膵管腺癌におけるシアル酸の発現とSiglec-7, Siglec-9を介しての免疫反応抑制

Amsterdam UMCらのグループは、膵管腺癌で発生する異常な糖鎖修飾、とりわけシアル酸修飾に着目し、膵管腺癌の免疫反応の抑制メカニズムについて研究しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-21550-4.pdf

膵管腺癌の周辺には、線維性間質細胞と免疫反応抑制的な骨髄系細胞群(樹状細胞、マクロファージなど)が存在しています(TMEと呼ばれる)。膵管腺癌で発生する糖鎖修飾異常については、Syalyl LewisA, Sialyl LewisX, O型糖鎖の刈込、多分岐N型糖鎖とフコース修飾らの発現が上昇し、癌の増殖や浸潤と相関関係があることは既に指摘されています。しかしながら、これらの糖鎖修飾の変化と免疫細胞とのリンクについては不明な点が多々残っています。
著者らは、癌でしばしばみられるα2-3 Sia修飾の高発現に着目し、免疫細胞群とのリンク、および膵管腺癌の病態との関係性を深堀しています。TMAを構成する骨髄系細胞群の構成は、健常組織と膵管腺癌では大きく異なっており、膵管腺癌では、単球由来マクロファージ (moMac), 単球由来樹状細胞 (moDC)が大半を占めています。しかも、moMacがmoDCに比べて増加すると膵管腺癌の生存率が低下し、他の骨髄系細胞群は生存率と相関を示さないことが分かりました。
高発現したα2-3Siaは、骨髄系細胞群に発現しているSiglec-7, Siglec-9と結合し、CD206の発現上昇とともに、単球のmoMacへの分化を促進することが示されました。更に、この変化は、免疫抑制的に機能する免疫チェックポイント分子であるPD-L1の発現上昇や免疫抑制的なサイトカイン(IL-10)の分泌を促すことも示されました。