HIVの抗体はSARS-CoV-2の糖鎖抗原に結合するが、中和することはできない

University of British Columbia, Canadaのグループは、HIVの抗体がSARS-CoV-2を中和化できるかどうかについて議論しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-91746-7

HIVの抗体3種(2G12, PGT128, PGT126)のSARS-CoV-2への結合性をmethyl α-d-mannopyranoside(安定化されたmannoseアナログ)存在下でELISAアッセイを用いて評価しました。methyl α-d-mannopyranoside の濃度が上昇するとともに、これら抗体の交差反応性が阻害され、これら3種のHIV抗体はSARS-CoV-2に対して糖鎖を介して相互作用していることが分かります。

luciferase reporter geneを導入したSARS-CoV-2疑ウイルスを用い、ACE-2を過剰発現したHEK293-T 細胞への感染阻害実験が行われました。感染48時間後に、細胞ライセート中のLuciferase発光を測定しています(RLU: relative luciferase units)。 これら3種のHIV抗体の場合には、しかしながら、広い濃度範囲に渡って中和活性は全く見受けられませんでした。一方で、SARS-CoV-2 RBDをエピトープとするVH-FC ab8抗体の場合には、中和活性を示すきれいな阻害効果が示されています。

しかし、ブログ著者が思うに、C-型レクチンを発現する免疫細胞(マクロファージなど)への感染に対しては、これらのHIV抗体でも中和できる可能性があるのではないでしょうか?

ABO血液型および分泌型か非分泌型かという事がCOVID-19の重症化にどう関わっているのか?

Bristol Institute for Transfusion Sciences (BITS), NHSBT, UKらのグループは、ABO血液型および分泌型か非分泌型かという事がCOVID-19の重症化にどう関わっているかについて議論しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jha2.180

世界各国でABO血液型とSARS-CoV-2の感染率や重症度についての研究が行われ、A型がO型よりもリスクが高いとする報告があまたに存在します。A型がCOVID-19の重症度に関わっている理由については未確認ですが、O型の人が持つ抗A抗体が関係しており、A抗原がSARS-CoV-2の感染における共受容体として機能しているという事が指摘されたり、或いはまた知られた事柄ではありますが von Willebrand factor (VWF)に起因する血液型依存の血栓症が関係しているのだ、と推察されています。

本研究で得られた結果は、A型と入院率は関係しているということ(RR = 1.24, CI 95% [1.05, 1.47], p = 0.0111)、そしてA型では心血管系合併症のリスクが大幅にあがるということ(RR = 2.56, CI 95% [1.43, 4.55], p = 0.0011)、更にA型の非分泌型では、同分泌型よりも顕著に入院率が下がるということです。どうしてA型とO型の間でCOVID-19の心血管系合併症リスクに大きな差異があるのかについては、VWFに関係した事柄が原因になっているのではないかと考えられています。

知られているように、FUT2がアクティブである場合、A、B、O、Lewis b抗原が粘膜表面に発現しており、このタイプのヒトを分泌型と呼びます。一方、FUT2が非活性であるヒトにおいては、Lewis a抗原のみが発現し、非分泌型と呼ばれます。

p-cymeneがSARS-CoV-2の抗ウイルス薬になり得る

University of Crete, Greeceのグループは、p-cymene(p-シメン)がSARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬になり得ると報告しています。
https://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/prp2.798

SARS-CoV-2に感染したVero細胞をp-cymeneで処理(濃度は0.0125 ~ 200 μg/ml、2日間のインキュベーション)した結果、プラーク形成が顕著に減少し、培養上清中のウイルス力価も大きく減少しました(up to 90%, Q-PCRにて検証)。SARS-CoV-2を感染させる前に、Vero細胞をp-cymeneで前処理した場合には、ウイルス力価が95%減少しました(Q-PCRで検証)。IC50 の値は、同時アプライで74.5 μg/ml、前処理した場合では57 μg/mlまで減少しました。重要なことは、p-cymene の濃度は <100 μg の場合には、細胞の生存能力には全く影響がないという事です。

SARS-CoV-2 N proteinとインポーチンAの結合体に対して、p-cymeneを加えた場合の影響を分子動力学を用いて検証した結果は、p-cymene はヌクレオカプシドとインポーチン結合体を不安定化させることが分かりました。この結果として、核内輸送が阻害されることになります。

Type2糖尿病由来の循環器系疾患に対する新しい尿中マーカーについて:High mannose構造が増加

岡山大医学部のグループは、Type 2 糖尿病性循環器系疾患に対する新しい尿バイオマーカーを発見したと報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcvm.2021.668059/full

Type 2 糖尿病性疾患の主要な疾患の一つに循環器系疾患があります。本研究では、680名のType 2 糖尿病患者の尿グライコームの変化をレクチンマイクロアレイを用いて調べています。

5年間のフォローアップ期間の間に、62名の患者がエンドポイントに達しました。Cox比例ハザードモデルを用い、既知の循環器系疾患に対する指標、統計的な疑陽性率、モデルの適合性の向上などを考慮した結果、2つのレクチンが循環器系疾患の進行と顕著に相関していることが分かりました。2つのレクチンは、UDAとCalsepであり、これらのハザードレシオは、UDA(Man5 ~ Man9 に特異性)=1.78 (95% CI: 1.24–2.55, P = 0.002) 及び Calsepa(Man2~Man6)=1.56 (1.19–2.04, P = 0.001)となりました。これらのレクチンに共通する糖鎖結合特異性は、N-型糖鎖のHigh Mannose構造になります。

これらの結果から、type 2 糖尿病患者において、high-mannose型糖鎖を持つ糖タンパク質の尿中への排泄が、循環器系疾患を発症するということを予見する上での優れたマーカーになることを示しています。このような異常なN-型糖鎖修飾の変化が起こる背景のメカニズムについては不明であり、今後の研究が待たれます。

STL, PNA, JacalinのO-GalNAcに対する結合特異性

Georgia State Universityらのグループは、化学的酵素的に作られたO-GalNAc糖鎖に対するSTL, PNA, Jacalinの糖鎖結合特異性を詳細に報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-23428-x

STL は、末端にLacNac構造を持つcore 2, core 6構造に結合し、core 1やcore 3には結合しません。
PNA は、β1-3Gal branchを持つcore 1やcore 2に選択的に結合します。.
Jacalin は、core 3とほとんどのcore 1構造に強く結合し、α2-6 Siaを嫌います。core 2, core 4, core 6 構造には結合しません。

膀胱がんにおける治療ターゲットとしてのバイオマーカーについて:sialyl-T, sialyl-Tn抗原を発現するHOMER3がそれだ

Portuguese Institute of Oncologyらのグループは、膀胱がんの治療ターゲットとして、sialyl-Tやsialyl-Tn 抗原を発現するHOMER3が有望であると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8188679/

膀胱がんの細胞株である5637とT24からは、10種類ほどの糖鎖構造が特異的に見つかっており、O-型糖鎖が主体です。両方の細胞株で、特に高発現しているのは、mono- 及び di-sialylated T 抗原 (sialyl-T)、core1、更にsialylated 或いはまた fucosylated core2 であります。

このグライコミクス解析をベースとして、細胞からライセートを抽出し、超遠心して膜タンパク質をエンリッチしました。その後、シアリダーゼで処理した後、T抗原にアフィニティーを持つPNAレクチンでプルダウンしました。得られた糖タンパク質をトリプシン消化し、nanoLC-CID-MS/MSにかけ、プロテオミクスの標準的な手法に従って糖タンパク質が同定されました。その結果、900種を超える糖タンパク質が同定されました。

これらの中で、GLUT1(SLC2A1) と HOMER3 が1stランクに位置付けられ、膀胱がんの潜在的な治療ターゲットとして浮上しました。GLUT1 進行した膀胱がんでしばしば過剰に発現するきわめて重要なグルコース・トランスポータです。一方、HOMER3は、ニューロンのシグナル伝達、T細胞の活性化、およびベータアミロイドペプチドの輸送に関与しているとされています。

膀胱がんにおいては、下図に示すように、HOMER3が、sialyl-Tn や sialyl-T 抗原とともに細胞膜上の同じ位置に発現していることが免疫染色で確認されました。

COVID-19での入院治療の必要性判断は、わずかに二つのパラメータでOK: IL-6とCRP

80,000を超えるサンプルを通じての研究調査から、IL-6とhs-CRPの数値が、それぞれ≥10 pg/mL 、≥10.0 mg/Lとなっている場合には、入院して治療にあたるべしという基準が提案されています。わずかに二つのパラメータで必要充分であるという結論です。

詳しくは、IL-6の中央値は、コントロールと外来で変わっていませんが、入院患者では、何と75倍も高くなっています(p<0.0001)。同様に、hs-CRPの中央値も、コントロールと外来で大差はありませんが、入院患者では80倍も高くなっていました(p<0.0001)

これは、Boston Heart Diagnostics/Eurofins Scientific Network, USA, らのグループの報告です。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8191995/

アプタマーを用いて糖鎖とペプチド構造を両方同時に認識させる:前立腺癌のマーカーであるPSAをモデルとして

Universidad de Oviedo, Spainのグループは、human prostate specific antigen (hPSA)の糖鎖とそのペプチド構造を両方同時に認識できるアプタマーをSELEXにて開発しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34094206/

hPSAの糖鎖とペプチド構造を両方認識させるアプタマーを開発するために、α1-6 core-fucoseに特異性を有するPhoSLレクチンを糖鎖修飾サイトに特異的なアプタマーを引っかける確率を上げる為に使用しています。

SELEXのプロセスは、磁気ビーズ(MPs)にhPSA或いは糖鎖を持たないrecombinant PSAを固定化することから始まります。BSAをブロッキング材として使用し、BSAに結合するアプタマーをBSA-MPsを用いて除去します。rPSA-MPsを用いて糖鎖修飾位置とは異なったタンパク質領域に結合するアプタマーを除去します。そしてhPSA-MPsを用いてPSAの糖鎖に結合するアプタマーのライブラリーをエンリッチします。

この後、ふたつのルートに分けますが、戦略Aでは、PhoSLでブロッキングすることにより、ブロッキングされたタンパク質に結合している分子をより厳格に除去する選択を行い、戦略BではPhoSL結合サイトに結合している分子を競合的にエルーションさせます。戦略Aでは、hPSAに結合するアプタマーは減少しますが、PhoSLを用いた競合的なエルーションは、hPSAに結合するアプタマーを増やすとともにその結合力を上げていきます。

下図は、得られたアプタマー(PSAG-1)の結合特異性を示すものですが、ふたつのCure fucoseを持つタンパク質、lipocalin-2 (NGAL) と α-fetoprotein (AFP)が参照されています。前立腺癌に特異的な糖鎖構造をより精密に認識できるこのようなアプタマーが開発できれば、この方法に期待が持てます。

SARS-CoV-2の感染は、細胞間感染でも広がる:ACE2はその場合感染のメディエーターとしてさほど重要ではない

Ohio State Universityらのグループは、SARS-CoV-2感染拡大に、細胞間での直接的な感染が一役買っているといると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8183005/

ACE2は、SARS-CoV-2やSARS-CoVの主要な感染受容体となっています。SARS-CoV-2やSARS-CoVとACE2の結合を介した感染は、下図に示すように宿主細胞のACE2の発現増加とともに線形的に上昇します。しかしながら、興味深いことに、SARS-CoV-2の細胞間感染は、下図に示すようにACE2の比較的低い濃度で飽和し、細胞間感染の最大値に達した後、ACE2の発現上昇とともに逆に減少し始めます。このSARS-CoV-2の細胞間感染のパターンは、通常の感染パターン(cell-free infection)とは違っており、ACE2を介した感染とは独立に細胞間感染が起こっていることを示唆しています。

興味深いことに、細胞間感染の場合でも、エンドソーム経由の感染パスは生きているようであり、SARS-CoV-2やSARS-CoVのウイルス糖タンパク質を開裂する酵素をブロックするCatL inhibitor IIIや、エンドソームのpHを中性化するBafA1らで、細胞間感染が抑制されることが下図に示されています。

SARS-CoV-2に感染して一年後の抗体の自然進化の様子

Rockefeller Universityらのグループは、SARS-CoV-2に感染してから1年後の自然抗体の様子について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.05.07.443175v2.full

ワクチンを接種していない回復期患者の場合、抗RBD-IgGは感染後6カ月から1年の間維持されていました。ワクチンを接種した場合は、抗RBD-IgGのレベルがほとんど30倍近くも上昇していました(下図において、Vacは、ワクチン接種を受けたことを示す)。

63人の血漿中和活性をSARS-CoV-2 Spikeタンパク質を発現するHIV 偽ウイルスを用いて測定しています。感染後12カ月で、ワクチン接種を受けていない37名の中和活性(NT50)は75であり、感染後6.2カ月のそれとほとんど違いませんでしが、ワクチン接種を受けた人では、NT50の値は3,684に達し、これはワクチン接種を受けていない人のほとんど50倍にもなっていました。

時間経過とともに中和活性に広がりがあるかどうかを確認するために、60人の中和活性をRBDの変異(R346S、K417N、N440K、A475V、E484K、N501Y)を含むパネルを用いて評価しています。下図のように、K417N、N440K、A475V、E484K、N501Yに対して中和活性が上昇しているのは明らかであり、このことは時が経つにつれて、抗体の中和活性の幅が広がって進化していることを示しています。