ロタウイルス-A、-B、-Cの糖鎖結合特異性の違い

Verna and Marrs McLean Department of Biochemistry and Molecular Biology, Baylor College of Medicine, Houston, TX USAらのグループは、ロタウイルスのSpikeタンパク質VP4のフォールディング構造とその糖鎖結合特異性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9072675/

ロタウイルスは、10の異なる種またはグループ(A〜J)に分類されており、グループA、B、C、およびHのロタウイルスは、人間と動物の両方に感染します。疫学的には、グループA、B、およびCが最も良く研究されています。グループAロタウイルス(RVA)および(程度は低いが)グループCロタウイルス(RVC)は、世界中のほとんどの胃腸感染症の原因病原体であり、グループBロタウイルス(RVB)は、幾つかの国における散発的な感染症の原因になっています。

ロタウイルスのゲノムは、6つの構造ウイルスタンパク質(VP)と6つの非構造タンパク質をコードする二本鎖RNAの11の分節で構成されています。ウイルス粒子は、VP2で作られたコア層、VP6で作られた中間層、および糖タンパク質VP7で作られた外殻からなる3層構造を持っています。プロテアーゼ感受性タンパク質で作られた60個のSpikeタンパク質VP4が、外殻のVP7シェルから伸びています。

VP4をタンパク質分解処理すると、VP8*とVP5*の2つのフラグメントが生成されます。ロタウイルスグループ間の構造タンパク質の配列比較から、Spikeタンパク質VP4のVP8*ドメインが最もグループ間で変動していることが分かります。広範な構造研究により、ヒトRVAおよびRVC(VP8*AおよびVP8*C)にはガレクチン様ドメインがあり、その遺伝子型に依存して様々な細胞糖鎖を認識することが示されています。 VP8*AおよびVP8*Cの最も典型的な糖鎖結合特異性は、それぞれH-抗原およびA-抗原であることが知られていました。

興味深いことに、VP8*BはVP8*AまたはVP8*Cのいずれとも配列同一性を共有していません。これは、構造だけでなく糖鎖結合特性にも異なる影響を与える可能性があります。著者らは、VP8*Bには、VP8*AまたはVP8*Cとは全く異なるα-ヘリックスを留めるねじれたβシートを持つフォールディング構造が存在することを発見しました。更に、糖鎖アレイを用いたクリーニングおよびin silico分子ドッキング解析から、VP8*BがLacNAc構造を含む糖鎖を特異的に認識することを示しました。

小麦の根圏:ACCデアミナーゼを産生する根圏細菌(Enterobacter cloacae ZNP-4)の小麦の成長促進効果

Department of Bioengineering and Biotechnology, Birla Institute of Technology, Mesra, Ranchi, Jharkhand, Indiaらのグループは、Enterobacter cloacae ZNP-4と呼ばれる1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid(ACCD)を産生する植物成長促進根圏細菌(PGPR)が、NaClや金属(ZnSO4))などの非生物的ストレス下でのコムギの成長に及ぼす影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9075627/

根圏細菌の多くはACCDを生成します。ACCDは、ACCをアンモニアとα-ケト酪酸に分解することにより、植物の「エチレン・ストレス」のレベルを低下させ、それによってエチレン生成のための基質の利用可能性を最小限に抑えます。 ACCD活性が20nmol α-ketobutyrate mg-1 h-1を超える微生物は、ストレス条件下で植物の成長を促進するのに十分であることが既に分かっています。

他の多くの作物と同様に、小麦の種子の発芽と苗の成長は、塩分と金属のストレスによって世界中で深刻な影響を受けています。塩分ストレスを軽減するために様々な従来の方法が実際に行われていますが、それらのほとんどは費用がかかり、環境に有害であることが問題になっています。根圏細菌は、通常のストレス条件下で植物の成長促進に有効であることが示されていることから、本研究においては、非生物的ストレスの悪影響を軽減するための生物学的防御材としてのACCD産生細菌であるEnterobacter cloacae ZNP-4の有効性を調査することを目的としています。

結果として、ZNP-4菌の接種により、シュート長(41%)、根の長さ(31%)、生重量(28%)、乾燥重量(29%)、光合成色素クロロフィルa(62%)、およびクロロフィルb(34%)など、小麦の様々な成長パラメーターが大幅に改善されました。更に、この菌株は、150 mg kg-1(処理T1)と250 mg kg-1(処理T2)の異なるレベルのZnストレスを含むプランター実験で、植物の成長、バイオマス、および光合成色素を改善するという点で、金属ストレスを最小限に抑えるのに効率的であることも分かりました(処理T1=150 mM NaCl、処理T2=200 mM NaCl、は異なる塩分条件下での実験)。

更に、abiotic stress-induced reactive oxygen species (ROS)の生成に対する細菌接種の影響を、塩分および金属ストレス処理下で評価しています。PGPRのプラスの効果は、一般的に、過酸化水素(H2O2)やスーパーオキシド(O2)といったROS物質の減少と同期しており、これらのROS物質は、脂質の過酸化、細胞膜の劣化、代謝機能障害を引き起こし、最終的に細胞死を引き起こします。ZNP-4菌の接種は、テストされた塩分ストレス下でH2O2レベルを大幅に減少させました。処理T1において43.2%という高い減少(p=0.05)が見られ、処理T2で32.5%の減少が見られました。塩分によって誘発されるO2の生成も、処理T1および処理T2で52.7%(p=0.05)および49%(p=0.05)と大きく減少していました。

根圏における善玉菌の制御は複雑:DAPG、シデロホア

Lab Microbial Ecology of the Rhizosphere (LEMiRE), CEA, CNRS, BIAM, Aix Marseille Univ, Saint-Paul-Lez-Durance, Franceらのグループは、根圏微生物間、および植物とその根圏微生物間で起こっている多数の情報伝達分子を介した制御の複雑さに関して実験データを踏まえながら議論しています。
https://sfamjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1751-7915.14023

このレポートでは、植物の根圏における善玉菌として知られるシュードモナス(Pseudomonas brassicacearum NFM421)が、他の2つの根圏細菌、即ち窒素固定菌であるKosakonia sacchari NO9、および細胞外高分子物質を産生する能力で知られるRhizobium alamii YAS34、と競合した場合の影響、特に、植物に対する有効性遺伝子であるphlD(DAPGの生成)hcnA(シアン化水素の生成) acdS(ACCデアミナーゼ活性)の発現状態を様々な状況で評価しています。 P. brassicacearum NFM421の鉄の細胞内取り込み状態も、この菌株の鉄調節RNA prrF の発現を分析することによって評価されました。というのも、鉄が不足している場合、バクテリアは真菌から鉄を奪うことによって抗真菌剤として作用する可能性のあるシデロホアを産生することが知られているからです。 P. brassicacearum NFM421 wtとノックアウト変異株であるΔphlDおよびΔgacAの土壌伝染性植物病原菌であるFusarium culmorum、Fusarium graminearumおよびMicrodochium nivaleに対する拮抗作用も評価され、DAPGとHCNの抗真菌活性が比較されました。

シュードモナスは、植物の成長を促進し、HCNやDAPGなどの抗菌性二次代謝産物を産生します。 本実験では、phlDの発現はhcnAの1000倍であり、HCNが病原性真菌に対して有効であるとされてはいますが、P. brassicacearum NFM421によるHCNの発現レベルは真菌の増殖を阻害するには低すぎ、この研究で使用された植物病原菌の生物的防除のモードにおいては、二次代謝物であるDAPGが病原性真菌の阻害に関係している可能性が最も高いと考えられました。

P. brassicacearum NFM421wt、∆phlD、∆gacAらのFusarium culmorum (Fc)、Fusarium graminearum (Fg)、 Microdochium nivale (Mn)に対する抗菌作用を示す

CAA培地を用いたin vitro条件では、他の2つの株、N09とYAS34が共存する場合には、鉄分が豊富な条件下で、P. brassicacearum NFM421のphlD、hcnA、acdSの発現に有意な転写変化が生じました。
シュードモナスを単独で増殖させた場合、phlDは鉄によって正に調節され、鉄が豊富な条件下ではほぼ4倍に増加しました。しかし、競合菌株が存在する場合には、鉄が豊富な条件下でシュードモナスのphlDの発現を有意に(2倍)減少させましたが、鉄が枯渇した条件下では有意差は観察されませんでした。
興味深いことに、in vitro条件下で観察された結果とは対照的に、セイヨウアブラナの根圏でこれら菌株が共存している場合には、P. brassicacearum NFM421のphlD発現は変化しませんでした。

他の微生物や植物によるphl遺伝子発現の調節に加えて、鉄の重要性とそのprrF RNAによる調節も含んだ植物に対する有効性遺伝子の調整スキームが結果として提案されています。しかし、ある細菌集団が別の集団の遺伝子発現に干渉するメカニズムはまだ完全には理解されておらず、今後の課題です。

青枯病菌を阻害するシュードモナス属とその二次代謝物:DAPGやオルファミド

Department of Biology, University of York, UKらのグループは、青枯病菌(Ralstonia solanacearum)がシュードモナス属によって阻害されること、そして、その背後にある阻害メカニズム(二次代謝物)について報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/mbo3.1283

本研究では、シュードモナス CHA0菌株が、青枯病菌に対する最も優れた生物的防除株であるとしています。

シュードモナス属からの二次代謝産物クラスターをantiSMASHを用いて分析し、11から17の代謝クラスターが8つのシュードモナス菌遺伝子のそれぞれで同定されました。 非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)は、最も豊富な二次代謝産物クラスターでした。同様に、DAPG代謝物(T3PKSクラスターに属する)、およびピオベルジン・シデロホア(NRPSクラスター)代謝物クラスターがすべての菌株で検出されました。全体として、最も多くのクラスターがCHA0およびPf-5菌株で検出されました。これらの菌株は、ピオルテオリン抗菌剤をコードするT1PKS代謝クラスターや、未知の代謝物をコードするCDPSクラスターなど、幾つかのユニークな代謝物クラスターも持っていました。 CHA0とPf-5菌株におけるNRPSクラスターの数が最も多く、これらはオルファミドとして知られる環状リポペプチドを生産できる唯一の2つの菌株であり、オルファミド「A」のみがCHA0菌株で産生可能でした。

DAPGはすべての青枯病菌を濃度依存的に抑制し、テストしたすべての青枯病菌は最高濃度(500~1000μM)では増殖できませんでした。

シュードモナス CHA0菌株から分離されたオルファミド「A」および「B」を青枯病菌に対してテストした結果(抽出された化合物の量が限られているため、#1および#7青枯病菌のみにてテストしている)、オルファミドは、両方の青枯病菌を同様に抑制しました。

これらの結果は、DAPGやオルファミドなどのシュードモナス属からの二次代謝産物が、青枯病菌に対する病原体抑制物質である可能性が非常に高い、ということを示しています。

水仙タゼッタの球根から抽出された新しいレクチン(NTL-125:マンノース結合型)がSARS-CoV-2の優れた阻害剤になり得る

Division of Plant Biology, Bose Institute, P/12 C.I.T. Scheme VII(M), Kolkata, 700054, Indiaらのグループは、水仙タゼッタの球根から抽出された新しいレクチン(NTL-125:マンノース結合型)がSARS-CoV-2の優れた阻害剤になり得るということをVero-E6細胞を用いたin vitroのアッセイで示しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8988448/

NTL-125と名付けられた水仙タゼッタの球根から抽出されたユニークなマンノース結合植物レクチンは、Vero-E6細胞を用いたin vitroアッセイにおいて、SARS-CoV-2の感染を有効に阻害できる可能性があります。 Vero-E6細胞を使用したSARS-CoV-2ウイルス侵入を50%減少させる阻害濃度(IC50)は、約0.8 µg/mL(50 nM)であり、Vero-E6細胞に対するNLE-125の細胞毒性のアッセイは、5 µg/mLで95%以上、10 µg/mLの濃度で85%以上の生存率を示しました。

分子ドッキング法により、RBDの36残基とNTL-125の44残基が結合状態で互いに5Åの距離内にあるのに対し、ACE-2の27残基はRBDの32残基に近接していることが明らかになりました。ACE-2とNTL-125の両方に相互作用するRBDの17の残基数は17個でありました。これらすべての残基の中で、RBDとNTL-125複合体の場合には、RBDの10個とNTL-125の11個が結合状態で3Åの距離内にあり、RBDとACE-2複合体の場合には、RBDの9残基とACE-2の9残基が3Åの距離内にありました。NTL-125は、ACE2が通常結合するSpikeタンパク質のRBMとまったく同じ領域を占めています。 結果として、NTL125-Spikeタンパク質相互作用の結合自由エネルギー変化は、-13.3 kcal/mol、kd ~0.41nMとなり、ACE2-Spikeタンパク質の結合自由エネルギー変化(-11.2 kcal/mol、kd ~12 nM)よりも大きく、従って前者が後者よりも安定していることが明確に示されました。

更に、分子ドッキング法により、NTL-125-Spikeタンパク質間の相互作用は、Spikeタンパク質のAsn165に結合している糖鎖がNTL-125のIle137およびThr138と相互作用することによっても媒介されることが確認されました。即ち、NTL-125-Spikeタンパク質間の相互作用は、アミノ酸残基だけでなく、糖鎖部分も介して行われているのです。

SARS-CoV-2 オミクロン変異株に特異的なO-型糖鎖修飾が見られた:GalNAcGal(NeuAc)2 at Thr376

Department of Chemistry, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI 53706, USAのグループは、SARS-CoV-2 オミクロン変異株に特異的なO-型糖鎖修飾について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.02.09.479776v2.full

HEK293細胞で発現させたSARS-CoV-2 WT(WA1 / 2020)、デルタ変異株(T478K)、およびオミクロン変異株(BA.1)のS-RBDタンパク質を、フーリエ変換イオンサイクロトロン(FTICR)-MS、およびトラップトイオンモビリティスペクトロメトリー(TIMS)-MSで分析しました。S-RBDタンパク質の配列とO-型糖鎖修飾を解明するために、PNGase F酵素処理を使用してS-RBDタンパク質からN-型糖鎖を除去し、N-型糖鎖の不均一性による干渉を最小限に抑えました。

S-RBDのO-型糖鎖修飾の詳細なトップダウンMS/MS分析により、オミクロン変異株に特有の新しいO-型糖鎖(Thr376)の存在が明らかになりました。興味深いことに、WTおよびデルタ変異株で検出されたすべてのS-RBD O-型糖鎖は、ほぼ間違いなくThr323のみであります。オミクロンと比較してデルタ変異株における突然変異の数が少ないことを考えると、O-型糖鎖修飾サイトThr323がデルタとWTの変異体の間で保存されていたことは驚くべきことではありません。
一方、オミクロン変異株には、同様なThr323 O-型糖鎖に加えて、主にGalNAcGal(NeuAc)2 O-型糖鎖修飾を受けた新しいThr376O-糖鎖修飾サイトが存在していました。このThr376O-糖鎖修飾サイトは、残基373のプロリンに隣接して3残基上流側であり、これは、プロリン付近でのO-グリコシル化頻度が増加するという知見と一致しています。この特定のPro373は、オミクロン変異株に特有の部位特異的変異であり、この新しいO-型糖鎖修飾サイトに深く関わっている可能性があります。Thr376サイトの糖鎖占有率はThr323に比べて低くなっていることは(<30%)、付け加えておいた方が良いかも知れません。

しかしながら、現段階では、Thr376 O-型糖鎖がオミクロンの感染力や免疫回避とどのように関係しているかについては不明です。