アルツハイマー病に特有なN-型糖鎖修飾の全体像について

Department of Surgery, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, USAらのグループは、健常人、無症候性アルツハイマー、症候性アルツハイマー病患者の脳におけるN-型糖鎖修飾の全貌について報告しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(22)00241-9/fulltext

アルツハイマー病の神経病理学的特徴は、β-アミロイド (Aβ) を含む細胞外沈着物の形成と、過剰リン酸化タウによる神経内神経原線維変化の進行です。

大きな視点で、糖タンパク質の全体像を調査するために、健常人、無症候性アルツハイマー、および症候性アルツハイマーを含む30人の脳サンプルから得た糖タンパク質の定性的なN-型糖鎖修飾の分析が行われました。レクチン・アフィニティ分離と親水性相互作用クロマトグラフィー (HILIC) の組み合わせにてN-型糖鎖修飾を受けた糖タンパク質を選択的に濃縮し、LC-MS/MSによって分析をしています。 ConA、RCA、SNA、WGA、VVA、および AAL の組み合わせが、脳内のN-型糖鎖修飾を受けた糖タンパク質の濃縮に最適でありました。その結果、2,035個のユニークな糖ペプチド、580個のN-型糖鎖結合部位、および 124個の糖鎖から、合計303個の糖タンパク質が同定され、合計で 1,901個のグライコフォームが構成されました(注: ひとつの糖鎖修飾部位が、みっつの異なる糖鎖で同定された場合、それらはみっつのグライコフォームとしてカウントされます)。

最も豊富な糖鎖は 1201 ~ 1250 MW の範囲内にあり、糖鎖組成に基づいてサンプルから検出された総グライコフォームの 20% 以上となります。この分子量範囲の糖鎖の大部分は、Man5GlcNAc2 (Man5) 構造に由来します。 2 番目に頻度の高い糖鎖は、bisecting-GlcNAc とコアのフコシル化を伴うバイアンテナリー糖鎖として同定されます。他の一般的な糖鎖には、糖ペプチドのフコシル化の程度が異なるいくつかのハイマンノース、複合、およびハイブリッド N-糖鎖が組織全体で同定されました。全体的なグライコフォームに基づく分布を考慮すると、異なるサンプルグループ間で糖鎖の分子量または糖鎖の分布に統計的な差はありませんでした。

異なるサンプルグループの糖鎖修飾パターンに関するより多くの情報を得るために、糖鎖修飾部位レベルでの分析も行われました。異なる糖鎖修飾部位にわたる糖鎖修飾の集合的変化について、異なるサンプルグループ間(健常、無症候性アルツハイマー、および症候性アルツハイマー)で比較すると、健常な脳サンプルと比較して、無症候性および症候性アルツハイマーでは、ガラクトシル化、フコシル化、bisecting、および多分岐の減少が見られました。また、症候性アルツハイマーと比較して無症候性アルツハイマーでは、ガラクトシル化、フコシル化、bisecting、および多分岐型およびハイブリッド型のレベルが高くなっていました。

アルツハイマーに特有な、決定的なN-型糖鎖マーカーというのは見つかっていないようです。