シロイヌナズナにトリコデルマ菌を接種した系をモデルとして、そのマルチ・オミックス評価を行った

Department for Sustainable Food Process, CRAST Research Centre, Università Cattolica del Sacro Cuore, Piacenza, Italyらのグループは、植物の生理的反応、メタボロームレベルでの分子挙動、根圏細菌叢の変化を包括的に取り扱いながら、高温、干ばつ、およびそれらの複合的なストレスがトリコデルマ菌を接種したシロイヌナズナに与える影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10484583/#B19

トリコデルマ菌で処理された植物は、干ばつや高温ストレス下でも生のバイオマスが増加することを特徴としており、観察される生のバイオマスの増加が主に植物組織内の水分の蓄積によるものであることが分かっています。

トリコデルマ菌を接種すると、窒素含有代謝物(アルカロイドやポリアミンを含む)、フェニルプロパノイド、ファイトアレキシン、ターペン、グルコシノレートらの二次代謝物の産生が増加します。トリコデルマ菌の接種により、植物ホルモンであるオーキシン関連物質(すなわち、インドール-3-アセトアルデヒド、インドール-3-カルボキシアルデヒド、およびインドール-3-エタノール)、揮発性有機化合物、および短鎖ペプチドらも高発現することが分かりました。また、トリコデルマ菌の接種によって、環境ストレスの状況に応じて、土壌及び根圏細菌の量とその構成が変化していました。プロテオバクテリアは根と土壌で最も優勢であり、平均して根圏では89.6%、土壌では59.4% を占めていました、土壌サンプル中のプロテオバクテリアに加えて、最も豊富な門のひとつはバクテロイデス属と放線菌でした。

これらのことより、植物とその根圏細菌間の複雑な動的相互作用を理解するには、ホロビオント的なアプローチ、つまりマルチ・オミックス的アプローチが必要であると結論付けています。

心筋虚血再灌流障害によって誘起されるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイにて評価した

Department of Cardiac and Pan-Vascular Diseases, Xi’an People’s Hospital (Xi’an Fourth Hospital), Xi’an, Chinaらのグループは、心筋虚血再灌流障害によって誘起されるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイにて評価しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10439394/

心筋虚血再灌流障害は、心臓手術後の心臓の構造と機能の回復に重大な影響を与え、 虚血再灌流障害は現在の臨床治療における大きな障害となっています。重度の心筋虚血によって、心筋細胞の代謝は嫌気性解糖によって支配され、酸性生成物の蓄積とATPの枯渇が引き起こされます。再灌流後、活性酸素種の蓄積とCa2+ 過負荷が誘発され、ミトコンドリア透過性遷移孔 (mPTP) の開口が起こり、さらに電子伝達鎖の破壊とATP産生の減少が起こります。 mPTPが開くと、マトリックスタンパク質とミトコンドリアDNAが細胞質に放出されます。このプロセスはミトコンドリアの膜電位を破壊し、酸化的リン酸化が停止し、ATP消費の増加に繋がります。 Ca2+の過剰と酸素ラジカルの生成の増加は、炎症と血栓症を更に活性化し、ミトコンドリア呼吸の破壊、マトリックスの膨張、ミトコンドリア膜の破裂を引き起こし、ミトコンドリアの損傷と細胞死に繋がります。

本研究では、虚血再灌流障害によるミトコンドリアタンパク質の糖鎖修飾の変化をレクチンマイクロアレイを用いて評価しており、45分間の虚血により、LTLおよびSNAによって認識される糖鎖構造の発現が有意に増加し、ECAによって認識される糖鎖構造が有意に減少していることが分かりました(LTLはTerminal Fucoseを認識し、ECAはGalβ1‐4GlcNAc/GalNAcを認識しますが、シアル酸が修飾されるとECAの信号は減少します)。更なる分析により、SNAによって認識されるSiaα2-6Gal/GalNAc構造が大幅に増加していることも示されました。

橋本甲状腺炎患者に見られる血中糖タンパク質の糖鎖修飾変化について

Department of Laboratory Medicine, Shengjing Hospital of China Medical University, Shenyang, Chinaらのグループは、橋本甲状腺炎患者に見られる血中糖タンパク質の異常な糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10348014/

橋本甲状腺炎 (HT) は最も一般的な自己免疫性甲状腺疾患であり、組織へのリンパ球浸潤と甲状腺抗原に特異的な抗体の存在を特徴とします。
本研究では、HT患者27名と健常者コントロール(HC)26名から採取した合計53個の血清サンプルをレクチンマイクロアレイにて解析しています。結果として、HT群のレクチン結合シグナルの大部分がHC軍に比べて有意に弱くなっていることが判明しました。 更に、HT群では、Vicia villosa agglutinin (VVA) 結合シグナルがHC群に比較して有意に増加していることが分かりました。


Mxが思うに、このレクチンマイクロアレイの品質はあまり良くないですね。

KLF12/Gal-1の発現制御が癌の免疫治療の効率化に繋がるかも知れない

Department of Thoracic Surgery, Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College, Beijing, Chinaらのグループは、KLF12/Gal-1軸が癌の免疫療法に抵抗性を持つ患者に対する新しい治療ターゲットになり得ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10432659/

本研究では、腫瘍細胞におけるKLF12の発現減少は免疫逃避の重要なメカニズムであり、抗PD-1療法に対する耐性につながることが実証されました。機構的には、KLF12はGal-1のプロモーター領域に直接結合してその発現を阻害し、それによって腫瘍微小環境へのCD8+ T細胞の浸潤が促進され、腫瘍細胞を死滅させることが出来ると言う訳です。

KLF12 の作用機序に関する継続的な研究と薬剤耐性を回避するための新しい併用免疫療法は、がん患者にとってより効果的な治療選択肢を提供する可能性があると結論しています。

メタノトローフ菌を用いて温暖化ガスの削減と植物成長の促進を両立させる

Institute for Water Research and Department of Microbiology, University of Granada, 18071 Granada, Spainらのグループは、メタノトローフ菌を用いて温暖化ガスの削減と植物成長の促進を両立させることが出来ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10347144/

二酸化炭素は地球温暖化要因として最も注目されていますが、例えばメタンも考慮すべき温暖化ガスであります。現在の総温暖化の少なくとも1/4はメタンが原因であると考えられています。大気中のメタン濃度は主に人為的寄与により急速に上昇しており、廃水処理施設、埋め立て地、家畜が主な発生源であると考えられています。メタンの絶え間ない放出を相殺するには、大気中のメタンを除去するしかなく、それによってこの強力な温室効果ガスの気候変動への影響を押さえることができます。

本論文では、植物を干ばつから救い、同時に温室効果ガスであるメタンを削減できる植物成長促進細菌としてのメタノトローフ菌の可能性が議論されています。メタンの酸化は副産物として水の生成につながる為(つまり、CH4 + O2 = [CH2O] + H2O)、メタンを消費する微生物は細胞内で水を生成できるので、干ばつ化でも生存が可能であり、余剰な水を体内から環境に放出します。
実際、土壌として使用されたバーミキュライトの相対湿度の最高値は、幾つかのメタノトローフ菌の接種サンプルで観察され、その値は 72.29 ~ 62.26% でした。メタンが存在しない場合には、その相対湿度がほぼ半分に大幅に減少したことは注目に値します。これらの結果は、メタノトローフ菌がメタン由来の代謝水を利用して効率的に水を保存できることを示しています。そして興味深いことに、メタノトローフ菌の植物成長促進効果は土壌の保水量を高めることが可能だった菌種で最大化されていました。

子宮内膜がんで見られる血清タンパク質のN-型糖鎖修飾の変化について

Medical Research Center, State Key Laboratory of Complex Severe and Rare Diseases, Peking Union Medical College Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College, Beijing, Chinaらのグループは、子宮内膜がんで見られる血清タンパク質のN-型糖鎖修飾の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10331720/

本論文では、子宮内膜がんの血清バイオマーカーを見つけるために、血清糖タンパク質のN-型糖鎖の修飾変化をMALDI-TOF-MSを用いて調べています。

結果として、次のような糖鎖修飾異常が見つかっています。
(1) ハイブリッド型糖鎖に対するハイマンノース型糖鎖の比率が、コントロールと比較して子宮内膜がんで大幅に増加、
(2) フコシル化が子宮内膜がんで大幅に減少、
(3) 二分岐および三分岐型糖鎖のシアリル化は、主にα2,6 結合グリカン種の増加により、コントロールよりも子宮内膜がんで大幅に増加。

骨格筋線維症においては、Gal-3+ マクロファージとオステオポンチンが高発現している

Department of Physiology and Biophysics, University of California Irvine, Irvine, CA, USAらのグループは、骨格筋繊維症においては、特徴的なマクロファージ集団が高発現していると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10328414/

マクロファージは自然免疫において中心的な役割を果たしており、組織の修復と細胞外マトリックスの再構築を調節することによって組織の恒常性に貢献しています。マクロファージには、M1 とM2の2種類があることが知られており、急性筋肉外傷では、炎症誘発性のM1マクロファージが最初に損傷した筋肉に浸潤して、細胞残骸を貪食し、筋幹細胞を活性化します。その後、M2マクロファージへ移行して、筋幹細胞の分化と炎症の解消が促進されます。

骨格筋線維症の場合、gal-3+ マクロファージが筋ジストロフィー中に慢性的に活性化されていることが分かりました。ジストロフィー筋の空間的なトランスクリプトーム解析により、ジストロフィー筋には、gal-3+ マクロファージと筋線維症に関連する遺伝子を発現している間質細胞が高発現しており、更には、gal-3+ マクロファージはジストロフィー性病変部に間質細胞と共局在し、オステオポンチンがこれらの細胞型間の情報伝達を仲介していることも分かりました。

T-細胞上のPD-1の茎領域にO-型糖鎖修飾が存在する

Translational Research Unit, Chulabhorn Research Institute, Bangkok, Thailandらのグループは、PD-1のO-型糖鎖修飾の存在について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-023-36203-3#Abs1

T-細胞に発現するPD-1のT153、S157、S159、およびT168 の茎領域が、core-1 およびcore-2ベースの構造を持つシアリルO-型糖鎖によって修飾されていることが分かりました。
これらの糖鎖修飾が存在することの最も顕著な意味というのは、O-型糖鎖と茎領域のペプチド骨格の間の立体相互作用によって、PD-1のロッド状構造の形成を促し、細胞表面上でその受容体を細胞外へ長く伸ばすことであると推測されました。

変形性関節症(OA)で見られる特徴的な糖鎖修飾変化について

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Xi’an, Chinaらのグループは、変形性関節症(OA)で見られる特徴的な糖鎖修飾変化について報告しています。
https://arthritis-research.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13075-023-03084-w

変形性関節症 (OA) に関連する異常な糖鎖修飾と修飾部位特異的な糖鎖修飾の不均一性を、レクチンマイクロアレイとLC-MS/MSを用いて評価しています。
高レベルのα-1,3/6 フコシル化および低レベルのハイマンノース型N-型糖鎖を含む異常な糖鎖修飾が変形性関節症の軟骨で観察されました。

変形性関節症軟骨の新しい特徴として、フィブロネクチン(FN1)およびアグリカンコアタンパク質(ACAN)上の糖鎖修飾の不均一性が明らかにされました。これらのタンパク質は主に細胞外領域および細胞外空間に局在しているものです。
具体的には、Fibronectin(FN1)-N528はN4H5S2がほぼ消失し、N4H4F1S1が大幅に増加、
アグリカンコアタンパク質(ACAN)-N333 に関しては、N5H8F1 はほぼ消失し、N6H4S1、N4H3F1、N5H3F1、N2H5、N6H4 が大幅に増加、
そして、アグリカンコアタンパク質(ACAN)-N658に関しては、N5H4F1S2、N6H6F1、N6H7、N7H6 がほぼ消失し、N2H11 が大幅に増加していました。

早産児を壊死性腸炎から守るには母乳がとても効果的

USDA Children’s Nutrition Research Center, Department of Pediatrics, Baylor College of Medicine, Houston, TX 77030, USAらのグループは、プレバイオティクスとプロバイオティクスだけでは、粉ミルクだけをベースにした食事で壊死性腸炎から早産児を守るのに十分ではないと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10255242/

壊死性腸炎は、早産児の胃腸疾患による主な死因であり、死亡率は15~40%に達します。本研究では、腸内細菌として、(1)Escherichia-Shigellaは、健康な子豚に有意に多く存在し、疾患の重症度と負の相関があり、(2)Clostridium sensu stricto 1 and Enterococcusは、病気の子豚の結腸に有意に多く存在し、疾患の重症度と相関していることが示されています(下図参照)。

食事性プロバイオティクスであるBifidobacterium longum 亜種およびミルクオリゴ糖であるシアリルラクトース(3’SL)の補給だけでは改善効果は認められませんでしたが、母乳は壊死性腸炎の発生率を有意に減少させることが示されています。