KRAS遺伝子変異を伴う膵管腺癌における糖鎖修飾変化について

筑波大学医学部らのグループは、KRAS遺伝子変異を伴う膵管腺癌の糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10963106/

KRAS遺伝子変異のある膵管腺癌では、フコシル化とマンノシル化が昂進していることが示されました。
KRAS変異体で反応が強くなったレクチンには、フコース結合レクチン (AAL、rAAL、AOL、rAOL、rRSIIL、UEAI) およびマンノース結合レクチン (rRSL、rBC2LCA、rPAIIL、NPA) が含まれていました。

トリプルネガティブ乳がんをエクソソームの糖鎖プロファイリングから診断する

Beijing Engineering Research Center for BioNanotechnology, CAS Key Laboratory of Standardization and Measurement for Nanotechnology, National Center for Nanoscience and Technology, Beijing, Chinaらのグループは、トリプルネガティブ乳癌を診断する為にエクソソームの糖鎖プロファイリングの変化を使用しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10937950/

3種類のレクチン(ConA, WGA and RCA I)のパネルをTNBCに特異的なエクソソームの糖鎖プロファイリングを検出する為に使用しています。
結果として、これら3種類のレクチンの加重和を用いることで、TNBCを他の乳癌(BC)や健常者(HD)からAUC=0.91という値を持って区別することが出来たとのことです。

前立腺がんをエクソソームのシアル酸で検査するというが

Institute of Chemistry, Slovak Academy of Sciences, Bratislavaらのグループは、前立腺がんの検出に、CD63/エクソソーム/SNAレクチンというサンドイッチ法を使用した結果について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10892626/

本研究では、前立腺がん細胞によって産生されるエクソソームが、前立腺がんを検出するための新しいバイオマーカーと成り得るとしています。

良性(コントロール)細胞株RWPE1 および前立腺がん細胞株22Rv1によって産生されるエクソソームの比較から、次のことが示されました。
(1) コントロールのエクソソームは主にSNAおよびMAAIIレクチンと相互作用し、しかしながらその反応はがん性エクソソームよりも低い値となり、また
(2) PHA-LとPHA-Eレクチンは、コントロール由来のエクソソームとはわずかに反応し、がん性エクソソームとは相互作用しませんでした。
通常、完全にシアリル化された N-型糖鎖ではPHA-LやPHA-Eのシグナル強度が消失するため、この結果は非常に合理的です。つまり、シアル酸修飾がコントロールのエクソソームよりもがん性エクソソームで強いことを示しています。

しかし、本ブログ著者は、エクソソームは一般に強くシアリル化されており、CD63 は前立腺がん細胞によって生成されるエクソソームを他のエクソソームから区別できないことから、サンドイッチ構成、つまり抗体/エクソソーム/レクチンで前立腺がんを検査できるという本論文の結論には懐疑的です。

エクソソームの糖鎖修飾はシアル酸がとても強いが、何故なのだろうか?

糖鎖は細胞の顔と言われるように、組織や病態で細胞表面の糖鎖修飾は変化する。
結果的に細胞から放出されるエクソソームの糖鎖修飾も細胞表面の糖鎖修飾を引きずるが、何故かシアル酸の修飾がとても強い傾向にある。
例えば、京大の下田先生、秋吉先生らの論文がある(下記参照)。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6687741/
これはどうしてなのだろうか?
免疫からのマスキング狙いではないか、という論文を見たことはあるが、本当なのだろうか?
例えば、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/38/4/38_270/_pdf
それに対して、同上に引用した著者らは、細胞表面のシグレックを介したエクソソームの取込に関係していることを示唆している。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006291X17314845?via%3Dihub


(上記引用論文から一部抜粋)

植物の病原菌感染で引き起こされる”Cry for Help”応答の裏側

State Key Laboratory of Efficient Utilization of Arid and Semi-arid Arable Land in Northern China, Institute of Agricultural Resources and Regional Planning, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing, Chinaらのグループは、如何にして病原菌を抑制し植物成長促進効果を生む根圏細菌叢の形成を誘起するのかという”Cry for Hlep”応答の背景について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-024-46254-3

良く知られたモデル病原菌株 Pseudomonas syringae pv.tomato (Pst) DC3000 とその非病原性誘導菌株 (D36E、D36EFLCおよびD36EHPM) を使用し、シロイヌナズナをモデル植物として一連の実験が行われています。

DC3000またはその誘導体の何れかによる処理により、根からの分泌物として長鎖有機酸 (LCOA) およびアミノ酸の相対含有量が増加していました。根圏細菌叢としては、いずれの場合でもプロテオバクテリア門 (32.1% ~ 38.3%) と放線菌門 (15.4% ~ 20.7%) が根圏で最も豊富な細菌グループであり、属レベルでは、D36E および D36EFLC 処理では Devosia属 (プロテオバクテリア門に属する) が増加していました。興味深いことに、Devosia属の存在量は、根滲出液中のL-リンゴ酸およびミリスチン酸と負の相関を示し、4-ヒドロキシピリジンとは正の相関を示しました。

最後に、D36EとD36EFLCの代謝産物だけでも、”Cry for Help”反応を誘発するのに十分であることが示されました。
従って、本研究は、非病原性菌株とそのmicrobe-associated molecular patterns (MAMPs)が病気を抑制する根圏細菌叢の形成を誘導するエリシターとして機能し、実際の農業応用に対する可能性を大いに示すものであると考えられます。

2024年から2025年にかけての海外で開催される糖鎖関連の国際会議

  1. 7th canadian Glycomics Symposium & 10th warren Workshop (May 27-29, 2024, Edmonton, Canada)
  2. SialoGlyco 2024 (June 4-7, 2024, Lilli, France)
  3. 31st International Carbohydrate Symposium (July 14-19, 2024, Shanghai, China)
  4. 5th Australasian Glycoscience Symposium (Aug. 27-30 2024, Wellington, New Zealand)
  5. Microbial Glycobiology 2024 (Sept. 8-12, 2024, Southbridge, MA, USA)
  6. 16th Bratislava Symposium on Saccharides (Sept. 23-27, 2024, Smolenice Castle, Slovakia)
  7. HUPO 2024 (Oct. 20-24, 2024, Dresden, Germany)
  8. 2024 Glycobiology Annual Meeting (Nov. 10-13, 2024, Amelia Island, FL, USA)
  9. Glycobiology Gordon Research Conference (Mar. 23-28, 2025, Lucca, Italy)
  10. Glyco27 International Symposium on Glycoconjugates (May 26-30, 2025, Edmonton, Canada)