抗体医薬品(mAb)を作るに適したCHOの最適化:糖鎖をG0F構造に絞り込む

第一三共のグループは、抗体医薬品としてのmAbを製造するCHO細胞について、その培養条件の最適化を図っています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0250416

著者らは、CHOの培養に低分子化合物を添加することで、mAbの生産性を上げ、糖鎖構造の制御も合わせて行うことを考えています。
23,277種類の低分子化合物からスタートし、mAbの濃度が120%以上に増加、生産性が105%以上に増加、CHO細胞の生存率が80%以上であることというスクリーニング条件を経て、最終的に残った数個の低分子化合物の中から、4-(2,5-dimethyl-1H-pyrrol-1-yl)-N-(2,5-dioxopyrrolidin-1-yl) benzamide (MPPB)が選択されました。MPPBの濃度は、0.32 to 0.64 mMであり、mABの生産性は結果として1.5倍に上昇したとのことです。
糖鎖構造についてもG0Fがメインとなり、G1Fの割合が24.5%から14.8%に低下しました。その他の構造については変化はないようです。

関節リューマチにおける滑膜線維芽細胞のα2-6シアル酸修飾の変化と関節の炎症について

University of Glasgow, UKらのグループは、関節リューマチにおける滑膜線維芽細胞(Synovial fibroblasts:SFs)のα2-6シアル酸修飾の変化と関節の炎症について、踏み込んだ研究をしています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22365-z

関節リューマチを発症すると、IgGの糖鎖修飾がアガラクト型に変化する、TNFαが増加するというような事象は良く知られています。
著者らは、滑膜繊維芽細胞の糖鎖修飾の変化をレクチンとMSを用いて詳細に評価しており、N型糖鎖、O型糖鎖ともにシアル酸修飾が減少することを示しています。シアル酸の減少は、α2-3Siaではなく、α2-6Siaで顕著に発生していました。更に、α2-6Siaの減少の度合いは、病態の進行度とも相関していました。このα2-6Siaの減少は、TNFαによって直接的に誘起されており、他のサイトカイン(IL-1, IL-17ら)は関与していないことも示されました。

興味深いのは、α2-6Siaの減少が滑膜繊維芽細胞の活性化に主体的に関わっているのか?進行する炎症の間接的な結果なのか?という疑問であります。著者らは、α-6SiaをsiRNAを用いてサイレンシングさせると、IL-6やCcL2の産生が増加することを示しました。これは治療方針にも関わるとても意義深いことであると考えられます。

下図において、CIAとは、Collagen-induced arthritisのこと。

Hydroxychloroquine, Lopinavir, Ritonavirらの新型コロナウイルス(COVID-19)に対する有意な治療効果は認められなかった

McMaster University, Canadaらのグループは、COVID-19の治療薬としてのランダム化比較試験をHydroxychloroquine, Lopinavir, Ritonavirに対して行った結果を報告しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2779044

ランダム化比較試験はブラジルにて実施され、そのサンプルサイズは、hydroxychloroquineに対して214名; lopinavir-ritonavirに対して244名; プラセボに227名でありました。
ウイルスの排除に関して、hydroxychloroquine(odds ratio [OR], 0.91; 95% CI, 0.82-1.02)、lopinavir-ritonavir(OR, 1.04; 95% CI, 0.94-1.16)という結果にてコントロールに対して有意差は認められない結果でした。

因みに、
Hydroxychloroquine:抗マラリアまたは抗リウマチ薬、
Lopinavir:HIV感染症のHAART療法に用いられる医薬品、
Ritonavir:HIVやHCV感染症の治療に使用される医薬品、
であります。

HIV感染のターゲットとなる肛門組織における主要な細胞の特徴について

HIVの感染の一般論は、CD4+ T細胞に侵入する場合に、二つの受容体が関係しており、まずHIVのエンベロープにあるgp120という糖タンパク質がCD4という第一の受容体と結合し、次にCCR5あるいはCXCR4という第2の受容体と結合することで、HIVとT細胞が融合し感染が起こるとされています。University of Sydneyらのグループは、このHIV感染において、ヒトの肛門組織におけるHIV感染のターゲットとなる主要な細胞の特徴は何か?について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22375-x

ひとつはCD14+CD1c+ 単球由来樹状細胞(CD14+CD1c+MDDC)であり、もうひとつはLangerinを発現する樹状細胞2(Langerin+ cDC2)であります。Langerinは、真皮や粘膜に分布する未熟樹状細胞(DC)のサブセットであるランゲルハンス細胞(LC)に選択的に発現するとされ、糖鎖結合の特異性としては、マンノースを含むマンナンなどの糖鎖と、6位が硫酸化されたガラクトースの両方を認識するとされています。更には、CD14+ MDDCのSiglec-1(シアル酸認識レクチン)の発現がHIVの感染と相関していることも示されました。このようにして、これら細胞に捕獲されたHIVがCD4+ T細胞にトランスファーされて行くという訳です。

HIV感染を糖鎖とレクチンの観点から見ると、宿主細胞のC-Type Lectin(Langerin)およびSiglec-1らと、HIV gp120糖タンパク質の関係が非常に重要に思われます。

ランダムフォレスト法(機械学習)を用いたSARS-CoV-2の起源について

University of Liverpoolのグループは、MARS-CoV-2, SARS-CoV, SARS-CoV-2の起源を探るため、ランダムフォレスト法(機械学習)を用いて解析した結果を報告しています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1009149

鳥、ラクダ、肉食獣(ハクビシンら)、ヒト、げっ歯類、豚、ココウモリ(yangochiroptera, yinpterochiroptera)を起源として積み上げ棒グラフ表示したものが下図です。MARS-CoVはラクダ起源、SARS-CoVはハクビシンらの肉食獣起源であることが高い確率で示されています。SARS-CoV-2については、その究極の起源としてはココウモリが疑われる結果となっていますが、MARS-CoVやSARS-CoVと比較すれば、明らかに中間宿主が不明な状態です。

イヌエンジュレクチン(MAL)がACE2、ADAM17、Furinらの発現を大幅に抑制する:SARS-CoV-2の感染の抑制に新知見

Rowan University, Stratford, USAらのグループは、イヌエンジュレクチン(MAL, MAA, MASLらが呼称)がSARS-CoV-2の感染抑制に有効であるかも知れないと述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8019238/

口腔扁平上皮細胞をモデル細胞として、イヌエンジュレクチン(MAL)がACE2, ADAM17, Furin, 糖転移酵素(GalNAc-T, ST6GalNAc-1, and ST6GalNAc-2)の発現に与える影響をトランスクリプトーム解析にて調べました。
興味深いことに、これらがMALのdoseに依存した形で減少することが示されました。例えば、1925nMのMALの添加にて、ACE2のmRNA発現は60%低下、ADAM17は40%低下、ST6GalNAc-1も60%低下しています。これらの結果として、炎症性サイトカインの発現を誘起するシグナル源が減少し、サイトカインストームの抑制にもつながります。

なお、MALは、α2-3Siaに糖鎖結合特異性を持つことが知られています。

COVID-19治療薬としてのデキサメタゾン(Dexamethasone)の働きについて

厚生労働省は、2020年5月に特例で承認した抗ウイルス薬「レムデシビル」に続き、ステロイド薬の「デキサメタゾン」を、2020年7月に日本国内で承認されているCOVID-19の医薬品として追加しています。デキサメタゾンがどんな役割を果たしているか?について報告している論文をご紹介しましょう。

University of Huddersfield, UKらのグループの研究報告です。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10753-021-01464-5

PBMC(末梢血単核細胞)をSARS-CoV-2 Spikeタンパク質で刺激した場合には、炎症性サイトカインであるTNFα, IL-6, IL-1β and IL-8らが高発現します。デキサメタゾン(100nM)を用いてPBMCを前処理すると、これらサイトカインの産生が大幅に抑制されることが示されました。NF-κB転写因子、p38 MAPK、およびNLRP2インフラマソームらの活性化が炎症性サイトカインの産生を促すと考えられていますが、デキサメタゾンは、NF-κB DNA bindingを阻害する(~46%)ことが示されました。

SARS-CoV-2の変異株P.1 に対する中和抗体の活性低下について

University of Oxfordらのグループは、SARS-CoV-2の変異株P.1に対する各種治療用抗体、およびPfizer-BioNTech, Oxford-AstraZenecaのワクチンがもたらす中和抗体の活性度の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8008340/

P.1 変異株には次のような変異が含まれています、
NTDにおいて、L18F, T20N, P26S, D138Y, R190S,
RBDにおいて、K417T, E484K, N501Y,
S1のC-末端において、D614G, H655Y,
S2において、T1027I, V1176F。

Lilly抗体 (LY-CoV16, LY-CoV555) については、中和能力が劇的に減少しました。Regeneron抗体 (REGN10933)およびAstraZeneca抗体 (AZD8895)についても、中和能力の低下が認められました。しかし、AstraZeneca抗体 (AZD1061, AZD 7442) については、ほとんど変化はありませんでした。Adagio抗体 (ADG10, ADG20, ADG30) は高い中和能力を持ち、最終的に100%の阻害能力を示しました。むしろ、ADG30 については、中和能力が若干向上しているようでもあります。

また、Pfizer-BioNTechのワクチン投与後得られた血清については、2.6倍(p<0.0001)、Oxford-AstraZenecaワクチンの場合で、2.9倍中和能力が減少しました。

COVID-19における気管支肺胞洗浄液(BALF)の病態変化

San Martino Policlinico Hospital, Genoa, Italyらのグループは、COVID-19患者の気管支肺胞洗浄液(BALF)の特徴について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8049078/

BALF中の細胞成分は、主に好中球とマクロファージであります(好中球の方が多い)。COVID-19で亡くなった人(non-survivors)と回復者(survivors)を比較すると、無くなった人の方がマクロファージの量が多いことが分かります(死亡者=35% vs 回復者=20%)。しかしながら、下表の全ての差異は統計的な有意差とはなっていないことに注意する必要があります。

食道扁平上皮癌における特異的な糖鎖マーカー

Northwest University, Xi’an, Chinaらのグループは、食道扁平上皮癌における特異的な糖鎖マーカーを報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fchem.2021.637730/full

サンプルには、唾液が使用され、遠心して可溶成分のみを取り出し、プロテアーゼインヒビターを加えたものが使用されました。健常者(HV)と食道扁平上皮癌患者(Esophageal squamous cell carcinoma:ESCC)の糖鎖修飾構造の違いを、レクチンマイクロアレイを用いて評価しています。結果として、DSAとECAレクチンがESCCに特異的であり、Galβ1-4GlcNAc 修飾を受けたN-型糖鎖がESCCのマーカーになり得るとしています。