ガレクチンは単なるβ-ガラクシド結合型レクチンではなく多面的な機能を持っている

Axe of Infectious and Immune Diseases, CHU de Quebec-Université Laval Research Centre, Faculty of Medicine, and Research Centre for Infectious Diseases, Laval University, Quebec, Canadaらのグループは、宿主免疫におけるガレクチンの多面的な機能についてレビューしています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1044532324000642?via%3Dihub#bib63

他のレクチンとは異なり、ガレクチンはシグナルペプチドを欠いているため、糖鎖リガンドが存在しないサイトゾールで可溶性の非糖化タンパク質として合成されます。さらに、ガレクチン-1 やガレクチン-3 などの特定のガレクチンは、特定の条件下で核に移行することがわかっています。これは大きな矛盾です。何故ならば、ガレクチンの主な存在位置はサイトゾールであり、ガレクチンが結合する糖鎖が存在しない環境だからです。

しかし、興味深いことに、ガレクチンは、非古典的でリーダーのない分泌経路を介して細胞外空間に分泌されることもできます。

細胞内外のガレクチンのこの独特な分布は、ガレクチンの機能の多用性を示しており、宿主防御におけるガレクチンの機能がその合成とリガンドへのアクセスの空間的制御の両方によって調節されることを可能にする重層的な調節機構が存在することを示唆しており、ガレクチンの進化的役割は従来の糖鎖認識を超えて拡張されているようです。

非常に興味深いレビューとなっており、ご一読をお勧めします。

ALAレクチンが胆管癌の治療に有効かもしれない

Department of Biochemistry, Faculty of Medicine, Khon Kaen University, Thailandらのグループは、モンキーフルーツの種から抽出された新規レクチンALAについて報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-024-84444-7

ALAは凝集素活性を示し、T- および Tn-抗原および単糖類 (Gal や GalNAc など) に対して糖鎖結合特異性を示しました。

ALAによって認識される糖鎖がヒト胆管癌 (CCA) 組織で増加していることが確認されました。ALAは、CCA 細胞、KKU-100 および KKU-213B、の細胞生存率をドーズ依存的に大幅に低下させ(最大 30 μg/mL まで)、最高濃度では約 30% の低下が観察されました。また、ALAは、細胞生存率には影響を与えない1 ~ 2 μg/mL の濃度でドーズ依存的に KKU-100 および KKU-213B 細胞の遊走および浸潤能力を大幅に低下させました。

これらの結果は、CCA治療に対するこのレクチンの潜在的な治療効果を示唆しているようです。

海の動植物から発見されたレクチンの糖鎖結合特異性

School of Medicine and Life Sciences, Far Eastern Federal University, Vladivostok, Russiaらのグループは、海の動植物から発見されたレクチンとその脳腫瘍の診断や治療への応用について報告しています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11679326/

HOL-18:marine sponge Halichondria okadai由来レクチン、複合型N-型糖鎖に結合
OXYL:marine star Anneissia japonica由来レクチン、LacNAc type 2には結合するが、LacNAc type 1には結合しない
AVL:marine sponge Aphrocallistes vastus由来レクチン、シアリルムチンに結合
ESA:seaweed Eucheuma serra由来レクチン、high mannose N-型糖鎖に結合
UPL1:seaweed Ulva pertusa由来レクチン、GlcNAcとhigh-mannose N-型糖鎖に結合
BPL2:seaweed Bryopsis plumosa由来レクチン、trimannosyl coreに結合
KSL:red alga Kappaphycus striatus由来レクチン、high mannose N-型糖鎖に結合
DIFBL:sea bass Dicentrarchus labrax由来レクチン、fucoseに結合
APL:starfish Asterina pectinifera由来レクチン、Tn antigenに結合
CGL:bivalve Crenomytilus grayanus由来レクチン、GalNAc/GalおよびGb3に結合
MytiLec:Mediterranean mussel由来レクチン、Gb3に結合
HCL:marine sponge Haliclona cratera由来レクチン、GalNAc/Galに結合
DTL:ascidian Didemnum ternatanum由来レクチン、GlcNAcに結合

乾癬性関節炎(PsA)と関節リウマチ(RA)を区別できる新規糖鎖マーカー

Division of Laboratory Diagnostics, Department of Laboratory Diagnostics, Faculty of Pharmacy, Wroclaw Medical University, Polandらのグループは、乾癬性関節炎(PsA)と関節リウマチ(RA)を区別するための新規糖鎖マーカー、即ち血清クラステリンの糖鎖修飾変化、について報告しています。
https://www.mdpi.com/1422-0067/25/23/13060

PsA および RA は結合組織自己免疫疾患です。
本研究は、血清クラステリン (CLU) 濃度とその糖鎖修飾パターンがこれらの疾患を区別できるマーカーである可能性があるかどうかについて研究しています。

結果、以下の事柄が判明しました。
RA患者の血清中のCLU濃度は、PsA群と比較して有意に低く、CLU濃度に関しては、検査した群間にその他の有意差はありませんでした。

CLUに発現する糖鎖と SNA (α2-6 Sia 結合レクチン) の相対反応性は、対照群と比較して、RAおよびPsA患者で有意に高く、CLUに発現する糖鎖とMAA (α2-3 Sia 結合レクチン) の相対反応性においては、研究グループ間に有意差はありませんでした。

これらの結果は、CLU濃度とシアル酸修飾(by SNA)によってPsAとRAが区別できることを示しています。

SARS-CoV-2の感染をβ1-4ガラクトシル化N型糖鎖で阻害することが出来る

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Xi’an 710069, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2の感染をβ1-4ガラクトシル化N型糖鎖で阻害することが出来ると報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2090123224005666?via%3Dihub

SARS-CoV-2-Spikeタンパク質(S1)には22個の潜在的なN型糖鎖修飾サイトと17個のO型糖鎖修飾サイトがあり、そのうち14個のN型糖鎖修飾サイトは複合型N型糖鎖で装飾されており、ACE2には合計7個のN型糖鎖修飾サイトが存在し、これらの部位のほとんどは複合型N型糖鎖によって占められていることが既に分かっています。

本論文では、ACE2のβ1-4ガラクトシル化N型糖鎖が SARS-CoV-2のS1結合の糖鎖受容体として重要な役割を果たしていることが実証され、多価β1-4ガラクトシル化N型糖鎖を含む単離された糖タンパク質が、S1とACE2間の相互作用を競合的に阻害し、それによって宿主細胞へのSARS-CoV-2の付着と侵入が防御されると述べられています。今更感がある論文かもですが紹介させて頂きました。

Tn-抗原を標的とすることで、乳癌の転移を抑制することが出来る

Department of Gynecology and Obstetrics, Beijing Chao-Yang Hospital, Capital Medical University, Beijing, Chinaらのグループは、Tn-抗原を標的とすることで、乳癌の転移を抑制することが出来る、と報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcmm.70279

Tn-抗原は乳癌、特に転移性病変内で高発現しており、Tn-抗原の発現は、リンパ節転移および患者の生存率の低下と正の相関関係がありました。Tn-抗原を発現する乳がん細胞においては、上皮間葉転換およびFAKシグナル伝達経路の顕著な活性化とともに、浸潤性と転移能が向上していました。

Tn-抗原を発現する癌細胞では、標準的な上皮マーカーであるE-カドヘリンとZO-1の大幅な発現低下があり、ZEB-1、ビメンチン、カタツムリ、ナメクジなどの間葉系マーカーの大幅な発現上昇も見られました。

HPAレクチンを用いてTn-抗原陽性癌細胞を標的化することで、浸潤および転移能力が抑制されることが実証されました。HPAレクチンは、Tn-抗原を特異的に認識して結合するのに対し、PNAレクチンは、T-抗原のみを認識して結合することが知られています。PNAで処置した対照群と比較して、HPA処置群のマウスは肺転移の有意な減少を示しました。更に、免疫蛍光分析は、HPA処理が Tn-抗原陽性癌細胞の細胞突起の形成を減少させるのに対し、PNA処置は、阻害効果を示さないことも示されました。分子レベルでは、上皮間葉転換およびFAKシグナル伝達経路は、HPAで処理したTn-抗原陽性癌細胞で一貫して阻害されていることが分かりました。

うつ病の血中糖鎖マーカーが見つかる

山口大学医学部神経精神医学らのグループは、うつ病に対する新しい糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-024-80507-x

WGA結合性のフォンヴィレブランド因子(vWF)を含む血漿細胞外小胞(EV)(WGA-vWF)が、性別や年齢に関係なく、うつ病患者の診断マーカーとなり得ることが報告されました。

WGA-vWFの発現は、健康な対照参加者よりもうつ病状態の大うつ病性障害患者の血漿EVで有意に低下しています。 ROC分析により、大うつ病性障害患者とHC患者の間の診断のAUC値は0.92(95%CI 0.82~1.00)であることが示されました。更に、WGA-vWFの発現はうつ病から寛解の過程で顕著に増加しており、この結果を使用すると、うつ病状態と寛解状態の大うつ病性障害患者を区別することができました (AUC 0.98、95% CI 0.93 ~ 1.00)。

ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、レクチン染色の様子が大きく異なる

岐阜大学医学部らのグループは、 ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、グライコカリックスのレクチン染色の様子が大きく異なると報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0344033824005715?via%3Dihub

驚くべきことに、凍結組織標本とホルマリン固定組織標本との間ではレクチン染色所見に多くの差異があることが判明し、これはFFPE処理がレクチン受容体に影響を及ぼし、凍結切片の方が正確なレクチン染色の情報を与えることが示唆されました。

凍結組織標本のレクチン染色から、以下のことが判明しました。
正常な肝細胞は、PNA、RCA I、SBA、UEA I、GSL I、サクシニル化WGA、ECL、GSL II、STL、および VVL に対して強い陽性染色を示す。
対照的に、肝細胞癌サンプルは DSL および GSL II に対して強い陽性を示す。
正常な肝細胞は複数のGalNAc関連レクチン (PNA、SBA、GSL I、および VVL) に対して陽性ですが、これらは肝細胞癌サンプルでは検出されない。

また、結腸直腸癌の肝転移では、DBAおよびUEA I 染色が強く陽性であり、黒色腫肝転移では、ConA、WGA、サクシニル化WGA、および GSL II が強く発現していました。

2024年のノーベル物理学賞に甘利俊一先生が入っていないのは変だ

2024年のノーベル物理学賞をニューラルネットワークに貢献した2名の科学者が受賞したのは周知の事実です。
自分が富士通に在籍していた時期、ニューラルネットワークの先駆けとなる甘利俊一先生の論文を読み、将来のコンピューターとしての可能性を熱く仲間と語り合っていたことを思い出し、甘利先生が受賞者に入っていないことにとても違和感を覚えました。
因みに、当時のパソコンの能力では、ニューラルネットワークをソフトウェアーとして実現するには無理があり、ハードウェアーとしての構築を仲間とともに考えていました(笑)。

甘利先生の先駆的な研究:
1.A Theory of Adaptive Pattern Classifiers、1967年
2.Characteristics of randomly connected threshold-element networks and network systems、1971年
3.Learning Patterns and Pattern Sequences by Self-Organizing Nets of Threshold Elements、1972年
4.Characteristics of Random Nets of Analog Neuron-Like Elements、1972年

がん幹細胞をレクチンでより効果的に特定する

UMR INSERM 1308 CAPTuR, Faculty of Medicine, University of Limoges, Limoges, Franceらのグループは、より正確にがん幹細胞を検出する新しい方法について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41416-024-02839-9

植物レクチンの組み合わせ (MIX: UEA-1 および GSL-1) が、不均一な非小細胞肺がん (NSCLC) 集団からがん幹細胞を検出するための新しいアプローチとして検証されています。

がん幹細胞上に発現した糖鎖修飾パターンを認識するレクチンの組み合わせは、CD133よりもがん幹細胞の検出と選別においてより効率的であることが実証されています。
CD133は既知のがん幹細胞マーカーとして知られています。

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