HIV感染におけるPSGL-1の影響について

Department of Biological Sciences, University of Toronto Scarborough, 1265 Military Trail, Toronto, ON Canadaらのグループは、P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1 (PSGL-1/CD162) がHIV-1のウイルスエンベロープに発現しており、それがウイルスの捕獲と、感染細胞 (CD4+ T-細胞など)へのトランスファーを媒介していると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9123692/

P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1/CD162)は、その受容体であるP-セレクチンとの相互作用を介して白血球のローリングを制御する役割について広く研究されています。構造的には、PSGL-1は高度に糖鎖修飾を受けたホモ二量体膜貫通タンパク質であり、細胞外ドメイン(ECD)の長さが50〜60 nmで、細胞表面から突き出ています。

実際に、PSGL-1はHIV-1感染の生理学においてさまざまな役割を果たしています。以下に示すように、PSGL-1の発現レベルが高いウイルスは非感染性であることが示されています。

HIV-1感染の主な標的であるCD4+ T-細胞は、炎症状態でP-セレクチンを発現する活性化した内皮組織によく見られるため、P-セレクチンによって捕捉されるPSGL-1を発現するウイルスが近くの感染標的細胞に移動し、感染を引き起こす可能性があると考えられます。このモデルを、低レベルのPSGL-1と高レベルのgp120を発現するT-細胞感染ウイルスとPBMC感染ウイルスを用いて実証しました。T-細胞およびPBMCで産生されたウイルスが、コントロールよりも著しく高いレベルでP-セレクチンによって捕捉されることが示されました。最も重要なことは、両方のウイルスがP-セレクチンによって効果的に捕捉され、HIV-1の感染標的細胞にトランスファーされたということです。これは、HIVウイルスがin vivoでP-セレクチンを発現する細胞に遭遇した時、PSGL-1を介したウイルスの捕捉とトランスファーという感染のメカニズムが発生する可能性があることを示唆しているのです。

Burkholderia vietnamiensis B418が線虫管理に効果的な生物学的殺線虫剤である

School of Bioengineering, Qilu University of Technology (Shandong Academy of Sciences), Jinan, 250353, Chinaらのグループは、Burkholderia vietnamiensis B418が線虫管理に効果的な生物学的殺線虫剤になり得ると報告しました。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-12472-2

ネコブセンチュウ(Meloidogyne spp.)は、特に温室野菜栽培において、広範囲の作物に寄生する可能性のある非常に多食性の寄生虫です。ネコブセンチュウが侵入すると、植物の根に明らかな結び目や虫こぶを引き起こし、根の正常な構造を破壊し、水と栄養を求めて宿主と競争することで、植物は二次病原体に感染し易くなります。ネコブセンチュウの被害は、世界的に見て年間1,000億ドルを超える経済的損失を引き起こすと推定されており、総作物損失の約12.6%を占めています。

ネコブセンチュウ密度の減少率および防除効果に対する様々な処理の影響は次の通りでした。
すべての処理(Burkholderia vietnamiensis B418接種、化学的殺線虫剤フォスチアゼート、および生物学的殺線虫剤アベルメクチン)は、ネガティブコントロールと比較してネコブセンチュウ密度をある程度減少させました。
最高の減少率と防除効果は、B.vietnamiensis B418接種で見られ、それぞれ74.84%と71.15%でありました。
B418の接種により、フォスチアゼート(38.92%から62.71%)およびアベルメクチン(59.24%から67.87%)の阻害効果が増強されました。 しかし、B418接種単独の場合よりも効果は低下しており、B418とフォスチアゼートおよびアベルメクチンの間には何らかの不整合性があると考えられます。

B418の接種により、バクテリアの16S rRNA配列が9.1%から34.6%に増加し、真菌のITS-2 rRNA配列が7.1%から30.3%に増加していました。このことは、薬剤による病害防除処理効果(9.1%)よりもB418接種の方が多くの変化を根圏細菌叢に引き起こしていることを示しています。。

植物成長に対するPGPR(植物生育促進性根圏細菌)の有益な効果には、生物施肥(主に窒素とリンを含む栄養素の取り込みの促進)や植物刺激(植物成長促進ホルモンの生成)などの直接的なメカニズム、更には間接的なメカニズムとして、植物病原体の有害な効果に拮抗する生物制御剤としての二次代謝物の産生、或いは植物の全身抵抗性を誘発する作用があります。何故、B. vietnamiensis B418の接種がネコブセンチュウの阻害に有効であったのかという理由については定かではないのですが、B418を接種したことによる真菌であるモルティエラの増加は、ネコブセンチュウに対する防除効果と相関していることが分かりました。真菌叢におけるこれらの変動は、B418接種が病原体関連種の阻害および植物に有益な種の増強をもたらした可能性があることを匂わせています。

CK: コントロール; FOST: fosthiazate; AVM: avermectin. (+ /−): B418接種の有無

血中の単糖が結腸直腸癌および結腸直腸腺腫の優れたマーカーになる

Department of Hepatobiliary and Pancreatic Surgery, The Affiliated Hospital of Qingdao University, Qingdao, Chinaらのグループは、結腸直腸癌および結腸直腸腺腫に対する新規の血中単糖複合マーカーについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9099097/

HPAEC-PAD法を使用して、健常人、結腸直腸癌および結腸直腸腺腫患者の血中2つの遊離単糖(Glc-FおよびMan-F)と6つの加水分解単糖(Fuc-H、GalN-H、GlcN-H、Gal-H、Glc-H、およびMan-H)を測定しました。。
血中の単糖の濃度は、健常人よりも結腸直腸癌および結腸直腸腺腫患者で有意に高くなっていました。具体的には、血中のFuc-H、GalN-H、GlcN-H、Gal-H、Glc-H、およびMan-Hの濃度は、健常者と比較して結腸直腸癌患者で有意に高く、血中のFuc-H、Gal-H、Glc-H、およびMan-Hの濃度は、健常人よりも結腸直腸腺腫患者で有意に高くなっていました。

ロジスティック回帰分析を使用して、上記の結果に基づいて診断モデルが開発されました。 2種類のモデルが開発され、1つはMC1で、もう1つはMC2です。
MC1のロジスティック回帰式は次のとおりです:MC1=-8.18-0.021Fuc-H-0.004 GlcN-H + 0.011 Man-H、ここでFuc-H、GlcN-H、およびMan-Hはμmol/Lで表されます。
MC2のロジスティック回帰式は次のとおりです:MC2=-6.639-0.022Fuc-H + 0.003 Gal-H + 0.003 Man-H、ここでFuc-H、Gal-H、およびMan-Hの単位はμmol/Lです。

MC1は健常人と結腸直腸癌患者を区別するために使用され、MC2は健常人と結腸直腸腺腫患者を区別するために使用されます。 MC2とMC1のAUCは、それぞれ0.8025と0.9403でした。
因みに、健常者と結腸直腸癌患者間の既存マーカーCEAのAUCは0.7384でした。

キノコから抽出されたコカプリン( β-トレフォイル・レクチン)がプロテアーゼ阻害剤となる

Department of Biochemistry and Molecular and Structural Biology, Jožef Stefan Institute, 1000 Ljubljana, Sloveniaらのグループは、コカプリンと名付けられたキノコ(Coprinopsis cinerea)から抽出されたβ-トレフォイル折り畳み構造を持つレクチンは、システインとアスパラギン酸プロテアーゼの両方を阻害したと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9104457/

キノコ(Coprinopsis cinerea)に関する配列ベースの構造解析では、2つのコード化タンパク質、それぞれCCP1とCCP2、およびそれらの重複遺伝子を持つCCP3が存在し、リシン型β-トレフォイル・レクチン様ドメインを含むと予測されました。 3つのタンパク質はすべて、古典的な分泌のためのシグナルペプチドを欠いているため、内在性であると予測されます。

コカプリンは、C1ファミリーに属する植物システインプロテアーゼを低µM範囲のKiで阻害し、アスパラギン酸プロテアーゼペプシンも低µM範囲のKiで阻害することが判明しました。

コカプリンはこれらプロテアーゼ阻害に加えてレクチン活性を持っていることが示されました。糖鎖アレイを使用して、コカプリンの糖鎖結合特異性が分析されました。 CCP1の場合、LacNAcまたはpolyLacNAcを含む糖鎖構造に弱い結合特異性を示し、CCP2の場合は結合がさらに弱くなっていました。いずれにせよ、糖鎖結合特異性を示すことには間違いがありません。

しかしながら、コカプリンの生物学的機能は不明です。防御における潜在的な役割として、CCP2の発現が真菌性線虫による攻撃で誘導されたことは注目に値します。しかし、線虫や双翅目昆虫の幼虫に対するタンパク質の毒性は検出されませんでした。これらはすべて、他のβ-トレフォイルプロテアーゼ阻害剤やレクチンの標的となることが分かっているのにです。不思議ですね。

IgA腎症の診断:血中の特異的な糖鎖修飾を受けたIgA1をWFAレクチンとIgA1抗体でサンドイッチ

シスメックスのグループは、IgA腎症の診断マーカーとしての血清WFA+-IgA1の評価結果について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9104065/

著者らは、IgA1の異常な糖鎖修飾に焦点を当てたWisteria floribunda 凝集素(WFA)レクチンと抗IgA1モノクローナル抗体を使用したIgA腎症(IgAN)を診断するための自動サンドイッチイムノアッセイシステムの評価結果について報告しています。

イムノアッセイのためのWFAの有用性はレクチンマイクロアレイによって調査されました。下図は、健常者(HC)およびIgAN患者におけるマイクロアレイ結果の典型的な画像を示しており、健常者と比較してIgAN患者に由来するIgA1でWFAシグナルが有意に増加していることが確認されました。

残念ながら、結果は診断アッセイの観点からは期待外れのようでした、感度= 66%、特異性= 62%。

全てのSARS-CoV-2 オミクロン変異株に対する免疫防御を高めるには三回のブースターワクチンが必須

Center for Retrovirus Research, The Ohio State University, Columbus, OH 43210, USAらのグループは、すべてのオミクロン変異体に対する免疫防御のためのブースターワクチン接種の重要性について報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312822002207?via%3Dihub

BA.1、BA.1.1、BA.2など、Spikeタンパク質に大きな違いがあるオミクロンの亜系統が幾つか存在しています。突然変異の存在箇所は分離株によって異なりますが、BA.1.1系統は、BA.1系統には存在しない単一のR346K突然変異の存在によって定義されます。BA.2系統は、主要なSpikeタンパク質の突然変異T19I、L24S、 Δ25/27、V213G、T376A、およびR408Sによって定義されます。 BA.1はオミクロン変異株によるパンデミックの主要な変種でしたが、BA.2変種、そしてより少ない程度でBA.1.1がパンデミックで比率を占めるようになってきました。特に、BA.2変異株は、BA.1変異株に比べて感染力が高く、以前にBA.1に感染したヒトでも再感染する可能性があります。

本研究において、著者らは次の事柄を実証しています。
オミクロンBA.1.1はオミクロン患者の血清によって効果的に中和され、オミクロンの亜系統はオミクロン患者の血清によって同等に中和されます。
オミクロンBA.1およびBA.2は、2回投与のmRNAワクチン接種による中和作用に耐性がありますが、ブースターワクチン接種による中和作用には感受性があります。

抗生物質(スルホンアミド)の小麦の根圏細菌に対する影響

Molecular Plant Physiology, Institute of Botany, University of the Punjab, Lahore, Pakistanらのグループは、小麦の根圏土壌における根圏細菌集団とその呼吸に及ぼすスルホンアミドの影響について報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0264476

スルホンアミドは畜産で広く使用されており、様々な細菌感染症の治療に使用されています。しかし、管理が不十分なため、処理後に土壌に排泄され、非常に危険です。スルホンアミドは、数百mg/Lの濃度で植物、葉、根の成長を損なう可能性もあります。スルホンアミドを含むさまざまな抗生物質の蓄積は、微生物の機能と活性を害し、土壌の酵素活性を低下させます。土壌中の抗生物質は、生物や植物に絶え間ない変化をもたらし、根圏細菌に有害な影響を与える可能性があるのです。

この研究は、小麦品種「Chakwal-50」の根圏から分離された根圏細菌に対する4つの新しく合成されたスルホンアミドの影響を推測するために実施されました。本研究では、小麦の根圏土壌における根圏細菌の感受性と微生物呼吸に焦点を合わせた研究を行っています。

スルホンアミド:2-(フェニルスルホニル)ヒドラジンカルボチオアミド(TSBS-1)、N、2-ビスフェニルヒドラジンカルボチオアミド(TSBS-2)、アミノカルボニルベンゼンスルホンアミド(UBS-1)、およびN、N’-カルボニルジベンゼンスルホンアミド(UBS- 2)を、小麦の根圏から分離されました5つの細菌株、すなわちAC(Actinobacter spp)、RS-3a(Bacillus spp)、RS-7a(Bacillus subtilis)、RS-4a(Enterobacter spp)およびRS-5a(Enterobacter spp)に適用しています。TSBS-1を除いて、すべてのスルホンアミド誘導体は、試験した細菌株に対して抗菌活性を示しました。これらのスルホンアミド誘導体の中で、UBS-1は最高濃度(4 mg/ml)で、RS-4aに対して最も強い阻害効果、阻害ゾーン(11.47±0.90 mm)を示しました。

図中の数字は、UBS-1の濃度(mg/mL)

このように、スルホンアミドは根圏細菌叢に悪影響を及ぼし、そのようなストレス要因に耐えられない根圏細菌もあるため、土壌の肥沃度と植物の成長に大きな影響を与えてしまいます。スルホンアミドによって媒介される根圏細菌の呼吸変化は、暴露の長さと濃度に依存おり、これら抗生物質を注意深く観察し、植物の成長に対する抗生物質の影響を将来的に調査してくことが必要です。

多価9-O-アセチル化シアル酸修飾を持つ糖鎖クラスターをSARS-CoV-2の阻害剤として使用する

Louvain Institute of Biomolecular Science and Technology, Université catholique de Louvain, Louvain-la-Neuve, Belgiumらのグループは、多価9-O-アセチル化-シアル酸修飾を持つ糖鎖クラスターが、SARS-CoV-2感染の強力な阻害剤となる可能性があると報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-022-30313-8

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のS1サブユニットは、糖鎖結合ドメイン(GBD)を含むN末端ドメイン(NTD)と、受容体結合ドメイン(RBD)を含むC末端ドメイン(CTD)に分けることができます。GBDは、ほとんどのCoVの糖タンパク質と糖脂質と相互作用しますが、RBDはSARS-CoV-2の場合、ACE2受容体に結合します。

コロナウイルスOC43とHKUがSpikeタンパク質の保存された受容体結合部位を介して9-O-アセチル化シアル酸(9-AcSA)に結合することが示されているため、著者らは、特に興味深い糖鎖として9-AcSAに焦点を当てました。

一価の9-AcSAは高いIC50 100 µMを示しますが、スクリーニングしたすべての9-AcSA由来の糖鎖クラスターは、その多価効果によって、1〜10 µMのIC50を示しました。これらの中でも、9-AcSA-ポルフィリンは、精製された9-AcSAと細胞アッセイの両方で、sub-µM範囲のIC50を示し、治療薬として優れた候補と考えられます。

SARS-CoV-2は、活性化された間質性マクロファージに感染し、急性呼吸器不全を引き起こす

Department of Biochemistry, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USAらのグループは、肺の間質内マクロファージがSARS-CoV-2感染の主たる標的となり、炎症を引き起こす中心になっていると報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.05.10.491266v1.full

本研究では、新しいSARS-CoV-2感染の実験モデルが提案され、ヒト肺組織における細胞レベルの分解能で、COVID-19の初期分子イベントと病原性メカニズムの体系的な調査が可能になりました。
ヒトの肺におけるSARS-CoV-2感染の初期のイベントを同定するために、治療的外科的切除または臓器提供者から得られた新鮮な肺組織から厚い切片(〜300-500 µm「スライス」)を調製し、DMEM/F12と10%FBSを含む培地で培養しました。次に、それらの組織スライスを感染多重度(MOI)1で、2時間SARS-CoV-2(USA-WA1/2020)に感染させ、感染を進行させるために培養を24時間または72時間続けました。

SARS-CoV-2感染中のウイルスおよび宿主遺伝子の発現を特徴づけるために、スライスを分離し、単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)によって分析しました。感染した肺スライスの多重単一分子蛍光insituハイブリダイゼーション(smFISH)も実行され、プラス方向鎖ウイルスRNA(S遺伝子プローブ)、マイナス方向鎖ウイルスRNA(複製中間体、Orf1ab遺伝子プローブ)、標準ウイルス感染受容体ACE2、およびscRNA-seqで検出された感染細胞タイプのマーカーを検出しました。

これらの結果から、SARS-CoV-2の最も感染性の高い肺細胞標的と炎症中心が活性化された間質性マクロファージであることが示されました。この新たに特徴づけられた肺マクロファージのサブタイプでは、ウイルスRNA増幅により、宿主細胞の全細胞トランスクリプトームの最大60%がウイルス転写物により乗っ取られていました。乗っ取りの間、同種の受容体(CCL8、CCL2、CCL13、CXCL10)を発現する内在性自然免疫細胞をリクルートできるケモカインの誘導を含み、インターフェロンに支配される炎症反応の細胞自律的な活性化が起こります。この乗っ取りは、また、サイトカインストームの中心となる強力な炎症性分子であるサイトカインIL6の発現を誘導します。このようにして、SARS-CoV-2感染と間質性マクロファージの乗っ取り、およびインターフェロンに支配されるこの一連のケモカインとサイトカインの誘導は、肺の炎症と免疫浸潤中心を形成し、COVID-19肺炎の誘発から急性呼吸器不全への移行を加速するのです。

ヒト肺マクロファージへのSARS-CoV-2侵入のメカニズムを調査するために、改変された組換えスパイク疑似型レンチウイルスシステムが適用されました。精製された肺マクロファージをヒドロキシクロロキン、リソソームプロテアーゼ阻害剤、またはサイトカラシンDで処理しても、広範囲の濃度でレンチウイルスによる感染は阻止されませんでした。これは、スパイクを介した肺マクロファージへの侵入が食作用を必要としないことを示しています。次に、3つの強力な抗スパイクモノクローナル抗体用いた中和アッセイを評価しました。これらの中和抗体は、nM濃度でHeLa-ACE2/TMPRSS2のレンチウイルス感染を強力に阻害しましたが、精製された肺マクロファージのレンチウイルス感染を減少させるものはありませんでした。従って、これのことは、肺マクロファージへのSARS-CoV-2の侵入が、食作用またはSARS-CoV-2スパイクタンパク質のACE2受容体結合モチーフを必要としない潜在的に新規なメカニズムによって起こることを意味しているようです。

キチナーゼ-3様タンパク質-1(CHI3L1 )がCOVID-19重症患者で増加し、重症度を予測する

Division of Immunology, Transplantation and Infectious Diseases, IRCCS San Raffaele Scientific Institute, San Raffaele Via Olgettina 58, 20132, Milan, Italyらのグループは、入院患者におけるキチナーゼ-3様タンパク質-1(CHI3L1)のレベルがCOVID-19の重症度を予測すると報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-11532-x

年齢、性別、併存疾患、入院時の呼吸不全および全身性炎症の程度など、すべてのCOVID-19の臨床転帰に関連する事柄とは独立に、高レベルのCHI3L1が、ICUへの転棟や死亡を含め、COVID-19の重症化のリスクと相関ししていることが示されました。

理想的なバイオマーカーというのは、全体的な炎症の状態を反映するだけでなく、血管の炎症や肺のリモデリングなど、有害な疾患の進展の原因となる事柄を反映している必要があります。更に、抗原提示細胞とT細胞の相互作用がCOVID-19の結果の重要な決定要因であるため、このプロセスに関与する分子が適切な候補となる可能性があります。グリコシド加水分解酵素ファミリーのメンバーであるキチナーゼ-3様タンパク質-1(CHI3L1)は、これらの要件を満たしています。 CHI3L1はキチンに結合しますが、タンパク質を切断する能力はありません。また、ヒアルロン酸やヘパリンなどの他の基質にも結合します。細胞外マトリックスの変化、細胞および組織の損傷、サイトカインおよび成長因子への応答など、COVID-19の初期段階で活性化される様々なシグナルは、組織細胞および炎症性白血球による合成を誘発します。そして更に、CHI3L1は、肺上皮細胞および血管細胞におけるACE-2およびウイルススパイクタンパク質プライミングプロテアーゼの発現を刺激します。

CHI3L1は腎障害の認識されたバイオマーカーであるため、CHI3L1レベルは少なくとも部分的に腎障害を反映している可能性がありますが、更に調査される必要があります。