樹状細胞におけるα2-3Sia結合後のシグナルパスについて:α2-3Siaは免疫抑制的に作用する

Vrije Universiteit Amsterdam, Netherlandsのグループは、樹状細胞にα2-3Siaの刺激が入った場合のシグナルパスの変化について議論しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.673454/full

樹状細胞(DC)は、細胞膜上のパターン認識受容体(PPR)によって、非常に多様な病原菌らの異物を認識することが出来、MHCとともにその抗原を細胞膜上に提示することによってT-細胞を活性化させます。
シアル酸は、癌の免疫制御において重要な役割を果たしていることが認識されてきています。癌が進行するにつれて、癌細胞の周りに免疫抑制的な微小環境を作り上げるために、シアル酸の修飾を増加させることがしばしば見られます。また、病原菌が免疫を逃れて生き残るために、シアル酸修飾を増加させるという例も良く見られます。

著者らは、樹状細胞において、LPSの刺激下で、α2-3Siaの刺激が入ったときに、リン酸化タンパク質、キナーゼ活性、そしてまたJAK-STATシグナルパスに如何なる変化が起こっているかを調べました。LPSはリポ多糖の略であり、免疫を活性化する場合のモデル物質(エンドトキシン)として良く使用されます。

結果を概観すると、次のようなことが言えます。
α2-3siaの刺激はリン酸化タンパク質を増やすのですが、α2-3sia とLPSで同時に刺激をすると、リン酸化タンパク質が減少します。α2-3Sia刺激を受けた樹状細胞では、α2-3SiaとLPSで同時に刺激したそれに比べて、ERK, AKT1, PKCB, GSK3, PKCD, PAK1, PKA, GSK3, GRK, IκB, RAF1らのキナーゼが減少します(因みに、これらのキナーゼはケモカインのシグナルパスに関係しています)。更に、α2-3siaの刺激は、JAK-STATシグナルパスに、STAT3やSTAT5Aのリン酸化を弱めることによって影響を与えていました。

ここで起こっている物事は非常に複雑なのですが、これらの変化は、炎症性サイトカインであるIL-12を減少させ、抗炎症性サイトカインであるIL-10を増加させるようであり、α2-3Siaの刺激は、結果として全体的に炎症を抑える方向に系を動かすことが示されました。

藻類から抽出された抗ウイルスレクチン(SARS-CoV-2、HIV、Influenza、Ebora)

藻類から抽出された天然分子(多糖類やレクチン)を抗ウイルス薬として検討した例は多く、Zhengzhou University, Chinaらのグループは、そのレビューを行っています。
https://www.mdpi.com/1420-3049/26/8/2134/htm

多糖類については、カラギーナン、ガラクタン、キトサン、アガー、フコイダン、ラミナランらは、あまりに有名であり、一度は名前を聞いたことがあるかも知れません。これらの作用機序については、ウイルスの宿主細胞への吸着阻害、ウイルスRNAの転写や複製の阻害、ヒトの抗ウイルス免疫の活性化らにあるとされています。多糖類は水溶性でもあり、副作用も少なく、手軽だと思われます。詳細については、もしご興味があれば、本論や引用文献を参照して頂きましょう。

ご存知のようにウイルスのエンベロープタンパク質は強く糖鎖修飾を受けており、藻類から抽出された糖鎖結合性のレクチンを用いて、ウイルスの感染を阻害する試みについても多くの研究例があります(下図はその代表例)。

 

 

 

 

 

 

糖鎖とレクチンの相互作用を用いてSARS-CoV-2にいかに立ち向かうか?については、過去のブログ記事も大いに参考になります。レクチンを抗ウイルス薬として用いる場合の副作用をどう克服するか?が大きな挑戦となっています。

COVID-19患者における肺細菌叢の特色について

IRCCS Azienda Ospedaliero-Universitaria di Bologna, Italyのグループは、COVID-19患者とCOVID-19陰性者の間の肺細菌叢の違いを研究しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-89516-6

集団が似ているか?似ていないか?何が集団の特徴であるのか?を議論する為に、いろいろな指標が工夫されています。
類似度パーセント解析では、COVID-19患者の肺細菌叢は、シュードモナス属の総体的な高さにあり、COVID-19陰性者においては、いわゆる肺共生菌(インフルエンザ菌、ベイロネラディスパー菌、カルノバクテリア属、ポルフィロモナス属、連鎖球菌)の増加が特徴と考えられました。
一方、線形判別分析では、COVID-19患者の肺細菌叢は、シュードモナス属、スフィンゴバクテリア属、クロストリジウム属、アシネトバクター、エンテロバクターが特徴とされました。

これらの分析指標に共通して現れているのは、シュードモナス属であり、このことは多剤耐性を持つ日和見グラム陰性菌がCOVID-19患者で増加していることを意味し、COVID-19患者では、通常の肺共生菌が逆に減少しているという事が特徴になりそうです。

SARS-CoV-2の感染受容体であるACE2の発現が、自然免疫シグナルパス(Toll様受容体)の活性化で上昇するらしい

北海道大学らのグループは、ACE2とTMPRSS2の発現に対して、トール様受容体(TLR)のアゴニスト、及びフルチカゾン点鼻薬(FP)が如何なる影響を与えるかについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8107375/

SARS-CoV-2の感染については、宿主細胞表面に存在する二つのタンパク質、angiotensin-converting enzyme 2(ACE2)、及びtransmembrane protease serine 2(TMPRSS2)が主要な役割を果たしているとされています。著者らは、自然免疫のシグナルパスの活性化がACE2やTMPRSS2の発現に如何なる影響を与えるか?そしてまたFPの投与がどんな影響を与えるのか?について研究しています。

実験細胞として、鼻腔粘膜から取得されたヒト鼻腔上皮細胞(HNECs)が使用されました。HNECsをPoly(I:C) で刺激しました。Poly(I:C) はdouble-stranded RNA (dsRNA) であり、ウイルス感染のモデルにおいて、しばしばTLRsのアゴニストとして使用されます。

ACE2とTMPRSS2の発現レベルは、免疫染色らによって評価されました。ACE2の発現量は、顕著にPoly(I:C) の刺激によって上昇しましたが (2.884±0.505-fold change vs. untreated cells, p=0.003)、TMPRSS2に関しては統計的な誤差の範囲で顕著な差はみられませんでした。このPoly(I:C) 刺激によって発現上昇したACE2は、FPの投与によって抑制されることが示されました (0.405±0.312-fold change vs. Poly(I:C)-treated cells, p=0.044)。

FPがSARS-CoV-2の感染を押さえる効果があるのかどうかについては、更にin vivoでの研究が必要です。

妊娠中にSARS-CoV-2に感染した場合の胎児における免疫について

Stanford University School of Medicineらのグループは、妊娠中にSARS-CoV-2に感染した場合の胎児における免疫について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33972953/

幼児の病原菌に対する免疫というのは、母体での効果的な抗体の産生と、その胎盤を通じての母体の抗体の胎児への移動、更に胎児における受動免役の継続性にあります。著者らは、SARS-CoV-2に感染した母親からの抗体の移動率について、懐妊期間における母体のSARS-CoV-2感染時期との関係性、新生児のSARS-CoV-2感染に対する抗体応答、及び受動免役の継続性について研究しています。

本研究は、SARS-CoV-2に感染した145人のは母親と、その147人の胎児に対して行われました。125対の母体および臍帯血サンプル中の抗体には顕著な正の相関関係が認められました(Rs=0.93, p<0·0001)。胎盤を通じての抗体移動率は、77のIgG陽性の母親と胎児の組で計算され、転移率の中央値は1.0(95% CI 0.86-1.09)となりました。母親が重度であった場合に、無症状や軽度/中度の場合に比べて、抗体移動率が顕著に高くなっていました(重度 vs 無症状:1.6 vs 1.0, p=0.003)及び(重度 vs 軽度/中度:1.6 vs 0.9, p=0.002)。

最初にPCR検査で陽性が判明した時期から、出産までの経過時間ごとの抗体の移動率は、0.6(<60日, n=22)、1.2(60-180日, n=27)、そして0.9(>180日, n=5)となりました。この結果は、胎盤を通して行われる抗体の移動が、出産の2か月以上前にSARS-CoV-2の感染が起こっていた場合により高くなることを示しています。つまり、このことは、妊娠中の母親に対するワクチン接種の最適なタイミングを決定する上で非常に意味のある結果だと考えられます。

Galectin-9がSARS-CoV-2感染の非常に優れた診断マーカー(感度/特異度=95%)になり得る

University of Alberta, Canadaらのグループは、Gal-9がCOVID-19の優れた診断マーカーになり得ると報告しています。
https://mbio.asm.org/content/12/3/e00384-21.long

自然免疫細胞は、非常に多岐に渡り病原菌を認識し、免疫応答をします。例えば、活性化したマクロファージや単球は、サイトカインを多量に分泌します(IFN-γ, IL-1, IL-6, TNF-α, IL-18など)。同様に、好中球は好中球細胞外トラップを放出し、NK細胞は病原菌殺傷の第一線で働くと同時に免疫反応の継続にも関与し、サイトカインストームを増幅します。大まかに言えば、基礎疾患で弱くなった自然免疫に、老齢化による免疫反応の乱れが加わり、ウイルス感染が引き金となり、サイトカインストームを引き起こしていると言えます。

Galectinは、細胞の分化、信号伝達、免疫調整などいろいろな生命現象に関わっています。本研究は、Galectin、特にGal-9にフォーカスを合わせ、それがCOVID-19という病理の中でどのように位置づけされるのかを探る為に、120名のSARS-CoV-2感染者と59名の健常者を含むコホート研究として行われています。

健常者に比べて顕著に高レベルのGal-9がCOVID-19の血漿中に存在しました(0 から 2,042 pg/ml)。更に、血漿中のGal-9は、COVID-19の重症者で中度/軽症者よりも顕著に高発現していました(重症者:1,950 から 125,510 pg/ml)そして(中度/軽症者:1,000 から 83,717 pg/ml)。 ROC解析からは、カットオフ値=2,042 pg/mlとして、特異度/感度(95%)にて、COVID-19患者を、健常者、HIV感染者、そして癌患者から判別することが可能であることが示されました。COVID-19患者の血漿中Gal-9が、HIV感染者、デング熱感染者、インフルエンザ感染者、更には癌患者のそれよりも高発現しているというのは、非常に興味深い事柄です。

Gal-9が如何なる細胞種から産生され、どのようにCOVID-19のサイトカインストームに至る自然免疫応答に関わっているのか?は非常に興味深く、著者らの一連の実験結果からは、下記のようなモデルが提唱されました。SARS-CoV-2の感染にてダメージを受けた肺上皮細胞からGal-9が分泌される。それが肺胞マクロファージを活性化し、活性化されたマクロファージやアポトーシス細胞から炎症性サイトカインやGal-9が分泌される。更に、Gal-9は単球や他の免疫細胞も活性化し、サイトカインストームのオーケストラに直接的に加わる。

Lenzilumab、第3相治験にて、COVID-19治療薬としての有効性が示された

Mayo Clinicらのグループは、COVID-19に対するLenzilumabの第3相治験から治療薬として有望な結果を報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33972949/

COVID-19においては、顆粒マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)が病態の重症度、肺組織へのマクロファージの遊走、ICU入院らと相関があると言われています。GM-CSFはサイトカインの一種であり、多能性造血幹細胞に分化を促し、結果としてそのダウンストリームにあるケモカイン (MCP-1, IL-8, IP-10) や、サイトカイン (IL-6, IL-1)の産生を加速します。

Lenzilumabは、GM-CSFに直接的に結合する抗体であり、GS-CFSの受容体への結合を阻害し、そのダウンストリームを遮断します。LenzilumabのGM-CSFへの結合アフィニティーは25pMであり、体内での消失速度も遅いとされています。 Lenzilumabの有効性を検証するために、ランダム化、ダブル・ブライン、プラセボ・コントロールを用いた第3相治験が行われました。Lenzilumabのドーズは600mgであり、8時間の間をあけ、28日間にわたって静脈注射にて投与されました。

Lenzilumabは、survival without ventilation (SWOV) を指標として、28日間を通して54%改善することが出来ました。しかし、この効果は、CRP<150 mg/L、85歳以下という条件に限られることに注意しましょう。

COVID-19無症状者に見られる抗体反応の特徴について

National Institute of Metrology, Beijing, Chinaらのグループは、COVID-19無症状者における抗体反応の特徴について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41392-021-00596-2

無症状者と一口に行っても、その40%以上は全く何の症状も見せません。これら無症状者はウイルス蔓延に関わっており、SARS-CoV-2感染の30%以上は、これら無症状者に由来するものと考えらrています。

本研究においては、合計143名の無症状者がリクルートされています。これら無症状者におけるウイルス量は、唾液中のSARS-CoV-2 N遺伝子の検出で推定され、感染発覚後9日目にピークを迎え、(315.1 copies/mL, 95% CI 238.1–417.1)、その後は徐々に減少し、21日後にはカットオフ値 (102 copies/mL) 以下になりました(下図参照)。SARS-CoV-2検出の陽性率もウイルス量と同じ傾向を示しています。

抗体反応は非常に弱く、わずかに69日間しか続きませんでした。

糖尿病では、心筋細胞のACE2の発現が上昇し、SARS-CoV-2の感染をアシストする

University of Campania L. Vanvitelli, Naples, Italyのグループは、糖尿病患者におけるSARS-CoV-2の感染リスクの増大と心筋細胞におけるACE2の発現量の関係について研究しています。
https://cardiab.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12933-021-01286-7

糖尿病(DM)を発症している患者さんと健常者を比較すると、糖尿病患者の方が明らかに、心筋細胞において、ACE2の発現量のみでなく、TMPRSS2の発現量も増加していることがに示されています(下図参照)。
更に、COVID-19患者とCOVID-19非感染者の間の比較では、COVID-19患者の方が、更にACE2、TMPRSS2共に発現量が上昇していることが分かります。
結果として、糖尿病患者のCOVID-19に対するリスクの増大は、ACE2の発現量の増加と深い関係にありそうだと結論しています。

ACE2, TMPRSS2の発現とCOVID-19の呼吸器不全との間にはいかなる関係があるのか?

Universidade Federal do Rio de Janeiroらのグループは、COVID-19の重症度とACE2及びTMPRSS2の発現の間に如何なる関係があるのか?について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-88944-8

ACE2とTMPRSS2のふたつが、SARS-CoV-2が宿主細胞に感染する場合の主要なプレーヤーであると考えられています。しかしながら、これらの要素の発現レベルがCOVID-19の重症度と相関しているのかについては、依然として明確な結論はありません。angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) は、SARS-CoV-2の感染受容体であり、transmembrane serine protease 2 (TMPRSS2) は、感染プロセスにおける重要な起爆剤となる酵素と考えられています。

鼻腔RT-PCR検査でSARS-CoV-2の感染が確認された213名を含む症例対照研究が行われました。ACE2とTMPRSS2の発現レベルは年齢と正に相関し (ACE2に対して、r = 0.20; p = 0.03 、TMPRSS2に対して、r = 0.21; p = 0.01)、性別間差はありませんでした。
ACE2のトランスクリプション・レベルは、感染者の方が健常者よりも顕著に低く、TMPRSS2のそれは両グループ間に差異がなく、結果、TMPRSS2/ACE2 比は、感染者の方が健常者より有意に高くなっていました。ACE2の発現量がSARS-CoV-2の感染に対して防御的に働き、TMPRSS2のそれは無関係であり、結果、TMPRSS2/ACE2比がCOVID-19の重症度と相関するというのは面白くはありますが、それを解釈するにはブログ管理人の観点からは無理があります。それよりもACE2/TMPRSS2という感染パスの背後に隠れて存在する何らかの感染メカニズムが疑われます。