内皮細胞由来の細胞外小胞の糖鎖修飾の特徴

Shemyakin and Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry RAS, Moscow, Russiaのグループは、 内皮細胞由来の細胞外小胞の糖鎖修飾の特徴について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11171894/

下図に示すように、細胞外小胞の表面糖鎖と内皮細胞の表面糖鎖を比較すると、細胞外小胞の表面糖鎖はN-型糖鎖としてのα2-6-シアル化形態が大半を占めており、Man含有糖鎖のレベルが細胞外小胞で大幅に減少していることが明確に示されています。

GalectinはFGFR1のN-型糖鎖に結合し、直接的にFGFR1下流のシグナル経路を活性化することが出来る

Protein Engineering, Faculty of Biotechnology, University of Wroclaw, Wroclaw, Polandのグループは、galectin-1, -7, そして-8 がFGFR1の下流シグナリングとそのFGFR1のエンドサイトーシスを制御することが出来ると報告しています。
https://biosignaling.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12964-024-01661-3

FGFR1のN-型糖鎖は、FGFR1の真のリガンド(FGF1)ではない細胞外ガレクチン (Gal-1、Gal-7、および Gal-8) によって認識され、これらのガレクチンが FGFR1 に結合すると、受容体が直接的に活性化され、下流のシグナル伝達カスケードが開始されます。活性化されたFGFR1のその後のエンドサイトーシスは、FGFR1シグナル伝達の下方制御のための主要な細胞機構として機能します。

FGF1とGal-1は両方ともFGFR1を直接活性化することが出来、FGFR1シグナル伝達の短く強力なパルスの後、クラスリン媒介エンドサイトーシスの誘導によりFGFR1シグナリングがシャットダウンされ、受容体のリソソーム分解が起こります。 Gal-7およびGal-8も受容体クラスタリング機構によってFGFR1を直接活性化することが出来ますが、FGFR1のエンドサイトーシスと分解を阻害することで、これらのガレクチンは FGFR1 シグナル伝達を長期に維持することができます。


pFGFRは、tyrosine-phosphorylated FGFR1のことを表す

T-抗原が神経膠芽腫のマーカーになりうるのか?

Department of Neurosurgery, the First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Hefei, Chinaのグループは、T 抗原が、神経膠芽腫患者の無増悪生存期間のバイオマーカーとなる可能性があると報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acn3.52082

彼らは、レクチンマイクロアレイ(11種のレクチンを搭載)を用いた研究から、Jacalinで検出した血清中T-抗原レベルが神経膠芽腫組織のレベルと正の相関があり、神経膠芽腫再発を予測する無増悪生存期間の非侵襲性バイオマーカーとして使用できる可能性があると結論づけています。

しかしながら、Jacalinの糖鎖結合特異性は、GlcNAcβ1-3GalNAc (Core3)、Siaα2-3Galβ1-3GalNAc (シアリル T)、Galβ1-3GalNAc (T-抗原)、α- GalNAc (Tn-抗原)と非常にブロードであり、PNAはGalβ1-3GalNAc (T-抗原) に対して高い結合特異性を持っているにも関わらず、神経膠芽腫を有意に識別できていないことから、ブログ著者は、彼らの結論には問題があると考えています。

上皮間葉転換におけるガレクチンの役割から特にがんを抜き出してみると

ガレクチンの上皮間葉転換に関するレビューが CEBICEM, Facultad de Medicina y Ciencia, Universidad San Sebastián, Santiago, Chileらのグループから出ていたので読んでみました。その中から、がんに関係している部分を抜き出してみると以下のような感じです。
https://biolres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40659-024-00490-5

胃がんでは、Gal-1 レベルの上昇は、全生存期間および無病生存期間の低下、および患者のリンパ節転移の発生率の増加と関連している。胃がん細胞株は Gal-1 を産生し、これが上皮間葉転換を促進し、これらの細胞の増殖、浸潤、転移能を増加させる。卵巣がんでは、血清サンプルで Gal-1 レベルが増加し、悪性度およびリンパ節転移と相関している。卵巣がん細胞株では、Gal-1の過剰発現は上皮間葉転換を促進し、MAPK-JNK/p38シグナル伝達経路の活性化を通じて細胞の遊走と浸潤を増加させる。胃癌および膵管腺癌腫瘍の間質細胞では、癌細胞の上皮間葉転換表現型と相関して、高レベルのGal-1が検出される。膵星細胞におけるGal-1の過剰発現は、共培養された膵臓癌細胞の上皮間葉転換を誘導し、NF-κB経路を介した細胞の増殖と浸潤を促進する。Gal-3 発現の下方制御は、異種移植結腸癌モデルにおける腫瘍増殖を減少させるが、その過剰発現は癌細胞の転移能を高める。肝細胞がんでは、Gal-3 の過剰発現は PI3K/AKT/GSK-3β/β-catenin シグナル伝達経路を介して上皮間葉転換を誘導し、転移能を促進する。乳がん、結腸がん、および前立腺がん細胞株では、外因的に添加された Gal-3 は、がんの進行に関与する高度に糖鎖修飾を受けた膜タンパク質である Trop-2 との相互作用によって上皮間葉転換を促進する。Gal-4 はヒト前立腺がん組織で発現レベルが転移および患者の生存率低下と相関している。Gal-8 はヒトの組織や癌腫で広く発現しているガレクチンであり、さまざまな種類の癌における予後不良と関連付けられている。Gal-8 は、免疫調節サイトカインの産生を調節することでがんの進行と転移に寄与し、それによって転移部位へのがん細胞の遊走と浸潤を促進する。

つまりいろいろなところで違った種類のガレクチンががんに関与している分けですが、問題はガレクチンが関与することによる寄与の大きさだと思います。
糖鎖とレクチンは、自然免疫や先天性糖鎖形成異常症(CDG)を除けば、調整役であることが基本であります。
糖鎖とレクチンで勝負しようとした時には、これらが非常に高い寄与率で調整に関わっているような症例に絞り込む必要がありそうに思います。
如何でしょうか??

α2,3-シアリル化がメラノーマの形成や増殖に基本的に重要

Department of Pathology, NYU Grossman School of Medicine, New York, USAらのグループは、メラノーマの糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.03.08.584072v1.full.pdf

レクチンマイクロアレイを使用して、メラノーマでは母斑と比較してα1,2フコースが減少していることが示されています。
興味深いことに、コア・フコースは母斑では高く、メラノーマでは低下しているのですが、その後転移性メラノーマに変化すると逆に増加するようです。
また、母斑と比較して、メラノーマでは、α2,3-シアリル化が顕著に増加していました。

KRAS遺伝子変異を伴う膵管腺癌における糖鎖修飾変化について

筑波大学医学部らのグループは、KRAS遺伝子変異を伴う膵管腺癌の糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10963106/

KRAS遺伝子変異のある膵管腺癌では、フコシル化とマンノシル化が昂進していることが示されました。
KRAS変異体で反応が強くなったレクチンには、フコース結合レクチン (AAL、rAAL、AOL、rAOL、rRSIIL、UEAI) およびマンノース結合レクチン (rRSL、rBC2LCA、rPAIIL、NPA) が含まれていました。

エクソソームの糖鎖修飾はシアル酸がとても強いが、何故なのだろうか?

糖鎖は細胞の顔と言われるように、組織や病態で細胞表面の糖鎖修飾は変化する。
結果的に細胞から放出されるエクソソームの糖鎖修飾も細胞表面の糖鎖修飾を引きずるが、何故かシアル酸の修飾がとても強い傾向にある。
例えば、京大の下田先生、秋吉先生らの論文がある(下記参照)。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6687741/
これはどうしてなのだろうか?
免疫からのマスキング狙いではないか、という論文を見たことはあるが、本当なのだろうか?
例えば、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/38/4/38_270/_pdf
それに対して、同上に引用した著者らは、細胞表面のシグレックを介したエクソソームの取込に関係していることを示唆している。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006291X17314845?via%3Dihub


(上記引用論文から一部抜粋)

植物の病原菌感染で引き起こされる”Cry for Help”応答の裏側

State Key Laboratory of Efficient Utilization of Arid and Semi-arid Arable Land in Northern China, Institute of Agricultural Resources and Regional Planning, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing, Chinaらのグループは、如何にして病原菌を抑制し植物成長促進効果を生む根圏細菌叢の形成を誘起するのかという”Cry for Hlep”応答の背景について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-024-46254-3

良く知られたモデル病原菌株 Pseudomonas syringae pv.tomato (Pst) DC3000 とその非病原性誘導菌株 (D36E、D36EFLCおよびD36EHPM) を使用し、シロイヌナズナをモデル植物として一連の実験が行われています。

DC3000またはその誘導体の何れかによる処理により、根からの分泌物として長鎖有機酸 (LCOA) およびアミノ酸の相対含有量が増加していました。根圏細菌叢としては、いずれの場合でもプロテオバクテリア門 (32.1% ~ 38.3%) と放線菌門 (15.4% ~ 20.7%) が根圏で最も豊富な細菌グループであり、属レベルでは、D36E および D36EFLC 処理では Devosia属 (プロテオバクテリア門に属する) が増加していました。興味深いことに、Devosia属の存在量は、根滲出液中のL-リンゴ酸およびミリスチン酸と負の相関を示し、4-ヒドロキシピリジンとは正の相関を示しました。

最後に、D36EとD36EFLCの代謝産物だけでも、”Cry for Help”反応を誘発するのに十分であることが示されました。
従って、本研究は、非病原性菌株とそのmicrobe-associated molecular patterns (MAMPs)が病気を抑制する根圏細菌叢の形成を誘導するエリシターとして機能し、実際の農業応用に対する可能性を大いに示すものであると考えられます。

DC-SIGNは、グラム陰性細菌のLPSの外側コア・オリゴ糖を認識する

Department of Chemical Science, University of Naples Federico II Via Cinthia 4, Naples, Italyらのグループは、DC-SIGNのLPSのコア糖鎖認識について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10828809/

リポ多糖類 (LPS) は、グラム陰性菌の外膜の主要成分であり、特異な糖脂質として知られています。それらは、構造的および遺伝的に異なる 三つのドメインで構成されています。一つは外膜に組み込まれたリピドAです。コアオリゴ糖は内側コア領域と外側コア領域からなります。そしてリピドAから対局の位置にO-抗原が存在し、細菌表面の外側に伸びています。
構造的に言えば、コアオリゴ糖は、外側コア領域として2残基のガラクトースと3残基のグルコース、内側コア領域として3残基のL-グリセロ-D-マンノ-ヘプトースと2残基の3-デオキシ-D-マンノ-オクト-2-ウロソン酸 ( Kdo)、そして還元末端には二つのグルコサミン残基がリピドAに結合して存在します。

膜貫通型C型レクチンの主な代表の一つは、CD209としても知られるDC-SIGNです。このレクチンは貪食細胞として機能するマクロファージ、単球、そして樹状細胞上に最も多く発現しており、DC-SIGN はマンノース受容体ファミリーに属するとされています。一方で、DC-SIGN によって誘導される樹状細胞の大腸菌の貪食作用は、O-抗原の非存在下、および完全なコアオリゴ糖の存在下で起こることが分かっています。

本研究では、DC-SIGNとLPSの相互作用に関して、DC-SIGNが外側コアの5糖(ガラクトース2残基とグルコース3残基で構成される)に結合し、DC-SIGNの2つの異なる四量体単位間の架橋剤として機能していることが示されました。

浸潤性の膀胱がんは、VVAレクチンで特異的に認識される

岐阜大医学部泌尿器科らのグループは、浸潤性の膀胱がんに見られる特異的な糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10806140/

本研究では、VVL(VVAレクチン)が浸潤性膀胱がん癌の症例に存在することが判明しました。浸潤性膀胱がんでは、非浸潤性膀胱がんよりも強いVVL染色が観察されました。

VVLは、ポリペプチドTn抗原内のセリンまたはスレオニンに結合したGalNAc残基を認識します。 Galβ1,3GalNAc-α-Ser/Thr (T抗原) や GlcNAcα1,6-GalNAc-α-Ser/Thr (末端 α1,4- および β1,4-結合 GalNAc を含む) などの他の糖鎖構造にもVVLは結合しますが、その親和性は低くなります。

本研究成果から、VVLが将来の臨床研究におけるDDSの有望なターゲットとして機能する可能性が在ることが示唆されました。