新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の前駆体タンパク質切断酵素(メインプロテアーゼ: Mpro)をターゲットにした植物由来成分の阻害剤としてのスクリーニング

新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が宿主細胞に感染すると、ウイルス由来のRNAから巨大な前駆体タンパクが合成されます。その前駆体タンパクは種々のプロテアーゼによって切断され、ウイルスの増殖に必要な機能タンパクとなります。メインプロテアーゼ(Mpro)は、前駆体タンパク質切断酵素のひとつであり、ウイルスの増殖に必要不可欠なプロテアーゼです。

Univ. of Medical Sciences and Technology, Khartoum, Sudanらのグループは、このメインプロテアーゼをターゲットとして、スーダンの伝統的な医薬品として使われている植物由来の成分について、分子ドッキング・分子動力学的シミュレーションによって、その阻害効果を評価しました。
https://link.springer.com/article/10.1007/s40203-020-00073-8

結果、下記の植物由来成分が、新型コロナウイルスの阻害剤として期待されます。in vivoでの評価を期待しましょう。

Name Energy (kcal/mol) Predicted LD50 mg/kg
Gallic acid − 17.45 2260
Quercetin − 15.81 159
Naringin − 14.50 2300
Capsaicin − 13.90  47
Psychotrine − 13.50 480

 

全てのβーコロナウイルスに対する中和抗体の存在

一般的なヒトの風邪の原因となるコロナウイルスとして、4種類(OC43, HKU1, NL63 and 229E)が知られています。これに対して非常に病原性の高いコロナウイルスとして、3種類(SARS-CoV, SARS-CoV-2, MERS-CoV)があります。ご存知のように、SARS-CoV-2が2019年末からパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスということになります。

Univ. of Washingtonらのグループは、これらコロナウイルスに幅広く反応する中和抗体についてレポートしています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.12.29.424482v2.full

抗体の交差反応は良く知られた現象ですが、例えば、抗体を用いた抗原検査では交差反応があると正確に抗原ウイルスを特定できなくなります。しかし、交差反応が強ければ、過去に罹患したウイルスの抗体がアクティブであれば、新規ウイルスの感染阻害に役立つ可能性があります。
B6となずけられたコロナウイルスに対するモノクロナール抗体は、幅広い交差反応性を持ち、中和抗体として注目されます。このB6抗体は下図に示すようにS2サブユニット内のこれらコロナウイルスに共通するアミノ酸配列をエピトープとしており、該当箇所は感染に際してのメンブレン融合に関与しています。なお、下図のBinding Curveに出てくるMHVはコロナウイルス科に属するマウス肝炎ウイルスであります。

 

 

BanLec(レクチン)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス薬としての潜在性を示す

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)には、22個のN-型糖鎖修飾部位があるということが既に示されています(例えば、https://science.sciencemag.org/content/369/6501/330.longを参照のこと)。

SARS-CoV-2は、ACE2受容体に強く結合するということから、Sタンパク質のS1サブユニット内に存在するRBDのAsn343に存在する糖鎖(Man3GlcNAc2Fuc)をターゲットとして、Mannose及びGlcNAc特異的なレクチンの結合強度を分子ドッキング・分子動力学シュミレーションを用いて計算し、抗ウイルス試薬としての潜在的な評価を行いました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33292056/

比較したレクチンは次の通りであり、BanLecが一番高い結合力を示したとのことです。
BanLec: -105.99kcal/mol
NPA: -79kcal/mol
GRFT: -73.7kcal/mol
CV-N: -67.3kcal/mol
UDA: -98.3kcal/mol

レクチンは、しかしながら、一般的に、変異原性、血球凝集、炎症らの副作用を示すため、in vivoでの確認が必要不可欠です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体応答について:治療中にウイルス集団の遺伝子変異が起こる

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、RNAウイルスですが、一般的にこのタイプのウイルスは、平均的に年間23個前後の遺伝子変異が発生します。

University College Londonらのグループは、免疫不全のCOVID-19の患者に対して行われた回復期患者血漿治療がSARS-CoV-2ウイルス集団の進化に及ぼす影響について興味深い研究結果をレポートしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7781345/

治療には、レムデシビルと回復期患者血漿が使用されており、前者は、発症後41日、54日、に投与されており、後者は63日、65日に投与され、93日には、両方が投与されています。
(なお、回復期患者血漿の治療効果については、臨床状態または全体的な死亡率に有意差は認められないという報告が既にでています、例えば、下記論文参照
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33232588/

下図のように回復期患者血漿の投与で、ウイルス集団の変異が極めてダイナミックに変化していくことが示されています。それほどにRNAウイルスは変異しやすく、回復期患者血漿投与の治療効果をすりぬけていく、ということを示しているようです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とACE2の結合に対する糖鎖の影響は限定的

University of Southamptonのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体であるACE2の結合について、ACE2の糖鎖修飾の影響を調べました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022283620306872?via%3Dihub

WTのACE2に対してST6を加えてシアル酸修飾を増加させたもの
WTのACE2に対してSialidaseを加えて、シアル酸を切断させたもの
WTのACE2に対してkifunensineを加えて、糖鎖構造をMan9GlcNAc2主体に変化させたもの
WTのACE2に対してEndoHを加えて、N型糖鎖を除去したもの
WTのACE2に対してFucosidaseを加えて、Fucを切断したもの
らについて、S-タンパク質との結合をSPRによるKd値の測定を介して議論しています。

 

 

 

 

 

 

ACE2からN型糖鎖を除去した場合は、若干結合力はあがりますが、その影響は限定的です。
ACE2のFuc修飾はほとんど影響を与えないことがわかります。
ACE2のシアル酸修飾がSARS-CoV-2の感染力に影響を与える事はなさそうです、むしろ感染力を弱める。
ACE2のHigh Mannoseは若干感染力を弱めるようです。

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療には、全身性コルチステロイドの方がトシリズマブ(アクテムラ)に勝る

新型コロナウイルス(COVID-19)が重症化するとサイトカインストームが発生し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症します。この治療については、免疫制御という観点から、IL-6阻害剤であるトシリズマブ(アクテムラ)や炎症を抑えるステロイドが使用されています。

Yale School of Medicineのグループは、ランダム化プラセボ対照試験から、全身性コルチステロイドの方が治療効果が高く、トシリズマブの効果は明確ではないという報告をしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7781335/

下図の如く、COVID-19の各種バイオマーカーの振る舞いは、コルチステロイドとトシリズマブでは大きく異なっています。恐らく、単一のサイトカインを阻害しても効果は限定的ということなのだと思われます。

新型コロナウイルス(COVID-19)の後遺症は、40日以上も続く

University College Londonらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)に罹患してからの後遺症について報告しています。
https://f1000research.com/articles/9-1349/v1

96種の炎症性及び抗炎症性関連のタンパク質パネルのMS解析結果より、COVID-19に罹患した後、40日以上も炎症性のバイオマーカーやストレス起因のバイオマーカーに変化が残留しているとのことです。
具体的には、特に下記の6種のバイオマーカーに罹患後の影響が残留しているとのことです。

    peroxiredoxin 3 (PRDX3)
    carbamoyl phosphate synthase (CPS1)
    N-Myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)
    Collagen triple helix repeat containing 1 (CTHRC1)
    Cystatin C (CYTC)
    Progranulin (GRN)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染防止用にコンタクトレンズをGriffithsinで修飾する

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、咽頭鼻腔だけでなく、目からも侵入してきます。
Sichuan University, Chengdu, Chinaのグループは、コンタクトレンズにマンノース結合型のレクチンであるGriffithsinをコーティングする方法を提案しています。
レクチンの使い方としては簡単で有効かも知れませんね。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2020.599757/full

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRT-PCRのCt-値について

Albert Einstein College of Medicineのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRT-PCRにおけるCt-値と死亡率の間の相関について、後ろ向き試験の統計解析から、その結果を報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article/authors?id=10.1371/journal.pone.0244777

新型コロナウイルスで入院した患者1044名に対する後ろ向き試験の結果です。
RT-PCRのCt-値を4分割して統計分析をしています。
Q1: Ct=<22.9
Q2: 23.0<Ct<27.3
Q3: 27.4<Ct<32.8
Q4: Ct=>32.9

結果として、院内死亡率とCt-値は逆相関していることが示されています。
つまり、Ct-値が低いほど院内死亡率が上昇し、Ct-値が高いほど院内死亡率が減少するようです。

言い換えれば、暴露したウイルス数が多ければ、あるいはまた体内でのウイルス増殖が多ければ、死亡率があがるということになります。

おしっこの色と泡立ちから新型コロナウイルスの診断や予後を予測する

Memorial Hospital Group, Istanbul, Turkeyのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の診断や予後予測に尿の泡立ち状態が有効な指標になりうるという面白い報告をしています。
http://www.nclin.ist/jvi.aspx?un=NCI-42027&volume=

新型コロナウイルスの入院あるいはICUに入っている患者の尿は、その色がオレンジから赤みがかっており、テストチューブで尿を回収し、15秒振った後の泡立ちの状態を観察することで、新型コロナウイルスの診断を行いました。
診断の正確さは、感度=92%、特異度=89%であったとのことです。

健常者の尿は、淡黄色から淡黄褐色ですし、排尿後、尿が泡立っても消えてゆけば基本問題はありません。
しかし、尿の色は病態で変化し、
尿中のウロビリノーゲン、尿タンパク質、尿糖が増加すると泡立ちの強くなります。

ひとつの参考程度と考えておくのが妥当かも知れませんね。