ビール酵母マイクロカプセルの免疫受容体の相互作用を標的とする経口ドラッグデリバリーシステムの可能性

REQUIMTE-LAQV, Department of Chemistry, University of Aveiro, Portugalらのグループは、ビール酵母マイクロカプセル(BSY)を用いる経口ドラッグデリバリーシステムの可能性について述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9857821/

BSYマイクロカプセルは、1M KOHまたは4M KOHによるアルカリ抽出法、または180℃或いは200℃での亜臨界水抽出(SWE)法を用いて抽出されました。得られたマイクロカプセルは、胃腸の消化状態を模倣したin vitro 消化 (IVD) で処理されました。消化されなかった物質は、マイクロカプセルの凝集と変形が見られるにもかかわらず、球形を維持し、(β1→3)-グルカンが豊富な構造となっていました。

SWE抽出マイクロカプセルのIVD処理から得られた可溶性多糖類はDectin-1と相互作用し、1M KOH抽出マイクロカプセルのIVD処理で放出されたものはDC-SIGNと相互作用し、4M KOH抽出および 180℃SWE抽出マイクロカプセル可溶化多糖類は、Dectin-2 と相互作用することが確認されました。

これらの結果は、生物医学的応用のための経口ドラッグデリバリーシステムとして、BSYマイクロカプセルが使用できるという可能性を示しています。

全身性エリテマトーデスにおけるB細胞、T細胞の糖鎖修飾変化について

Departamento de Medicina y Zootecnia de Cerdos, Universidad Nacional Autónoma de México, Ciudad de México, Mexicoらのグループは、全身性エリテマトーデスにおけるB細胞、T細胞の糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9820943/

全身性エリテマトーデスは、自己免疫疾患であり、体中のあらゆる組織に影響を及ぼします。

B細胞の場合、糖鎖修飾の変化に関する研究は主に免疫グロブリンに向けられています。 全身性エリテマトーテス患者は、免疫グロブリンG(IgG) の糖鎖修飾に変化があります。フコシル化残基に親和性を持つAALレクチンが、健常者と比較してより強く反応すること、そしてまた、コアのフコシル化トリマンノース N-型糖鎖に特異的なLCA レクチンのIgGに対する反応性の増加も、全身性エリテマトーデス患者で報告されています。高分解能の液体クロマトグラフィーを使用して、IgGのガラクトシル化およびシアリル化の減少も確認されています。

全身性エリテマトーテス患者のT細胞は、ALLレクチンの反応性変化からO-型糖鎖修飾にも変化が起こっていることが示されています。ALLレクチンは、T細胞受容体を共活性化するCore 1構造を認識するとされています。活性型の全身性エリテマトーデス患者のT細胞は、非活性型全身性エリテマトーデス患者よりもALLの反応性が低く、ALLによって認識される受容体の発現は疾患活性と逆相関していました。別の研究では、VVAレクチンを使用した全身性エリテマトーデス患者のT細胞におけるTn抗原型 O-型糖鎖の発現増加が報告されています。

更に、全身性エリテマトーデス患者においては、O-GlcNAc修飾および E74 様因子 1 (ELF-1) のリン酸化の減少が観察されています。

ヒトの目の涙液層におけるN-型糖タンパク質カタログの作成

Department of Experimental and Translational Ophthalmology, University Medical Center, Johannes Gutenberg University, Mainz, Germanyのグループは、ヒトの目の涙液層におけるN-型糖タンパク質カタログの作成を行いました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36677706/

本研究の主な目的は、ヒト涙液膜から糖タンパク質/糖ペプチドを濃縮するためのレクチンベースのアフィニティー精製法とMSベースの検出を組み合わせて、涙液層におけるN-型糖タンパク質カタログの作成(即ち、糖たんぱく質の種類とN-型糖鎖修飾位置の同定)を行うことでした。

最高性能のマルチレクチンカラムシステムとして、4Lと呼ばれる4つのレクチン ConA、JAC、WGA、および UEA Iを用いたエンリッチメント法でヒト涙液サンプル消化物から糖ペプチド濃縮を行い、MS分析によってその詳細解析が行われました。本研究の主な結果として、11種のN-型糖タンパク質 (LIF、PIGR、IGHA2、IGHA1、AZGP1、LACRT、JCHAIN、PIP、TF、HP、および SERPINA1) の合計26個のN-型糖鎖修飾部位が、健康な女性の涙液層サンプルから得られました。

これらの結果は、眼の表面に焦点を当てた将来の研究のための重要なN-型糖タンパク質リファレンスマップとなり、涙液膜の安定性と眼の防御システムを維持するためのN-型糖タンパク質の複雑な調節機能を解明するのに役立つと考えられます。

コウモリおよびげっ歯類から分離された二種のロタウイルスの糖鎖結合特性

北海道大学北海道大学国際人畜共通感染症研究所分子病態生物学部門らのグループは、コウモリやげっ歯類から分離されたロタウイルスA(RVA)の特徴について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36633410/

本研究においては、ザンビアで収集されたエジプトオオコウモリおよびナタール多乳動物マウスからRVAを分離し、その特徴を解析しています(代表的なウイルス株は、16-06 と MpR12)。
RVAゲノムは、11個のdsRNA セグメントで構成され、それぞれが6つのウイルス構造タンパク質 (VP) と 5つまた6つの非構造タンパク質 (NSP) をコードしています。RVAは、スパイクタンパク質VP4と糖タンパク質VP7 からなる外側キャプシド層を持つ、エンベロープのない三層ウイルス粒子構造を持っています。

16-06株は、細胞表面のシアル酸に結合することによって細胞に侵入するのに対し、MpR12株は、シアル酸非依存的に侵入することがわかりました。特に、その糖鎖結合特性は、16-06株は、ヒト型と動物型の両方のシアル酸、NeuAcとNeuGcを認識することが分かりました。

イネの葉圏細菌叢:野生種と栽培種間における葉圏細菌叢の違いについて

State Key Lab of Urban and Regional Ecology, Research Center for Eco-Environmental Sciences, Chinese Academy of Sciences, Beijing, Chinaらのグループは、イネの葉圏細菌叢における野生種と栽培種の間の違いについて報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36625666/

葉圏細菌叢において、Proteobacteria門が相対存在量の62.8%を占めており、Pantoeaが最も豊富な属 (42.7%) であり、続いてMethylobacterium (4.8%)、Pseudomonas (3.6%)、Acinetobacter (2.9%)、およびSerratia (2.1%)と続きます。Proteobacteria門以外では、Actinobacteriota門 (11.7%)、Firmicutes門 (8.5%)、および Bacteroidota門 (0.5%) が主要な葉圏細菌でありました。
真菌に関しては、主要なアンプリコンリードは、Nigrospora(13.2%)、Pyrenophora(13.1%)、Papiliotrema(12.5%)、およびPhaeosphaeria(4.5%)らの真菌属に分類されました。

バクテリアについては、Xanthomonas、Klebsiella、Sphingomonasが主に野生種に豊富に存在していました。一方、野生種で著しく豊富ないくつかのバクテリア、Methylobacterium、Xanthomonas、 Hymenobacter、Klebsiella、が存在しました。栽培種と比較して、Methylobacteriumは、野生種で最も豊富な属でした。野生種と比較して、PseudomonasとComamonasは栽培種で豊富に存在する細菌属でした。
真菌については、Khuskia、Acidomyces、および Pyrenophora は主に野生種に豊富に存在していましたが、主要な真菌分類群はいずれも野生種には多くは含まれていませんでした。ChaetomiumとRhodotorulaは栽培種で豊富に存在する真菌属でした。

イネの葉圏細菌叢の機能的なプロファイルの観点から眺めると、栽培種よりも野生種において、メタノール酸化 (+594%)、メチルトローフ (+460%)、尿素分解 (+430%)、および光合成関連(+345%)に関する高い機能ポテンシャルが予想されました。更に、栽培種においては、植物病原体 (+91%)、ヒト関連病原体 (+88%)、およびヒト病原体 (+88%) が有意に増加していることが分かりました。

Burkholderia oklahomensis agglutinin (BOA) レクチンは、効果的にSARS-CoV-2の多くの変異株の感染を阻止できる

Department of Structural Biology, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh PA, USAらのグループは、Burkholderia oklahomensis agglutinin (BOA) レクチンは、効果的にSARS-CoV-2の多くの変異株の感染を阻止できると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9810211/

本研究において、BOAレクチンが効果的にSARS-CoV-2の多くの変異株の感染を阻止できることが示されています(下表は、SARS-CoV-2変異株の種類とそれぞれに対するEC50の値をまとめたもの)。

SARS-CoV-2の変異株における糖鎖修飾には大きな違いがないことは良く知られています。恐らくこのことによって、そしてまたBOAレクチンが効果的にウイルス上のスパイクタンパク質同士の架橋を可能にしたり、或いはまたウイルス間をまたいでスパイクタンパク質を架橋することによってSARS-CoV-2の感染を不活化しているものと考えられます。

実際、BOAレクチンにはふたつのドメインがあり、結果として4個の糖鎖結合部位が存在し、それらが下図に示すようなウイルス内、ウイルス間のスパイクタンパク質の架橋を可能にしているものと思われます。

腸内細菌シアリダーゼ活性とマウスの急性大腸炎には関係性がある

Institute of Physiology, University of Zurich, Zurich, Switzerlandらのグループは、腸内細菌のシアリダーゼ活性が高まるとマウスの急性大腸炎が悪化すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9780602/

腸内細菌叢は主にバクテロイデス門とファーミキューテス門で構成されていて、アクチノバクテリア、ベルコミクロビア、フソバクテリア、プロテオバクテリアのメンバーの存在割合は少なくなっています。腸内細菌叢は、人間の健康に重要な役割を果たし、必須栄養素を供給し、免疫システムの強化や、病原体から保護するのに役立ちます。また、腸内細菌叢は宿主の代謝にも関与しており、さまざまな慢性疾患にも影響を与えています。

腸内細菌は、オリゴ糖および多糖類を消化するために必要な炭水化物消化酵素の膨大なグループを含む多数の遺伝子を発現します。これらの酵素は、食物の炭水化物の消化に加えて、腸の表面を覆う厚い粘液層でも活性化されます。従って、細菌のこれら消化酵素による宿主糖鎖の切断は、細胞接着、輸送、更には活性化に関与する糖鎖構造も変化させる可能性があります。特にフコシル化およびシアリル化エピトープは、それぞれ白血球の輸送と活性化を調節するセレクチンやシグレックなどの内因性レクチンによって認識されます。

大腸炎発症時の腸内細菌叢の組成および宿主糖鎖に対する腸内細菌の炭水化物加水分解酵素活性の影響を調べるために、シアリダーゼ、フコシダーゼ、およびラムノシダーゼ消化酵素を発現する組換え大腸菌を急性大腸炎を発症したマウスに接種することにより、これら消化酵素の活性を人為的に高める実験が行われました。興味深いことに、フコシダーゼおよびラムノシダーゼ活性の増加は大腸炎の状態に特段の影響を与えませんでしたが、シアリダーゼ活性の増加は疾患の重症度を悪化させることが分かりました。

注目すべきは、シアリダーゼ、フコシダーゼ、およびラムノシダーゼ消化酵素を発現する組換え大腸菌を強制経口投与されたマウスにおいて、その腸内微生物叢の組成にほとんど変化が起こらなかったということです。その一方、腸内粘膜の糖鎖および結腸粘膜に常在ずる白血球上の糖鎖からは、PNA染色およびシグレックリガンド染色実験から、シアル酸が切断されていることが分かりました。

PNA staining in proximal colon

結論として、シアリダーゼ活性の増加によって引き起こされる表面糖鎖のシアル酸修飾のリモデリングが、免疫細胞の活性を変化させ、マウスの急性大腸炎の悪化を招いたと考えられます。

自閉症スペクトラム障害(ASD)を発症したラットの前頭前野における糖鎖修飾の変化

College of Life Sciences, Shaanxi Normal University, Xi’an, Shaanxi, Chinaらのグループは、自閉症スペクトラム障害(ASD)を発症したラットの前頭前野における糖鎖修飾の変化について、レクチンマイクロアレイを用いた評価結果について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9772556/

レクチンマイクロアレイを用いることで、次のような糖鎖修飾の変化がラットの前頭前野に起こっていることが示されました。
(1) 多分岐のハイマンノース構造がASDラットで増加する(ConAによって認識される)、
(2) 複合型二分岐アガラクト型のN‐型糖鎖がASDラットで増加する(GSL-IIによって認識される)、
(3) Siaα2-3 Gal/GalNAc(MAL-IとWGAによって認識される)とα‐GalNAc structure (BPLとVVAによって認識される)がASDラットで減少する。