新型コロナウイルス(COVID-19)の状態は、SARS-CoV-2のタンパク質カクテル(S, N, P-タンパク質)で模倣できる

La Paz University Hospital, Spainのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の症状は、SARS-CoV-2のタンパク質カクテルで完全に模倣できるとし、それを踏まえて治療法を提案しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33283062/

新型コロナウイルスの患者においては、COVID-19の初期においては、炎症とサイトカインストームが誘発され、IL-1β, IL-6, TNF-αらが高発現していることが知られています。この段階は、単球やマクロファージの過剰な活性化で説明できます。COVID-19の後期においては、適応免疫が主役に躍り出てきますし、重度の患者では、リンパ球が非常に減少していることが特徴です。

健常者から取得した血球を、SARS-CoV-2のS-タンパク質、N-タンパク質及びP-タンパク質のカクテルでインキュベートすると、COVID-19の状態を模倣した表現型を作ることができます。例えば、単球においては、抗原提示のシグナルパスであるHLA-DRが減少し、免疫チェックポイントのリガンドであるPD-L1が高発現します。
これらのことから、免疫チェックポイント分子に対する阻害剤(抗体)を用いることが有効な治療につながるのではないか?と示唆され、実際にcamrelizumab (PD-1抗体)を用いた治験が開始されているようです。

進展を期待しましょう。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出におけるRT-PCRのサンプル前処理の簡略化:熱処理のみ

新型コロナウイルスの感染有無の検査には、RT-PCRがGold Standardとなっています。サンプルを鼻腔らより綿棒で取得し、前処理で核酸を抽出してからRT-PCRを実施するのですが、世界的な検査数の増加で試薬や消耗品が不足してきています。
この前処理工程を簡素化できないか、について研究した報告例があります。
https://journals.plos.org/plosone/article/authors?id=10.1371/journal.pone.0243266

結果として、20uL~40uLのサンプルを95℃~98℃にて、2~20分加熱処理するだけで、RT-PCRの良好な結果を得ることができたとのことです。
使用されたRT-PCRキットは、
ABI TaqMan fast Virus 1-Step RT-qPCR kit
Meridian Bioscience Fast 1-Step RT-qPCR kit
です。
但し、UTM Viral Transport COPANを使用してサンプルを回収した場合には、この方法では結果が出なかったということです。
試薬の組成が開示されていないこともあり原因は不明ですが、RT-PCR Kitに使われている試薬の組み合わせによっては、熱処理のみという簡略化前処理は使えない場合があるようです。

ディスポーザブルな新型コロナウイルス(COVID-19)用qPCRチップ

ディスポーザブルな新型コロナウイルス(COVID-19)用qPCRチップの試作例が、Imperial College Londonのグループから報告されています。もちろん、このチップは、他の感染症にも使えます。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19911-6

チップは、非常に簡単な構造で、Si基板の上に作り込まれています(チップのサイズは1cm角程度)。Si 4インチ基板で作成した場合のコストですが、約40円/チップということなので、確かにディスポーザブル可能でしょう。
チップの温調はSiに電流を流すことで行われ、検出はmethylene blue(MB)を酸化還元材として使用し電気化学的に行い、MBはDNAのインターカレーターにもなるので、DNAが増幅されると電流が変化することを利用しています。

新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化機構の解明とその治療薬開発に向けてクラウドファンディング

自分もこの新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化機構の解明とその治療薬開発に参画しています。
糖鎖とレクチンに関する経験や知恵を駆使して、研究開発を推進します。本活動に、宜しくご支援お願い申し上げます。

 

https://readyfor.jp/projects/glycotechnica_covid19research/announcements/150515

新型コロナウイルス(COVID-19:SARS-CoV-2)の検出にCRISPR/Cas12aを使う:Mn2+を使った増感効果

CRISPR/Cas9が2020年のノーベル化学賞に輝いたのは一週間ほど前のことです。
この手法の派生技術を新型コロナウイルスの検査に使った論文が幾つか見受けられます。下記の論文は、CRISPR/Cas12aを用いた検出について、Mn2+を用いて更に13倍高感度化できたと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7536916/#advs2020-bib-0005

手法論を簡単に書き出しますと、下記のようになります。

  • 検体からRNAサンプルを取得します。
  • これをDNAに逆転写して、PCRで増幅します(dsDNAを作る)。
  • 新型コロナウイルスのEタンパク質に特異的なRNA配列を使ってクリスパーRNA(crRNA)を予め設計しておきます。
  • これとCas12a酵素を同時に加えると、新型コロナウイルス特異的な配列がサンプルのdsDNAにあると該当箇所が切断されます。
  • これによってPCR過程で組み込まれていた蛍光プローブとクエンチャーの距離的な相互作用が無くなるので、励起光を当てれば蛍光がでる。

この蛍光は、検出器でももちろん読み取りますが、目でも確認できるという訳です。
この系にMn2+を加えると13倍高感度化したということです。

RT-PCRを用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出において、他のコロナウイルスとの交差反応性を無くする方法について

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染疑いの検査には、ご存知のようにRT-PCRが使用されています。検査においては、感度と特異度が非常に大切なのですが、一般に広く実施されているRT-PCRがSARS-CoV-2に対して交差反応性の観点からどれだけ高い特異性を持っているのかについては、多少とも疑問があります。そこで、感度を犠牲にせず、SARS-CoV-2検出の特異度を改善するための方法論が下記グループから報告されています。
https://www.mdpi.com/2075-4418/10/10/775

方法論としては、(1)SRAS-CoVの構造タンパク質をコーディングする部位の内、アクセサリータンパク質とエンベローププロテインをコーディングする(ORF3ab-E)の領域とカプシドタンパク質をコーディングする(N)領域の二つをターゲットとしてPCRのプライマーを設計し、(2)N領域をターゲットとして設計した人工的なペプチド核酸(PAN)をPCRのブロッカーとして併用する方法です。

ペプチド核酸とは、核酸の糖-リン酸骨格をN-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格に置き換え、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた化合物であり、標的DNA・RNAに対する結合親和性が1000倍近くも増加します。従って、プライマーとしては働かず、PCR反応の阻害剤として機能します。

この結果として、他のコロナウイルスやインフルエンザウイルスらとの交差反応性が消失し、SARS-CoV-2の検出率は、ORF3ab-Eに対して100%、PNA-Nに対して82.6%となったとのことです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療薬としての感染阻害剤について:フーリン、II型膜貫通型セリンプロテアーゼらの阻害剤は有効か?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSタンパク質は、感染受容体に結合するS1部位と細胞膜融合に関与するS2部位に大きく分かれます。このS1部位とS2部位の境界にはフーリン切断部位(furin cleavage site)が存在し、S2部位内にはII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(transmembrane protease serine 2:TMPRSS2)のターゲット部位も存在します。これらの部位に対する阻害剤を用いることで、新型コロナウイルスの感染を押さえることができるのではないか、という研究成果が報告されています。
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2211-1247(20)31243-2

decanoyl-RVKR-chloromethylketone(CMK):furin阻害剤、camostat:TMPRSS2阻害剤、それに加えてRNAの複製を阻害するnaphthofluoresceinらが検討されました。実験にはVeroE6細胞が使用されています。

 

 

 

 

 

薬効と毒性を検討した結果、50%阻害濃度 (IC50) は、0.057 μM: CMK、9.025 μM: naphthofluorescein、そして 0.025 μM: camostatとなりました。 50% 細胞毒性濃度 (CC50) は、318.2 μM: CMK、57.44 μM: naphthofluorescein、そして2,000 μM: camostatでした。結果としての選択指数は、5,567: CMK、6.36: naphthofluorescein、そして 81,004: camostatとなっています。

CMKとcamostatはウイルスの初期感染を阻止し、naphthofluoresceinはウイルスの複製を阻止する、という違いがあることに注意しましょう。今後の診断薬開発のリード化合物として更なる検討を期待します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を押さえるには、パイナップルの摂取が良い

Univ. of Nebraska Medical Centerのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を抑制するために、パイナップルから抽出されるブロメライン(タンパク質分解酵素の中のシステインプロテアーゼに分類される酵素)が有効だとする研究成果を報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.09.16.297366v1

 

 

 

 

 

ブロメライン(bromelain)は、SARS-CoV-2の感染受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2), II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)およびSARS-CoV-2のS-タンパク質をターゲットとして作用し、 SAS-CoV-2の感染を抑制します。ブロメラインは、消化器官から良く吸収され、体内でも生化学的な活性を維持することから、ブロメラインが豊富なパイナップルを摂取することが新型コロナウイルスの感染抑止に有効であろうとしています。

 

膵管腺癌のオルガノイドを用いたバイオマーカー探索について

Harvard Medical Schoolのグループは、膵管腺癌のバイオマーカーとして、そのオルガノイドを用いた研究から候補となるバイオマーカーを報告しています。

https://insight.jci.org/articles/view/135544

(1) 糖鎖の観点から:High mannoseおよびLewis Xエピトープ構造が膵管腺癌で増加する。

(2) 細胞外小胞(EV)タンパク質の観点から:ANXA11(アネキシンA11:小胞体の輸送小胞COPIIの出芽領域に動員されるカルシウム依存性リン脂質結合タンパク質)が増加する。

更なる研究の進展を期待しましょう。

 

Deep Learningによる胸部X線撮影画像の診断で新型コロナウイルス(COVID-19)の診断精度が大きく向上した

新型コロナウイルス(COVID-19)の診断として胸部のレントゲンやCTが常用されます。Univ. of Oklahomaのグループは、胸部のX線撮影画像からCOVID-19由来の肺炎かどうかを判別するに際し、Deep Learningの手法を取り入れることで、その診断精度を上げることに成功しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S138650562030959X?via%3Dihub

Deep Learningは、Convolutional Neural Networkを6層使用し、入力する胸部X線撮影画像を224 x 224 x 3のサイズとし、Convolutionは3 x 3としています。入力画像の x3はR, G, Bの3色であることを示します。X線撮影画像は、白黒のグレーですので、R, G, Bの3色は、下図に示すような画像の前処理で作っています。下図において、(Ip)は横隔膜を除去した画像、 (Ieq)は画像の強度ヒストグラムを用いてコントラストを調整する画像処理方法を加えたもの、そして (Ib)は、更にバイラテラルフィルタを加えたものであり、この3つの (Ip), (Ib), (Ieq) を用いてR, G, B画像をシミュレートしています。

 

 

 

 

 

Deep Learningの結果は、
X線撮影画像をそのまま用いたsimple modelで、精度として88%が得られ、上記した画像の前処理を加えると精度は94.5%に向上したとのことです。

Deep Learningを用いた診断が益々医療の現場で用いられる時代になるのではないでしょうか?