Dectin-2がインフルエンザウイルスの感染に関わっていた

新潟大学らのグループは、インフルエンザウイルスの感染と炎症性免疫応答にDectin-2が関係していることを示唆しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomedres/42/2/42_53/_pdf/-char/en

インフルエンザと言えば、ウイルスエンベロープに存在するhemagglutinin (HA)とシアル酸との関係性が重要とされていますが、これに絡む抗ウイルス薬は症状が現れてから48時間以内に投与しないとあまり効果的ではないとされます。抗原提示細胞である樹状細胞やマクロファージは、病原菌や死細胞らに特有な分子パターンを認識し、免疫を活性化しますが、このようなパターン認識受容体には、Toll-like receptors (TLRs), Nod-like receptors (NLRs), C-type lectin receptors (CLRs)が知られています。

HAはhigh mannose型の糖鎖修飾も強く受けていますので、C-type LectinがHAの糖鎖修飾を認識することで、免疫反応が活性化されるというシグナルパスも必ずや存在するはずです。C-type Lectin familyには、DC-SIGN, Dectin-1, Dectin-2, Mincleなどが含まれますが、著者らは、樹状細胞に発現するDectin-2がA型インフルエンザやB型インフルエンザのHAを認識し、炎症性サイトカインの産生を促すことを示しました。Dectin-2は、high mannose polysaccharidesを認識するとされます。
下図は、Dectin-2をKOすることで、炎症性サイトカインの産生が大きく抑制されることを示しています。

SARS-CoV-2感染者から得られた中和抗体の性格

King’s College Londonらのグループは、SARS-CoV-2に感染した患者=3名から得られた中和抗体の特徴について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8015430/pdf/main.pdf

著者らは、患者P003(入院となりICUにも入室)、患者P054(入院にはならず)、患者P008(感染はしているが無症状)の3名から合計107個のSARS-CoV-2 Spikeタンパク質に特有な抗体を得ました。107個の抗体の内、35.5%がRBDをターゲットとする抗体、32.7%がNTDをターゲットとする抗体、S1をターゲットとするものが0.9%、S1以外をターゲットとするものが30.8%となりました。SARS-CoV-2に対する中和活性を示す抗体の割合は全体の45%であり、この内約70%がRBDをターゲットとし、約20%がNTDをターゲットとする中和抗体となっています。

RBDとNTDをターゲットとする中和抗体の力価は同程度であり、IC50は、2.3-488ng/mLでありました。
最も高い中和能力を示したものはRBDをターゲットとするP008_108抗体であり、IC50=2.3ng/mL、NTDをターゲットするする中和抗体では、P008_056のIC50=14ng/mLでありました。
無症状患者から得られた中和抗体が高い力価を示したのは興味深いと思われます。

RBDに比べるとNTDには糖鎖修飾が強いことから、中和抗体に対する糖鎖の影響をkifunensine、swainsonineといった糖転移酵素の阻害剤を用いて調査したものが下図です。糖鎖修飾の変化によって、Spikeタンパク質のコンホーメーションの変化、或いは糖鎖による結合阻害が影響しているものと考えられます。

COVID-19におけるIL-33の発現が、回復期血清陽性率と相関している

Max Planck Institute of Immunobiology and Epigeneticsらのグループは、COVID-19の回復期患者のSARS-CoV-2特異的なIgGの血清陽性率がIL-33と相関していることを見つけました。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22449-w

著者らは、COVID-19の回復期患者=20名から末梢血単核細胞(PBMC)を得て、CDマーカーによるその細胞構成の把握と、SARS-CoV-2 Spikeによる刺激を与えた場合のサイトカインの発現を評価しています。IL-33, IL-6, IFN-ɑ2, IL-23らサイトカインの産生とCD4+CD69+ T細胞の相関を調べると、IL-33が最も強くCD4+CD69+ T細胞と相関していることが分かりました。IL-33はIL-1βやIL-18と相同性の高いアミノ酸配列を有するIL-1 ファミリーに属するサイトカインとされていますが、未解明の部分も多いサイトカインです。IL-33を産生する細胞が何なのかについては、CD14単球で最も高発現していることが分かりましたが、血清陽性者と血清陰性者の間で差が見られず、従ってIL-33を構成的に作ることができる他の細胞から生理活性を持つIL-33の産生を引き出すことができるCOVID-19特異的なT細胞が関係している可能性が指摘されます。これらの結果は、IL-33がCOVID-19の病因に関与する可能性があることを示唆しています。

カテキン類の一種であるGCGがSARS-CoV-2の増殖を阻害する治療薬となり得る

Fudan Universityらのグループは、緑茶に含まれるポリフェノールであるガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate: GCG)がSARS-CoV-2の増殖を効率よく抑えることを示しました。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22297-8

SARS-CoV-2のNタンパク質はRNA結合性の構造タンパク質であり、RNAを抱き込んで周囲にシェルを作ります。これは、細胞質中で細胞膜レスの油滴のような巨大分子構造を作る現象である液液層分離(Liquid-Liquid Phase Separation: LLPS)の典型例です。
SARS-CoV-2に感染した細胞中で見られるNタンパク質によるLLPSを、緑茶に含まれるポリフェノールであるGCGが効率よく阻害することが確認されました。Nタンパク質のアミノ酸配列は、コロナウイルスにおいて高く保存されており(~90%)、COVID-19のみでなく、将来の新型コロナウイルスに対する治療薬となる可能性があります。

SARS-CoV-2 spike タンパク質における糖鎖修飾とジスルフィド結合の影響

Harvard Medical Schoolらのグループは、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質における糖鎖修飾やジスルフィド結合の感染力や中和抗体への影響について考察しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33821278/

Spikeタンパク質には、22個のN型糖鎖修飾サイト、10個のO型糖鎖修飾サイト、15個のジスルフィド結合が存在します。
本論文では、O型糖鎖修飾位置(676, 1170)での変異がACE2への結合、或いはCOVID-19感染回復者から得た血清の力価に与える影響についての実験結果が紹介されていましたので、その部分のみを具体的に紹介したいと思います。評価した変異は、T676IとS1170Fであります。下図に示すように、これらの変異は、大きな影響を及ぼさないようです。

子供がCOVID-19で何故重症化しないか?の鍵は鼻腔粘膜における自然免疫にある

インフルエンザ・ウイルスやRSウイルスでは、子供の方が大人よりも重症化しやすいにも関わらず、COVID-19では何故子供は大人よりも軽症なのか?については、幾つかの仮説があります。例えば、ACE2の発現量が子供の方が少なくウイルスの感染量が少ない、風邪のウイルス(229E, NL63, HKU1)に対する交差反応が感染を保護する、自然免疫自体が子供の方が強く、感染初期にウイルスを抑え込んでしまう、などです。

Albert Einstein College of Medicineらは、鼻腔粘膜における自然免疫が子供では強いことを見つけました。子供は大人よリも頻繁に風邪を引くことから、鼻腔粘膜における免疫が強くなっていることも推測されます。鼻Swabで取得したサンプル溶液からのサイトカイン(IFN-γ, IFN-α2, IL-1β, IL-8)は、子供で顕著に増加していることが分かります。鼻腔粘膜での自然免疫の活性化により、ウイルスの排除が進み、重症化しないと考えられます。
https://insight.jci.org/articles/view/148694

IL-1R7 抗体がCOVID-19の治療薬として有効かもしれない

University of Colorado Denver Anschutz Medical Campusのグループは、COVID-19の治療薬としてIL-1R7抗体を提案しています。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(21)00416-6/fulltext

マクロファージが異常に活性化(MAS: Macrophage Activated Syndrome)すると、致死率の高い重症に陥ることがあります。新型コロナウイルス(COVID-19)のサイトカインシンドロームがまさにその典型です。
IL-1ファミリーに属するInterleukin-18 (IL-18)が、MASやCOVID-19で高発現し、そのレベルが重症度と相関していることが知られています。

IL-18 は、 IL-1 Receptor 5 (IL-1R5, IL-18 Receptor alpha chain)に結合し、共受容体である IL-1 Receptor 7 (IL-1R7, IL-18 Receptor beta chain)もリクルートします。
著者らは、IL-1R7抗体がIL-18によって介在される NFκB の活性化、IFNγの産生、そして IL-6の産生を阻害することができることを示しました。

日本におけるCOVID-19患者のSARS-CoV-2 IgG抗体の血清陽性率状況

順天堂大学のグループは、34名という小規模なコホートながら、日本におけるCOVID-19感染患者のSARS-CoV-2特異的IgG, IgM抗体の血清陽性率状況を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8023454/

chemiluminescent microparticle immunoassay (CMIA)-based SARS-CoV-2 IgG test (cat. # 06R90, Abbott) を用いた場合
重症/重篤者の場合:症状発症後1週間以内=40%、1~2週間=88%、2週間後=100%、
軽症/中症者の場合:症状発症後1週間以内=0%、1~2週間=38%、2週間後=100%、
となりました。

IC IgG antibody assay using the Anti-SARS-CoV-2 Rapid Test (cat. # RTA0203, AutoBio) を用いた場合
重症/重篤者の場合:症状発症後1週間以内=60%、1~2週間=63%、2週間後=100%、
軽症/中症者の場合:症状発症後1週間以内=17%、1~2週間=63%、2週間後=100%、
となりました。

これらの結果は、症状発症後14日、呼吸困難のない軽度の症状の患者を含み、PCRの補完検査としてIgG抗体検査をCOVID-19の診断に使うことができることを示しています。
しかし、このコホートは小規模であり、無症状者を含んでいないので、更なる大規模なコホート研究が必要だと思われます。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のSite-specificな糖鎖修飾の違いについて

University of Southamptonらのグループは、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(All recombinant)について、糖鎖の修飾状態がどのように違うか?について、5つの研究機関のサンプルを比較しています。
使用されている細胞株は下記のようです。
HEK293: Amsterdam, Harvard,
HEK293F: Southampton/Texas,
HEK293T: Oxford,
CHO: Swiss,
糖鎖修飾が宿主細胞の違いや培養条件の違いを反映して(?)、かなり研究機関毎に異なっていることが分かります。
基本的には、Oligo mannoseと複合型のN-型糖鎖が発現しています。

ブログ管理人にとっての興味は、この違いが、SARS-CoV-2の感染力にどの程度の違いをもたらしているか?更には変異が入った時に、糖鎖修飾がどの程度変化を受けているか?そしてそれがどの程度感染力に影響しているか?という課題です。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.08.433764v1.full

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のNTDをターゲットとする中和抗体のエピトープの特徴:糖鎖と変異の影響について

Columbia Universityらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSpikeタンパク質に対する中和抗体について、特にNTDをターゲットとする中和抗体の特徴について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7953435/

NTDをターゲットとする抗体については、17種の既報が存在しています。これらの抗体は、NTDの特定の領域をターゲットとしていることが分かりました(Supersiteと呼ぶ)。このSupersiteは、Spikeの周辺、3回回転軸から遠位、ウイルス膜とは反対側に位置し、この表面は、N 17、N 74、N 122、およびN 149の4つのN型糖鎖に囲まれており、名目上は「糖鎖フリー」になりますが、実際には糖鎖の分子動力学的な揺らぎで糖鎖カバレッジの影響を受けます。また、このSupersiteの領域は、強い正の静電ポテンシャルを持っており、対応する抗体は相補的な強い負の静電ポテンシャルを持つようです。

SARS-CoV-2の変異株、特にB.1.1.7、B.1.351は、感染力の増加が懸念されているのですが、これらの変異株はほとんどのNTDをターゲットにした中和抗体から逃れてしまいます。B.1.1.7にはNTD欠失変異D69-70およびD144が含まれ、B.1.351株にはNTD変異D242-244およびR246Iが含まれています。144、242-244、および246を含む変異は、すべてSupersite内にあります。69-70での欠失はSupersiteの外側にありますが、NTDのhairpin N2 loopの一部を形成することから、この欠損は、Supersiteの構造に大きな影響を与えている可能性があります。