blog

糖鎖関連ビジネスを成功させる為には何が必要なのか?

糖鎖は、核酸、タンパク質に次ぐ第三の生命鎖として注目されていることは周知の事実であります。

糖鎖の主な機能とは、(1)細胞認識、(2)細胞接着、(3)シグナル伝達、(4)タンパク質の機能調整、そして(5)免疫応答であると言われます。恐らくこれらの根幹にある機能は、自己と非自己の認識機能であると考えられます。糖鎖は細胞の顔と言われるように、細菌やエンベロープ型ウイルス、正常細胞と癌細胞、そしてまたES, iPSといった幹細胞らで大きく違っています。このような糖鎖の違いを認識する機能分子としてレクチンが存在しています。レクチンには、細胞膜上に発現するものと分泌型のそれがあります。細胞膜上に発現するレクチンの代表例は、C-型レクチンやSiglecであり、分泌型レクチンの代表例には、血中に存在するMBLやフィコリンがあります。C-型レクチンとしては、DC-SIGN, Langerin, Dectin-1, MGLなど数多くの種類が知られていて、その基本的な機能は、外来異物の糖鎖を認識し、自然免疫反応を誘起することであります。Siglecの場合は、発現する細胞はほとんどが免疫細胞であり、シアル酸を認識して免疫作用の調製に関与します(癌治療において、SiglecがPD-1同様に免疫チェックポイント分子になっていることが良く知られています)。MBL(これもC-型レクチンですが)らの分泌型レクチンは、血中を流れる外来異物の糖鎖を認識し、補体経路を活性化して自然免疫反応を誘起しています。

細胞接着という観点での代表例は、炎症が起こった時に血管内皮に発現するP-セレクチンと白血球上のシアロ糖鎖との相互作用、癌の転移能に糖鎖が関わっていること、更にはウイルスの感染と言った事例を上げることができます。最も代表的な例がインフルエンザウイルスの感染であり、ウイルスの持つヘマグルチニンと宿主細胞のシアル酸が結合することで、ウイルスエンベロープと宿主細胞間の細胞膜融合が誘起されます。SARS-CoV2の場合には、ウイルスのRBDと宿主細胞のACE-2が結合することが細胞膜融合を誘起するとされていますが、宿主細胞のC-型レクチンにSARS-CoV2の糖鎖が結合することで感染が誘起されるという経路も知られています。

シグナル伝達とタンパク質の機能調整ですが、殆どすべての膜たんぱく質には糖鎖修飾が存在することから、受容体とリガンドの結合に糖鎖が関係してしまうのはしごく当たり前な話であります。糖鎖が受容体とリガンドの結合に抑制的に働く場合もあれば、増強的に働く場合もあります。抑制的に働くのは糖鎖による結合阻害だとして容易に理解ができると思います。抑制的に働く例としては、IgGのFc部がコアフコース化されるとIgGとFcR間の相互作用が抑制されてADCC活性が下がる事例が有名です。増強的に働く例としては、免疫チェックポイント分子であるPD-1がコアフコース修飾されるとPD-1の発現が上昇しPD-L1との結合が強くなるというような事例を上げることができます。レクチンの中でもガレクチンは変り者で、細胞質、細胞膜、細胞外に存在します。分泌型のガレクチンは何をしているのでしょうか?一つの例は、FGFRに発現しているガラクシドに結合し、FGFが正規なリガンドであるとすれば、それをミミックするような機能を持っていたりもします。

このようにして糖鎖とレクチンの機能を概観してみると、攻めどころは下記になると考えられます。
1.診断薬応用
糖鎖は発現系であり、細胞の状態の違いを如実に反映しています。従って、新たな疾患バイオマーカーとなり得る可能性は非常に高くなります。しかしながら、糖鎖は非常にヘテロな集団ですし、似たような糖鎖構造がターゲット細胞以外でも発現している場合があるので、特異性が問題になります。対象疾患から分泌される特異的なタンパク質とその疾患に特異的な糖鎖を同時に測定することが特異性の改善につながります。更には、糖鎖は増幅することが困難であることから、感度も大問題になってきます。この二面性を包括的に解決できるような対象疾患を慎重に選択する必要があります。成功している検査薬には、AFP-L3やM2BPGiがありますが、両方とも肝臓疾患であり、さもありなんと思わせます。

2.医薬品応用
細胞内のシグナル伝達は、リガンドと受容体の相互作用が起点となって誘起されます。リガンドを糖鎖という言葉で置き換えた時の受容体はレクチンという事になります。従って、糖鎖とレクチンという関係性を持って誘導されるシグナル伝達は、レクチンが備えている機能に限定されてしまいます。つまり、大部分が自然免疫がらみの機能になるかと思います。それでも見込める効果が十分であれば、ここを突き詰めるだけで大成功する可能性があります。インフルエンザウイルスの特効薬であるタミフルはこの良い例です。但し、タミフルは,ウイルスが宿主細胞から別の細胞へと感染を広げる際に必要となるノイラミニダーゼを阻害することが作用機序なので、宿主細胞のシアロ糖鎖を暴漢から守ってるイメージです。ともあれ、この路線では、レクチンが認識しないような糖鎖構造の詳細解析を推し進めても効果が薄いことが想像されます。
生体内には、その他無数のリガンドと受容体の相互関係が存在します。例えば、上記したようなIgGとFcR、FGFとFGFR、PD-1とPD-L1といった関係性です。これらの関係性においては、誘起される細胞内シグナル伝達においては、糖鎖が直接的に関与するわけではなく、そのリガンドと受容体間の相互作用に調整役として間接的に働くということになります。例えば、IgGを脱フコースした抗体医薬品の技術はポテリジェント技術として極めて有名です。糖鎖を標的とする創薬というと、糖鎖がありとあらゆるところに存在するが故に、糖鎖が様々な生命現象に関与しているとして大風呂敷になりがちです。本ブログ管理人が考えるに、効率的に開発するためには、新規モダリティーにこだわるよりも、むしろ既存の医薬品に対して糖鎖修飾の違いがどのように影響を与えるのかをシアリダーゼらを駆使してスクリーニングした方が効果的であり、それによってより薬効の高い新薬(バイオベター)を発見できる可能性が高いのではないでしょうか。この視点では、最終的に糖転移酵素の制御がキーになる可能性もありますよね。

前立腺がん治療の分子標的候補にFUT-8が浮上

Newcastle University Centre for Cancer, Newcastle University Institute of Biosciences, Newcastle, UKらのグループは、FUT-8 は前立腺がんの治療における分子標的となる可能性があると報告しています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12086987/

本研究においては、FUT8は前立腺癌の進行の重要な因子であることが示されており、前立腺腫瘍におけるコアフコシル化のさらなる特徴解明の必要性が示唆されています。
前立腺がんの生物学的なFUT8の重要な役割を考えると、FUT-8が前立腺がん治療の分子標的となる可能性があると結論されています。

複数個のレクチンを使用して得られたLPSの糖鎖プロファイルに機械学習を適用して細菌種を同定するセンサー

Department of Chemistry, Pavillon Alexandre-Vachon, 1045, avenue de la Médecine, Université Laval, Quebec, Canadaのグループは、複数個のレクチンを用いたLipopolysaccharide (LPS)の糖鎖プロファイルとそれに機械学習と組み合わせた細菌種の検出法について報告しています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12019741/

グラム陰性細菌の主要構成成分であるLPSの検出と分類は、医療、環境モニタリング、食品安全といった分野において根幹を成す重要な課題です。

本研究では、表面プラズモン共鳴(SPR)センサー上に固定化された2種類から7種類のレクチンパネルを用いた新たなアプローチが示されています。細菌固有の糖鎖結合プロファイルに基づき、機械学習手法と組み合わせることで、細菌種を高精度に同定できています。使用した機械学習手法は、ランダムフォレスト(RF)、k近傍法(kNN)、サポートベクターマシン(SVM)です。

このようなマルチプローブと機械学習手法を組み合わせた検出手法は、センサー構築における最近のトレンドと言えるでしょう。

潰瘍性大腸炎の患者ではシアル酸アセチル化が減少している

Center for Clinical Mass Spectrometry, College of Pharmaceutical Sciences, Soochow University, Suzhou, Jiangsu, Chinaらのグループは、SIAEを介したシアル酸アセチル化の減少が潰瘍性大腸炎の特徴となっていると報告しています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12011031/

本研究では、質量分析法により、潰瘍性大腸炎患者のタンパク質および糖タンパク質の変化が健常者と比較されています。
潰瘍性大腸炎患者の組織ではシアル酸とそのアセチル化が減少しているのに対し、健常者ではシアリル化とO-アセチル化がより多くみられることが明らかになりました。

シアル酸は、特にアセチル化された状態では、免疫細胞間の相互作用を調節するメカニズムを通じて炎症を防ぎ、腸壁を有害な細菌から保護することで、腸内での過剰な免疫反応に対するバリアとして機能し、大腸において保護的な役割を果たしているとの見解です。

レクチンの応用は医療だけなのか?いや農業分野にも可能性はある!

Instituto de Química, Departamento de Química de Biomacromoléculas, Universidad Nacional Autónoma de México らのグループは、二枚貝から抽出される新しいレクチンのファミリー、mytilectin、について、その糖鎖結合特性と応用について報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0141813025028909?via%3Dihub

レクチンは、医療的な視点から、腫瘍細胞を標的とするプローブ分子や治療薬として評価されてきました。本論文では、医療応用ではない他分野、即ち農業分野における植物病原菌に対する生物防除剤としてレクチンを使用することを提案しています。

本論文では、作物の収穫に大きな影響を与える2種類の真菌と2種類の卵菌に対するmytilectinの抗真菌および抗卵菌活性が示されています。Mytilectinは、真菌の Alternaria alternata と Fusarium oxysporum、および卵菌の Phytophthora capsici と Pythium aphanidermatum の成長を完全に阻害しました。特に、mytilectinが市販の抗真菌制御剤 (CAPTAN) よりも優れた阻害特性を示すことは注目に値します。

ヒト・レクチンを搭載するレクチンアレイの登場

Department of Life Sciences, Imperial College, London SW7 2AZ, United Kingdom のグループは、ヒト・レクチンを用いたレクチンアレイに関する論文を発表しました。
ヒト・レクチンを搭載するレクチンアレイ

本論文は、2023年8月27日~9月1日に台北で開催されたGlyco 26において口頭発表された研究が論文化されたものです。
39種類のヒト・レクチンがスライドグラス上に固定化されています。

現存するレクチンアレイ(LecChipなど)は、主に植物レクチンを使用しています。このタイプのレクチンアレイは、比較糖鎖プロファイリング解析を行う上にいては、十分強力です。しかしながら、ヒトと病原体との相互作用を解析するには、このタイプのレクチンアレイよりも、ヒト・レクチンアレイを用いた方がベターかも知れませんね。

Mx(emukk)誕生経緯

emukk.comのドメインを取得したのが、2020年7月19日のことです。ドメインの取得と共にGMOの共有サーバーを使ってMx(emukk)のホームページを開設しました。

Mxというロゴは、自分の名前のMasaoの頭文字Mに「無限を意味する”x”」をくっ付けたものです。これを「エムエックス」と呼ばせてしまうと、すでに同名の事業会社らが存在するため、「エムック」と呼ばせることにしました。このエムックをローマ字表記にして、まだ使用されていないドメイン名を探したところ、引っかかったのが「emukk.com」ということになります。

そして、自分が65歳になった同年の10月にグライコテクニカを退職し、個人事業主を桑名税務署に登記しました(グライコテクニカが倒産する約2年前のことです)。独立した時には、既にホームページがあり、サイトがGoogleやBingにインデックス登録されていて、検索すれば即座に出てくるという状態を作っておきたかったので、独立する数か月前にホームページの準備をしたということです。従業員を雇うことによるストレスや給与支払いなどの責務を回避するため、できる限りすべての業務は自分一人でこなして効率を最大化するつもりでした。つまり、当初は開発も製造も営業も経理も税務も全部自分でやるということです。経理は、経理ソフトが普通に売っているので、それを購入して使い方さえ覚えてしまえば、たいした苦にはなりません。面倒くさいのは税務ですが、これも国税庁のホームページや経理・会計事務関係の会社のサイト情報などを参考にすれば自分でできます。この部分を会計士とかに任せてしまうと、楽ではありますが、余計な費用は掛かりますし、税務(法人税、地方法人税、法人事業税、法人県民税、法人市民税など)をきちんと理解するためにも、最初は全部自分でやった方が良いと思います。とにかく、申告書類をもれなく作成して税務署や県税事務所や市役所に期日内に出すということがクレームを受けない為にも大切です。(任せる)→(楽だけど)→(分からなくなる)→(言われるがまま)→(費用がかさむ)というこの流れ(鉄則)を覚えておきましょう。

個人事業主を始めてびっくりするのが、国民健康保険の高さです。会社員として社会保険(厚生年金、健康保険、雇用保険など)に加入しているときには、半額が会社負担なのですが、個人事業主だと、それが全額自分に降りかかってきて負担が倍に増えるわけですから当然と言えば当然です。自分の場合、国民健康保険だけで、月に8万円も持っていかれてしまい、目が点になってしまいました。

個人事業主を始めて問題になるのは、やはり「社会的な信用度が下がる」ということと「累進課税」でしょう。社会的な信用度では、例えば、産総研から特許のライセンスを受けようとした時の事ですが、「ライセンスを受けられるのは法人のみであり、個人は対象外」と言って断られてしまいました。累進課税では、例えば、課税所得が1,800万円を超えると税率は40%にもなり、4,000万円をこえると最高税率の45%になります。市民税の負担なども考慮すると、半分以上税金で持っていかれる計算になってしまいます。これだけ持っていかれると、働いていることが嫌になってしまいます。

そこで、2023年の1月6日に、Mxを合同会社エムックとして桑名法務局に法人登記をしました。法人化するときに、株式会社にするか、合同会社にするか迷ったのですが、設立費用が安い、現段階では第三者からの投資資金を受けるつもりもない、ということで合同会社を選択しました。そして、会社が倒産する時の引き金になるのが負債の大きさなので、会社経営の基本として「無借金経営の実現」を据えました。

合同会社を登記するときに必要になる書類は、以下の通りです。
1.合同会社設立登記申請書
2.定款
3.社員名簿
4.社員の印鑑登録証明書
5.本店所在地決定書
6.資本金決定書
7.資本金の額の計上に関する証明書
8.払込証明書
9.現物出資に関する調査報告書
10.財産引継書
それに登録免許税金の6万円のみとなります(株式会社の場合は、15万円)。
これらの書類のフォーマットも、検索すれば雛形をダウンロードできると思いますので、すべて自分でできると思います。自分ですべて実行すれば、6万円以上に費用は掛かりません。これらの書類を収入印紙貼付台紙も含めて袋とじにして各ページのつづり目に契印をして法務局に提出します。尚、収入印紙には割印をしてはいけません。定款については、電子定款ではなく、紙ベースの定款で対応します。合同会社の場合は、定款認証を受ける必要はないので、定款認証の際に必要となる収入印紙代の4万円が不必要です。資本金には、現金のみでなく、現物出資を組み入れることができます。資本金の額の計上に関する証明書とは、出資金が幾らで、現物出資が幾らで、合計した資本金がこれこれです、という資本金決定書の内訳詳細を記した証明書です。現物出資をした場合には、その価値が適切であるかどうかを示す調査報告書が必要です。原則として裁判所が選任した検査役と呼ばれる専門家の調査を受ける必要がありますが、500万円以下の場合は検査役による調査は不要であり、発起人(出資者)の調査報告書で大丈夫です。財産引継書とは、その現物を発起人から設立する会社に確かに引き渡しましたよという証明書です。払込証明書とは、資本金を発起人が確かに振り込みましたよ、ということを証明する書類です。会社を設立する時には、会社の銀行口座というのはまだ存在しないので、発起人の個人口座に自分で出資金を振り込み、その時の振込依頼書と振り込まれたことが記載されている銀行通帳(表紙、見開き、該当明細記載箇所)をコピー添付し、加えて会社が確かに資本金を受領しましたということを証明する受領書をもって払込証明書とします。

「合同会社 設立」などをキーワードにして検索すると、よく「合同会社設立を手数料0円で代行」などというWebページが出てきます。この手のサイトは、結局、会計士や税理士との契約がセットになっているので、入口を無料にして後で儲けるスタイルになっています。会計士や税理士の利用を考えていない場合は、選択しない方が無難だと思います。何事も自分で勉強して行えば無料です。なお、会社設立に際しては、代表者印、社印、銀行印はどうしても必要になります。印鑑の作成費用はピンキリなので、見栄を張らずに適正価格の印鑑作成が良いと思います。

(印鑑三点セット:代表者印、会社印、銀行印は作らないと会社の登記や銀行口座の開設ができない)

会社を登記設立すると、以下の手続きが更に必要になります。期日があるので、注意しないといけません。
1.「健康保険・厚生年金保険新規適用届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」「健康保険被扶養者(異動)届」を従業員を雇用して5日以内に年金事務所へ申請
2.「労災保険」の加入手続きを従業員を雇用した翌日から10日以内に行う、「労災保険」は労働基準監督署へ、「雇用保険」はハローワークへ申請
3.「法人設立届出書、定款の写し、登記事項証明書(これは法務局で発行してもらいます)、社員等の名簿、設立時の貸借対照表」を設立から2カ月以内に税務署へ提出
4.「三重県の場合の法人設立届出書桑名市の場合の法人設立届出書、定款の写し、登記事項証明書」を設立から1か月以内に最寄りの都道府県税事務所と市役所、区役所などの市民税課へ提出
5.「青色申告承認申請書」を3カ月以内に税務署へ提出
6.「給与支払事務所等の開設届出書」を1か月以内に税務署へ提出
7.「源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書」を1か月以内に税務署へ提出
6. 随時、銀行に法人口座開設の申し込みを行う(法人口座が開設されるまでは、個人の口座を使用します、法人設立時の資本金振り込みも個人口座で問題ありません)
いずれの申請書類も検索すればダウンロードできるサイトがありますので、自分でできると思います。
自分の場合は、以上の申請や提出を全部ひとりでやり切りました。

法人を登記した時点では、その事業体は「免税業者」です。2期前の決算における課税所得が、1,000万円を超えると「課税業者」になります。設立した当初は、前期決算というのがないため、自動的に免税業者になるという分けです。但し、資本金の額または出資の金額が、1,000万円以上でスタートした場合には、最初から課税業者となるので気を付けましょう。免税業者でスタートできるのはありがたいことですが、2023年10月に「インボイス制度」という厄介な制度がスタートしており、「免税業者いじめ」になっています。インボイス制度がスタートしてから3年間は経過措置というのがあるので、少しは救いになりますが、この経過措置が終了してしまうと、免税業者でいること自体が社会的ないじめをもろに受けるようになると思います。なお、エムックは、2025年1月1日より(即ち3期目から)課税業者となりインボイス適格請求書発行事業者になっています。

インボイス制度の何が駄目か?①事務作業が増えます、②免税業者からの仕入れについては消費税分を差っ引けないので利幅が減少します、③それをもって免税業者に値下げを要求してはいけないとなっていますが、理屈に合いません、④なら、免税業者との取引は止めようとなります、⑤万が一赤字になれば、所得税はゼロにしてもらえますが、消費税については何の救済措置もありません、借金してでも納税ぜよ、つまり⑥理屈上は正しくても、実際の会社経営に対しては足を引っ張る法制度でしかない、ということです。

それはともかく、GlycoStation, LecChip, ToolsPro, SA/DL Easyに引き続く製品開発をエムックにおいても「糖鎖とレクチン」という切り口で進めています。いつの日か、この誕生秘話もMxブログに書く時が来るやも知れませんね。

GlycoStation誕生秘話(番外編:Europe)

欧州の市場開拓には、BioEuropeというバイオテクノロジーの展示会を良く使用しました。BioEuropeは、春と秋、年に2回場所を変えて開催されます。

グライコテクニカにとっては、Frankfurtで開催されたBioEurope2014とMunichで開催されたBioEurope2015というのはある意味大きなマイルストーンになっています。BioEurope2014では、オーストリアのウイーンにあるBiomedicaとVela Laboratories、フランスのオルレアンにあるGLYcoDiagとの運命的な出会いがあり、翌年にはBiomedicaとGLYcoDiagが欧州におけるグライコテクニカの代理店となりました。そして、Biomedicaの協力にて、Vela Laboratories内に「糖鎖プロファイリングの受託解析センター」が開設されました。

BioEurope2015では、GlycoStationとともに、iPS細胞用の培地「SODATT」を新商品として展示しました。この商品は、iPS細胞用の既存培地(StemFitなど)に対して、コスト競争力に焦点を当てて開発したiPS細胞用培地であり、Serum-free、Xeno-free、b-FGF/TGFβ-freeをキャッチコピーとしていました。本商品開発は、京大iCeMSからのライセンスを得て進めたものです。

残念ながら、本商品はiPS細胞の多能性維持という観点で不安定性があることが判明し、成功には至らなかったのですが、グライコテクニカの新商品開発という視点では一つのエポックメイキングな出来事となっています。

(Eden Noelが歌う)

なお、グライコテクニカの培地関連のビジネスは、合同会社エムックにて継承発展させており、iPS細胞用培地こそないものの、間葉系幹細胞用培地、EC細胞用培地、肝細胞用培地、上皮細胞用培地、間葉系間質細胞用培地、線維芽細胞用培地などが製造販売されています。

GlycoStation誕生秘話(番外編:精神安定剤)

社長の精神的な辛さというのは、経験してみないとなかなかピンと来ないものです。「今のやりかたのままで会社大丈夫かな?」大問題が発生したりすると寝れない夜が続いたりもします。

ある時、廣瀬が自分に教えてくれました。「高畠さん、山田さんが会社に居てくれるだけで安心剤らしいです」「え?そんなこと言ってた?」と自分は答えました。廣瀬は、もともと自分のモリテックス時代の友であり、竜野部長の下で営業アシスタントをしていました。彼女がモリテックスを退職するときに「山田さん、将来縁があったら、声かけてね」と頼まれていました。退職後、彼女が自助努力で簿記の資格を取っていたらしいことも聞いていました。そこで、GPバイオサイエンスを起業したときに経理担当が居なかったので、廣瀬のことを思い出して、高畠に「経理ができるいい人が居るんだけど紹介させてくれませんか?」と廣瀬のことを頼んでみました。江田駅近くにあるコメダ珈琲店で高畠夫妻に廣瀬を紹介しました。高畠は一目見るなり気に入ったようで、その場で採用されました。高畠は、「廣瀬の美貌に惚れた」のだと思います。

そんな成り行きで、廣瀬はGPバイオサイエンスとグライコテクニカにおいて経理担当として高畠から絶大な信頼を得ていました。高畠が憔悴している時に、彼女にぽろっと「自分の弱音」を話たんだと思います。それが「山田さんが居てくれるだけで安心剤なんだよね」という言葉だったのでしょう。高畠と自分の根底には確執があるのは間違いないのですが、困ったときに、「ブレない山田」が居てくれることが高畠には救いだったのだと思います。

2018年は非常に忙しく大変な年でした。AMEDから「再生医療等製品(脂肪細胞医薬品)の糖鎖プロファイリングを用いた品質管理システムの構築」という委託研究をもらっていたし、GLIの買収劇がありましたし、高畠の無駄にデカいお誕生日会もありました。個人的にもこの夏には愛犬のふうを無くし、11月には父親が他界しました。

同年9月のことです、「山田さんと一緒に海外出張するのもこれが最後かもしれないし、スイスアルプスを一緒に旅行しないか?」唐突に高畠がそう言ってきました。チューリッヒの空港でおりて、レンタカーを借り、高畠が自身で運転してスイスのGrindelwaldへ連れて行ってくれました。途中、高畠が車のタイヤを縁石にこすってパンクさせるというトラブルが発生したのですが、ともあれその日の内に何とかGrindelwaldに着くことが出来ました。高畠は「東芝時代に、お客様の接待で、ここに何回もきたんだよね、ここを山田さんに見せてあげたかったんだよ」と言いました。この時ばかりは、「この一瞬だけは」、確執は融解していたかも知れません。

(アイガー北壁が見えて来た、美しすぎる)

 2020年の10月、自分はグライコテクニカを退職し、「Mx:エムック」という事業体を桑名という地に登記しました。グライコテクニカの最期が近づいてきていることを感じていました。しかし、完全にグライコテクニカと縁を切った訳ではありません、同社の顧問となっていました。

そして、高畠と最後のお別れの挨拶をしたのは、2021年9月3日、湯河原温泉でのことでした。グライコテクニカが倒産する約1年前のことです。「高畠さん、今度いつ会えるか分かりませんが、どうぞお元気でお過ごしください」と言って別れました。そして、残念ながら、二度と彼に会うチャンスは訪れませんでした。「高畠さんが亡くなった」というニュースを聞いたのです。

(2014年6月、高畠夫妻との真鶴での思い出バーベキュー、グライコテクニカが平穏だった時代の追憶から)

GlycoStation誕生秘話(番外編:GLI)

GLIとは、Glycobiomarker Leading Innovationsの略にて、産総研発のベンチャー企業です。社長には、産総研出身の竹生氏が就任し、取締役には、成松先生、久野先生が名を連ねていました。GLIの基本的な事業内容は疾患糖鎖バイオマーカーの開発であり、診断薬や治療薬に繋がるバイオマーカーを権利化し、それを診断薬や創薬メーカーにライセンスや売却を行うことでの収益化を考えていました。この手の事業モデルでは、長い期間売上を立てることが出来ないので、VCや事業会社から投資資金を入れ続けるしかありません。具体的に何が直接的な原因になったのかは部外者の自分には不明ですが、GLIは、2018年9月に倒産してしまいました。

この一ヵ月程前になるでしょうか、久野先生から「GLIの従業員を何人か引き取れないか?」という相談を受けました。自分は経営者ですので、こう言われれば会社が危険な状態になっていることは直ぐに分かりますし、役員が従業員の行く末を気にして救済の道を探っていることもわかります。久野先生には本当にお世話になっていたので、「1名くらいなら何とかできるかも知れませんが、自分だけでは決められないので高畠社長と相談致します」と言って別れました。


(つくば研究支援センター(TCI)の中にGLIがありました)

早速、このことを高畠夫妻(社長と会長)に伝えました。この時期には、高畠は、GPバイオサイエンスの自己破産に伴う自粛期間をへて、堂々とグライコテクニカ会長を名乗っていました。GPバイオサイエンスを倒産に追い込んだ「あの経営スタイル」がグライコテクニカに舞い戻って来ていたのです。なんて運命ってこれほどにも皮肉なんでしょう。2018年4月から1年間の計画で、自分は成育医療研究センター、ロート製薬とタッグを組んだ大型のAMED助成金を獲得することに成功していました。「再生医療等製品(脂肪細胞医薬品)の糖鎖プロファイリングを用いた品質管理システムの構築」という委託研究開発事業です。総予算は、5,200万円でした。この潤沢な資金があったことが高畠を狂わせたのです。「それ、売上でなく、委託研究開発費だよ、分かってんの?」高畠は「自分が安く、GLIを買収してやろう」と言い出しました。オーナー会社というのは非常に厄介です。上場しているモリテックスでさえも、起業者の森戸会長の影響力は強烈でしたし、それを排除するためには会社をつぶしてしまうくらいの大きなお家騒動が必要なのです。ましてや上場していない企業となると、役員とは名ばかりで、オーナーの言うことには逆らえないという雰囲気になってしまいます。当時のグライコテクニカは、VCからの投資金は一切受けず、自己資金と借り入れのみで運営されていましたので、物言う株主がおらず、会長の暴走を止められなかったということです。逆に言えば、VCからお金を入れてしまうと思うようにできなくなるので、借り入れのみにしたということです。

その結果、自分が獲得した多額の委託研究開発資金が、GLIの買収と従業員が増えることによる固定費の増加を補うために使われてしまい、結果、何と1,355万円もの委託研究開発資金が未使用となってしまいました。委託研究開発資金は、計画通りに使用することが鉄則です。万が一未使用分が出た場合には、翌年度の8月末までにそれをAMEDに戻す必要があります。助成金の不正使用などを行ったらその研究者や組織はお終いです。
高畠晴美社長に「助成金は契約通りに使用しなければいけない、目的外使用は厳禁です」、「絶対に未使用分は返済する必要があります」と念を押しました。「しかし、そう言われても返すお金がないの、AMEDに分割支払いに出来ないか聞いてみて欲しいの」こんなことを言いだしました。「なんなんだこの言いぐさ、事の重大さを分かってるのか?これでも社長か?」と思いつつ、社長命令なので仕方ない、AMEDに聞くだけは聞こうと電話をすると、案の定「委託研究開発費は先払いしてあるんだから、未使用が出ても払えないなどと言うことはあり得ない、払えないということは目的外に使用したということですよね、分割なんてできませんよ、予定通り返済してください」と言われてしまいます。

社長は、結局借り入れをして未使用分をAMEDに返済し、とりあえず事なきを得るのですが、会長は「未使用が出るのはお前の計画がおかしいからだ、多額の借金をしなくてはいけなくなったんだぞ、会社の危機だ」と山田に責任転換してきました。「この人どういう神経してんの?」自分ははらわたが煮えくり返りました。「委託研究開発資金が未使用になったのは、お前の目的外使用のせいだろうが」

この買収によって、グライコテクニカの固定費は一気に倍増、しかも売上は従来のグライコテクニカのそれと変わらず、一気にキャッシュフローが悪化していきます。GLIの事業モデルは前記したようにグライコテクニカのそれとは異なるので、売り上げなど急には増えないのです。分かり切った通りなのに、高畠はそんなことももう判断できなくなっていました。GLIを安く買収できたことに喜んでいました。そして、この後、グライコテクニカは坂を転げ落ちるように経営状態が悪化し、2022年8月、グライコテクニカが倒産してしまうのです。


2018年というのは、高畠夫妻にとっては、GPバイオサイエンスからグライコテクニカを通しての栄華のピークだったのかもしれません。高畠会長の無茶盛大なお誕生日会も開かれました。時期を合わせて開催されたこの年の株主総会後には、盛大な野外バーベキュー大会が開かれました。この大宴会には、自分の家内も息子も招待されていました。それはそれで楽しい思い出なのですが、この後、恐ろしい下り坂が待っていたのは上記した通りです。



真鶴オレンジフローラルファームにて、グライコテクニカのBBQ大会)


(無茶嬉しそうな高畠会長、白のジャケットを着用、左の女性はオペラ歌手の三堀美和さん)

(お誕生日会にオペラ歌手のロベルト・ボルトルッツィさんを呼ぶ、散財しすぎだろ)

Powered by WordPress |Copyright © 2020 Emukk. All rights reserved