育種の新しい視点:SynComと呼ばれるコア細菌種の利用

古典的な育種法に転換期が訪れようとしています。大きな流れの一つは特定の標的DNA配列のみを変更することができるゲノム編集を使った育種法です。これにより育種にかかる期間を従来法に比べて大きく短縮化することができます。しかし、更に大きなうねりは、植物の形質を改善するために根圏細菌を積極的に使用しようとする考え方です。この方法の大きなメリットは、植物は元の遺伝子型を維持しており、遺伝子の組み換えやゲノム編集を行った製品に比べれば、特定の安全性評価を必要としないということにあります。

根圏細菌と植物の共生関係については、既に多くのブログ記事を書いていることもあり(即ち、多くの論文が存在するということなのですが)、その重要性について、改めて本ブログで強調することはしません。しかし、その方法論として、SynComという言葉が使われだしていることを本ブログでは強調しておきたいと思います。SynCom というのは、根圏細菌叢の全体的な組成に関する蓄積データの解析を通じて、根圏細菌叢の構造に大きく影響を与える可能性が最も高いと考えられる「コアとなる選別された数種の細菌種の組合せ組成」のことを指します。

実際の農業における SynCom 応用の有効性はテストされていますが、しばしば一貫性がないようです。この失敗の主な理由は、植物に関連する根圏細菌が有益な効果を期待通りに発揮できていないからです。この問題を解決するには、宿主植物の遺伝子型と根からの分泌物、生育環境との細菌種の適合性、在来の土壌細菌との空間的競合などを考えなければなりません。自然発生的な細菌集団とのSynComの生態的相互作用は、実際の環境では考慮しなければならない最も重要な側面のひとつだと考えられます。更に、SynComを根圏に定着させテリトリーを拡大させる為に、バイオスティミュラントを積極的に利用するという事も考えられるでしょう。

マイクロバイオームセンサーとバイオスティミュラントは、今後益々ホットな話題になっていくはずです。

参考)https://www.cell.com/trends/plant-science/fulltext/S1360-1385(22)00156-X