらのグループは、脳内出血に対する血清糖鎖マーカーを見つけたと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8105815/

AUCの値はTOP=6種類のレクチンに対して下記のようでした。
0.93 for ConA (P<0.01)、
0.95 for PNA (P<0.01)、
0.67 for VVA (P=0.04)、
0.92 for AAL (P<0.01)、
0.86 for LTL (P<0.01)、
0.84 for AIL (P<0.01)。

また、その時の感度/特異度は下記のようでした。
75.0%/95.8% for ConA、
100.0%/64.7% for PNA、
75.0%/58.3% for VVA、
100.0%/72.9% for AAL、
87.5%/79.2% for LTL、
A68.8%/83.3% for AIL。

結果的には、α-Man/α-Glcに糖鎖結合特異性を有する(ConA) が最も高い特異度を示しました。このことは、ConAが脳内出血の診断や予後予測に特異的な糖鎖マーカーを検出するに際して、最も優れたレクチンプローブになるかも知れないということを示唆しています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)B.1.427/B.1.429変異株の感染力と中和抗体への影響について

University of California, San Franciscoらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)B.1.427/B.1.429 変異株の感染力や中和抗体への影響について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33991487/

有名なSARS-CoV-2の変異は、B.1.1.7(英国株)、B.1.351(南アフリカ株)、そしてP.1(ブラジル株)であります。B.1.1.7変異株は、N501Y変異によって、B.1.351 と P.1変異株は、N501Y変異に加えて、E484K、K417N/K417T変異を持っていることが大きな特徴です。
B.1.427/B.1.429変異株は、2020年9月からカリフォルニアで蔓延し出した変異株であり、Spikeタンパク質をコーディングしている領域に存在するS13I、W152C、L452R変異が特徴であります。なお、L452R変異は、ACE2に対するRBDに存在します。

これらの変異株は、変異前の株に比べて、18.6%~24% 感染力が増大しており、中和抗体の力価も、回復期患者のそれで4.0~6.7倍減少し、ワクチン接種でも2倍ほど減少することが確認されました。

この理由については、RBDの構造変化が関係しているとされ、L452はF490やL492と共にRBD上に疎水性パッチを形成することが背後にあると考えられました(下図参照)。

乳癌の再発群と非再発群の間に見られる特徴的な糖鎖修飾の違いが発見される:TJA-IIが特異的に結合するβ-GalNAc糖鎖修飾

順天堂大医学部らのグループは、乳癌の再発群と非再発群の間に、特徴的な糖鎖修飾の違いがあることをレクチンマイクロアレイを用いて発見しました。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0250747

乳癌は女性の最も一般的な悪性腫瘍の一つです。トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、再発しやすいサブセットであり、全体の乳癌の15~20%を占め、エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体の発現を欠き、ヒト上皮成長因子受容体-2(HER2)が過剰発現していることが特徴となっています。このTNBC患者には、ホルモン治療や抗HER2治療が効かないことから、現状では細胞毒性の化学療法が唯一の選択肢となっています。

著者らは、Fucα1-2Gal や β-GalNAc構造を持つ糖鎖にアフィニティーを持つレクチンTJA-IIの信号が、再発したTNBC患者から外科手術で摘出した組織標本からの細胞抽出物において高くなっていることを発見しました。そして、組織標本のTJA-II免疫染色によっても、TNBC患者と非TNBC患者の間におけるこの違いを確認しました。他2つのレクチン、WFAとBLP、も同じような傾向を示すことから、β-GalNAc構造を持つ何らかの糖タンパク質がこの背後にあると考えられました。次の研究段階は、再発性のTNBC治療に向けて、この糖鎖修飾構造を持つターゲットとなる糖タンパク質を見つけることです。