有機農場と従来型の無機質肥料を多用する農場でのニンジンの根圏バクテリアや真菌の違い

University of Life Sciences in Lublin, Lublin, Polandらのグループは、有機農場と従来型の農場での根圏細菌の違いについて報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0256969

堆肥や肥料などの天然肥料が使用された有機農場(下図でE1〜E5、平均 pH=7.08、平均土壌水分量=20.12%)と、主にミネラル肥料が使用されていた従来型の農場(下図でK1〜K5、平均 pH=6.13、K4とK5が一番酸性度が高い、平均土壌水分量=14.46%、K5が一番水分量が低い)を比較対象とし、植物として人参を使用して、その根圏における代表的な違いを議論しています。

土壌バクテリアと真菌について
有機農場からのすべてのサンプルには、真菌よりも多くのバクテリアが含まれていた。
無機質肥料を大量に施用している従来型の農場は酸性度が高い傾向にあり、酸性度が高いほど(K3<K4~K5)バクテリアの存在量を遥かに超える真菌が見つかった。
中性の土壌pHがバクテリアの成長に有利であった。
菌類は酸性土壌で優勢であった。

 

 灰色はバクテリア、黄色は真菌です。

土壌酵素について
L-グルタミナーゼ、β-グルコシダーゼが有機農場で高い傾向にあった。
酸性ホスファターゼが従来型の農場で高い傾向があった。

COVID-19においてはリンパ球減少症が見られるが、何故かTIM-3 CD4+は増加している

University of Medical Sciences, Babol, Iranらのグループは、COVID-19の重症から中症の患者におけるCD4+ T 細胞のサブセットに見られる興味深い現象を報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/iid3.526

COVID-19における重症から中症の患者においては、健常者に比較して、TIM-3 が CD4+ T 細胞において顕著に過剰発現しており、CD4+ TIM-3+ CD39+ リンパ球も重症患者において健常者よりも顕著に高くなっていました。

COVID-19の重症から中症の患者においては、健常者に比べてリンパ球全体が顕著に減少し、リンパ球減少症が見られることが知られています。これは、多くのT 細胞が血管から肺組織の間質に侵入することにより、末梢血のT 細胞減少症を引き起こすからと考えられます。しかしながら、CD4+ T 細胞については、すべてのグループで大きな違いが見られるわけではなく、それと対照的に、全体的なリンパ球減少症以外に、CD8+ T 細胞がCOVID-19重症患者で健常者に比べて顕著に減少することもCOVID-19の大きな特徴です。

TIM-3 は、このような疲弊したT 細胞のマーカーの一つであり、Galectin-9 (Gal-9) がTIM-3のリガンドのひとつであります。そして、TIM-3/Gal-9 の相互作用がTh1 細胞のアポトーシスを誘導することが分かっています。一方、CD39は、細胞外アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解酵素によって細胞外アデノシンを生成する外部酵素であり、損傷した細胞は細胞外ATPを分泌し、炎症誘発性反応を引き起こすことが知られています。

何故、このようなCD4+ T 細胞のサブセットがCOVID-19で上昇するのか?については非常に興味深く、治療においては、これらT 細胞を厳密に維持することがとても大切であるように思われます。

海洋環形動物におけるR型レクチン

University of Chittagong, Bangladesh (実は、ブログ管理人も共著なのですが)のグループは、海洋環形動物が持つR型レクチン(PnL)について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8399747/

以前、著者らは、イソゴカイからGalに結合特異性を持つR型レクチン、PnLの抽出に成功していました。

R型レクチンは、トウゴマに含まれるABサブユニットからなるタンパク質毒素であるリシンB鎖に由来します。それらは通常、各サブドメインにGln-X-Trp(Q-X-W)シーケンスを持つ3葉のクローバーのようなβトレフォイル構造を持っています。どうして海洋環形動物がR型レクチンを持つのか?海洋環形動物のR型レクチンPnLはどんな機能を持つのか?については、依然として明確な回答はありません。しかし、PnLがどの部位に発現しているか?を知ることはその第一ステップになるに違いありません。

全体としてみると、PnLは、表皮、剛毛、斜筋、針状突起、神経索、および原腎管らの特定の細胞から分泌された後、細胞外の場所で発見されました。興味深いことに、Gal/GalNAcを含む糖鎖がPnLが発現している部位とほとんど同じ箇所で見つかっています。

これらが同じような場所に存在するということはブログ管理人にはとても興味深く見えます、だって植物毒素のリシンは、Gal特異的であり、明らかに外敵となる動物細胞をターゲットにしているからです。PnLは本当に何をしているのでしょう?興味は尽きません。

SARS-CoV-2を真似た新規ウイルス粒子様ワクチンが高効率で機能する

Center for Coronavirus Research, University of Minnesota, Saint Paul, USAらは、新規のSARS-CoV-2様ナノ粒子ワクチンを開発しています。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1009897

プロテインAのN末端を含むルマジンシンターゼタンパク質を用いて、ウイルス様ナノ粒子(VLP)ワクチンのナノ粒子骨格を作りました。ナノ粒子の直径は、約15nmでありました。このVLPナノ粒子にFcのC末端を含んだSARS-CoV-2 RBDを結合させ、VLPワクチンとしました。これによって、Fc部をもったSARS-CoV-2 RBDを60コピー、即ち、SARS-CoV-2 RBD 120コピーをVLPに乗せることが出来ています。

著者らは、このVLPワクチンによって、マウス実験ですが、高い力価を持つ中和抗体を誘起することが出来、2カ月間ほとんど変化なく継続したとしています。そしてまた、SARS-CoV-2変異体(アルファ、ベータ、ガンマ株)に対しても良好な力価を得ることが出来たとしています。

いろいろなワクチンが検証されることは非常に有益であろうとブログ管理人は思います。

抗ウイルス活性を示すGRFTレクチンと硫酸化多糖類であるカラギーナンを混合して使用するとSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性が大幅に強化される

The City University of New York, USAらのグループは、GRFTレクチンとカラギーナンを混合して使用することにより、其々を単独で用いる場合に比べて、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を大きく高めることが出来ることを示しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8400000/

GRFT は121個のアミノ酸配列からなるホモ二量体のレクチンであり、high mannoseに高いアフィニティ―を示します。High mannose構造は、しばしばウイルスのスパイクに存在する構造であり、HIV、HSV、HCV、ebola、コロナウイルスなどに見られるものです。GRFTは、pMの濃度でHIVをin vitroで阻害出来ることから、GRFTは、HIVの増殖を阻害する最も優れた阻害剤の一つとされています。

一方、カラギーナンは、ガラクトピラノースからなる2糖の繰り返し構造を持つ硫酸化多糖類であり、3種の構造が知られています(κ-Carrageenan (κ-CG)、ι-Carrageenan (ι-CG)、λ-Carrageenan (λ-CG))。カラギーナンも抗ウイルス活性を持つとして知られており、FDAにおいてその安全性は高いと認識されています。

GRFT、カラギーナン、およびその混合物のSARS-CoV-2に対する50%効果濃度(EC50)を下記に示します。
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GRFT, 20.6µg/mL
ι-CG, 7.5µg/mL
λ-CG, 6.1µg/mL
ι-CG + GRFT (1:5), 0.2µg/mL
λ-CG + GRFT (1:5), 0.4µg/mL
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本 in vitroでの疑ウイルスを用いた細胞感染アッセイでの結果を確認する為、今後行われるであろうin vivoでの評価結果を期待しましょう。

バシラス属 (5.SG.3) と シュードモナス属 (2.C.19) を小麦の根圏で共存させると、小麦の根の成長が促進され、塩害にも強くなった

Agricultural University of Athens, Athens, Greeceらのグループは、小麦の根圏において、バシラス属 (1.SG.7, 5.SG.3) と シュードモナス属 (2.SG.20, 2.C.19) を混合して使用すると、それぞれを単独で用いた場合よりも、根の横方向への成長本数が増え、その総量も増加し、更に塩害にも強くなるということを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8400701/

68種の アリールスルファターゼ(ARS)を生産するバクテリアを石灰質土壌で栽培される小麦の根圏から分離しました。バクテリアの系統学的な解析から、これらの分離された大部分のバクテリアは、シュードモナスバシラス 属に分類されることが分かりました。これら根圏バクテリアに対して、IAA分泌、抗菌活性、バイオフィルム精製、塩害耐性、らの観点から、8種のバクテリアが選別されました。具体的には、バシラス属(1.SG.7、5.SG.3)、シュードモナス属(2.SG.20、2.C.19、3.SG.19、2.C.23、4.SG.6、2.SG.8)であります。

これら8種のバクテリアは、どれも、根の横方向への本数とその総量を増加させました。この植物成長促進能力は、バクテリアを混合することで更に増強され、特にバシラス属(1.SG.7、5.SG.3) とシュードモナス属(2.SG.20、2.C.19)の混合が効果的であり、塩害に対しても強くなりました。

非常に多くのバクテリアや菌類を含む根圏は全くの複雑系であり、植物成長促進根圏バクテリア(PGPR)として、どのようにすればより効果的な根圏内バクテリアの構成が得られるのかを理解する為には、ここで示されたように、代表的な根圏バクテリアにフォーカスして研究する方法が有効であろうと思われます。

SARS-CoV-2 ラムダ変異株(L452Q, F490S)は、デルタ変異株(L452R, T478K)よりも感染力が高いことが確認された

University of Colorado, Aurora, USAらのグループは、SARS-CoV-2のラムダ変異株の方が、デルタ変異株よりも高い感染力を持つことを示しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34462744/

Pfizer-BioNTechのワクチンを接種した人達から得られる抗体の全体的な結合力は、6カ月もすると大幅に低下してきます(デルタ株の場合で約3.5倍、ラムダ株では約4倍低下します)。この事は、ラムダ株の方がデルタ株よりもワクチン接種で得られた免疫からより容易に逃れやすいという事を示しています。

ラムダ変異株のRBDにあるL452QとF490Sの変異は、RBDと感染受容体であるACE2の結合力に対して、デルタ変異株に比較して結合力を増すものではありません。しかしながら、これらの変異は、RBD内の疎水性パッチに影響を及ぼし、中和抗体の結合力を弱めてしまいます。これが、何故、ラムダ変異株の方がデルタ変異株よりも高い感染力を持つのか、という理由であると考えられます。

SARS-CoV-2感染におけるレクチンの役割は直接的な感染受容体ではなく付着受容体である:C-型レクチン(DC-SIGN, L-SIGN)そしてSIGLEC1の機能

Vir Biotechnology, San Francisco, USAらのグループは、C-型レクチン (DC-SIGN and L-SIGN) や SIGLEC1 は、SARS-CoV-2の直接的な感染受容体ではなく、付着受容体であると述べています。
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03925-1

実験には、HEK293T 細胞が使用され、ACE2および13種類のレクチン(DC-SIGN、L-SIGN、LGALS3、SIGLEC1、SIGLEC3、SIGLEC9、SIGLEC10、MGL、MINCLE、CD147、ASGR1、ASGR2、NRP1)のそれぞれをコーディングしたベクターを導入して、人為的にこれらの受容体を発現させました。これらを導入していない生の HEK293T 細胞においては、SARS-CoV-2疑ウイルスは殆ど感染せず、しかしながら、ACE2を過剰発現させると、疑ウイルスの感染がドラスティックに増加しました。

C-型レクチンであるDC-SIGN、L-SIGNや、SIGLEC1でも大幅な感染増加がHEK293T細胞で見られました。しかしながら、感染受容体として報告されているNRP-1 も CD147 もこの実験条件下では、SARS-CoV-2の感染に関しては如何なる影響も与えませんでした。SIGLEC1 の阻害抗体をアプライすると、SARS-CoV-2疑ウイルスの感染がドラスティックに減少し、SARS-CoV-2の感染共受容体としてSIGLEC1が機能していることが示唆されました。これら各種受容体は、細胞種毎に発現レベルが異なっており、SIGLEC1は、マクロファージ、樹状細胞、単球らに高発現しています。このことから、現実的には、SARS-CoV-2が付着したこれら細胞からターゲット細胞へのSARS-CoV-2のトランス感染の可能性が高いと推測されました。また、ACE2がほとんど発現していないHeLa細胞やMRC5細胞の場合には、DC-SIGN、L-SIGN、SIGLEC1をトランスフェクトしてもSARS-CoV-2の感染は増加しませんでした。 これらのことから、ACE2の発現レベルが低い細胞においては、レクチンを介した感染パスが存在し、SARS-CoV-2がこれらのレクチンと相互作用することによって、ACE2との相互作用が増強されるという付着受容体としての役割をこれらレクチンが果たしていると結論されました。 

ブログ管理人は、しかしながら、この論文にはSARS-CoV-2の単球やマクロファージへのエンドサイトーシスや貪食を介した直接感染という視点が欠落していると思います。
ウイルス感染におけるキーとなるステップは、ウイルス遺伝子の宿主細胞の細胞質内への放出にあります。これを行うために、ウイルスは細胞膜上の特定の受容体(SARS-CoV-2の場合にはACE2)に結合し、引き続いて直接的に細胞膜と融合、あるいはまたエンドサイトーシスや貪食による取り込みに引き続いて細胞膜融合を行います。エンドサイトーシスや貪食には、抗体によって補足されたウイルス粒子を認識する単球やマクロファージのFcγ 受容体や、SRS-CoV-2 Spikeの異常糖鎖を認識するC-型レクチンや、はたまたトール様受容体が、絡んでくると思われます。