新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)における交差反応血清とメモリーB細胞の反応性について

Scripps Research Instituteのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と季節性のコロナウイルス(HCoVs)の間に存在する交差反応血清とメモリーB細胞の特徴について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-23074-3

36名のCOVID-19回復期血清は、SARS-CoV-2 Spikeに強い反応性を示し、SARS-CoV-1に対してはそこそこの、MARS-CoVに対しては弱い反応性を示しました。また、HCoVsとも強い交差反応性を示しました。特にβ-コロナウイルスであるHCoV-HKU1 と HCoV-OC43に対しては強い交差反応性を示し、α-コロナウイルスであるHCoV-NL63に対しては一番弱い交差反応を示しました。 HIV感染者ではありますがそれ以外は健常な36名のSARS-CoV-2パンデミック以前に採取された血清は、SARS-CoV-2/SARS-CoV-1 や MERS-CoV に対してはほとんど反応性を示さず、HCoVsに対しては強い反応性を示しました(下図を参照)。

このSARS-CoV-2パンデミック以前のコホートのサンプルでは、HCoVsの感染で生じるSARS-CoV-2 Spikeに対する反応性を有する抗体は認められませんでしたが、 最近の研究では、子供や青年期の人々からパンデミック以前に得られ血清でも、ある割合でSARS-CoV-2 Spikeに反応性を示す抗体が存在することが報告されています(下記の研究論文を参照のこと)。
Preexisting immunity to SARS-CoV-2 before the pandemic

SARS-CoV-2/HKU1-CoV に交差反応性を示した抗体は、SARS-CoV-2のS1ドメインにはエピトープを持たず、より構造が保存されているS2ドメインにエピトープを持つことが示唆されました。

また非常に興味深いことに、SARS-CoV-2に感染するとHCoV-HKU1 Spikeに対する抗体力価が上昇することが分かりました(他のHCoVsに対してはそれほどでもないようです)。このことは、SARS-CoV-2の感染が、HCoV-HKU1 Spikeに特異的なメモリーB-細胞の活性を高めたことを意味します。