日本におけるCOVID-19患者のSARS-CoV-2 IgG抗体の血清陽性率状況

順天堂大学のグループは、34名という小規模なコホートながら、日本におけるCOVID-19感染患者のSARS-CoV-2特異的IgG, IgM抗体の血清陽性率状況を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8023454/

chemiluminescent microparticle immunoassay (CMIA)-based SARS-CoV-2 IgG test (cat. # 06R90, Abbott) を用いた場合
重症/重篤者の場合:症状発症後1週間以内=40%、1~2週間=88%、2週間後=100%、
軽症/中症者の場合:症状発症後1週間以内=0%、1~2週間=38%、2週間後=100%、
となりました。

IC IgG antibody assay using the Anti-SARS-CoV-2 Rapid Test (cat. # RTA0203, AutoBio) を用いた場合
重症/重篤者の場合:症状発症後1週間以内=60%、1~2週間=63%、2週間後=100%、
軽症/中症者の場合:症状発症後1週間以内=17%、1~2週間=63%、2週間後=100%、
となりました。

これらの結果は、症状発症後14日、呼吸困難のない軽度の症状の患者を含み、PCRの補完検査としてIgG抗体検査をCOVID-19の診断に使うことができることを示しています。
しかし、このコホートは小規模であり、無症状者を含んでいないので、更なる大規模なコホート研究が必要だと思われます。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のSite-specificな糖鎖修飾の違いについて

University of Southamptonらのグループは、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(All recombinant)について、糖鎖の修飾状態がどのように違うか?について、5つの研究機関のサンプルを比較しています。
使用されている細胞株は下記のようです。
HEK293: Amsterdam, Harvard,
HEK293F: Southampton/Texas,
HEK293T: Oxford,
CHO: Swiss,
糖鎖修飾が宿主細胞の違いや培養条件の違いを反映して(?)、かなり研究機関毎に異なっていることが分かります。
基本的には、Oligo mannoseと複合型のN-型糖鎖が発現しています。

ブログ管理人にとっての興味は、この違いが、SARS-CoV-2の感染力にどの程度の違いをもたらしているか?更には変異が入った時に、糖鎖修飾がどの程度変化を受けているか?そしてそれがどの程度感染力に影響しているか?という課題です。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.08.433764v1.full

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のNTDをターゲットとする中和抗体のエピトープの特徴:糖鎖と変異の影響について

Columbia Universityらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSpikeタンパク質に対する中和抗体について、特にNTDをターゲットとする中和抗体の特徴について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7953435/

NTDをターゲットとする抗体については、17種の既報が存在しています。これらの抗体は、NTDの特定の領域をターゲットとしていることが分かりました(Supersiteと呼ぶ)。このSupersiteは、Spikeの周辺、3回回転軸から遠位、ウイルス膜とは反対側に位置し、この表面は、N 17、N 74、N 122、およびN 149の4つのN型糖鎖に囲まれており、名目上は「糖鎖フリー」になりますが、実際には糖鎖の分子動力学的な揺らぎで糖鎖カバレッジの影響を受けます。また、このSupersiteの領域は、強い正の静電ポテンシャルを持っており、対応する抗体は相補的な強い負の静電ポテンシャルを持つようです。

SARS-CoV-2の変異株、特にB.1.1.7、B.1.351は、感染力の増加が懸念されているのですが、これらの変異株はほとんどのNTDをターゲットにした中和抗体から逃れてしまいます。B.1.1.7にはNTD欠失変異D69-70およびD144が含まれ、B.1.351株にはNTD変異D242-244およびR246Iが含まれています。144、242-244、および246を含む変異は、すべてSupersite内にあります。69-70での欠失はSupersiteの外側にありますが、NTDのhairpin N2 loopの一部を形成することから、この欠損は、Supersiteの構造に大きな影響を与えている可能性があります。

自然免疫における補体経路活性化の新しいシグナルパスが発見された:MASP-1, MASP-3は、酵素でもありPRMでもあり二刀流の振る舞い

自然免疫のひとつであるレクチン経路においては、pattern recognition molecules (PRMs)と呼ばれる mannose-binding lectin (MBL), ficolins, collectin-10/-11らが病原菌やウイルスに特有なパターンを認識して結合し、MASP(MBL結合セリンプロテアーゼ)と複合体を作ることで酵素が活性化され、順次補体を活性化して、膜上に膜侵襲複合体(Membrane Attack Complex: MAC)を形成し、病原菌やウイルスを排除すると一般的に理解されています。

しかし、University of Copenhagenらのグループは、MAPSが直接病原菌に結合し、捕体系路を活性化する場合があることを、Aspergillus fumigatusを用いて実証しています。つまり、捕体系路活性化の新しいシグナルパスが発見されたことになります。MASP-1やMASP-3は、酵素でもありPRMでもあるという二刀流の性格を持つことになります。
https://www.karger.com/Article/FullText/514546

カクテル抗体(REGN-COV2)は、B.1.1.7, B1.351, P.1変異株の影響を受けない、しかし、Pfizer BNT162b2ワクチン接種での有効性はB.1.351, P.1に対しては低下する 

German Primate Center, Göttingenらのグループは、COVID-19の主要な変異体に対する各種抗体(Casirivimab, Bamlanivimab, Imdevimab)及びカクテル抗体 (REGN-COV2: Casirivimab, Imdevimabを含む)の有効性、更にはPfizer BNT162b2ワクチンのそれら変異体に対する有効性を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7980144/

カクテル抗体(REGN-COV2)は、すべてのvariants (B.1.1.7, B.1.351, P.1)のSタンパク質によって媒介される侵入を効率的に阻害しました。しかし、REGN10989およびBamlanivimabは、B.1.351およびP.1 varinatsのSタンパク質に対しては有効性が低下することが示されました。

一方、Pfizer BNT162b2ワクチンは、SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードするmRNAに基づいており、COVID-19に対して有効なワクチンとされています。BNT162b2で2回免疫した15人のドナーからの血清の中和活性を測定した結果は、WT Sタンパク質によって引き起こされる感染を効率的に阻害し、B.1.1.7変異体のSタンパク質によって引き起こされる感染阻害はわずかに減少しただけでした。しかし、15の血清のうち12は、B.1.351およびP.1変異体のSタンパク質によって引き起こされる感染阻害が著しく低下しました。

COVID-19の胸部CT画像のDeep Learningを用いた診断精度

Sejong University, Seoulらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の診断に使われる胸部CT画像に対して、Deep Learningを適用し、COVID-19の診断精度を議論しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249450

Deep Learningに使用されるNeural Networkは20層の構成であり、畳み込みとプーリングを組み合わせて構成されています。入力画像の解像度は、(224 x 224)であり、畳み込みは、(3 x 3)或いは(5 x 5)が使用されています。得られたCOVUID-19の全体的な診断精度は、99.83%(感度=0.9286、特異度=0.991)に達したとのことです。今後は、診断分野へのAI(Deep Learning)の投入が加速していくと思われます。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質をナノ粒子化したワクチンを用いることで、変異に強い広域中和抗体の生成を促すことができる

The Scripps Research Instituteは、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のナノ粒子を用いることで、ウイルスの変異にも強い広域中和抗体を作ることができるとしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8010731/

現在のワクチンの主流は、recombinant SARS-CoV-2 spikeを抗原として提示する形のプラットフォームであり、mRNAを包含したリポソーム (例えば, BNT162b2 や mRNA-1273)、アデノ随伴ウイルス・ベクターを用いたもの (例えば, ChAdOx1 nCoV-19 [AZD1222], CTII-nCoV, Sputnik V, や Ad26.COV2.S)らが存在します。これらのワクチンは、B.1.1.7変異についてはまだしも、B.1.351やP.1変異に対しては、有効性が顕著に低下することが指摘されています。従って、ウイルス変異に強い広域中和抗体を作ることが出来るワクチンが切望されており、その為には、成熟した抗体を長期間にわたって生み出せる胚中心の形成が必要不可欠です。

SARS-CoV-2 spikeタンパク質は、S1-S2ヘテロダイマーの三量体を形成しています。S1 subunitには、感染をイニシエートするRBDが含まれており、S2 subunitには、fusion peptide (FP) と heptad repeat regions 1 と 2 (HR1 と HR2)が含まれています。著者らは、Spikeタンパク質の安定性を高めるためにHR2-deleted, glycine-cappedのspikeタンパク質をデザインし (S2GΔHR2)、I3–01v9 60-mersをリンカーとしてナノ粒子化したS2GΔHR2-10GS-I3-01v9-LD7-PADRE (I3-01v9-L7P)をワクチンとして使用しました。I3-01v9-L7Pには、20個のS2GΔHR2が含まれています。

S2GΔHR2-10GS-I3-01v9-L7Pをワクチンとして使用することで、B.1.1.7, B.1.351, P.1 変異に対してほぼコンパチブルな力価を有する広域中和抗体が生成されていることがわかりました。このナノ粒子は、単体Spikeに比べて、6倍長い保持時間、4倍大きい濾胞樹状細胞群、5倍高い胚中心の活動を示しました。この理由については、定かではありませんが、ワクチンのサイズ効果だと推測されます。

Human C-Type LectinであるCLEC18Aを遺伝子導入した蚊のデングウイルス感染増殖抑制効果

National Health Research Institutes, Miaoli, Taiwanらのグループは、ヒトのC-type LectinであるCLEC18Aを導入した熱帯縞蚊を作り、デングウイルスの感染抑制効果を確認しました。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.640367/full

ヒトのC-type lectinであるCLEC18Aは、デングウイルス(DENV)に特異的な糖鎖に結合し(詳細な糖鎖結合特性構造は不明、C-type lectinは、一般的にhigh mannose, Gal/GalNAcを認識する)、Type I Interferonの分泌を促し、自然免疫における主要なプレーヤーの一つです。CLEC18Aを発現させた熱帯縞蚊においては、下図のようにDENVの感染増殖が70%ほど抑制されることが示されました。このことは、遺伝子改変した蚊を使うことで、DENVの蔓延を抑制できる可能性があることを示唆します。

COVID-19軽症者の免疫記憶(CD4T細胞反応)とSARS-CoV-2に感染していない健常者のSARS-CoV-2に対する交差反応について

National Institute of Immunology, New Delhiらは、COVID-19の軽症者の免疫記憶とSARS-CoV-2に感染していない健常者のSARS-CoV-2に対する交差反応について報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.636768/full

COVID-19軽症者においては、感染後5カ月(中央値=3カ月)は、SARS-CoV-2に対する免疫記憶がCD4T細胞反応としてみられると報告しています。一方、SARS-CoV-2に感染していない人のSARS-CoV-2に対する免疫反応は、Spikeタンパク質に対しては殆ど起こらず、SARS-CoV-2に対して免疫反応を示した66%の人のCD4T細胞は、Nタンパク質をターゲットとしていました。SARS-CoV-2に感染した人では、逆にCD4+T細胞はNタンパク質よりもSpikeタンパク質をターゲットとしていました。
SARS-CoV-2未感染者のCD4T細胞がどの程度SARS-CoV-2の感染を抑制し、COVID-19の重症化を押さえるのかについては、更に詳細な研究が必要です。

タンパク尿が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症バイオマーカーとなり得る

Université Côte d’Azur, Niceらのグループは、高タンパク尿がCOVID-19重症化のバイオマーカーになり得ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7985082/

高タンパク尿(>0.3 g/g)が以下のような項目と高い相関をしてしています。
ICU入室率:[OR = 4.72, IC95 (1.16–23.21), p = 0.03],
急性呼吸不全 (ARDS) [OR = 6.89, IC95 (1.41–53.01, p = 0.02)],
より長い入院日数 [19日 (9–31) 対 低タンパク尿ケースで 7日 (5–11), p = 0.001]