新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染において、ヘパラン硫酸はウイルスの捕獲に関与、ACE2のシアル酸修飾はウイルスの結合を弱める

The University of Hong Kongらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染におけるヘパラン硫酸とACE2の糖鎖修飾の影響について研究しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-20457-w

SARS-CoV-2の感染実験に、Calu3 (肺上皮細胞) and Caco2 (小腸上皮細胞) を使用しています。ヘパラン硫酸の影響を調べるにはHeparinaseを使用し、ACE2の糖鎖については、特にシアル酸に着目し、Neuraminidase (NA) を使用しています。

下図のように、Heparinazseのアプライで、ウイルス感染が抑制されており、ACE2の共受容体としてウイルスの捕獲にヘパラン硫酸が関係していることが示されています。ACE2のシアル酸修飾については、Sialidaseでシアル酸を切断することにより、ウイルスの感染がむしろ強くなっていることが示されています。

米国NISTの reference mAb(humanized IgG Type1)の糖鎖構造評価

米国NISTは、reference mAbとしてヒト化IgG Type1 mAbを提供しています。このmAbの製造には、NS0細胞が使われています。同細胞は、生物医学研究や治療用タンパク質の生産で商業的に使用されている非分泌型マウス骨髄腫に由来するモデル細胞株であります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31591262/

世界73機関で実施された103件の評価結果を包括して、糖鎖付加の状態を報告しています。IgG Type1のreference mAbの糖鎖修飾情報として役に立ちそうです。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)に対するワクチン投与の優先順位について:やはり60歳オーバーを優先すべきか

University of Colorado Boulderらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)に対するワクチン投与の優先順位についてシュミレーションを行いました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7743091/

5つの年齢群のワクチン投与モデルを作り、ワクチンの人口に対する投与スピード(0.05%~1%/day)、感染率(1.15、1.5)、ワクチンの有効性(90%)、更にはワクチンの有効性が60歳以上で年齢と共に低下(60歳=90% -> 80歳=50%へ低下)する場合らを想定し、シュミレーションをしています。
結果は、条件で変化するのですが、60歳以上を優先する場合と、20歳から59歳を優先する場合が、最良の選択として入れ替わります。しかし、前提条件が実情で常に変化することから、オーバーオールに見ると、60歳以上を優先する方がベターな選択となるでしょう。

新型コロナウイルス(COVID-19)の病態を最も正しく反映する指標は、唾液中のウイルス量である

Yale University School of Medicineらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の病態を最も正しく反映するのは、唾液中のウイルス量である、という報告をしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7805468/

COVID-19のマーカーとしては、炎症性サイトカインやケモカイン (CXCL10, IL-6, IL-10), インフラマソーム (IL-18, IL-1β), インターフェロン (IFNα, IFNγ, IFNλ)らがある訳ですが、唾液中のウイルス量が病態と非常に良く相関することが示されました。比較として鼻咽頭のウイルス量のそれも評価されています。ウイルス量は、唾液からRNAを抽出し、RT-PCRのCt値から、RNA copies/mLを計算しています。非入院者、中等症、重症、致死の判別精度については、中等症(AUC=0.96)、重症(AUC=0.89)、致死(AUC=0.91)という高い精度が得られています。

下図の上段は、唾液のウイルス量と病態との相関を、下段は、鼻咽頭のウイルス量と病態とのそれを示しています。

Deep Learning(深層学習)とレクチンマイクロアレイを組み合わせた細胞の超高精度判別法の実証

国立成育医療研究所のグループは、レクチンマイクロアレイの糖鎖プロファイリングデータにDeep Learning(深層学習)を組み合わせることで、細胞の違いを超高精度で判別できることを実証しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352320420300742?via%3Dihub

レクチンマイクロアレイには、GlycoTechnicaのLecChip Ver1.0が使用されています。同レクチンマイクロアレイには厳選された45種類の天然型レクチンが搭載されており、2007年に上市以降、レクチンアレイのデファクトスタンダートとして世界中で広く使用されています。
Deep Learningは、ご存知のようにAIの一手法として色々な分野で応用が進んでおり、本研究ではGoogleのTensorFlowをバックエンドとし、Kerasをラッパーソフトとして使用しています。Deep Leaning の層構成は、入力層が45(レクチンの個数と同じ)、出力層が5(5種の細胞の判別を行うため)であり、隠れ層は1から5層であります。評価した細胞種は5種(Pluripotent stem cell, Mesenchymal stromal cell, Endometrial and ovarian cancer cell, Cervical cancer cell, Endometrial cell)であり、合計1,577サンプルを評価に用いています。
得られた結果は下記のように驚異的であり、総合97.4%という高い判別能力を示しています。

 

 

なお、本論文で用いられているDeep Learningは、Mxより”SA/DL Easy”というソフト名にて販売されています。本ソフトは、Deep Learningを使用するに際し、Pythonなど一切のプログラミング言語に関する知識を必要とせず、一次元配列のデータセット(上記論文で使用されているレクチンマイクロアレイの糖鎖プロファイリングデータ等)を入力として、マウスをクリックするだけで、Neural Networkを構築し、Deep Learningを走らせることが出来るユーザーフレンドリーなソフトとなっています。
本ソフトについてご興味がありましたら、Mxへお問い合わせをお願い致します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源について、米国務省がFACT Sheetを公開

本ブログでは、2020年12月15日、[The 2nd Yan report」を引用する形で、SARS-CoV-2は人工的な産物である可能性が高いとする記事をアップしています。

2021年1月15日、米国務省から、Activity at the Wuhan Institute of Virology、と題するFACT Sheetが公開されました。
https://www.state.gov/fact-sheet-activity-at-the-wuhan-institute-of-virology/

この記事の中において、米国務省は、SARS-CoV-2の起源がWuhan Institute of Virology (WIV)であるという明言は避けているのですが、WIVにおける三つのFACTsを次のように示しています。

  1. 2019年秋に、WIVでCOVID-19と思しき患者(研究者)が出ていた
  2. 2016年よりRatG13(SARS-CoV-2に96.2%類似)を含むコウモリのコロナウイルスの研究をWIVで行っていた
  3. 極秘に中国の生物武器研究がWIVで行われていた

日本における無症状から軽症の新型コロナウイルス(COVID-19)患者の抗体反応の特異性

慶応大医学部のグループは、日本におけるPCR検査では陽性となっている無症状から軽症の新型コロナウイルス(COVID-19)患者の抗体反応についてのコホート研究を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7787511/

多くの海外におけるコホート研究は、COVID-19の症状がより明らかな患者から重症患者を対象にしていますが、感染後3週間で80%から100%の患者で抗体反応が出ています。そしてまた、これら抗体の産生量は、年齢、重症度、リンパ球減少症、血中CRPのレベルらと相関していることも数多くの研究で示されています。

本コホート研究は、既知のコホート研究より軽症や無症状患者を対象にしていますが、無症状患者では87.5%、軽症患者でも23.5%が抗体反応を示さなかったということです。

メチレンブルーで、新型コロナウイルス(COVID-19)の過剰なサイトカインと炎症メディエーターを全てブロック

Fondazione IRCCS Istituto Neurologico Carlo Besta, Via Padova, Milan, Italyらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)におけるサイトカイン阻害剤らの抗ウイルス薬の有効性が低いのは、(1)おそらくウイルスが炎症反応を引き起こしており、もはや主役ではなくなった抗ウイルス薬投与の遅れに、(2)抗サイトカイン薬の比較的低い効能は、数十のサイトカインの内の1つまたは数個にしか作用しないということ、(3)加えて、他の炎症メディエーター(活性酸素種と窒素種)が標的にされていないからだ、と説明しています。

炎症メディエーターが過剰に生成されると、反応種は広範な細胞および組織の損傷を引き起こします。活性種とサイトカインの過剰産生を阻害することが知られている唯一の薬剤は、マラリア、尿路感染症、敗血症性ショック、およびメトヘモグロビン血症の治療に効果的に使用される消毒特性を備えた低コストの染料であるメチレンブルーです。COVID-19の急性呼吸窮迫症候群と対比するためにメチレンブルーをテストしましょう、と提案しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7728423/

Mタンパク質の比較:SARS-CoV-2, SARS-CoV, MERS-CoV

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のウイルスエンベロープには、Sタンパク質、Eタンパク質、Mタンパク質が存在しています。Sタンパク質はウイルスの感染に深く関与しているため、非常に多くの研究がSタンパク質をターゲットとして行われています。しかし、Mタンパク質に関する構造やその機能に関する研究例は多くはありません。一般的には、Mタンパク質の機能は、ウイルス粒子構造の保護として理解されており、Mタンパク質にRNA-Nタンパク質複合体とS-タンパク質が結合し,小腔内に感染性粒子として出芽し,エクソサイトーシスで細胞外に放出されると考えられています。

King Abdulaziz City for Science and Technology, Riyadh, Saudi Arabiaらのグループは、Mタンパク質に着目し、SARS-CoV-2, SARS-CoV, MERS-CoVの違いについて研究しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1018364720304493?via%3Dihub

下記のような事柄が指摘されています。

Mタンパク質は膜貫通型タンパク質であり、3つの膜貫通ドメインを挟んで、N末端ドメインとC末端ドメインが存在する。
アミノ酸配列の観点からは、SARS-CoV-2では、S4残基(221-224)が挿入されているのが大きな特徴である。
天然変性タンパク質領域について、SRAS-CoV-2では二つの領域(1-7, 205-222)、SARS-CoVでは三つの領域(1-6, 207-210, 216-221)、MARS-CoVでは二つの領域(1-6, 216-219)が存在し、これらの違いは、ウイルスの異なった環境下でウイルス粒子を保護し、ウイルス感染モードに関係している可能性があるかも知れない。
B細胞エピトープになり得る領域は、下記であろうと推察される。
SARS-CoV2    183-189 ASQRVAG, 200-217 RIGNYKLNTDHSSSSDNI
SARS-CoV     183-188 SQRVGT, 199-215 RIGNYKLNTDHAGSNDN
MERS-CoV     180-188 MVKRQSYGT, 200-211 AGNYRSPPITAD

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の前駆体タンパク質切断酵素(メインプロテアーゼ: Mpro)をターゲットにしたサポニンとタンニンの阻害剤としての評価

Ladoke Akintola Univ. of Technology, Ogbomoso, Oyo State Nigeriaらのグループは、先のブログで紹介した研究に近いのですが、SARS-CoV-2の前駆体タンパク質切断酵素(メインプロテアーゼ: Mpro)をターゲットとして、サポニンとタンニンについて、分子ドッキング・分子動力学的シミュレーションによって、その阻害効果を評価しました
https://link.springer.com/article/10.1007/s40203-020-00071-w

サポニンは、植物の根、葉、茎などに含まれていますが、特にマメ科の植物に多く含まれており、抗酸化作用を持つことで知られています。一方、タンニンは、種子に含まれる渋み成分であり、渋柿のそれが良く知られています。タンニンはタンパク質と強く結合して変性させる作用があり、タンニンによる変性作用のことを「収れん作用」と呼びます。

結果は、下記のようですが、レムデシビルに勝るとも劣らない抗ウイルス作用を示す可能性があります。in vivoでの評価が期待されます。

Ligands Binding affinity (ΔG) kcal/mol Inhibition constant (Ki), µM
サポニン類
Priverogenin A − 8.3 0.83
Arjunic acid − 8.1 1.16
Theasapogenol B − 8.1 1.16
Euscaphic Acid − 8.0 1.37
タンニン類
Punicalagin − 9.0 0.25
Punicalin − 8.6 0.5
Ellagic acid − 8.4 0.7
Corilagin − 8.2  0.98
Gallagic acid − 8.1 1.16
比較対象
Remdesivir − 7.6 2.7