自然免疫における補体経路活性化の新しいシグナルパスが発見された:MASP-1, MASP-3は、酵素でもありPRMでもあり二刀流の振る舞い

自然免疫のひとつであるレクチン経路においては、pattern recognition molecules (PRMs)と呼ばれる mannose-binding lectin (MBL), ficolins, collectin-10/-11らが病原菌やウイルスに特有なパターンを認識して結合し、MASP(MBL結合セリンプロテアーゼ)と複合体を作ることで酵素が活性化され、順次補体を活性化して、膜上に膜侵襲複合体(Membrane Attack Complex: MAC)を形成し、病原菌やウイルスを排除すると一般的に理解されています。

しかし、University of Copenhagenらのグループは、MAPSが直接病原菌に結合し、捕体系路を活性化する場合があることを、Aspergillus fumigatusを用いて実証しています。つまり、捕体系路活性化の新しいシグナルパスが発見されたことになります。MASP-1やMASP-3は、酵素でもありPRMでもあるという二刀流の性格を持つことになります。
https://www.karger.com/Article/FullText/514546

カクテル抗体(REGN-COV2)は、B.1.1.7, B1.351, P.1変異株の影響を受けない、しかし、Pfizer BNT162b2ワクチン接種での有効性はB.1.351, P.1に対しては低下する 

German Primate Center, Göttingenらのグループは、COVID-19の主要な変異体に対する各種抗体(Casirivimab, Bamlanivimab, Imdevimab)及びカクテル抗体 (REGN-COV2: Casirivimab, Imdevimabを含む)の有効性、更にはPfizer BNT162b2ワクチンのそれら変異体に対する有効性を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7980144/

カクテル抗体(REGN-COV2)は、すべてのvariants (B.1.1.7, B.1.351, P.1)のSタンパク質によって媒介される侵入を効率的に阻害しました。しかし、REGN10989およびBamlanivimabは、B.1.351およびP.1 varinatsのSタンパク質に対しては有効性が低下することが示されました。

一方、Pfizer BNT162b2ワクチンは、SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードするmRNAに基づいており、COVID-19に対して有効なワクチンとされています。BNT162b2で2回免疫した15人のドナーからの血清の中和活性を測定した結果は、WT Sタンパク質によって引き起こされる感染を効率的に阻害し、B.1.1.7変異体のSタンパク質によって引き起こされる感染阻害はわずかに減少しただけでした。しかし、15の血清のうち12は、B.1.351およびP.1変異体のSタンパク質によって引き起こされる感染阻害が著しく低下しました。

COVID-19の胸部CT画像のDeep Learningを用いた診断精度

Sejong University, Seoulらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の診断に使われる胸部CT画像に対して、Deep Learningを適用し、COVID-19の診断精度を議論しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249450

Deep Learningに使用されるNeural Networkは20層の構成であり、畳み込みとプーリングを組み合わせて構成されています。入力画像の解像度は、(224 x 224)であり、畳み込みは、(3 x 3)或いは(5 x 5)が使用されています。得られたCOVUID-19の全体的な診断精度は、99.83%(感度=0.9286、特異度=0.991)に達したとのことです。今後は、診断分野へのAI(Deep Learning)の投入が加速していくと思われます。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質をナノ粒子化したワクチンを用いることで、変異に強い広域中和抗体の生成を促すことができる

The Scripps Research Instituteは、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のナノ粒子を用いることで、ウイルスの変異にも強い広域中和抗体を作ることができるとしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8010731/

現在のワクチンの主流は、recombinant SARS-CoV-2 spikeを抗原として提示する形のプラットフォームであり、mRNAを包含したリポソーム (例えば, BNT162b2 や mRNA-1273)、アデノ随伴ウイルス・ベクターを用いたもの (例えば, ChAdOx1 nCoV-19 [AZD1222], CTII-nCoV, Sputnik V, や Ad26.COV2.S)らが存在します。これらのワクチンは、B.1.1.7変異についてはまだしも、B.1.351やP.1変異に対しては、有効性が顕著に低下することが指摘されています。従って、ウイルス変異に強い広域中和抗体を作ることが出来るワクチンが切望されており、その為には、成熟した抗体を長期間にわたって生み出せる胚中心の形成が必要不可欠です。

SARS-CoV-2 spikeタンパク質は、S1-S2ヘテロダイマーの三量体を形成しています。S1 subunitには、感染をイニシエートするRBDが含まれており、S2 subunitには、fusion peptide (FP) と heptad repeat regions 1 と 2 (HR1 と HR2)が含まれています。著者らは、Spikeタンパク質の安定性を高めるためにHR2-deleted, glycine-cappedのspikeタンパク質をデザインし (S2GΔHR2)、I3–01v9 60-mersをリンカーとしてナノ粒子化したS2GΔHR2-10GS-I3-01v9-LD7-PADRE (I3-01v9-L7P)をワクチンとして使用しました。I3-01v9-L7Pには、20個のS2GΔHR2が含まれています。

S2GΔHR2-10GS-I3-01v9-L7Pをワクチンとして使用することで、B.1.1.7, B.1.351, P.1 変異に対してほぼコンパチブルな力価を有する広域中和抗体が生成されていることがわかりました。このナノ粒子は、単体Spikeに比べて、6倍長い保持時間、4倍大きい濾胞樹状細胞群、5倍高い胚中心の活動を示しました。この理由については、定かではありませんが、ワクチンのサイズ効果だと推測されます。

Human C-Type LectinであるCLEC18Aを遺伝子導入した蚊のデングウイルス感染増殖抑制効果

National Health Research Institutes, Miaoli, Taiwanらのグループは、ヒトのC-type LectinであるCLEC18Aを導入した熱帯縞蚊を作り、デングウイルスの感染抑制効果を確認しました。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.640367/full

ヒトのC-type lectinであるCLEC18Aは、デングウイルス(DENV)に特異的な糖鎖に結合し(詳細な糖鎖結合特性構造は不明、C-type lectinは、一般的にhigh mannose, Gal/GalNAcを認識する)、Type I Interferonの分泌を促し、自然免疫における主要なプレーヤーの一つです。CLEC18Aを発現させた熱帯縞蚊においては、下図のようにDENVの感染増殖が70%ほど抑制されることが示されました。このことは、遺伝子改変した蚊を使うことで、DENVの蔓延を抑制できる可能性があることを示唆します。

COVID-19軽症者の免疫記憶(CD4T細胞反応)とSARS-CoV-2に感染していない健常者のSARS-CoV-2に対する交差反応について

National Institute of Immunology, New Delhiらは、COVID-19の軽症者の免疫記憶とSARS-CoV-2に感染していない健常者のSARS-CoV-2に対する交差反応について報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.636768/full

COVID-19軽症者においては、感染後5カ月(中央値=3カ月)は、SARS-CoV-2に対する免疫記憶がCD4T細胞反応としてみられると報告しています。一方、SARS-CoV-2に感染していない人のSARS-CoV-2に対する免疫反応は、Spikeタンパク質に対しては殆ど起こらず、SARS-CoV-2に対して免疫反応を示した66%の人のCD4T細胞は、Nタンパク質をターゲットとしていました。SARS-CoV-2に感染した人では、逆にCD4+T細胞はNタンパク質よりもSpikeタンパク質をターゲットとしていました。
SARS-CoV-2未感染者のCD4T細胞がどの程度SARS-CoV-2の感染を抑制し、COVID-19の重症化を押さえるのかについては、更に詳細な研究が必要です。

タンパク尿が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症バイオマーカーとなり得る

Université Côte d’Azur, Niceらのグループは、高タンパク尿がCOVID-19重症化のバイオマーカーになり得ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7985082/

高タンパク尿(>0.3 g/g)が以下のような項目と高い相関をしてしています。
ICU入室率:[OR = 4.72, IC95 (1.16–23.21), p = 0.03],
急性呼吸不全 (ARDS) [OR = 6.89, IC95 (1.41–53.01, p = 0.02)],
より長い入院日数 [19日 (9–31) 対 低タンパク尿ケースで 7日 (5–11), p = 0.001]

カンジダ・アルビカンスの細胞膜上のN型糖鎖(mannose core)が敗血症において抗炎症的に作用する

京都大らのグループは、カンジダ・アルビカンスの細胞膜上のN型糖鎖(mannose core)が抗炎症的に働くことを敗血症にて実証しています。
https://www.nature.com/articles/s42003-021-01870-3

Lipopolysaccharide(LPS)を用いてマウスに敗血症を誘起し、カンジダ・アルビカンス(J-1020株)の細胞膜上のN型糖鎖(マンノース構造)が抗炎症的に働くことを実証しています。J-1020からマンノタンパク質を抽出し、LPSにて敗血症を起こしているマウスに投与すると生存率が劇的に高くなります。この時に、抗炎症性サイトカインであるIL-10らがJ-1020の投与で高発現していることが確認されました。J-1020のマンノタンパク質がC-Type LectinであるDectin-2に結合することでこの一連の現象が起きているらしいことも確かめられました。Dectin-2をKOすると、生存率は急減し、J-1020を投与してもIL-10の分泌は上昇しませんでした。また、Dectin-2と特異的に相互作用するN型糖鎖の構造は、mannose coreであるらしきことも確認されました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の紫外線照射による不活化について

University of Milanらのグループは、SARS-CoV-2の紫外線(UV-C: 254nm)照射によるウイルスの不活化について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-85425-w

V6細胞を標的として、感染多重度(MOI)0.05、5、1000のいずれかでSARS-CoV-2が投与されたサンプルに対して紫外線を照射しています。0.05 MOIは低レベルのウイルス汚染に相当し、5 MOIはウイルス感染した患者の唾液に見られる平均濃度、1000 MOIは非常に高い濃度であり、末期のCOVID-19患者で観察された濃度に対応します。
0.05 MOIから5 MOIの領域では、4MJmJ/cm2と非常に弱い紫外線でウイルスの完全な不活性化が達成できました。最高のウイルス入力濃度(1000 MOI)でも、16.9 mJ/cm2以上の線量で完全に不活化されました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者のserum IgGは、20歳辺りを境に年齢と逆相関する

Weill Cornell Medicine, New Yorkのグループは、2020年4月から6月にかけて実施された抗体検査の結果から、serum IgGと年齢の相関関係を調査した結果を報告しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2777743

85名のSARS-CoV-2陽性の子供達、及び3648名のSARS-CoV-2陽性の大人達について、serum IgGと年齢との関係を相関図として示したものが下記です。非常に興味深い結果が得られています。serum IgGの量が、20歳辺りを境に年齢と逆相関しているのが分かります。何故、19歳から25歳辺りで、IgGの量が最も低くなるのかについては、現在不明です。