大腸がんから分泌されるエクソソームの糖鎖修飾変化をレクチンマイクロアレイで検査する

State Key Laboratory of Electroanalytical Chemistry, Changchun Institute of Applied Chemistry, Chinese Academy of Sciences, Changchun, Chinaのグループは、レクチンマイクロアレイを用いたエクソソームの糖鎖プロファイリングについて報告しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003267024006202?via%3Dihub

この研究では、レクチンマイクロアレイを用いて、3つの大腸がん細胞株 (SW480、SW620、HCT116) と1つの正常結腸上皮細胞株 (NCM460) の間のエキソソーム表面の比較糖鎖プロファイリング解析が行われています。その結果、UEA-Iレクチンを使用することで、SW480大腸がん細胞由来のエクソソームの異常な糖鎖修飾を検出できることが示されました。

さらに、この実験では、UEA-I レクチンマイクロアレイの検出限界感度 (LOD) は 2.7 × 105個/mLと計算されました。

内皮細胞由来の細胞外小胞の糖鎖修飾の特徴

Shemyakin and Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry RAS, Moscow, Russiaのグループは、 内皮細胞由来の細胞外小胞の糖鎖修飾の特徴について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11171894/

下図に示すように、細胞外小胞の表面糖鎖と内皮細胞の表面糖鎖を比較すると、細胞外小胞の表面糖鎖はN-型糖鎖としてのα2-6-シアル化形態が大半を占めており、Man含有糖鎖のレベルが細胞外小胞で大幅に減少していることが明確に示されています。

遺伝子治療のベクターとして使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質の糖鎖修飾をレクチンマイクロアレイで調べた

大阪大学大学院工学研究科高分子バイオテクノロジー領域の研究グループは、遺伝子治療で使用されるリコンビナント・アデノ随伴ウイルス6(rAAV6)カプシドタンパク質の糖鎖修飾について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11107246/

本研究では、遺伝子治療に使用される組換えアデノ随伴ウイルス (rAAV) の糖鎖修飾を、レクチン マイクロアレイによって評価しています。
結果として、rAAV6 は主にムチン様O-型糖鎖、O-GalNAc (Tn 抗原)、およびモノシアル化およびジシアル化 Galβ1-3GalNAc (T 抗原) によって O-グリコシル化されていることが判明しました。

本研究の目的は、rAAV6を用いた遺伝子治療に対して、免疫原性という観点での安全性、およびベクターとしての全体的な形質導入効率の観点において、rAAV6 の糖鎖修飾がどのような影響を与える可能性があるかどうかを評価することでした。
しかし、残念ながら、ムチン様O-型糖鎖修飾の形質導入効率に対する直接的な影響を評価することは本研究でもまだできていないようです。

GalectinはFGFR1のN-型糖鎖に結合し、直接的にFGFR1下流のシグナル経路を活性化することが出来る

Protein Engineering, Faculty of Biotechnology, University of Wroclaw, Wroclaw, Polandのグループは、galectin-1, -7, そして-8 がFGFR1の下流シグナリングとそのFGFR1のエンドサイトーシスを制御することが出来ると報告しています。
https://biosignaling.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12964-024-01661-3

FGFR1のN-型糖鎖は、FGFR1の真のリガンド(FGF1)ではない細胞外ガレクチン (Gal-1、Gal-7、および Gal-8) によって認識され、これらのガレクチンが FGFR1 に結合すると、受容体が直接的に活性化され、下流のシグナル伝達カスケードが開始されます。活性化されたFGFR1のその後のエンドサイトーシスは、FGFR1シグナル伝達の下方制御のための主要な細胞機構として機能します。

FGF1とGal-1は両方ともFGFR1を直接活性化することが出来、FGFR1シグナル伝達の短く強力なパルスの後、クラスリン媒介エンドサイトーシスの誘導によりFGFR1シグナリングがシャットダウンされ、受容体のリソソーム分解が起こります。 Gal-7およびGal-8も受容体クラスタリング機構によってFGFR1を直接活性化することが出来ますが、FGFR1のエンドサイトーシスと分解を阻害することで、これらのガレクチンは FGFR1 シグナル伝達を長期に維持することができます。


pFGFRは、tyrosine-phosphorylated FGFR1のことを表す

T-抗原が神経膠芽腫のマーカーになりうるのか?

Department of Neurosurgery, the First Affiliated Hospital of Anhui Medical University, Hefei, Chinaのグループは、T 抗原が、神経膠芽腫患者の無増悪生存期間のバイオマーカーとなる可能性があると報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acn3.52082

彼らは、レクチンマイクロアレイ(11種のレクチンを搭載)を用いた研究から、Jacalinで検出した血清中T-抗原レベルが神経膠芽腫組織のレベルと正の相関があり、神経膠芽腫再発を予測する無増悪生存期間の非侵襲性バイオマーカーとして使用できる可能性があると結論づけています。

しかしながら、Jacalinの糖鎖結合特異性は、GlcNAcβ1-3GalNAc (Core3)、Siaα2-3Galβ1-3GalNAc (シアリル T)、Galβ1-3GalNAc (T-抗原)、α- GalNAc (Tn-抗原)と非常にブロードであり、PNAはGalβ1-3GalNAc (T-抗原) に対して高い結合特異性を持っているにも関わらず、神経膠芽腫を有意に識別できていないことから、ブログ著者は、彼らの結論には問題があると考えています。

レクチンマイクロアレイと機械学習を組み合わせるのが流行りなのか

Laboratory for Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Chinaらのグループは、病態の早期発見に対する有効性を強調しながら、血中の糖タンパク質の糖鎖プロファイルをレクチンマイクロアレイに機械学習を組み合わせて評価する方法を説明しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38698681/

近年、中国からの論文が急増しており、論文検索でも日本の論文が見つかる確率はずいぶん下がってしまいました。
本論文では、非アルコール性脂肪性肝疾患の早期発見の為に、血中糖タンパク質の糖鎖プロファイルをマーカーとし、レクチンマイクロアレイに機械学習を組み合わせた方法が提唱されています。

しかしながら、この手の手法は、6年ほど前に既に我々の手によって開発されており、対象は違いますが、その優れた有効性が実証されています。
下記の例では、細胞が培地中に分泌する糖タンパク質に対してレクチンマイクロアレイとDeep Learningを用いることで対象とする細胞の特徴評価を高精度に行うことが出来ることが実証されています。
レクチンマイクロアレイとDeep Learningを組み合わせる

レクチンマイクロアレイとAIを組み合わせて、N-型糖鎖の詳細構造解析を行う

Department of Bioengineering, University of California, San Diego, La Jolla, CA 92093, USAらのグループは、レクチンとAIを用いたアプローチにより、N型糖鎖の構造を予測し、レクチン結合パターンに基づいて精製タンパク質中のN型糖鎖の相対存在量を決定する方法について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.03.27.587044v1

この方法は、評価する系が限られている場合にはそこそこ使えますが、汎用的にアプライするには問題が多いです。

類似の方法は、Mxで5年前にDeep Learningをコア技術として使用する”SA/DL Easy”と名付けられたソフトとして作成済みで、これを使うと同じようなことはすぐにできます。
問題なのは教師データを作るというか、構造がきちんと同定された発現糖鎖構造を多数用意し、糖鎖プロファイルを取得するという地味な作業にあります。
https://www.emukk.com/SADL-Easy/index.html

上皮間葉転換におけるガレクチンの役割から特にがんを抜き出してみると

ガレクチンの上皮間葉転換に関するレビューが CEBICEM, Facultad de Medicina y Ciencia, Universidad San Sebastián, Santiago, Chileらのグループから出ていたので読んでみました。その中から、がんに関係している部分を抜き出してみると以下のような感じです。
https://biolres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40659-024-00490-5

胃がんでは、Gal-1 レベルの上昇は、全生存期間および無病生存期間の低下、および患者のリンパ節転移の発生率の増加と関連している。胃がん細胞株は Gal-1 を産生し、これが上皮間葉転換を促進し、これらの細胞の増殖、浸潤、転移能を増加させる。卵巣がんでは、血清サンプルで Gal-1 レベルが増加し、悪性度およびリンパ節転移と相関している。卵巣がん細胞株では、Gal-1の過剰発現は上皮間葉転換を促進し、MAPK-JNK/p38シグナル伝達経路の活性化を通じて細胞の遊走と浸潤を増加させる。胃癌および膵管腺癌腫瘍の間質細胞では、癌細胞の上皮間葉転換表現型と相関して、高レベルのGal-1が検出される。膵星細胞におけるGal-1の過剰発現は、共培養された膵臓癌細胞の上皮間葉転換を誘導し、NF-κB経路を介した細胞の増殖と浸潤を促進する。Gal-3 発現の下方制御は、異種移植結腸癌モデルにおける腫瘍増殖を減少させるが、その過剰発現は癌細胞の転移能を高める。肝細胞がんでは、Gal-3 の過剰発現は PI3K/AKT/GSK-3β/β-catenin シグナル伝達経路を介して上皮間葉転換を誘導し、転移能を促進する。乳がん、結腸がん、および前立腺がん細胞株では、外因的に添加された Gal-3 は、がんの進行に関与する高度に糖鎖修飾を受けた膜タンパク質である Trop-2 との相互作用によって上皮間葉転換を促進する。Gal-4 はヒト前立腺がん組織で発現レベルが転移および患者の生存率低下と相関している。Gal-8 はヒトの組織や癌腫で広く発現しているガレクチンであり、さまざまな種類の癌における予後不良と関連付けられている。Gal-8 は、免疫調節サイトカインの産生を調節することでがんの進行と転移に寄与し、それによって転移部位へのがん細胞の遊走と浸潤を促進する。

つまりいろいろなところで違った種類のガレクチンががんに関与している分けですが、問題はガレクチンが関与することによる寄与の大きさだと思います。
糖鎖とレクチンは、自然免疫や先天性糖鎖形成異常症(CDG)を除けば、調整役であることが基本であります。
糖鎖とレクチンで勝負しようとした時には、これらが非常に高い寄与率で調整に関わっているような症例に絞り込む必要がありそうに思います。
如何でしょうか??

α2,3-シアリル化がメラノーマの形成や増殖に基本的に重要

Department of Pathology, NYU Grossman School of Medicine, New York, USAらのグループは、メラノーマの糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.03.08.584072v1.full.pdf

レクチンマイクロアレイを使用して、メラノーマでは母斑と比較してα1,2フコースが減少していることが示されています。
興味深いことに、コア・フコースは母斑では高く、メラノーマでは低下しているのですが、その後転移性メラノーマに変化すると逆に増加するようです。
また、母斑と比較して、メラノーマでは、α2,3-シアリル化が顕著に増加していました。

KRAS遺伝子変異を伴う膵管腺癌における糖鎖修飾変化について

筑波大学医学部らのグループは、KRAS遺伝子変異を伴う膵管腺癌の糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10963106/

KRAS遺伝子変異のある膵管腺癌では、フコシル化とマンノシル化が昂進していることが示されました。
KRAS変異体で反応が強くなったレクチンには、フコース結合レクチン (AAL、rAAL、AOL、rAOL、rRSIIL、UEAI) およびマンノース結合レクチン (rRSL、rBC2LCA、rPAIIL、NPA) が含まれていました。