米国CDCのCOVID-19チームが報じたPfizer-BioNTech と Moderna ワクチンの有効性

米国CDC COVID-19 チームは、Pfizer-BioNTech や Moderna ワクチンの有効性調査の結果を報告しています。
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7018e1-H.pdf

チームは、その結果として、Pfizer-BioNTech 或いは Moderna ワクチンの完全接種を受けた人のワクチン有効性は、94% (95% CI = 49%–99%)、部分的なワクチン接種を受けた人で 64% (95% CI = 28%–82%)と報告しました。
本研究においては、65歳以上で、COVID-19症状を示して2021年1月1日から3月26日の間に入院し、RT-PCRで確認された417名を対象としています。この中には, 187人の症例患者と230人の対照が含まれています。症例患者とは、一回以上のSARS-CoV-2 RT-PCRテストを受けて陽性と認められた人、対照とはRT-PCRで陰性と認められた人であります。また、この研究の参加者は、ワクチン接種を受けたことがCDCワクチン記録など公的な記録と自己申請で確認された人達です。

COVID-19の症状を発症する14日以内に、第一回目のワクチンの接種を受けていてもその効果はほとんどないということには注意しましょう(ワクチン有効性 = 3%, 95% CI = −94%–51%)。

新型コロナウイルス(COVID-19)にレクチンと糖鎖の相互作用を生かして立向かう

Universidade CEUMA, Brazilらのグループは、エンベロープを持つウイルスとの戦いに糖鎖とレクチンの相互作用を用いた過去の事例をレビューし、SARS-CoV-2への挑戦に触れています。
https://academic.oup.com/glycob/article/31/4/358/5934657

COVID-19に立ち向かうに際して、ウイルス・エンベロープの糖タンパク質の存在は、レクチンを用いる方法について、いろいろな可能性を与えてくれます。レクチンは、ウイルス・エンベロープの糖鎖と結合し、ウイルスの宿主細胞への感染を阻害することができるという意味において、新しい抗ウイルス薬の開発のリード高分子になり得ます

SARS-CoV-2の糖鎖修飾の概要は次のようです。SARS-CoV-2のspikeタンパク質には、22個のN-型糖鎖修飾部位、6個のO-型糖鎖修飾部位があります。 oligomannose-型の糖鎖は、2ケ所(N234 and N709)、複合型糖鎖は、主に14ケ所(N17, N74, N149, N165, N282, N331, N343, N616, N657, N1098, N1134, N1158, N1173 and N1194)、更に6ヶ所は、oligomannose-型と複合型が混在しています(N61, N122, N603, N717, N801, N1074)。最も普通にみられるoligomannose-型糖鎖は、 Man5GlcNAc2であります。一方、O-型糖鎖は短鎖にて、Tnやcore1構造が主であります(T73, T76, T478, T676, T678, T1076)。

このレビュー論文で触れられている抗ウイルス薬として評価された典型的なレクチンは(FRAIL, GRFT, Cyanovirin-N, BanLec, MVN, Avaren)であります。これらのレクチンの糖鎖結合特異性は、ほとんどがoligo及び high mannoseでありますが、これは過去にターゲットとされたウイルス(HIV, HCV, influenza, Ebora)のエンベロープは、強くmannose修飾を受けていたことに関係します。これらウイルスに比較すると、SARS-CoV-2の糖鎖修飾は幾らかパターンが異なっているということができますし、従って、これらのレクチン以外に、SARS-CoV-2と戦うにはより優れたレクチンが存在する可能性があるでしょう。

ともあれ、抗ウイルス薬としてレクチンを使う場合の大きな制限は、ターゲット以外の望ましくない体細胞に結合してしまう可能性があるということにあります。例えば、レクチンを投与することで、凝集反応細胞増殖を招いてしまうというような事柄があります。従って、レクチンを使うことによるそういった副作用を抑えながら、SARS-CoV-2に対する特異的な抗ウイルス薬としてのみ働くようにレクチンをタンパク質工学を用いて工夫してやることが必要です。おそらくそのキーワードは、融合タンパク質を作るということではないでしょうか?例えば、Fab融合, Fc融合, PEG化、などなどです。

SARS-CoV-2のNTDをターゲットとする中和抗体の特性について

Israel Institute for Biological Researchらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のNTDに対する12種類の中和抗体の特性について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33937725/

12種類のSARS-CoV-2 NTDをターゲットとする抗体 (BLN1 ~ BLN14) は効果的にSARS-CoV-2を中和化することができ、そのIC50は、最も低い中和活性のBLN8で54.9 µg/ml、最も高い中和活性を示すBNL1やBLN12で0.008 µg/ml、に分布しました。 これらすべての抗体の特異性は、NTDをターゲットとするELISAにて検証され、より詳細には、S1タンパク質の配列から作られたペプチドアレイによるエピトープマッピングにて検証されました。 そしてまた、NTDの糖鎖修飾の抗体への影響については、糖鎖アレイ、及び糖鎖を阻害剤として用いる競合アッセイによって評価されました。糖鎖アレイの実験では、これら抗体は、ほとんどの糖鎖に対して非常に弱い結合しか示しませんでしたが、LacNAcとそのα2-3Sia修飾については強く結合しました。これらの結果から、BLN4とBLN12は、NTDのアミノ酸配列のみでなく、N-型糖鎖もその結合に関与している可能性が指摘されました。

SARS-CoV-2においては、ACE2が主たる感染受容体として考えられていますが、C型レクチン(L-SIGN, DC-SIGNなど)も感染受容体として機能することが報告されています。そこで、代表的な抗体がSARS-CoV-2とL-SIGNの結合を阻害できるかどうかについての実験が行われました。 阻害効率は、BLN14の25%からBLN4の50%に分布しました。この阻害効果は、抗体のNTDの糖鎖に対する直接的な結合によって引き起こされるものではなく、L-SIGNとの立体障害によって引き起こされているものだと考えられました。

ACE2の発現が低い組織の細胞の場合に、L-SIGNやDC-SIGNがSARS-CoV-2に対する第二の感染受容体となるのであれば、NTDをターゲットとする抗体がSARS-CoV-2の感染を抑え込むために有効であると考えられ、結果として、RBDをターゲットとする抗体とNTDをターゲットするカクテル抗体がSARS-CoV-2の治療に有効であるはず、と結論しています。

SARS-CoV-2再感染のリスクはどの程度なのか?

Cornell University, Doha, Qatarらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の再感染のリスクがどの程度あるのかについて報告しています。
https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(21)00141-3/fulltext

2020年4月16日~12月31日にかけてSARS-CoV-2感染陽性となった43,044人を対象とし、最初の抗体テストの後、14日後以降にPCRのSwab検査で陽性となった人が再感染の可能性があると定義しています。

結果として、SARS-CoV-2に罹った人の再感染に対する抑止効果は、92.7% (95% CI: 91.3–93.9%)に達したとのことです。また、再感染した場合の病態は、最初の病態よりも軽症の場合がほとんどであるとのことです。この再感染に関する抑止効果は、mRNA COVID-19ワクチンで報告されている有効性と同レベルであることは非常に興味深い結果です。

潰瘍性大腸炎の抗TNF抗体治療効果を予測する新規バイオマーカーについて:IgGのJacalin結合性糖鎖修飾構造の変化

University of Pisa, Italyらのグループは、潰瘍性大腸炎における新しいバイオマーカーについて報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2021.654319/full/

潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis: UC)は、自己免疫疾患であり、大腸上皮細胞に炎症が発生し、出血、下痢、腹痛が起こります。 腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor: TNF)の発現が潰瘍性大腸炎では上昇しており、 大腸粘膜に炎症を起こし、大腸上皮細胞にダメージを与えています。このようなことから、抗TNF抗体, infliximab (IFX) や adalimumab (ADA), が潰瘍性大腸炎の治療に使用されています。.

しかしながら、潰瘍性大腸炎の患者の30%は、この抗TNF抗体が効かない(non-responder)ということもあり、治療効果に対して早期に予測ができることが非常に重要になっています。著者らの研究は、抗TNF抗体治療に対する治療効果を予測する上で、IgGのJacalin(JAC)結合性糖鎖が非常に良いマーカーになると述べています。下図において、Aは治療前のJAC-IgGのベースラインを示し(NHS = 健常者, R = レスポンダー, NR = ノンレスポンダー)、Bは抗TNF抗体治療後のそれを示します。
Jacalinは、O型糖鎖を認識するレクチンであり、IgGのこの糖鎖修飾の違いがどのように抗TNF抗体の治療効果に関係しているのか?については不明ですが、治療効果に対するバイオマーカーには成り得るとしています。

多くの自己免疫疾患では、IgGの糖鎖修飾がアガラクトに変化することが知られており、FcγRIIaとの相互作用を介してマクロファージの活性化や、TNFα、IL-6ら炎症性サイトカインの産生を促すことが知られています。また、リューマチでは、ステロイドや抗TNF抗体を投与することで、IgGのシアル酸修飾が増加するという現象も知られています。

トシリズマブ(Tocilizumab)のCOVID-19に対する治療効果は、IL-6>100pg/mL以上、酸素飽和度<90%の患者で劇的に表れる

Medical University of Białystok, Polandらのグループは、トシリズマブ(Tocilizumab)のCOVID-19に対する治療効果を報告しています。
https://www.mdpi.com/2077-0383/10/8/1583/htm

合計825名の患者の内、170名にトシリズマブが投与され、655名にはトシリズマブは勿論のこと他の如何なるサイトカイン受容体に対する阻害剤(mAb)も使用されませんでした。トシリズマブのドーズは、一回の投与で、8mg/kgにて、最大ドーズは800mgとされました。

IL-6のレベルが100pg/mLより高い場合に、トシリズマブの顕著な効果が表れ、hazard ratio [HR]=0.21(95% confidence interval [CI]: 0.08–0.57)となりました。IL-6のレベルが100 pg/mLより高く、且つ酸素飽和度が90%以下あるいは酸素吸入が必要な場合で、更に効果が顕著となり、HR=0.18となりました。付け加えるならば、IL-6の濃度が100pg/mLよりも低い場合には、トシリズマブはほとんど効かないという結果でもあります。
しかし、トシリズマブがどのような状態の時に、如何なるドーズが最適なのか?という知見が得られたことは非常に素晴らしいと思われます。

N501Y変異を持つSARS-CoV-2 S-タンパク質とACE2の結合構造について

University of British Columbiaらのグループは、Cryo電顕を用いて、N501Y変異を持つSARS-CoV-2 S-タンパク質とACE2の結合構造を研究しています。
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3001237

ACE2とSARS-Cov-2 N501Y変異との結合構造は、オーバーオールに見て、N501Y変異のないそれと同じです。しかしながら、局所的な構造変化が起こっており、ACE2のY41とK353の間に存在する空隙にY501の芳香環が挟み込まれ、垂直π–π 相互作用が存在するとしています。これがN501Y変異で感染力が上がっている原因と考えられます。

同じような結論は、他の研究者からも報告があり、既に下記の記事をブログに上げていました。

経口蛋白分解酵素阻害剤(Camostat Mesilate)のCOVID-19に対する有効性は失望的

Aarhus University Hospital, Denmarkらのグループは、経口蛋白分解酵素阻害剤(Camostat Mesilate:TMPRSS2阻害剤)のCOVID-19への治療効果を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8060682/

本試験では、ダブル・ブラインド、ランダム化、プラセボコントロールの治験が実施されています。この治験の背景は、TMPRSS2を阻害することによって、感染患者におけるSARS-CoV-2の増殖を阻止し、急性呼吸器不全に至る重症化のリスクを下げられるかも知れない、ということにあります。しかしながら、試験結果は誠に残念なものであり、経口蛋白分解酵素阻害剤(Camostat Mesilate:TMPRSS2阻害剤)は、COVID-19患者に対して、急性呼吸器不全による死亡、挿管、酸素吸入期間、入院期間らあらゆる項目に対して有意差を認めませんでした。

本治験において、camostat mesilateのドーズが最適されていなかったのではないか?という疑念は残りますが、 ブログ管理人は、ACE2-TMPRSS2によってイニシエートされるという感染パスが実は肺上皮細胞ではメジャーでなく、免疫細胞に発現するC-Type lectinや食作用を介した感染ルートがメインになっているのではないか?という疑念をぬぐい切れません。

ACE2のN90の糖鎖修飾はSARS-CoV-2との結合を弱め、N322の糖鎖修飾は結合を強める

Max Planck Institute of Biophysicsらのグループは、ACE2の糖鎖修飾がSARS-CoV-2のRBDとの結合に及ぼす影響を分子動力学を用いてシュミレーションしています。
https://www.pnas.org/content/118/19/e2100425118.long

構造的に見て、ACE2にある四つの糖鎖修飾位置(N53, N90, N103, and N322)がSARS-CoV-2のRBDと結合に関わる可能性があります。その内、N90とN322の糖鎖が最もRBDとの結合に関わっています。糖鎖の構造の違いももちろんRBDとの結合には影響し、アシアロ型とハイマンノース型がより強くRBDと相互作用するようです。N90においては、マンノースの方がアシアロよりもより強く相互作用し、N322においては、その逆であります。

N90とN322の糖鎖がRBDとの結合に及ぼす影響は異なっており、N90の糖鎖はACE2とRBDの結合を阻害する方向に作用し、N322の糖鎖は逆にACE2とRBDとの結合を強める方向に作用することが示されました。N322の糖鎖修飾を除くような変異がACE2に発生した場合には、ACE2とRBDの結合は非常に弱くなります。N322の糖鎖は主に、RBDのY369–K378, R408, N437, N439, V503領域と相互作用し、V503はN501Y変異の近傍に存在することから、ACE2とRBDの結合を強め、感染力アップに関係している可能性が指摘されました。

なお、ACE2の糖鎖修飾がSARS-CoV-2の結合に与える影響を実験的に調べた論文は幾つか存在し、既に下記を本ブログでも紹介しています。
シアル酸修飾とハイマンノース修飾がSARS-CoV-2の結合を抑える方向に働くのは、実験的にも示されていますね。

セヴィル(SeviL)が眠る海、ムラサキインコガイ

ガングリオシドGM1bおよびそのアシアロフォームのasialo-GM1に糖鎖結合特性を持つセヴィル(SeviL)というレクチンがあります。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-78926-7

このレクチンは、ムラサキインコガイから抽出されます。
下記がその集団です。
貝一匹にレクチン「セヴィル」の含まれる量は0.004mg、この辺りのインコガイの数から推測すると、10メートル平方にレクチン100gが存在している計算になる。

 

少し、曇ってましたが、風の強い一日でした。