レクチンを発現したLactococcus lactis(グラム陽性菌)を用いた癌細胞のターゲティング

癌では、特異的な糖鎖が発現します。その状態は、もちろん癌種によって異なるのですが、一般的には、多分岐N型糖鎖の発現、O型糖鎖の昂進、O型糖鎖の刈込、末端修飾の変化(シアル酸、フコース)が特徴とされています。
University of Ljubljanaらのグループは、Lactococcus lactis(グラム陽性菌の一種)の表面に、癌の糖鎖に特異的なレクチンを人工的に発現させて、癌細胞を狙い撃ちする方法を提案しています。
https://www.mdpi.com/2076-2607/9/2/223/htm

具体的には、二種のレクチンに着目しました。ひとつはB subunit of Shiga holotoxin(Stx1B)、もう一つはClitocybe Nebularis lectin (CNL)であります。
これらレクチンの糖鎖結合特異性は、
Stx1B = Gb3
CNL = LacdiNAc
であります。

これらのレクチンの遺伝子は公開されていますので、それをプラスミドに組み込んで、Lactococcus lactisの細胞表面にこれらレクチンが発現するように改変しました。
Stx1B自体、細胞障害性を持つため、下図のように癌細胞に効果的にターゲティングし、癌細胞を狙い撃ちすることができます。
CNLについては、細胞障害性を持たない為、癌細胞へのターゲティングは可能ですが、細胞障害性はありません。
最終的には、癌細胞ターゲティング用にレクチンを発現するように改変されたバクテリアに治療薬を運ばせる、というような使い方を提案しています。

Adeno-associated virus (AAV) の組織ターゲティング性能に糖鎖が関係する?

Adeno-associated virus (AAV) を利用した遺伝子治療において、AAVのカプシドに組織ターゲティングという観点において差異が存在し、糖鎖が関係しているのではないか?という議論がかなり以前から存在します。例えば、下記のような論文がリファレンスになります。
https://www.nature.com/articles/gt201316
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(20)51734-1/fulltext
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(20)48853-2/fulltext
https://jvi.asm.org/content/80/18/9093

具体的には、AAV-1とAAV-6はシアル酸に結合しやすく、AAV-2はヘパラン硫酸に、AAV-9はGalactoseと結合しやすいと報告されています。
しかし、本当なのでしょうか?
本ブログ管理者には、カプシドタンパク質にレクチン様機能が存在する?にわかには信じられない事象ですね。

アンモニアを使って多能性幹細胞(iPSC, ESC)より分化させた肝細胞を選別する方法

肝細胞を用いた毒性試験は、薬物の毒性試験を動物実験で行う方法の代替技術として広く使用されるに至っています。毒性試験で肝細胞を使用する場合の問題点は、同じ特性を持つ肝細胞を大量に安定供給できないというところにあります。そこで、国立成育医療研究所のグループは、多能性細胞(iPSC, ESC)から肝細胞を作り、アンモニアを使って不均一な細胞集団から均一性の高い肝細胞集団をエンリッチしてくる方法を提案してます。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.03.20.999680v1.full

ESCを肝細胞に分化させた後、2日間のアンモニア処理をすることにより、アンモニア毒性に耐性を持つ均一な肝細胞を選別します。70~80%がこの段階で死滅します。生き残った肝細胞をMEF-feederの上で培養し、増殖させます。このようにして選別された肝細胞は、190日間で30倍ほどに増殖します。アンモニア毒性の詳細なメカニズムは分かっていませんが、アンモニアイオンがカリウムイオンと競合し、最終的に細胞膜内外のpH変化で死に至ると考えられます。アンモニア選別された肝細胞は、ALB, AFP, CYP3A4, CPS1, and OTCらの遺伝子が高発現しており、ALBとAFPは培養日数とともに減少していきます。CPS1, OTCは、アンモニアの代謝にかかわる遺伝子であります。また、CYP3A4は、不要な生体異物を代謝する酵素の一つです。
同様なことは、iPSCから作った肝細胞でも言えます。

iPSC, ESCより分化させた細胞は、ESTEM-HE 培地 (GlycoTechnica, Ltd) にて、培養されました。

 

新しい不死化肝細胞株、HepaMN、の樹立とその特性

肝細胞は、in vitroでの医薬品の毒性検査で欠かせない細胞です。HepG2, Huh7, THLE-2, PLC-PRF-5, and AML-12といった肝細胞株が利用されています。国立成育医療研究センターらのグループは、胆道閉鎖症を発症した肝細胞からHepaMNと命名された新しい不死化肝細胞株を樹立しました。不死化は、CDK4, cyclin D1, and TERTの遺伝子導入により行われました。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-73992-3

HepaMN株の特徴について:
非形質転換肝細胞から樹立されており正常な肝機能と二倍体を持つ
HepaRGと同レベルのアルブミン遺伝子の発現を示す
肝細胞の細胞形態を示す
安定したシトクロムP450 3A4 (CYP3A4) を誘導し、正常な代謝作用を示す
効率よく増殖し、非常に長いパッセージでも安定である
結果として、毒性検査に新しい有用な肝細胞株を提供できたとしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

HepaMN細胞の培養には、EMUKK-15が推奨されます。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)を利用したワクチンの開発

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する先行するファイザーやモデルナのワクチンはmRNAタイプですが、下記のグループは、 adeno-associated viral (AAV)を利用したワクチンの試作評価を進めています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.05.422952v3.full.pdf

AAVを利用した遺伝子治療薬は、安全性が高い方法として認識されており、 遺伝子治療薬として、既に、Glybera, Luxturna, ZolgensmaらがFDAやEMAで承認されています。
二種類のAAVを利用したワクチンが試作されています。AAVCOVID-19-1(AC1)は、全長Sタンパク質がエンコードされており、感染した細胞の細胞膜上に抗原となるSタンパク質が発現します。もうひとつのAAVCOVID-19-3(AC3)は、Sタンパク質の一部をエンコードしており、抗原は分泌タンパク質の形態をとります。

 

 

 

 

評価は、マウスとサルで行われており、1回のドーズで5カ月間ほど免疫反応が持続したとのことです。保存も室温で1か月は問題がなく、AAVワクチンの量産については、方法論が確立しているので問題ないとのことです。なお、効果としては、AC1の方がAC3より高そうです。

しかし、ブログ管理人的には、抗原となる遺伝子が細胞に組み込まれてしまうことに一抹の不安を覚えますが、どうなのでしょうか?

英国および南アフリカでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異がワクチンに及ぼす影響

英国および南アフリカでの感染爆発の背後には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異が関係していると指摘されています。数多くの変異が発生しているのですが、これらに共通する変異は、N501Yであることも既に示されています。
University of Texas Medical Branch, Galveston TXのグループは、この変異がファイザーのワクチンであるTozinameran(BNT162b2, a nucleoside modified RNA vaccine)の効果に如何なる影響を与えるかについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7805448/

N501の遺伝的バックグラウンドであるY501との比較実験を、ワクチンを投与後、2週間及び4週間経過後の20人の血清を用いて、N501とY501ウイルスに対する中和抗体力価を測定することで実施しました。結果として、ほぼ同一の力価を得たとのことです。

米国NISTの reference mAb(humanized IgG Type1)の糖鎖構造評価

米国NISTは、reference mAbとしてヒト化IgG Type1 mAbを提供しています。このmAbの製造には、NS0細胞が使われています。同細胞は、生物医学研究や治療用タンパク質の生産で商業的に使用されている非分泌型マウス骨髄腫に由来するモデル細胞株であります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31591262/

世界73機関で実施された103件の評価結果を包括して、糖鎖付加の状態を報告しています。IgG Type1のreference mAbの糖鎖修飾情報として役に立ちそうです。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)に対するワクチン投与の優先順位について:やはり60歳オーバーを優先すべきか

University of Colorado Boulderらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)に対するワクチン投与の優先順位についてシュミレーションを行いました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7743091/

5つの年齢群のワクチン投与モデルを作り、ワクチンの人口に対する投与スピード(0.05%~1%/day)、感染率(1.15、1.5)、ワクチンの有効性(90%)、更にはワクチンの有効性が60歳以上で年齢と共に低下(60歳=90% -> 80歳=50%へ低下)する場合らを想定し、シュミレーションをしています。
結果は、条件で変化するのですが、60歳以上を優先する場合と、20歳から59歳を優先する場合が、最良の選択として入れ替わります。しかし、前提条件が実情で常に変化することから、オーバーオールに見ると、60歳以上を優先する方がベターな選択となるでしょう。

Deep Learning(深層学習)とレクチンマイクロアレイを組み合わせた細胞の超高精度判別法の実証

国立成育医療研究所のグループは、レクチンマイクロアレイの糖鎖プロファイリングデータにDeep Learning(深層学習)を組み合わせることで、細胞の違いを超高精度で判別できることを実証しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352320420300742?via%3Dihub

レクチンマイクロアレイには、GlycoTechnicaのLecChip Ver1.0が使用されています。同レクチンマイクロアレイには厳選された45種類の天然型レクチンが搭載されており、2007年に上市以降、レクチンアレイのデファクトスタンダートとして世界中で広く使用されています。
Deep Learningは、ご存知のようにAIの一手法として色々な分野で応用が進んでおり、本研究ではGoogleのTensorFlowをバックエンドとし、Kerasをラッパーソフトとして使用しています。Deep Leaning の層構成は、入力層が45(レクチンの個数と同じ)、出力層が5(5種の細胞の判別を行うため)であり、隠れ層は1から5層であります。評価した細胞種は5種(Pluripotent stem cell, Mesenchymal stromal cell, Endometrial and ovarian cancer cell, Cervical cancer cell, Endometrial cell)であり、合計1,577サンプルを評価に用いています。
得られた結果は下記のように驚異的であり、総合97.4%という高い判別能力を示しています。

 

 

なお、本論文で用いられているDeep Learningは、Mxより”SA/DL Easy”というソフト名にて販売されています。本ソフトは、Deep Learningを使用するに際し、Pythonなど一切のプログラミング言語に関する知識を必要とせず、一次元配列のデータセット(上記論文で使用されているレクチンマイクロアレイの糖鎖プロファイリングデータ等)を入力として、マウスをクリックするだけで、Neural Networkを構築し、Deep Learningを走らせることが出来るユーザーフレンドリーなソフトとなっています。
本ソフトについてご興味がありましたら、Mxへお問い合わせをお願い致します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源について、米国務省がFACT Sheetを公開

本ブログでは、2020年12月15日、[The 2nd Yan report」を引用する形で、SARS-CoV-2は人工的な産物である可能性が高いとする記事をアップしています。

2021年1月15日、米国務省から、Activity at the Wuhan Institute of Virology、と題するFACT Sheetが公開されました。
https://www.state.gov/fact-sheet-activity-at-the-wuhan-institute-of-virology/

この記事の中において、米国務省は、SARS-CoV-2の起源がWuhan Institute of Virology (WIV)であるという明言は避けているのですが、WIVにおける三つのFACTsを次のように示しています。

  1. 2019年秋に、WIVでCOVID-19と思しき患者(研究者)が出ていた
  2. 2016年よりRatG13(SARS-CoV-2に96.2%類似)を含むコウモリのコロナウイルスの研究をWIVで行っていた
  3. 極秘に中国の生物武器研究がWIVで行われていた

Powered by WordPress |Copyright © 2020 Emukk. All rights reserved