糖鎖プロファイラー GSR2300の基本性能

基本スペック

GlycoStation® Reader 2300 (GSR2300)の基本仕様を下記に示します。

GSR2300の基本仕様
GlycoStation Reader 2300 (GSR2300)

高感度・低ノイズ特性

初代の糖鎖プロファイラーであるGlycoStation® Reader 1200(GSR1200)に比較しますと、大きな違いは低いノイズ性能とスキャン時間の高速化にあります。これは、検出デバイスの違いと光学系の刷新に寄るものであり、GSR1200はEMCCDを採用していましたが、GSR2300ではsCMOSを採用しています。下記に示すように、非常に信号強度が小さいサンプルの場合に、GSR2300の低ノイズの特性が顕著に表れます。下図は、それぞれの機種の最高感度条件で、非常に信号強度が弱いサンプルの蛍光画像を取得したときにものです。画像を目を凝らしてみると、幾つかのスポットが薄く見えるのに気が付くと思います。更には、全体的にGSR2300の方が、GSR1200に比べて薄っすらと見えているスポットの数が多いことに気が付くかも知れません。

非常に信号強度が弱いサンプルを最高感度条件で取得した画像比較(GSR1200 vs. GSR2300)

この微妙な差は、スポットの輝度を数値化すると明確に浮き出てきます。下図は、GlycoStation® ToolsProにて数値化を行い、Net Intensity(即ち、Raw intensityからBackgroundを差し引いたもの)をグラフ化したものです。下図において、上側の図は、GSR1200の蛍光画像を数値化してNet Intensityをグラフ化したものを示しており、下側の図は、GSR2300のそれを数値化して同様にNet Intensityをグラフ化したものを示しています。一目瞭然ですが、GSR2300の方が、見えているレクチンの数がGSR1200よりも明らかに多いのが分かると思います。この差は、各図の右端にあるBG(Background)信号の大きさに由来しています。GSR1200の場合には、BG信号は、1200を越えていますが、GSR2300の場合には、BG信号が100以下になっています。Net Intensityは、Raw IntensityからこのBGを差し引いたものですので、GSR1200の場合には、BGが大きすぎて、Raw IntensityからBGを差し引くと、信号強度が弱いレクチンの値がすべてマイナスになってしまいますが、GSR2300の場合には、BGが非常に小さいので、信号強度が弱いレクチンの値もマイナスにならず、プラスの値として表現されているのです。この例は、GSR2300の低ノイズ特性を顕著に示す結果となっています。結果として低信号領域での線形性が改善され、ダイナミックレンジが拡大します。

GSR1200の蛍光画像を数値化してNet Intensityをグラフ化したもの
GSR2300の蛍光画像を数値化してNet Intensityをグラフ化したもの

次に、GSR2300の高感度特性を示します。GSR2300においては、励起用の光源としてメタルハライドランプを使用しています。この励起光強度は、8bits(255諧調)で調整されており、標準的な励起光強度としては、光量設定値として20~40(最大値=255)の間を推奨しています。励起光強度を上げることで、感度は当然ながら上昇するのですが、同時にBGも増加しますので、S/Nの観点から、この範囲を推奨設定値としているものです。しかし、信号強度が強いレクチンは飽和しても構わないという実験条件下では、更に励起光強度を上げて、弱い信号を捕まえるように条件設定をすることも可能です。下図は、励起光強度の設定値を20から36に上げた場合の蛍光画像を示しており、励起光強度の設定値を変えることで、sCMOSの露光時間の調整と合わせて感度を調整することが可能です。LOD(Limit of Detection)の値は、もちろん、サンプルによっても異なってしまうのですが、抗体医薬品で、100pg/mLあたりの数値となります。

GSR2300の感度は、sCMOSの露光時間と励起光強度で調整可能、LOD=100pg/mL

高速スキャン

GSR2300においては、レクチンマイクロアレイの蛍光画像をy-軸方向(スライドグラスの長手方向)への7回のステップ&リピートスキャンで取り込んでいます。sCMOSの最長露光時間は10秒であることから、再高感度時のスキャン時間は、ステージの移動時間を加味して、80秒となります。本機の最短露光時間は133msecであり、この場合には、スキャン時間はわずかに10秒となります。

搭載するsCMOSには、Digital binningという機能があります。Digital binningとは、隣接する幾つかのセルをまとめて一個のセルとしてソフトウェアー的に取り扱う方法であります。感度は、物理的にセルに入ってくる光量に依存しますので、一個のセルとして統合するセルの数が増えるに従って感度がリニアーに増加します。しかし、セルを統合することによって、解像度が下がりますので、統合するセルの数には限りが出てきます。

GSR2300においては、通常モードを1×1 modeとして、縦横に2個づつのセル(即ち、合計4個のセル)を統合する2×2 mode、縦横に4個づつのセル(即ち、合計16個のセル)を統合する4×4 modeが搭載されています。Digitral binningによる感度上昇は劇的であり、その様子を下図に示します。左図は、露光時間=998msecの場合を示し、右図は、露光時間=532msecの場合を示しています。両図とも左側から通常モードである1×1 modeから、2×2 mode、4×4 modeとDigital binningを掛けた場合を示しています。この蛍光画像を数値化したものを最下図に示しています。増感効果が如実に示されています。

Digital binning(DB)の機能を使うことで、GSR2300の最高感度状態を維持したまま、スキャン時間を15秒にまで短縮することが可能になり、超高感度と超高速スキャンを両立させることに成功しています。

DBの効果は劇的、左=998 msec、右=532 msec
DBの効果,
532msec時、青=通常モード、赤=2×2 mode、緑=4×4 mode
注意事項)高感度条件の下でDigital Binningを掛けると、あまりにも感度が上がりすぎて、ウェル全体の信号強度が上がる結果、ほとんどのレクチンが飽和状態に達してしまいます。露光時間とDigital Binningのモードの組み合わせには、十分気を付けるようにお願い致します。(Cartoon Style)