新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染阻害に、予想外にIgMが大きな役割を果たしている

University de Montreらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の回復期患者=25名の血漿を用い、IgM, IgA, IgGのSARS-CoV-2中和活性を相対評価した結果を報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33596407/

アイソタイプ特異的なリガンドを固定化したビーズを用いて、IgM, IgA, IgGをそれぞれ選択的に除去します。それぞれが除去された血漿に対して、SARS-CoV-2の疑似ウイルスの阻害希釈(ID50)を評価した結果が下図です。IgMの除去血漿では中和活性が5.5倍減少、次点はIgGの除去で4.5倍減少、IgAの除去は2.4倍という結果。IgMは、全免疫グロブリンの5%にしか過ぎないことも考えると、以外にもIgMの中和活性が大きいことが分かります。

2020年後半から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の20G系統樹にQ677変異が急増している

University of Bern, Switzerlandらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の20G系統樹(B.1.2)において、Q677に変異が入った株(Q677PとQ677H)が米国で急激に増加していることを報告しています。この変異はfurin cleavage site近傍に存在する為、感染力への影響が考えられますが、詳細な研究は今後の課題になります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33594385/

新型コロナウイルス(COVID-19)の患者では、腎臓に過剰な補体の活性化が起こっている

Friedrich-Alexander-University (FAU) Erlangen-Nürnbergらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の患者では、腎臓に過剰な補体の活性化が起こっていることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7878379/

COVID-19は、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)を引き起こしますが、肺以外に循環器や腎臓にもダメージを与えます。腎臓の場合は、糸球体や尿細管が損傷を受けるようです。補体が過剰に活性化されることで、過剰な細胞膜障害性複合体(MAC)が糸球体や尿細管組織にダメージを与えると考えられます。
下表は、コントロールに対して、COVID-19と代表的な腎臓疾患での補体発現量の比較を示しています。

 

ATI:急性尿細管傷害
HUS:溶血性尿毒症症候群
DIC:播種性血管内凝固症候群

筋形成における糖鎖とレクチンの役割:Galectin-1が筋形成を促す

The University of Melbourneらのグループは、骨格筋の成長における糖鎖修飾の変化を経時的に調べると同時に、Galectinの役割について研究しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(20)35144-6/fulltext

筋形成においては、末端di-Galが減少、α2-6Siaが増加、α2-3Siaが減少、paucimannoseが増加する、というような傾向がみられます。これらの変化は、筋形成における細胞間信号伝達に関わっているものと考えられますが、具体的なシグナルパスについては不明です。一方、糖鎖修飾を認識するGalectinについては、Galectin-1の発現が上昇し、Galectin-3の発現が減少するという傾向がみられました。
生まれたばかりのネズミを使い、左足には空のmultiple cloning site(MCS)をAAV6で遺伝子導入し(Controlとして使用)、右足にGalectin-1の遺伝子LGALS1をAAV6で遺伝子導入し、42日後に違いを比べてみると、LGALS1の導入で筋肉量が有意に増加したとのことです。即ち、Galectin-1が筋形成を促すという働きを持つことが分かります。
なお、下図でLGALS1の比較として参照されている14-3-3タンパク質ですが、細胞間シグナル伝達に関係しており、タンパク質の特定の配列内にあるSer/Thr残基をリン酸化依存的に認識捕捉し,そのリン酸化状態の生理的機能を発現させる役割を担っています。

乳癌や卵巣癌に対するGalectin-3を標的とする治療薬の有効性

Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New Yorkらのグループは、乳癌や卵巣癌に対するGalectin-3を標的とする治療薬の開発について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-82686-3

卵巣がんや乳癌などでは、CA125エピトープを持つMUC16と名付けられたムチンが高発現しています。ムチンはO型糖鎖の修飾を強く受けており、末端部にはpoly LacNAc構造が付加して糖鎖が伸長している場合もあります。Galectin-3(Gal-3)は、poly LacNAcにアフィニティーを持ち、それ故、Gal-3はMUC16に糖鎖を介して結合します。Galectin familyは多様な機能を持ちますが、MUC16は癌細胞との関係が深く、癌の増殖や浸潤に関係しているとされています。

著者らは、Gal-3に対するモノクロナール抗体(14D11)を用いて、卵巣がんや乳癌に対するGal-3の阻害効果をin vitroおよびin vivoで評価しました。Gal-3とLacNAcのKd値は~0.2mMであり、Gal-3と14D11のKd値は~14.6nMでした。従って、14D11の方が13,000倍程強いアフィニティーを持つことになります。

MUC16を高発現するふたつの卵巣がん株(A2780, SKOV3)をマウスに移植し、14D11投与の効果を生存率で比較したものが下記です。

また、乳腺癌細胞(MDA-MB-231)をマウスに移植し、14D11投与の効果を比較したものが下記です。これらの実験結果は、Gal-3の阻害によって癌の増殖を抑えることができることを如実に示しています。

ベンサミアナタバコ(N. benthamiana)で発現させたリコンビナントACE2-Fc融合タンパク質を新型コロナウイルスの治療に使う

UC Davisのグループは、新型コロナウイルスの治療薬としてACE2-Fc融合タンパク質を使うというアイデアを提唱していました。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0237295

Chulalongkorn University, Bangkok, Thailandらのグループは、ACE2-Fc融合タンパク質を実際にベンサミアナタバコ(N. benthamiana)の葉で発現させ、in vitroにて、SARS-CoV-2の阻害効果を実証して見せました。Vero細胞にSARS-CoV-2を感染させ、その後ACE2-Fc 融合タンパク質をアプライした場合、阻害効果として0.84 μg/ml (IC50)を得たという事です。何故植物を使ったのでしょうか?彼らに寄れば、植物を使うことのメリットは、ローコスト、生産のスケーラビリティー、そして動物やヒト由来の病原体を持っていないからだ、としています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2020.604663/full

Arrayed Imaging Reflectometry (AIR) platformに形成した糖鎖アレイを利用したインフルエンザウイルスの型判別

Univ. of Rochesterのグループは、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのサブタイプ、及びノイラミニダーゼのサブタイプを簡易に見分ける方法として、Arrayed Imaging Reflectometry (AIR) platformの上に各種糖鎖を固定化したセンサーチップを開発し、利用しています。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.bioconjchem.0c00718

ここでの興味の中心は、上記の応用例よりも、むしろ、Arrayed Imaging Reflectometry (AIR) platformとは何ぞや?という点にあります。このplatformは、Benjamin Miller Lab., Univ. of Rochesterによって開発されたもののようです。原理は物理的に非常に簡単でして、鏡面のSi基板上に薄い酸化膜を成長させ、酸化膜の上面と下面(即ちSiO2/Si界面)で反射された光の干渉効果を利用するものです。基板上に斜め入射した光が干渉効果で無反射となる反射条件を決めておき、基板上に固定したプローブとアプライしたリガンドが反応することで反射光の相互干渉に変化が起こり、反射光が現れるという現象を利用するものです。従って、SPRと同様にサンプルへの蛍光ラベリングが必要でないという利点もあります。問題はやはり感度でしょうか?しかし、上記の例では、SPRと同等以上と述べています。
https://www.urmc.rochester.edu/labs/benjamin-miller/projects/arrayed-imaging-reflectometry.aspx

IgA腎症の予後予測マーカー:糖鎖修飾の変化をレクチンで補足する

岡山大医学部のグループは、IgA腎症の予後予測マーカーについて、糖鎖とレクチンに着目した研究を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77736-1

2010年から2017年にかけて岡山大病院でIgA腎症の生検を受けた157名の患者を対象とし、尿をサンプルとしたレクチンマイクロアレイを用いた研究から、優れた予後予測マーカーを発見しています。
予後の転帰の判断基準は、glomerular filtration rate (eGFR) の減少 (> 4 mL/min/1.73 m2/year)、あるいはまた、eGFR がベースラインより30%以上減少した場合とされました。統計学的な評価には、T Scoreが使用され、ECAレクチン(Galβ1-4GlcNAcに糖鎖結合特異性を持つ)とNPAレクチン(High Mannoseに糖鎖結合特異性を持つ)が良好な予後予測マーカーになり得ることが分かりました。
ECA:(odds ratio [OR] 2.84, 95% confidence interval [CI] 1.11–7.28)
NPA:(OR 2.32, 95% CI 1.11–4.85)
T Scoreは、パーセンタイル順位を標準化した値を10倍して50を足すことで求められます。T0, T1, T2は、尿細管萎縮/腎間質線維化に関するOxford classificationを指します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のfurin cleavage site周辺に存在するO型糖鎖の影響について、英国変異株(B.1.1.7)の感染力アップを絡めて

National Institutes of Healthのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のfurin cleavage site周辺のO型糖鎖修飾の影響を、英国変異株(B.1.1.7)の感染力が上がっていることと関係付けています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7872346/

SARS-CoV-2のSタンパク質のS1/S2境界には、下図のようにPRRAという配列が挿入されており、furin cleavage siteを形成しています。

 

 

 

上図のようにO型糖鎖が修飾される位置には、S673, T676があります。この位置にO型糖鎖修飾が起こるには、681のprolineの存在が深く関係しています。また、O型糖鎖修飾に関わる糖転移酵素について、著者らはGALNTファミリーの中でGALNT1が最も活性が高いことも突き止めました。更に、O型糖鎖の修飾が起こると、furin cleavage siteの切断が大きく抑制されることも示されました。英国変異株(B.1.1.7)では、P681Hという変異が入っており、prolineがhistidineに置換されています。上記の結果を踏まえると、英国変異株では681にprolineが存在しないことで、O型糖鎖修飾が抑制され、その結果としてfurin cleavage siteの切断効率が上昇し、感染力のアップに繋がっていると推論されます。

 

不妊症の一つの原因である薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)に対する再生医療学的な治療アプローチについて

成育医療研究センターのグループは、不妊症の一つの原因である薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)に対する再生医療学的な治療アプローチについて述べています。
https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-021-02188-x

不妊症にはいろいろな原因があるのですが、その中の一つに薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)があります。子宮内膜が薄いと、卵子の着床が起こりにくいということが分かっていますが、何故そうなのか?については、殆ど分かっていません。この子宮内膜発育不全に対する治療法には、(1)エストラジオール補充やミネラルやビタミンの投与、そしてまた、再生医療的なアプローチとして、(2)多血小板血漿の投与、(3)間葉系幹細胞の投与、および(4)in vitroで培養した自家子宮内膜シートの利用などが考えられています。

再生医療学的なアプローチでは、しかし、子宮内膜を如何に効率的に xeno-freeで培養するか?という事が非常に重要です。子宮内膜は基本的にfeeder-freeでは培養が難しく、xeno-freeという観点から、著者らはMEFではなく自家子宮間質細胞をfeederとする方法を開発しました。そしてまた、子宮内膜細胞の成長を加速するという観点で、特殊培地(ESTEM-HE)を使用しました。下図にて、conventional mediumとはDMEMであり、epithelium-specific medium とは特殊培地ESTEM-HEであります。