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うつ病の血中糖鎖マーカーが見つかる

山口大学医学部神経精神医学らのグループは、うつ病に対する新しい糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-024-80507-x

WGA結合性のフォンヴィレブランド因子(vWF)を含む血漿細胞外小胞(EV)(WGA-vWF)が、性別や年齢に関係なく、うつ病患者の診断マーカーとなり得ることが報告されました。

WGA-vWFの発現は、健康な対照参加者よりもうつ病状態の大うつ病性障害患者の血漿EVで有意に低下しています。 ROC分析により、大うつ病性障害患者とHC患者の間の診断のAUC値は0.92(95%CI 0.82~1.00)であることが示されました。更に、WGA-vWFの発現はうつ病から寛解の過程で顕著に増加しており、この結果を使用すると、うつ病状態と寛解状態の大うつ病性障害患者を区別することができました (AUC 0.98、95% CI 0.93 ~ 1.00)。

Bisecting GlcNAcがアルツハイマー病の早期糖鎖マーカーである

Division of Neurogeriatrics, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Center for Alzheimer Research, Karolinska Institutet, Swedenらのグループは、アミロイド陰性およびタウ陰性患者の認知機能低下を予測できる新しい糖鎖マーカー、bisecting GlcNAc、について報告しています。
https://academic.oup.com/braincomms/article/6/6/fcae371/7826117?login=false

本論文は、アルツハイマー病の早期マーカーに関する研究報告です。

アルツハイマー病では、アミロイドβペプチド (Aβ) の蓄積と凝集の増加により、脳内でアミロイドが形成されます。その後タウのリン酸化が発生し、これによって神経変性および認知機能の低下が引き起こされることが知られています。本研究では、Bisecting GlcNAc がアルツハイマー病の早期バイオマーカーとなり得る可能性があり、これによって、アミロイド/タウ陰性段階ですでに認知機能低下を予測できることが示されました。

野菜のエクソソームを用いたSARS-CoV-2抗ウイルス薬

Nebraska Center for Virology, University of Nebraska-Lincoln, NE 68583, USAらのグループは、シイタケのエクソソームから発見されたレクチンについて報告しています。
https://www.mdpi.com/1999-4915/16/10/1546

15種類の地元野菜から、エクソソームを超遠心分離によって分離しました。これらのエキソソームに対して、in vitro 疑似ウイルス プラットフォームを使用して、SARS-CoV-2感染に対する抗ウイルス活性を評価しています。
標準的なMTT法を使用したこれらエクソソームの細胞毒性は、15個のサンプルすべてが 1 × 10^10/mL のエクソソーム濃度でも有意な細胞毒性を示さないことが示されました。これらの中で、シイタケから取得したエクソソームの抗ウイルス活性が最も強く、そのEC50値は、5.2 × 10^8/mLとなりました。
エキソソームのプロテオーム解析から、シイタケ エクソソームのレクチン(シクチンと命名)が抗ウイルス活性に寄与していることが確認され、SARS-CoV-2 オミクロン変異体に対して IC50=87 nMという強力な活性を示しました。また、シクチンはC-型レクチンであり、GlcNAcに結合することも確認されました。

ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、レクチン染色の様子が大きく異なる

岐阜大学医学部らのグループは、 ホルマリン固定組織標本と凍結組織標本では、グライコカリックスのレクチン染色の様子が大きく異なると報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0344033824005715?via%3Dihub

驚くべきことに、凍結組織標本とホルマリン固定組織標本との間ではレクチン染色所見に多くの差異があることが判明し、これはFFPE処理がレクチン受容体に影響を及ぼし、凍結切片の方が正確なレクチン染色の情報を与えることが示唆されました。

凍結組織標本のレクチン染色から、以下のことが判明しました。
正常な肝細胞は、PNA、RCA I、SBA、UEA I、GSL I、サクシニル化WGA、ECL、GSL II、STL、および VVL に対して強い陽性染色を示す。
対照的に、肝細胞癌サンプルは DSL および GSL II に対して強い陽性を示す。
正常な肝細胞は複数のGalNAc関連レクチン (PNA、SBA、GSL I、および VVL) に対して陽性ですが、これらは肝細胞癌サンプルでは検出されない。

また、結腸直腸癌の肝転移では、DBAおよびUEA I 染色が強く陽性であり、黒色腫肝転移では、ConA、WGA、サクシニル化WGA、および GSL II が強く発現していました。

2024年のノーベル物理学賞に甘利俊一先生が入っていないのは変だ

2024年のノーベル物理学賞をニューラルネットワークに貢献した2名の科学者が受賞したのは周知の事実です。
自分が富士通に在籍していた時期、ニューラルネットワークの先駆けとなる甘利俊一先生の論文を読み、将来のコンピューターとしての可能性を熱く仲間と語り合っていたことを思い出し、甘利先生が受賞者に入っていないことにとても違和感を覚えました。
因みに、当時のパソコンの能力では、ニューラルネットワークをソフトウェアーとして実現するには無理があり、ハードウェアーとしての構築を仲間とともに考えていました(笑)。

甘利先生の先駆的な研究:
1.A Theory of Adaptive Pattern Classifiers、1967年
2.Characteristics of randomly connected threshold-element networks and network systems、1971年
3.Learning Patterns and Pattern Sequences by Self-Organizing Nets of Threshold Elements、1972年
4.Characteristics of Random Nets of Analog Neuron-Like Elements、1972年

ヒト内在性レクチンマイクロアレイ

Department of Life Sciences, Imperial College London, London, United Kingdomのグループは、ヒト内在性レクチンマイクロアレイについて報告しています。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)02371-8/fulltext

7つの異なる構造グループから、39個の異なる糖鎖結合性ドメインを持つヒト内在性レクチンマイクロアレイがこのグループによって開発されました。
次が搭載されているレクチンのグループとリストです。
MBP, SP-A, SP-D, Colk1
MMR CRD4, Langerin, DC-SIGN, DC-SIGNR, Prolectin, LSECtin, Endo180 CRD2, Mincle, Dectin-2, BDCS-2, Dectin-1
ASGPR1, ASGPR2, MGL, SRCL
Galectin-1, Galectin-2, Galectin-3, Galectin-7, Galectin-4N, Galectin-4C, Galectin-8C, Galectin-9N, Galectin-9C
Siglec-1, Siglec-3, Siglec-5, Siglec-7, Soglec-9, Siglec-11
Intelectin-1, Intelectin-2
MMR-CR, Ficolin-1, Chl3-L2

ヒューマングライコームアトラスへのレクチン・フィルター機能の搭載はどうだろう

本ブログ記事は、いつもの論文紹介とはちょっと違います。日本の大規模プロジェクトである「ヒューマングライコームアトラス」への本ブログ著者のつぶやきです。

ヒューマングライコームアトラスができた時に、レクチンのフィルター機能を追加してみてはどうでしょうか?即ち、MS解析によって網羅的に構造決定した糖鎖の発現状況に対して、各種のレクチンの糖鎖結合特異性と言うフィルターをかけられるようにしてみるということです。そうすると、レクチンにはそれら糖鎖の発現状態がどういう風に見えるのか?がクリヤに「見える化」されると思います。

ヒトが視覚的に糖鎖構造の違いとしてみているものの多くは、実際には体内での生化学反応にあまり意味がないものである可能性があるのではないでしょうか。体内で、どんな糖鎖構造の違いが、糖鎖の翻訳者であるレクチンによって「どの位意味深な差として認識されているのか?」ということがとても大切であり、それを見える化できる「レクチン・フィルター」が存在すれば、とても有効なアトラスになるのではないか?という問いかけです。医療への応用という観点からは、レクチン・フィルターとしては、ヒトの内在性レクチンを網羅すると、より実践的だろうと思います。例えば、DC-SIGNフィルターとか、MGLフィルターとか、Dectin-1フィルターとか、Siglecフィルターとか、Galectinフィルターというようなフィルターセットなのです。逆に、ヒトの内在性レクチンとは糖鎖の認識能が異なるレクチン・フィルターがあれば、思わぬ応用が開ける可能性もあるかも知れません。

がん幹細胞をレクチンでより効果的に特定する

UMR INSERM 1308 CAPTuR, Faculty of Medicine, University of Limoges, Limoges, Franceらのグループは、より正確にがん幹細胞を検出する新しい方法について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41416-024-02839-9

植物レクチンの組み合わせ (MIX: UEA-1 および GSL-1) が、不均一な非小細胞肺がん (NSCLC) 集団からがん幹細胞を検出するための新しいアプローチとして検証されています。

がん幹細胞上に発現した糖鎖修飾パターンを認識するレクチンの組み合わせは、CD133よりもがん幹細胞の検出と選別においてより効率的であることが実証されています。
CD133は既知のがん幹細胞マーカーとして知られています。

ガレクチン-8は大腸がん細胞におけるTGF-β反応を非正規的に変化させることができる

Genomics Research Center, Academia Sinica, Taipei, Taiwanのグループは、糖鎖結合性タンパク質によってTGF-βシグナル経路が変調され、大腸がんの転移に変化が起こると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11375092/

本研究は、ガレクチン-8は、TGF-βの正規なリガンドではありませんが、大腸がん細胞におけるTGF-β応答を非正規的に変化させることができ、大腸がんの進行を抑制することを実証しています。

詳細には、ガレクチン-8の非存在下では、TGF-βはtype II TGF-β receptor (TβRII)に結合し、それによって上皮間葉転換(EMT)を促進します。
ガレクチン-8 の存在下では、ガレクチン-8 はガラクトシル化N-型糖鎖を介して TβRII に結合し、その結果 TGF-β シグナル伝達媒介EMTが減少します。
大腸がんの進行中にガレクチン-8の発現が下方制御されることも示されました。
ガレクチン-8の発現は、T1 期に比べてT4 期で著しく低下していました。

高粘液粘性 (HMV) および非HMV 肺炎桿菌臨床分離株の表面糖鎖エピトープの違いをレクチンで見える化する

Department of Biological Physical Chemistry, Instituto de Química Física Blas Cabrera, Consejo Superior de Investigaciones Científicas, Madrid, Spainらのグループは、肺炎桿菌臨床分離株の自然免疫レクチン、シグレックやガレクチンを用いた認識について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11324429/

肺炎桿菌は、鼻咽頭や胃腸管に頻繁に定着する日和見細菌で、他の組織に侵入すると、特に免疫不全の人に重篤な感染症を引き起こす場合があります。
下図に示すように、シアル酸、ガラクトース、およびマンノースに特異的なレクチンによるこれらの細菌の認識には顕著な違い認められました。

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