根圏における善玉菌の制御は複雑:DAPG、シデロホア

Lab Microbial Ecology of the Rhizosphere (LEMiRE), CEA, CNRS, BIAM, Aix Marseille Univ, Saint-Paul-Lez-Durance, Franceらのグループは、根圏微生物間、および植物とその根圏微生物間で起こっている多数の情報伝達分子を介した制御の複雑さに関して実験データを踏まえながら議論しています。
https://sfamjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1751-7915.14023

このレポートでは、植物の根圏における善玉菌として知られるシュードモナス(Pseudomonas brassicacearum NFM421)が、他の2つの根圏細菌、即ち窒素固定菌であるKosakonia sacchari NO9、および細胞外高分子物質を産生する能力で知られるRhizobium alamii YAS34、と競合した場合の影響、特に、植物に対する有効性遺伝子であるphlD(DAPGの生成)hcnA(シアン化水素の生成) acdS(ACCデアミナーゼ活性)の発現状態を様々な状況で評価しています。 P. brassicacearum NFM421の鉄の細胞内取り込み状態も、この菌株の鉄調節RNA prrF の発現を分析することによって評価されました。というのも、鉄が不足している場合、バクテリアは真菌から鉄を奪うことによって抗真菌剤として作用する可能性のあるシデロホアを産生することが知られているからです。 P. brassicacearum NFM421 wtとノックアウト変異株であるΔphlDおよびΔgacAの土壌伝染性植物病原菌であるFusarium culmorum、Fusarium graminearumおよびMicrodochium nivaleに対する拮抗作用も評価され、DAPGとHCNの抗真菌活性が比較されました。

シュードモナスは、植物の成長を促進し、HCNやDAPGなどの抗菌性二次代謝産物を産生します。 本実験では、phlDの発現はhcnAの1000倍であり、HCNが病原性真菌に対して有効であるとされてはいますが、P. brassicacearum NFM421によるHCNの発現レベルは真菌の増殖を阻害するには低すぎ、この研究で使用された植物病原菌の生物的防除のモードにおいては、二次代謝物であるDAPGが病原性真菌の阻害に関係している可能性が最も高いと考えられました。

P. brassicacearum NFM421wt、∆phlD、∆gacAらのFusarium culmorum (Fc)、Fusarium graminearum (Fg)、 Microdochium nivale (Mn)に対する抗菌作用を示す

CAA培地を用いたin vitro条件では、他の2つの株、N09とYAS34が共存する場合には、鉄分が豊富な条件下で、P. brassicacearum NFM421のphlD、hcnA、acdSの発現に有意な転写変化が生じました。
シュードモナスを単独で増殖させた場合、phlDは鉄によって正に調節され、鉄が豊富な条件下ではほぼ4倍に増加しました。しかし、競合菌株が存在する場合には、鉄が豊富な条件下でシュードモナスのphlDの発現を有意に(2倍)減少させましたが、鉄が枯渇した条件下では有意差は観察されませんでした。
興味深いことに、in vitro条件下で観察された結果とは対照的に、セイヨウアブラナの根圏でこれら菌株が共存している場合には、P. brassicacearum NFM421のphlD発現は変化しませんでした。

他の微生物や植物によるphl遺伝子発現の調節に加えて、鉄の重要性とそのprrF RNAによる調節も含んだ植物に対する有効性遺伝子の調整スキームが結果として提案されています。しかし、ある細菌集団が別の集団の遺伝子発現に干渉するメカニズムはまだ完全には理解されておらず、今後の課題です。