統計的機械学習の一種であるボルツマンマシンを用いて糖鎖構造を推定する

Department of Physics, University of California, San Diegoらのグループは、ボルツマンマシンモデルを用いてレクチンパネルの情報から糖鎖構造を推定する方法について述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10274649/

本研究では、レクチンの糖鎖結合パターンから対象とする糖鎖構造を予測できるかどうかが議論されています。各レクチンには、それが特異的に結合する小さな糖鎖構造モチーフのセットがあります。レクチンには論理的に定式化される複雑な結合ルールがあるとは予想されていないため、浅いニューラル ネットワーク トポロジーが適切であると考えました。この相互作用を議論するための合理的な最小モデルは、2層ネットワークとして概念化できる完全に可視化されたボルツマンマシンであると考えられました。

正直言って精度は高くないです。それって糖鎖がとてもヘテロな集団だからということもありますし、レクチンの特異性が曖昧だからというのもありましょう。
この手のレクチンを使った糖鎖構造推定には、否定的な人が多く、MS/MS信奉者が非常に多いです。
しかし、この論文のディスカッションの文脈の中で、彼らが述べていることは、自分の考えと同じです。
「レクチンを用いた情報は生物学的な文脈においては十分正確である!」

T-細胞上のPD-1の茎領域にO-型糖鎖修飾が存在する

Translational Research Unit, Chulabhorn Research Institute, Bangkok, Thailandらのグループは、PD-1のO-型糖鎖修飾の存在について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-023-36203-3#Abs1

T-細胞に発現するPD-1のT153、S157、S159、およびT168 の茎領域が、core-1 およびcore-2ベースの構造を持つシアリルO-型糖鎖によって修飾されていることが分かりました。
これらの糖鎖修飾が存在することの最も顕著な意味というのは、O-型糖鎖と茎領域のペプチド骨格の間の立体相互作用によって、PD-1のロッド状構造の形成を促し、細胞表面上でその受容体を細胞外へ長く伸ばすことであると推測されました。

変形性関節症(OA)で見られる特徴的な糖鎖修飾変化について

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Xi’an, Chinaらのグループは、変形性関節症(OA)で見られる特徴的な糖鎖修飾変化について報告しています。
https://arthritis-research.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13075-023-03084-w

変形性関節症 (OA) に関連する異常な糖鎖修飾と修飾部位特異的な糖鎖修飾の不均一性を、レクチンマイクロアレイとLC-MS/MSを用いて評価しています。
高レベルのα-1,3/6 フコシル化および低レベルのハイマンノース型N-型糖鎖を含む異常な糖鎖修飾が変形性関節症の軟骨で観察されました。

変形性関節症軟骨の新しい特徴として、フィブロネクチン(FN1)およびアグリカンコアタンパク質(ACAN)上の糖鎖修飾の不均一性が明らかにされました。これらのタンパク質は主に細胞外領域および細胞外空間に局在しているものです。
具体的には、Fibronectin(FN1)-N528はN4H5S2がほぼ消失し、N4H4F1S1が大幅に増加、
アグリカンコアタンパク質(ACAN)-N333 に関しては、N5H8F1 はほぼ消失し、N6H4S1、N4H3F1、N5H3F1、N2H5、N6H4 が大幅に増加、
そして、アグリカンコアタンパク質(ACAN)-N658に関しては、N5H4F1S2、N6H6F1、N6H7、N7H6 がほぼ消失し、N2H11 が大幅に増加していました。

早産児を壊死性腸炎から守るには母乳がとても効果的

USDA Children’s Nutrition Research Center, Department of Pediatrics, Baylor College of Medicine, Houston, TX 77030, USAらのグループは、プレバイオティクスとプロバイオティクスだけでは、粉ミルクだけをベースにした食事で壊死性腸炎から早産児を守るのに十分ではないと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10255242/

壊死性腸炎は、早産児の胃腸疾患による主な死因であり、死亡率は15~40%に達します。本研究では、腸内細菌として、(1)Escherichia-Shigellaは、健康な子豚に有意に多く存在し、疾患の重症度と負の相関があり、(2)Clostridium sensu stricto 1 and Enterococcusは、病気の子豚の結腸に有意に多く存在し、疾患の重症度と相関していることが示されています(下図参照)。

食事性プロバイオティクスであるBifidobacterium longum 亜種およびミルクオリゴ糖であるシアリルラクトース(3’SL)の補給だけでは改善効果は認められませんでしたが、母乳は壊死性腸炎の発生率を有意に減少させることが示されています。

一型糖尿病の合併症における補体C3の特異的な糖鎖修飾変化について

Faculty of Pharmacy and Biochemistry, University of Zagreb, Zagreb, Croatiaらのグループは、一型糖尿病の合併症における補体C3の特異的な糖鎖修飾変化(c3.Asn939-N2H10)について報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fendo.2023.1101154/full

補体成分C3のN-型糖鎖修飾について、様々な合併症重症度を持つ189人の一型糖尿病被験者のプロファイリングを実施しました。分析は、Con A レクチンによるハイ・マンノース糖タンパク質のエンリッチメント、Glu-C 消化、糖ペプチド精製を行い、nano LC-ESI-MSを用いて行われました。

結果として、アルブミン尿と網膜症では ひとつの糖鎖構造(C3.Asn939-N2H10:下図参照)のみが有意に変化し、C3.Asn939-N2H10とHbA1cの間には強い相関関係があることも分かりました。

非小細胞肺癌の血清バイオマーカーについて:コンドロイチン硫酸プロテオグリカン

Department of Laboratory Medicine, Shanghai Tongji Hospital, School of Medicine, Tongji University, Shanghai, Chinaらのグループは、非小細胞肺癌の血清バイオマーカーについて報告しています。
https://respiratory-research.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12931-023-02423-4

非小細胞肺癌患者においては、血清バーシカンおよび血清エクソソームバーシカンが有意に増加しており、T1 + T2 患者と比較して T3 + T4 患者で有意に昂進していました (P < 0.05)(ROCカーブ参照)。バーシカンとは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンです。血清バーシカンおよび血清エクソソームバーシカンは、ELISAキット(中国製)を用いて検出されました。

注意欠如多動性障害(ADHD)における血清糖タンパク質の糖鎖修飾の変化について

Institute of Chemistry, Slovak Academy of Sciences, SK-84538 Bratislava, Slovakiaらのグループは、注意欠如多動性障害(ADHD)における血清糖タンパク質の糖鎖修飾の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10218324/

本研究は、血清蛋白質の糖鎖分析から糖修飾変化に基づいて新しいADHDのバイオマーカーを見つけ出すことが可能かどうかを判断することに焦点を当てています。本研究においては、レクチンマイクロアレイとMALDI-TOF MS法という2つの異なる技術を使用して血清東端質の糖鎖構造変が分析されています。

その結果、ADHDではコア・フコースの修飾が増加し、バイセクティングGlcNAc有する二分岐/三分岐N-型糖鎖、およびα2-3シアル酸修飾が減少することが判明しました。

トマトの根から分泌されるヘキサデカン酸が善玉菌であるシュードモナス菌のバイオフィルム形成を最も強く促進する

School of Biotechnology and Pharmaceutical Engineering, Nanjing Tech University, Nanjing, Chinaらのグループは、トマトの根から分泌されるヘキサデカン酸が善玉菌であるシュードモナス菌のバイオフィルム形成を最も強く促進すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10220591/

植物成長促進細菌は、その安全性、病気や害虫の生物学的制御、および耐環境性を誘導する能力により、農業用途で広く使用されつつあります。 それら善玉菌の根圏定着、走化性、バイオフィルム形成は、根からの分泌物と特定の代謝産物によって誘導されることが知られています。

本研究では、特定の濃度のシュードモナス・スタッツェリ NRCB010 を接種すると、トマトの成長が大幅に促進され、トマトの根からの分泌物に大きな変化が誘発されることが示されました。これらの分泌物の中で、n-ヘキサデカン酸が、シュードモナス・スタッツェリの成長、走化性反応、バイオフィルム形成、そして根圏定着を最も強く誘導することが分かりました。