SARS-CoV-2の変異株(B.1.617.1 = カッパー株、B.1.617.2 =デルタ株)に対するファイザーとアストラゼネカのワクチンの効果について

University of Oxford, Oxford, UKらのグループは、SARS-CoV-2の変異株(B.1.617.1 = カッパー株、B.1.617.2 =デルタ株)に対するファイザーとアストラゼネカのワクチンの効果について述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8218332/

カッパー株 = B.1.617.1 は、RBDにおける二つの変異(L452R と E484Q)によって特徴付けられ、デルタ株 = B.1.617.2 は、RBDにおけつ二つの変異(L452R と T478K)によって特徴付けられます。L452Rという変異は、これら二つに共通です。

著者らは、BNT162b2 Pfizer-BioNTech あるいは ChAdOx1 nCoV-19 Oxford-AstraZenecaのワクチンを接種したヒトの血清の B.1.617.1 や B.1.617.2 に対する中和活性を評価しました。

B.1.617.1 に対する幾何平均の中和活性は、Pfizer-BioNTechの場合で、Victoria株と比較して 2.7-倍減少し(p < 0.0001)、Oxford-AstraZenecaの場合は、2.6-倍減少しました(p < 0.0001)。Victoria株とは、武漢ウイルス系統であり、オーストラリアでアイソレートした株です。

B.1.617.2 に対する幾何平均の中和活性は、Pfizer-BioNTechの場合で、Victoria株と比較して 2.5-倍減少し(p < 0.0001)、Oxford-AstraZenecaの場合は、4.3-倍減少しました(p < 0.0001)。

Oxford-AstraZeneca や Pfizer-BioNTechのワクチンで得られる中和活性はこのように減少していますが、これらの変異株がワクチンで得られる中和活性を完全に亡き者にしてしまうというエビデンスはありませんので、その点には注意しましょう。

COVID-19を発症するとスフィンゴシンが減少する

Medical University of South Carolina, Charleston, USAらのグループは、血中のスフィンゴシンの減少が、COVID-19の無症状患者とそうでないヒトを早期に見分けるための高感度で特異的なマーカーになり得ると報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-93857-7

抗体が陽性 (n = 134) と陰性 (n = 130)の比較において、スフィンゴシンのレベルが陽性者で少しですが有意に(p < 0.05)上昇していました(陽性者=28.96 vs. 陰性者=23.25 pmol/5 × 10−5 L serum)。 そして更に、COVID-19 患者においては、血中のスフィンゴシンのレベルが無症状者に比較して、15倍ほど減少していました(無症状者=28.96、COVID-19患者=1.88 pmol/5 × 10−5 L serum)。下図においては、Sphingosine (Sph)、dihydro-sphingosine (dhSph)、sphingosine 1-phosphate (Sph-1p)と略されている。

ROC解析の結果は、スフィンゴシンの閾値を 8.2 pmol/5 × 10−5 L と設定した場合に、感度 = 98.47%(95% CI 94.60–99.73%)、特異度 = 98.51%(95% CI 94.72–99.73%)が得られ、SARS-CoV-2抗体は陽性ではあるものの無症状な人とCOVID-19患者を見分けるに高感度で特異度の高いマーカーであることが分かりました。 しかしながら、スフィンゴシンとdihydro-スフィンゴシンは、重症度の見分けはできませんでした。

生化学的なバイオマーカーである lactate dehydrogenase(LDH)のレベルが、COVID-19患者の重症者で上昇しているという事が知られています。ここで発見されたスフィンゴシンのレベルの減少は重症度と相関していませんが、これらを合わせると、スフィンゴシンのレベルが高いとCOVID-19の症状を抑えることが出来、スフィンゴシンのレベルが減少すると炎症が助長される場合があると言えそうです。

SARS-CoV-2の感染によってヒト気管支上皮細胞のACE2の発現が上昇し感染を加速する

Second Military Medical University, Shanghai, Chinaらのグループは、ヒトの気管支上皮細胞で、SARS-CoV-2感染がACE2の発現をエンハンスすることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8254647/

SARS-CoV-2の感染受容体であるACE2が、ヒトの気管支上皮細胞(BASE-2B細胞)にSARS-CoV-2 Spikeタンパク質をトランスフェクトすることで、大きく発現上昇することが見つかりました。下図において、BASE-2B細胞は、空のベクター或いはSARS-CoV-2 Spikeを発現するようにしたベクターでトランスフェクトされており、long ACE2、dACE2、total ACE2をqRT-PCRで検出したところ、SARS-CoV-2 Spike有で大きく発現上昇しているのがわかります。また、long ACE2 と dACE2 を、C-terminal anti-ACE2 抗体でWestern blotしたものも示されており、同様にSARS-CoV-2 Spike有で発現が上昇していることがわかります(β-actin は、コントロールとして使われています)。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質は、IFN-stimulated genes (ISGs)の発現を促しますので、Spikeタンパク質がJAK-STATシグナリングを活性化させることによってACE2の発現を誘導できるのかどうか?を確認しています。そこで、Spikeを過剰に発現するようにしたBASE-2B細胞を用いて、リン酸化と、STAT1 と STAT2 活性化を評価したところ、確かにSARS-CoV-2 Spikeの影響で、STAT1とSTAT2のリン酸化が加速され、これらが活性化されていることが分かりました。更に、STAT1の活性化を阻害するFludarabine を加えたところ、BEAS-2B細胞におけるSARS-CoV-2 Spikeによって誘起されたACE2の発現が有意に低下しました。これらのことを総合すると、SARS-CoV-2 SpikeがIFNエフェクターであるJAK-STATシグナリングを活性化することによってlong ACE2の発現を誘起しているということが明らかであります。

SARS-CoV-2 S2のエピトープがコロナウイルスに対する交差中和抗体を誘発できる免疫原の青写真となりうる

Fred Hutchinson Cancer Research Center, Seattle, USAらのグループは、SARS-CoV-2 S2 に存在するエピトープが、コロナウイルスに対する交差中和抗体を誘発できる免疫原になり得ると報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34237283/

4名のCOVID-19回復期患者から得た198種類の抗体から、14種の中和抗体を精製しました。その内、1つはNTDをターゲット、1つはS2のエピトープを認識し、11種はRBDに結合しました。それらの IC50は、 0.007 μg/ml から 15.1 μg/mlに分布していました。

S2 サブユニットには、少なくとも1つのエピトープが、免疫原性は弱いものの、5つのヒトコロナウイルスの4つに存在しています(SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、OC43、HKU1)。そのようなエピトープは、有望な交差抗体として見つかったCV3-25に認識されており、コロナウイルスに対する広範囲な中和抗体を開発する場合の貴重な免疫原になり得ると結論されました。因みに、CV3-25のSARS-CoV-2に対するIC50は、0.34 μg/mlでありました。

COVID-19回復期患者から得た抗体のSARS-CoV-2変異株に対する抵抗性の評価

熊本大学らのグループは、COVID-19回復期患者由来でSARS-CoV-2 RBDに強いアフィニティーを持つIgGは、B.1.351やP.1変異株に対しても効果的な中和活性を有すると述べています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34237284/

1102種類のIgGを、2020年3月にSARS-CoV-2に感染したCOVID-19回復期患者=2名からRecombinant IgGとして得ることが出来ました。この内88種がSARS-CoV-2 Spikeに結合し、その内の10%がRBDに結合しました。最終的に中和活性が確認されたIgGは、5種類となりました。

得られた5種類のIgGですが、ひとつはNTDをターゲットとしており(= 6-74)、四つのIgGは、RBDをターゲットとしていました(= 3-5、8-92、9-105、10-121)。

これらmAbの中和活性を、WT(614G変異を含む)およびB.1.1.7、B.1.351、P.1、and mink cluster 5という変異株に対して測定しています。ほとんどのmAbは、B.1.1.7、mink cluster 5変異株に対して同程度の強さで中和活性を示しました。B.1.1.7は、6-74 (3.3-倍) と 3-5 (6.0-倍)に対しては抵抗性を示しました。NTDをターゲットとする 6-74は、mink cluster 5に対しては効果的ではありません。中和活性は、B.1.351やP.1に対しては低下しており、P.1 は、6-74 や 3-5 では中和活性が顕著に低下していました(他のmAbに比べて、2.6- から 8.0-倍)。 B.1.351 は、9-105 や 10-121で中和されましたが、6-74、3-5、8-92では中和されません。9-105 と 10-121 は、B.1.351 に対しては中和活性が低下しました(それぞれ、6.0-倍 、19-倍)。

評価した変異株は、6-74に対しては抵抗性を示し、これは恐らく、NTDに発生している変異の影響だと思われます。RBDをターゲットとするmAbの中和活性は、P.1 と B.1.351に対して減少しており、K417N/T、E484K、N501Y 変異がクリティカルなのだと考えられます。個々の変異が及ぼす影響を解析すると、K417N と K417T は、3-5に対してはクリティカルであり、8-92に対して少し影響を与えています。E484K と N501Yは、RBDをターゲットとするmAbに対しては影響を与えていません。 しかしながら、K417N、E484K、N501Yのコンビネーションでは、3-5、8-92、10-121の中和活性が低下します。興味深いのは、9-105 は、K417N の影響を受けますが、これら3個の変異の組み合わせに対しては、効果的な中和活性をしましました。今後とも発生する変異に対する影響を調査していくことは非常に重要です。

膣内バクテリアが持つレクチン群の存在割合とそのフォールディング分子構造

University Grenoble Alpes, Franceらのグループがまとめ上げた膣内バクテリアが持つレクチン群の存在割合とそのフォールディング分子構造をご紹介します、面白い情報だと思います。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8206207/

膣内バクテリアのレクチンフォールドの存在割合は、UniLectin3D databaseの情報が使われています。2278種がこのデータベースには登録されており、合計35種類のフォールドが同定されました。上位6種類の存在割合とそのフォールディング構造は下記と下図のようです。

β-Sandwich/pili and adhesins fold=22.4%,
α/β OB fold=16.9%,
β-Trefoil fold=14.5%,
β-Sandwich/2 calcium lectin fold=13.4%,
β-Propeller fold=6.6%,
β-Sandwich with galactose-binding domain-like fold=6.6%,
others=19.5%

SARS-CoV-2のFurin cleavage site(PRRAR)における変異の影響について:P681HとP681R

Cornell University, USAのグループは、SARS-CoV-2に存在するfurin cleavage siteのP681R変異の影響を議論しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8259907/

ウガンダで流行したA.23.1 変異株には、次のような変異がSARS-CoV-2 Spikeに存在します(F157L、V367F、Q613H、R102I、L141F、E484K、P681R)。著者らは、P681Rの変異に着目し、Wild type(P681)と比較したところ、下図に示すように、P618R 変異は、WTに比べて、furinによるS1/S2の切断効率を大幅に上昇させることが分かりました。

今日、最も流行しているSARS-CoV-2の変異株は、B.1.1.7であります。この変異株においては、spike S1/S2 “furin cleavage site” のP681H変異が特徴であり、感染率の上昇に関係していると考えられてきました。極最近では、B.1.617.2 という新しい変異株が B.1.1.7 に取って代わって来ていますが、この変異株もP681R 変異をもっており、同様にfurin cleavage siteの切断効率のアップが感染拡大に関係していると思われます。

B.1.617変異株以前に現れたA.23.1 変異株は、前記したようにP681R 変異を含んでおり、2020年の10月にウガンダで出現したのですが、2021年の5月には消滅し、他の変異株 B.1.351、B.1.525(P681Rを持たない)や、B.1.617.2(P681Rを持つ)が席巻しています。

大局的に見てみると、このことはP681R 変異というのは、furinを介したS1/S2切断には重要なのですが、必ずしもウイルス感染力アップの主要なドライバーにはなっていないことを示唆します。

Mannose特異的なレクチンを用いてSARS-CoV-2をブロックする:SARS-CoV-2にはマメ科レクチンが適する

Université Paul Sabatier, Toulouse, Franceらのグループは、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MARS-Covに対して抗ウイルス効果を示すmannose特異的なレクチンについて議論しています。
https://www.mdpi.com/2073-4409/10/7/1619/htm

植物、菌類、藻類、バクテリアなどから抽出されたMannose特異的なレクチンは、HIV-1、HPV、herpes、HCV、Ebolaウイルスらに抗ウイルス効果を示すとういう観点から多くの研究があります。このような例として、藻類レクチンのgriffithsin、シアノバクテリア由来レクチンであるcyanovirinやmicrovirin、放線菌由来のactinohivin、各種GNA-関連のレクチン(NPA や ASAなど)に関する論文が多く存在します。多くのMannose特異的なレクチンは、ウイルスの増殖を、少なくともin vitro実験下では、阻止しますが、ウイルスエンベロープに存在するMannose型のN-型糖鎖に干渉する能力に依存しています。

SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2らのSpikeを修飾するN-型糖鎖は、high-mannoseのみでなく、しばしばシアル酸修飾を伴う複合型がメジャーである場合もあります。コロナウイルス毎にこれら糖鎖の分布には違いが存在しており、Spikeのシールディングに多様性が見られます。


図の説明: ほとんどが複合型である場合 (赤), ほとんどがhigh-mannose (緑), ほとんどがハイブリッド (マゼンタ)。これらの混合であってハイブリッドが少ない場合 (ピンク)、混合でhigh-mannoseがメジャーな場合 (薄緑)、混合でハイブリッドがメジャーな場合 (オレンジ)。SARS-CoV-2の場合には、high-mannose は基本的に3分岐であり、GlcNAc2-Man5–9の構造となっているが、その中でもメジャーな構造はGlcNAc2Man5となっている。

植物、菌類、藻類、バクテリアなどから抽出されたMannose特異的なレクチンは、それぞれに糖鎖結合性はすこしづつ異なるが故に、結果として、各種のコロナウイルスを特異的に認識するようなプローブ・パネルを形成することが可能であります。このような観点から、MERS-CoVに対しては、GNA-関連のレクチンや藻類やシアノバクテリア由来のレクチンが適しており、SARS-CoVやSARS-CoV-2に対しては、trimannoside Manα1,3Manα1,6Man coreに特異性を持つマメ科レクチンが適しています。

COVID-19回復期患者の一年間に渡るSARS-CoV-2 抗体の血清陽性率と中和活性の変化

Huazhong University of Science and Technology, Wuhan, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2感染回復期患者の一年間に渡る抗体の血清陽性率とその中和活性の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8242354/

初期のSARS-CoV-2感染回復期患者76名の162血清サンプルを用いた研究結果です。

SARS-CoV-2 Spike- と Nucleocapsid-特異的なIgM は、感染後早い時期に急速に立ち上がり(それぞれ、96.8%、54.8%)時間経過とともに急速に減衰していきます。感染1年後の時点では、それぞれの血清陽性率は、それぞれ5.3%、1.3% 迄に低下していました。しかしながら、IgGの血清陽性率は、Spike-、Nucleocapsid-特異的なIgGに対して、90.8%、88.2%と一年経過後も安定していました。

中和活性の評価結果については、一年後には57.5%の回復期患者は、検出可能なレベルの中和活性を示しませんでした。力価(1:160)を超えるようなレベルの高い中和活性を示す回復期患者の割合は感染後3~4カ月で最も高くなっていました。検出可能な中和活性を示す回復期患者(42.5%)において、殆どは(≤1:80)という弱い力価であり、少ないですが(5.5%)の回復期患者は、1:320を超えるような強い中和活性を示していました。

SARS-CoV-2感染におけるCD147の役割について

Milano University Medical School, Milano, Italyらのグループは、SARS-CoV-2の感染におけるCD147の役割についてレポートしています。
https://www.mdpi.com/2073-4409/10/6/1434

CD147 は、免疫グロブリンのスーパーファミリーに属し、色々な組織に発現しています。CD147が重要な役割を果たしていることは、HIV-1、HCV、HBV、KSHVらのウイルス感染症の研究において示されており、CD147とcyclophilin A (CyPA) との相互作用がこれらのウイルスの感染能力を左右していることがその背景にあります。昨年末には、このCD147がSARS-CoV-2の感染においても受容体として係わっているということが指摘されました。

このような背景の元、著者らは、CD147がSARS-CoV-2の感染において如何なる役割を果たしているのかについて研究しています。
CD147に対する抗体で阻害した結果は(α-CD147 Ab)、SARS-CoV-2の感染能力には影響を与えておらず、SARS-CoV-2の感染においては、CyPAとCD147の相互作用は重要でないことが示されました。

CD147 siRNA 干渉でCD147をサイレンシングさせた結果は、ACE2の発現量の低下と絡んで肺細胞へのSARS-CoV-2の感染が低下することを示しており、CD147がACE2の翻訳後修飾のレベルでACE2の発現制御に関わる能力を持って、直接的或いは間接的にCD147がSARS-CoV-2の感染において重要な役割を果たしていることが示されました。