肝細胞癌では、ラミニン受容体インテグリンα6β1のGal修飾が減少し、癌細胞の浸潤が加速する

Graduate Institute of Anatomy and Cell Biology, College of Medicine, National Taiwan University, Taipei, Taiwanらのグループは、ベータ 1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ (B4GALT) が肝細胞癌では発現が低下しており、アガラクト型のN-型糖鎖の発現を促進し、インテグリンα6およびインテグリンβ1のラミニン結合活性を強化して、肝細胞癌細胞の浸潤が促進されると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10618527/

ハイマンノースN-型糖鎖の増加は子宮内膜の脱落膜化を妨げ、妊娠不全の原因となる

Liaoning Provincial Core Lab of Glycobiology and Glycoengineering, Department of Biochemistry and Molecular Biology, Dalian Medical University, Chinaらのグループは、レクチンマイクロアレイを使用した研究により、早期妊娠女性と比較して、流産患者の脱落膜組織ではハイマンノースN-型糖鎖修飾が増加していることが分かりました。それに呼応してマンノシダーゼであるMAN1A1が減少していました。搭載レクチンの中でも、マンノース結合レクチンである、NPA、HHL、LCHA、CALSEPA、および GNAらが顕著な変化を示していました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10616321/

MAN1A1の発現低下による異常に昂進したハイマンノース化は、子宮内膜の脱落膜化を阻害しました。
Long non-coding RNA (LncRNA) のスクリーニングにより、流産患者の脱落膜組織でLncNEAT1 が増加していることが明らかになりました。
更に、LncNEAT1はNPM1-SP1転写複合体と相互作用し、MAN1A1発現を阻害することによって、子宮内膜の脱落膜化と胚の着床を妨げることが判明しました。

SARS-CoV-2とバクテリアの重複感染

Department of Experimental Immunology, Amsterdam UMC location University of Amsterdam, The Netherlandsらのグループは、SARS-CoV-2感染によって活性化されるヒト樹状細胞(DC)に発現する細菌に対する主要な受容体であるTLR4を抑制する新規経路を発見したと報告しました。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1011735

SARS-CoV-2は、C-型レクチン受容体DC-SIGNと相互作用し、Raf-1を介したTLR4シグナル伝達の抑制を引き起こすようです。この結果として、SARS-CoV-2はDC-SIGNを介して樹状細胞の免疫機能を積極的に抑制してしまい、新型コロナウイルス感染症と細菌の重複感染が起こると、死亡率の上昇を引き起こすことになるということです。

植物成長促進効果を発揮する善玉菌としてのバチルス菌の根圏への定着と活性化を促す方法:SynComとPrebiotics

College of Resources and Environmental Sciences, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Chinaらのグループは、植物におけるバチルス菌の生体防御メカニズムについてレビューしています。
https://ami-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1751-7915.14348

良く知られているように、バチルス菌は、持続可能な環境再生型農業を実現するために、植物病害の生物的防除として広く使用されて来ています。

植物の「Cry for Help」メカニズムとは、植物が特定のシグナルを出して、植物の健康を増進してくれる有益な微生物を呼び集めることで病原体の攻撃から自分を守る仕組みを指します。この仕組みは、免疫細胞がサイトカイン/ケモカインを分泌することで免疫細胞をさらに動員し、免疫を活性化するという人間の免疫とよく似ています。
根からの浸出液は、植物の病気に反応して善玉菌を動員するのに非常に重要であり、L-リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、トリプトファン、トレオン酸、リジン、ペクチン、キシラン、アラビノガラクタンらが重要な浸出液として知られています。

植物病害の生物的防除のためのバチルス菌の使用は、冒頭で記したように世界中で一定の利益を達成しています。しかし、バチルス菌をフィールド条件下で実際に利用した場合に、その病害抑制効果が不安定であることが問題となっています。それは、土壌の特性、植物の遺伝子型、土着の微生物叢などの複雑で動的な要因がすべて、接種されたバチルス菌の定着と機能的有効性に影響を与えるからです。

この問題を解決するために、現在までに2種類の方法が提案されています。
ひとつは、「SynCom」と呼ばれる方法を使用することです。これは、バチルス、バークホルデリア、エンテロバクター、シュードモナス、およびアシネトバクターといった善玉菌から幾つかのキーストーン株を使用して構築された細菌コンソーシアムを使用するという方法です。
もうひとつは、いわゆる「Prebiotics」を活用することです。上で述べたように、根の浸出液から放出される特定のシグナルがバチルス菌を動員し、その活動を誘導します。従って、人間の腸内で有益な細菌を刺激するために広く応用されている方法と同様に、バチルス菌の動員や活性化に関連する化合物は、バチルス菌の根への定着と生物制御性能を高めるためのPrebioticsとして使用できます。この観点に立てば、スクロース、L-グルタミン酸、リボフラビンらの土壌への添加は、善玉菌であるバチルス菌の根圏定着を促進するためのPrebioticsとして使用できる可能性があります。

それにしても、まず必要なことは、根圏のバチルス菌を「見える化」して、経験則からの脱却を図る事でしょう。

中胚葉特異的転写ホモログタンパク質(MEST)の糖鎖修飾異常(脱フコシル化)が妊娠不全と関係している

Liaoning Provincial Core Lab of Glycobiology and Glycoengineering, College of Basic Medical Science, Dalian Medical University, Dalian, Chinaらのグループは、中胚葉特異的転写ホモログタンパク質(MEST)の糖鎖修飾異常(脱フコシル化)が妊娠不全と関係していると報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41419-023-06166-4

レクチンマイクロアレイを用いることにより、通常の妊婦と比較して、流産患者の絨毛組織において、α1,3-フコースの減少、特にLewis Y(LeY:Fuc α1-2 Gal-β1-4[Fuc α1-3]GlcNAcβ1)型糖鎖において、が発生していることが発見されました。そして、MEST上のLeYの脱フコシル化によって、MESTと真核生物開始因子(eIF4E2)の結合が妨げられ、着床関連遺伝子翻訳が阻害され、妊娠不全につながるという新たな証拠が示されました。

PEG1とも呼ばれるMESTは、α/β ヒドロラーゼ スーパーファミリーに属します。 母性インプリント遺伝子として、MESTは胎児の発育期間を通じて広く発現しています。 MEST は、胎児の成長だけでなく、胚と胎盤の発育にも重要な役割を果たします。不適切なMESTの発現は、ヒトにおける早期自然流産や重度の胎児異常(発育異常、低出生体重、代謝障害など) の増加と関係していることが知られています。

豚鞭虫の排泄ー分泌物のN-型糖鎖と免疫系との相互作用

Institut für Biochemie, Department für Chemie, Universität für Bodenkultur, Wien, Austriaらのグループは、豚鞭虫のN-型糖鎖と免疫系の相互作用について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10542551/

本研究では、豚線虫寄生虫(豚鞭虫)由来のN-型糖鎖 (27 種) を用いた天然型糖鎖マイクロアレイを開発し、これらの糖鎖とC-型レクチン (DC-SIGN、Dectin-2、MGL) などとの相互作用が評価されています。得られた N-型糖鎖は、ホスホリルコリン修飾含む、または含まないフコシル化LacdiNAc構造 (bi/tri/tetra-anttenary) とホスホリルコリン修飾を受けたオリゴマンノース構造でした。

DC-SIGNは、かなり広範囲のオリゴマンオースおよびフコシル化糖鎖を認識しましたが、コントロールとして用いられたMan5-9GlcNAc2にも良く結合しています。
Dectin-2は、他の自然免疫系レクチンと比較して本アレイ上では結合が非常に弱くなっています。
MGLは、LacdiNAc含有リガンドのホスホリルコリン修飾の存在に関係なく、大部分の本糖鎖構造に結合していました。

ST3GAL5を高発現するがん細胞から分泌されるエキソソームが、がんの腹膜播種を促進する

秋田大学医学部らのグループは、ラクトシルセラミド α-2,3-シアリル糖転移酵素(ST3G5)が、ST3G5が高発現しているがん細胞から分泌されるエキソソームによって媒介される腹膜播種を予防するための適切な創薬標的となる可能性があると述べています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37716915/

本論文では、腹膜乳状斑点におけるエクソソームによって媒介される前転移微小環境におけるST3G5(ST3GAL5 およびGM3合成酵素とも呼ばれる) の役割について研究が行われています。

ST3G5が高発現するがん細胞(ST3G5high-cExos)から分泌されるエクソソームには、高レベルの低酸素誘導因子1-α(HIF1α)と解糖系酵素が含まれており、シアル酸結合性のGM3受容体であるCD169(Siglec1とも呼ばれる)の発現上昇によるマクロファージでの取り込みを介して、腹膜乳状斑点に蓄積されることが判明しました。CD169の発現上昇は、正のフィードバックループを介して更なるエクソソームの取り込みを促進します。
尚、GM3は、ST3G5によるシアル酸のラクトシルセラミドへの転移修飾によって形成されるガングリオシドファミリー生合成における最初の分子で、細胞の接着、増殖、および遊走を調節することが知られており、HIF1αは、腹膜乳状斑点における免疫チェックポイント分子(PD-L1)の発現を増加させることが分かりました。

これらの結果は、ST3G5 が一部の癌における腹膜播種を予防するための有望な創薬標的に成り得ることを示唆しています。

シロイヌナズナにトリコデルマ菌を接種した系をモデルとして、そのマルチ・オミックス評価を行った

Department for Sustainable Food Process, CRAST Research Centre, Università Cattolica del Sacro Cuore, Piacenza, Italyらのグループは、植物の生理的反応、メタボロームレベルでの分子挙動、根圏細菌叢の変化を包括的に取り扱いながら、高温、干ばつ、およびそれらの複合的なストレスがトリコデルマ菌を接種したシロイヌナズナに与える影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10484583/#B19

トリコデルマ菌で処理された植物は、干ばつや高温ストレス下でも生のバイオマスが増加することを特徴としており、観察される生のバイオマスの増加が主に植物組織内の水分の蓄積によるものであることが分かっています。

トリコデルマ菌を接種すると、窒素含有代謝物(アルカロイドやポリアミンを含む)、フェニルプロパノイド、ファイトアレキシン、ターペン、グルコシノレートらの二次代謝物の産生が増加します。トリコデルマ菌の接種により、植物ホルモンであるオーキシン関連物質(すなわち、インドール-3-アセトアルデヒド、インドール-3-カルボキシアルデヒド、およびインドール-3-エタノール)、揮発性有機化合物、および短鎖ペプチドらも高発現することが分かりました。また、トリコデルマ菌の接種によって、環境ストレスの状況に応じて、土壌及び根圏細菌の量とその構成が変化していました。プロテオバクテリアは根と土壌で最も優勢であり、平均して根圏では89.6%、土壌では59.4% を占めていました、土壌サンプル中のプロテオバクテリアに加えて、最も豊富な門のひとつはバクテロイデス属と放線菌でした。

これらのことより、植物とその根圏細菌間の複雑な動的相互作用を理解するには、ホロビオント的なアプローチ、つまりマルチ・オミックス的アプローチが必要であると結論付けています。

心筋虚血再灌流障害によって誘起されるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイにて評価した

Department of Cardiac and Pan-Vascular Diseases, Xi’an People’s Hospital (Xi’an Fourth Hospital), Xi’an, Chinaらのグループは、心筋虚血再灌流障害によって誘起されるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイにて評価しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10439394/

心筋虚血再灌流障害は、心臓手術後の心臓の構造と機能の回復に重大な影響を与え、 虚血再灌流障害は現在の臨床治療における大きな障害となっています。重度の心筋虚血によって、心筋細胞の代謝は嫌気性解糖によって支配され、酸性生成物の蓄積とATPの枯渇が引き起こされます。再灌流後、活性酸素種の蓄積とCa2+ 過負荷が誘発され、ミトコンドリア透過性遷移孔 (mPTP) の開口が起こり、さらに電子伝達鎖の破壊とATP産生の減少が起こります。 mPTPが開くと、マトリックスタンパク質とミトコンドリアDNAが細胞質に放出されます。このプロセスはミトコンドリアの膜電位を破壊し、酸化的リン酸化が停止し、ATP消費の増加に繋がります。 Ca2+の過剰と酸素ラジカルの生成の増加は、炎症と血栓症を更に活性化し、ミトコンドリア呼吸の破壊、マトリックスの膨張、ミトコンドリア膜の破裂を引き起こし、ミトコンドリアの損傷と細胞死に繋がります。

本研究では、虚血再灌流障害によるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾の変化をレクチンマイクロアレイを用いて評価しており、45分間の虚血により、LTLおよびSNAによって認識される糖鎖構造の発現が有意に増加し、ECAによって認識される糖鎖構造が有意に減少していることが分かりました(LTLはTerminal Fucoseを認識し、ECAはGalβ1‐4GlcNAc/GalNAcを認識しますが、シアル酸が修飾されるとECAの信号は減少します)。更なる分析により、SNAによって認識されるSiaα2-6Gal/GalNAc構造が大幅に増加していることも示されました。

橋本甲状腺炎患者に見られる血中糖タンパク質の糖鎖修飾変化について

Department of Laboratory Medicine, Shengjing Hospital of China Medical University, Shenyang, Chinaらのグループは、橋本甲状腺炎患者に見られる血中糖タンパク質の異常な糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10348014/

橋本甲状腺炎 (HT) は最も一般的な自己免疫性甲状腺疾患であり、組織へのリンパ球浸潤と甲状腺抗原に特異的な抗体の存在を特徴とします。
本研究では、HT患者27名と健常者コントロール(HC)26名から採取した合計53個の血清サンプルをレクチンマイクロアレイにて解析しています。結果として、HT群のレクチン結合シグナルの大部分がHC軍に比べて有意に弱くなっていることが判明しました。 更に、HT群では、Vicia villosa agglutinin (VVA) 結合シグナルがHC群に比較して有意に増加していることが分かりました。


Mxが思うに、このレクチンマイクロアレイの品質はあまり良くないですね。